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04 カーボエルテ王国 王都1

051 自由行動5

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 なんとかイロナのやる気を止めたタピオは、犬耳受付に書庫の鍵を返す。その時、タピオの腕を組むイロナの力が強すぎて痛いので、我慢しながら歩いていた。
 すると、二人の前にガラの悪い男が五人立ち塞がる。

「ようよう。お熱いね~。その熱、俺たちにも分けてくれねぇか? ああ。これは頼みごとじゃなくて、命令だからな」
「「「「ぎゃははは」」」」

 リーダーらしき男がイロナをよこせ的なことを言うと、タピオは焦って叫ぶ。

「いますぐ逃げろ! 死ぬぞ!!」
「はあ? 死人が出るとしたら、命令に従わないお前だけだ」
「いいから逃げろ! イロナもダメだからな!!」
「だからお前は……アレ? ママが降って来た……」

 タピオの必死の説得を聞かないリーダーには、気分を害されたイロナの殺人アッパーがボディに炸裂。その殺気だけで、リーダーは自分の母親が空から迎えに来た走馬灯を見たらしい。まだ健在なのに……

「がはっ!?」

 そこにタピオが割り込み、殺人アッパーをボディに受けて、リーダーの命は助かった。だが、イロナの怒りは収まらないからか、とても人が人を殴っている音に聞こえない音のパンチパンチ。

「やはり主殿は殴りがいがあるな」

 いや、タピオがサンドバッグになることでイロナの怒りは収まっていた。

「痛いって! お前たちもさっさと行け! イロナもやめてくれ~~~!!」

 ガラの悪い男たちが逃げ出して、さらに十発パンチを放ったところで、やっとイロナは止まるのであった。


 それから呆気に取られる冒険者ギルドからタピオたちも逃げ出し、ウサミミ亭に戻る。

「怒っているのか?」

 ウサミミ亭に入るまでタピオは無言だったので、さすがにイロナもやり過ぎたと思ったようだ。

「い、いや……ちょっと……いいのが入ったから……うっ……」

 咄嗟とっさに止めに入ったタピオは、腹筋を固める前にパンチをもらったので、いつもよりダメージが多くて無言で逃げるのが精一杯だったらしい。

「すまない。どうせ主殿が止めるだろうと思って本気で殴ってしまった」

 いちおうイロナは謝罪をしているが、タピオはこう思っていた。

(それ、俺以外にやったら絶対に死ぬヤツ~~~!)

 でも、珍しくイロナがしゅんとして謝っていたので、快く許すタピオであった。


「なんだか今日のタピオさん、元気がありませんね。奥さんに怒られました?」

 夕食の席でエイニがめざとく質問するので、タピオはぶっきらぼうに答える。

「別に……」
「あ、出すぎたことを聞いてしまいました。申し訳ありません」

 タピオの言い方に哀愁を感じたエイニは謝罪。適当に言ったことが当たっていたから焦ったようだ。事実は、サンドバッグにされただけだが……

「そうそう! 明日からダンジョンに行くのですよね。何日ぐらいで戻る予定ですか?」

 空気が少し悪くなったので、強引に話題を変えるエイニ。タピオは正確な予定を聞いておきたいのだと受け取って予定を伝える。

「そうだな~……早くて五日。長くて十日ってところか」
「長いですね……二人じゃ、中級でも時間が掛かるのですね」
「まぁな」

 まさか二人で上級クリアを目指しているとはこれっぼっちも考えていないエイニは勘違いしてくれているので、タピオはそれに合わせる。

「必ず戻って来てくださいね!」
「ああ。無理はしないから、必ず戻るよ」
「ぜ~~~ったいですからね!」
「う、うん……」

 エイニがタピオの手を両手で握るので、タピオはどうしていいかわからないようだ。というか、イロナの手と違った感触だと考えていた。

「ほう……我の目の前で主殿を誘惑するのか。なかなかいい度胸だな」
「違います違います! 帰って来てくれないと宿屋の収益が!!」

 イロナに睨まれて、エイニは焦り過ぎ。素直に心配していると言えばいいのに、言い訳が二人と出会った初日にタイムスリップしてしまった。

「フッ……我等を金づるだと言っているぞ。主殿」
「いや、叩かないでくれ。痛いんだが……」

 それでイロナは何故か上機嫌。タピオの背中をバシバシ叩くが、今回は手加減できているようだ。


 それから今日も岩風呂でイロナの押し売りがあったが、いつにも増してダメージのあるタピオは何もしてもらいたくない。イロナも珍しく苦しそうなタピオを見ていたので、それ以上の押し売りはしなかった。
 そのおかげで、今日は早めの就寝。タピオもイロナも、明日に備えてしっかりと体を休めるのであった。


 そして翌朝……

「本当に無理しないでくださいね?」
「ああ。お弁当ありがとな」
「私はずっと待ってますからね?」
「早目に戻るよ。行ってきます」

 心配そうなエイニに見送られ、タピオとイロナはウサミミ亭を立つのであった。

「そういえば、初めてあの子に見送られたな」
「うむ。どっちが宿屋の従業員かわからない」

 毎朝エイニを見送っていたタピオとイロナは、笑いながら歩くのであったとさ。
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