上 下
86 / 360
04 カーボエルテ王国 王都1

080 カーボエルテの魔王3

しおりを挟む

 タピオは剣と踏み付けで魔王を地面に釘付けにしてダメージを積み重ねるが、相手は魔王だ。

「ふざけるな!」

 魔王はマントの中に隠した翼を大きく開いてタピオの剣を防御。多少傷を負うが、タピオの攻撃が一瞬止まった隙に、起き上がりながらトライデントを振り回す。
 タピオも盾は間に合ったのだが、怒りの魔王の攻撃が思ったより重く、数メートル押し込まれて地面にわだちを作った。


「善戦しているな」

 タピオが一息ついていると、イロナが隣に立った。

「なんとかな。思っていたより弱いしあの時も戦っていたら、冤罪に巻き込まれなかったかもしれない」
「それはどうだろうな」
「まぁあいつらじゃ、俺の手柄を取るだけ取って、今ごろ馬車馬のように働かされていたか……」
「そういうことを言っているんじゃない。見ていろ」
「ああ……」

 軽口を叩いていたイロナは、タピオを置き去りにして魔王に突撃。魔王は体勢を整えてはいたが、全てのステータスで上を行くイロナの敵ではない。
 一撃一撃、重たい攻撃を受けて魔王は満身創痍。残りわずかかのHPとなり、タピオはもう倒してしまうだろうと思っていたら、イロナが魔王を大きく吹き飛ばしたところで戻って来た。

「ただ殺すところを見ていろと言ったのか?」
「違う。魔王を見ろ」
「ん? ……うおっ!?」

 横になった魔王にタピオが目を移すと、爆発のような風が起こり、煙がトルネードとなって魔王を包み込んだ。

「死んだから、ああなってるんじゃないよな?」
「第二形態だ」
「第二形態……聞いたことがあるぞ!」

 イロナの答えにタピオは昔読んだ攻略本を思い出し、イロナが見せようとしていた正体に気付いたようだ。
 タピオが息を飲んでトルネードを見ていると、魔王らしき影は徐々に大きくなり、縦にも横にも倍近く膨らむ。

「ゴアアァァ!!」

 咆哮ほうこうと共に、魔王第二形態完了。まとっていたトルネードを弾き飛ばし、辺りに暴風が吹き荒れる。

「おお~。ドラゴンニュートだと、こうなるのか。なかなか強そうだ」
「若干俺と被っているから、手加減してやってくれ」

 魔王の姿は筋肉ダルマ。竜の血が色濃く表に出て爪や牙が鋭くなっているが、フォルムがタピオに似ている。
 イロナが嬉しそうにするので、タピオは自分が今からボコボコにされるように思えて仕方がないようだ。

「手加減などするわけがなかろう。そんな考えを持っていると、主殿は殺されてしまうぞ」
「なんで俺が……」
「行ってこい!!」
「ぐきゃっ!」

 てっきりイロナが戦うものだと思っていたタピオが甘いことを言っていたら、イロナブートキャンプの再開。
 タピオは背中を「ドコーン!」と押され、一人で魔王に挑むのであった。テンションの高いイロナの張り手でHPを少し減らしてから……


 タピオは突撃させられたからには、死ぬわけにはいかない。自分の土俵に引きずり込んで魔王と戦う。

 まずは剣で斬り付けるフェイントを入れ、先に魔王に攻撃をさせる。

「グルゥワアァァ!」

 魔王は力強く右手で張り手。タピオは力で耐えるが、弾き飛ばされた。

「くぅ~……盾の上からでもけっこう効くな」

 力も倍近く上がった魔王では、タピオの盾をも貫通して痛そうにする。そこに、四つ足で走って来た魔王の体当り。タピオは半歩横に避け、斜めにした盾で受けて力を逃がす。
 これで痛みはほぼゼロ。タピオは反撃したいようだが、そう上手くいかないようだ。

 拳に引っ掻き、噛み付きに尻尾薙ぎ払い。

 魔王は凄まじい速さで攻撃を繰り出し、タピオは防戦一方となるのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 時は少し戻り、魔王が第二形態に変化した直後、クリスタとオルガは震えていた。

「さっきと威圧感がまったく違う……」
「あ、あんなの、人では勝てない……」

 第二形態を見ただけで、今にもへたりこみそうな二人。

「えっ! タピオさんだけで戦うの!?」
「死んでしまいますよ! イロナさん!!」

 そこに、イロナに背中を押されたタピオが飛び込み、弾き飛ばされた。

「やっぱりイロナさんじゃなきゃ……イロナさんでも無理じゃないの……」
「まるで勇者様のようです……」

 魔王からの攻撃にまったく対応できていないタピオでは、イロナブートキャンプの餌食になってモンスターに甚振いたぶられる勇者を彷彿させる。
 しかし、そんな不利に見えるタピオであったが、少し様子がおかしいようだ。

「あれって、全て盾で受けてない?」
「よくわかりませんが、まだ立ってますね」
「やっぱりそうだよ! タピオさんに魔王の攻撃は通じてない」
「本当ですか!? そこにイロナさんが加われば……勝てます!」
「うん! イロナさ~ん! タピオさんを助けてあげて~!!」
「一緒に戦ってくださ~い! お願いしま~す!!」

 希望が見えたクリスタとオルガは、イロナに助けを求めるのだが……

「うるさい! 黙って見ていろ!!」

 めっちゃ怒鳴られて口を閉ざすのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 その頃魔王の猛攻を受けるタピオは、防御は追い付くが反撃に出られずにじり貧。しかし、長年蓄えて来た経験はタピオを裏切らない。

 狙いを定めての反撃だ。

 魔王が大振りに振り下ろそうとした拳に合わせ、タピオは全身のバネを使い、回転しながら下からの斬り上げ。勢いの乗った魔王の拳にタピオの剣が直角に食い込み、手首まで斬り裂くのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...