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02 カーボエルテ王国 ハミナの町
007 奴隷の女
しおりを挟む奴隷館、館長であるチョビ髭の男テーム・トゥーロラの部屋には、とある性奴隷が呼び出されていた。その性奴隷は、白い髪、白い肌、とても美しい顔をしているが、どこか近付きがたいオーラをまとっている。
その性奴隷はテームの前に座らされ、叱責を受けていた。
「イロナさん……どうしてあんなことをするのですか! 三件目ですよ!? またうちは、賠償金を支払わなければならないじゃないですか!!」
イロナと呼ばれた美しい女性は、顔色ひとつ変えずに答える。
「別に……普通に夜伽をしただけだが?」
「普通にして、どうして怪我をするのですか! 部分欠損でも治せるポーションを持っていなかったら、死んでいたかもしれませんよ!!」
「我のテクニックに敵わなかったのだな」
「なんの勝負をしてるんですか! 寝るだけでいいんです! 抱くだけでいいんです!」
「そうしたが?」
怒っているのはテームなのだが、偉そうなのはイロナ。まったく話の通じないイロナに、テームはため息しか出ない。
「それより、次の主は決まったのか?」
「昨日の今日で決まるわけがないでしょ! もういいかげん性奴隷は諦めて、戦闘奴隷になってくださいよ~」
まったく話を聞いてくれないイロナに、テームは怒った顔から泣きそうな顔に変わった。
それは当然。このイロナという女、只者ではない。
自分で性奴隷にしてくれと、奴隷館の扉を叩いたのが一ヶ月前。テームはイロナの綺麗な顔を見て売り物になると考えたが、借金も無い犯罪者でも無いイロナを、奴隷にすることがこの国の法に触れる。
テームは泣く泣く丁重にお断りしたのだが、イロナはそれならばと、高そうな机を拳で叩き割った。それでも足りないなら、テームの手足を引きちぎろうかと脅されて、泣く泣く机代を借金として奴隷にすることとなったのだ。
イロナを手元に置いておきたくないテームは、懇意にしていた貴族を呼び寄せると容姿がいいのですぐに売れてひと安心。しかし翌日には、返品プラス慰謝料を請求されてがっかり。
損失を取り戻そうと大商人や高給取りの騎士に売ってみたが、翌日には慰謝料が膨らむ始末。信頼も傷付きイロナの借金も膨らみ、打つ手が無くなってしまったのだ。
そんな折、館長室のドアがノックされ、中に入って来た奴隷の女性が客が来たと言った。
「では、参ろうか」
客が来たと聞いたイロナは立ち上がる。
「ま……待ってください!」
それを焦って止めるテーム。
「どうした?」
「ま、まだ、性奴隷を希望していると決まっていないでしょう?」
「ふむ……ならば、自分で売り込むとしよう」
「聞いてくれないのですね。こうなったら……」
テームの奥の手。奴隷には、魔法を使って奴隷紋が刻まれている。主人の命令を背く場合に使われ、耐えがたい苦痛を与えて屈伏させる。それでも命令に背く場合は、最悪、死の危険がある。
その権限を現在持っているのがテーム。聞き分けのないイロナに使ったのだ。
「またやってるのか? こそばゆいからやめろと言っただろ。それよりさっさと行くぞ」
もちろん何度やってもイロナには効かない。勝手にドアを開け、応接室に向かうイロナであった。
* * * * * * * * *
奴隷館の応接室にて期待に胸や股間を膨らませていたタピオは、部屋に入って来たイロナの姿を見て、一瞬にして恋に落ちる。
その白い肌、揺れる白いロングヘアー、綺麗な顔立ち、歩く姿に目を奪われ、息を吸う事も忘れた。
そして時間が飛び、目の前に座るテームの紅茶を飲むように勧めた声で、タピオの時間が動き出した。
「あ、ああ。これを飲めばいいんだな」
ゴクゴクと湯気が立つ紅茶を飲み干したタピオは、カップをテーブルに置くとイロナを見つめる。
テームは熱湯を一気に飲み干した姿に驚いていたが、タピオはなかなか用件を切り出さないので、自分から質問する。
「それで……今日はどういったご用件でしょうか?」
「あ、ああ……。ここに来たら性奴隷を買えると聞いてな」
タピオのセリフに、テームより先にイロナが反応する。
「ならば我を買うとよ……」
「わ、わああぁぁ~~!!」
しかしテームは大声でイロナの声を遮った。タピオも不思議そうな顔で見つめるなか、テームはイロナに「上手くやるから少し黙っていてください」と耳打ちすしていた。
「しかしお客様は、奴隷を買えるほどお金を持っているようには見えないのですが……」
タピオの服装は、皮の胸当てと袖を破いた布の服なので、到底お金持ちには見えない。
「奴隷とは、それほど高価な物なのか……」
タピオもテームのゴミでも見るような目を見て、暗い顔に変わる。しかしその時、テームの顔が悪い顔に変わった。
「もしかしてお客様は、冒険者様ですか?」
「そうだが?」
「でしたら、こちらのイロナさんをお勧めします! 性奴隷としてより、戦闘奴隷として買われてはいかがですか?」
「いや、俺は性奴隷を……」
「おい!」
「ぐふっ」
ペラペラと喋るテームの首を掴むイロナ。テームは高々と片手で持ち上げられ、手足をバタバタとして苦しそうにする。
「性奴隷として売れと言っているだろう」
「は、離して……」
イロナの手をパンパンと叩いていたテームは、ソファーに落とされて息を整える。そうしてイロナに話があると言って奥に消えて行き、タピオはしばし待たされるのであった。
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