上 下
27 / 360
02 カーボエルテ王国 ハミナの町

025 中級ダンジョン7

しおりを挟む

 中級ダンジョン地下30階。ボス部屋の前で少しだけ水分を取ったタピオとイロナは中へと入る。

「おお~。ドラゴンだ。だが、小振りだな」

 イロナは久し振りに見たドラゴンに目を輝かせたが、自分が知るドラゴンとは大きさが違うようだ。

「まぁこのダンジョンでは頑張ったほうだろ。たぶん、めったに出ないレアボスだ」

 ダンジョンボスは倒される度に変わる。連続して同種が出る場合もあるが、ダンジョンエネルギーの消費量によって、強いモンスターが出る場合もある。
 今回に限っては、この中級ダンジョンでは出るはずのないモンスターなので、エネルギー不足でドラゴンは2メートルほどの大きさとなったようだ。

「もうお昼も回ってしまっているし、さっさと倒して地上に帰ろ……」
「任せろ!!」
「あ……」

 タピオが喋り終わる前に、イロナはダッシュ。ドラゴンの噛み付きをかわし、横に回り込むと剣を振り下ろす。
 その一撃で、ドラゴンの首は一刀両断。本来ならば、中堅冒険者でも手こずる相手なのに、これまたあっという間に倒してしまうのであった。


「フフン♪」
「上機嫌だな」

 タピオはまた敵が弱すぎると言われるかと思い、ビクビクしながら近付いたが、イロナは嬉しそうにしていた。

「やはり、ドラゴンの首を一撃で斬り落とすのは気持ちいい。なかなかこうも綺麗に斬り落とせるものではないぞ」

 どうやらドラゴンの首をねる行為は、イロナの趣味のようだ。いかに綺麗に切断するかにこだわりがあるらしく悪い顔で笑っているので、タピオはブルっとするのであった。


 ダンジョンがドラゴンの体を吸収する中、イロナの頭の中に言葉が浮かぶ。

「お、レベルアップだ。前回からかなりかかったな。主殿も上がったか?」
「いや……」

 イロナがレベルアップしたことで、タピオは目的を思い出す。

「そういえば、俺のレベル上げでダンジョンに来たんだった……」
「むっ……確かにそうだった。何故、主殿は積極的にレベルを上げないんだ」
「イロナが取るからだろ~」
「あ……」

 タピオはイロナが倒したモンスターのドロップアイテムを回収することが多く、経験値の多いモンスターはイロナが一人で倒す。
 これではいくらパーティ戦闘をしていても、タピオに入る経験値は少なく、イロナのほうがレベルが上がるのが早くなるってわけだ。
 いまさらミスに気付いたタピオは肩を落とし、イロナもちょびっとは反省するのであったとさ。


 ドラゴンのドロップアイテムを拾うと、二人は転送魔法陣にて移動。地上に戻って衛兵に各種手続きをしてもらう。
 衛兵は、タピオたちの装備ではあり得ないと思いながらも、証拠が揃っているのでその件に関しては何も言わなかった。
 ただ、一組の冒険者が一週間近くも戻って来ていないと心配するようなことを衛兵は言っていたので、タピオははぐらかす。
 しかしイロナが口を滑らせてしまい、中堅パーティはしばらく中級ダンジョンの出禁になる流れとなってしまった。

 言ってしまったものは仕方がない。タピオは衛兵に銀貨を支払い、口止めをお願いしてから広場に繰り出すのであった。


 簡単な昼食を済ませると、一度宿屋に寄って予約。先日と同じ部屋が空いていたようなので、二日分の料金を支払ってから、冒険者ギルドに移動する。
 冒険者ギルドでは、また逃げ出そうとした猫耳受付嬢ミッラの受付に行き、大声を出さないように念を押してから、今日の成果を報告する。

「はあ……たった一泊二日で、中級ダンジョンを制覇したのですか……」
「これでCランクだろ? 上級ダンジョンの仮通行証も発行してくれ」
「まさかたった二人で潜るのですか??」
「俺が若い頃は一人で潜っていたよ。まぁラスボスとは戦わなかったがな。それより早くしてくれよ」
「は……はい」

 驚いているミッラを急かすタピオ。あまり世間話で自分たちの正体を探られたくないらしい。
 そうしてドロップアイテムの買い取りまで済ませると、足早に受付カウンターを離れるのだが、一組の冒険者パーティが道を塞いだ。

「昨日は有り難う御座いました!」

 この頭を下げるパーティは、タピオたちが命を救った若手パーティ。リーダーのシモが礼を言ったのだが……

「知らん。人違いだ」
「え……」

 タピオは冷たい。徹底的に人を避けるタピオは、人助けした者に対しても態度が変わらないのだ。

「主殿。それはないんじゃないか?」
「いたっ……痛たた。取れる、取れるって」

 ただ、イロナがいたからには、いつものように素通りさせてもらえず、組んでいる腕に力を入れられて止められていた。
 そこからはイロナだけで世間話をするのだが、タピオはこんな場所で話をしたくないらしく「奢るから」と言って広場に連れ出そうとしていた。
 だが、若手パーティはそれを断って、自分たちのホームで料理を振る舞う流れになり、タピオも続くしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

試される愛の果て

野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。 スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、 8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。 8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。 その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、 それは喜ぶべき縁談ではなかった。 断ることなったはずが、相手と関わることによって、 知りたくもない思惑が明らかになっていく。

【完結】言いたくてしかたない

野村にれ
恋愛
異世界に転生したご令嬢が、 婚約者が別の令嬢と親しくすることに悩むよりも、 婚約破棄されるかもしれないことに悩むよりも、 自身のどうにもならない事情に、悩まされる姿を描く。 『この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません』

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました! 2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました 2024年8月中旬第三巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です

【完結】会いたいあなたはどこにもいない

野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。 そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。 これは足りない罪を償えという意味なのか。 私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。 それでも償いのために生きている。

前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙
BL
ハーララ帝国第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララはある日、高熱を出して倒れた。数日間悪夢に魘され、目が覚めた彼が口にした言葉は…… 「皇帝なんて興味ねえ!俺は魔法陣究める!」 天使のような容姿に有るまじき口調で、これまでの人生を全否定するものだった。 * * * * * * * * * 母親である第二皇妃の傀儡だった皇子が前世を思い出して、我が道を行くようになるお話。主人公は研究者気質の変人皇子で、お相手は真面目な専属護衛騎士です。 ○注意◯ ・基本コメディ時折シリアス。 ・健全なBL(予定)なので、R-15は保険。 ・最初は恋愛要素が少なめ。 ・主人公を筆頭に登場人物が変人ばっかり。 ・本来の役割を見失ったルビ。 ・おおまかな話の構成はしているが、基本的に行き当たりばったり。 エロエロだったり切なかったりとBLには重い話が多いなと思ったので、ライトなBLを自家供給しようと突発的に書いたお話です。行き当たりばったりの展開が作者にもわからないお話ですが、よろしくお願いします。 2020/09/05 内容紹介及びタグを一部修正しました。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

処理中です...