上 下
3 / 360
01 前科(アルタニア帝国)

003 魔王のダンジョン

しおりを挟む

 勇者パーティに加入したヤルモは、魔王が発生したダンジョンに出発した。

 基本馬車移動なのだが、ヤルモはその馬車には乗り込まずに一人で歩いている。これはヤルモの出した条件なので、イジメというわけではない。
 狭い空間に、見ず知らずの男三人、女二人と一緒にいることが、ヤルモには耐えられないだけ。それに職業補正もあるので、遅い馬車に合わせて丸一日歩いたところで疲れない。
 宿も一人部屋。野営の際も、離れた場所に小さなテントを張り、一人で寝ている。徹底してパーティに近付かないヤルモに聖女マルケッタが何度か差し入れをくれるが、無愛想に受け取り、離れて行く時にケツをガン見しているだけだ。

 そうしてアルタニア帝国帝都にある特級ダンジョン……魔王が発生したダンジョンに潜った勇者パーティプラスヤルモは、最下層を目指す。

 戦闘ではヤルモは勇者ダニエルの指揮下に入り指示通りに動くのだが、いまひとつ腑に落ちない。全てヤルモが倒している。そのことをヤルモが質問すると、勇者は半ギレ。

「俺たちは魔王と戦うまで力を温存しなくてはいけないんだ! わかったかオッサン!!」

 もちろんヤルモは納得いかない。だが、マルケッタから「すご~い」だとか、「かっこいい~」とか言われて張り切ってしまう。


 ヤルモひとりでモンスターを薙ぎ払い、中間層を越えるとモンスターが強くなって来た。
 さすがは魔王が発生したダンジョン。上級ダンジョンの最下層まで何度も行っているヤルモですら手こずっている。

 先頭で戦っていたヤルモを抜けるモンスターが現れ、1匹程度なら勇者パーティも余裕で倒すだろうと、7匹のモンスターを引き付けて援護を待つ。
 しかし援護は無く、倒し終わって振り返ると、勇者パーティはまだ戦っていた。

「おい! 終わったなら早く援護しろ馬鹿!!」
「ヤルモさん! お願いします!!」

 ダニエルの辛辣な言葉に、ヤルモは怒るでもなく首を傾げるしかできない。だが、マルケッタに助けを求められたからには別だ。ヤルモはノリノリでかっこつけて倒していた。
 しかし戦闘が終わると、ダニエルやその他メンバーから責められるヤルモ。どこが悪いのかを聞いても「お前が悪い」の一辺倒。マルケッタも止めるでなく「次は気を付けて」の一言で片付ける。
 それからも同じようなことは何度も起こり、ヤルモも「こいつら本当に勇者なのか?」と疑念を抱くようになった。


 それでもヤルモの孤軍奮闘の活躍で、なんとか最下層に辿り着いたのだ。


「チッ……オッサンのせいで無駄な体力を使ってしまったぜ……」

 四天王まで一人で相手取ったヤルモは満身創痍。勇者たちは疲れた程度。納得はいかないがそのことは口には出さず、このパーティでは魔王に勝てないと判断したヤルモは、帰還を提案した。

「はあ!? そこに魔王がいるんだぞ? いまさら弱気になってどうするんだ!!」

 ダニエルは聞く耳持たず。仕方がないのでマルケッタに説得してもらおうと顔を見るが、意外な答えが返って来た。

「ここまで来れば、もうオッサンはいらないわね。元々私は犯罪者を入れるのは反対だったのよ。ああ、オッサンに聞く前から素性は調べ済みだったの。なのに、お涙ちょうだいみたいな告白は笑えたわね。もう、笑いをこらえるのに必死だったわよ。オホホホホ」
「………」

 急に口調の変わったマルケッタに、今までヤルモをおとしいれて来た者の顔が重なり、言葉が出ない。

「あとさ~……私を見すぎ。キモイのよ。やっぱ犯罪者なんかパーティに入れるんじゃなかったわ。いえ、パーティに入っていなかったわね。というわけで、オッサンの罪は消しませ~ん。オホホホホ」

 どうやらヤルモは騙されていたようだ。

 勇者パーティはすでに人数は埋まっていたので、ヤルモにパーティ申請などしていなかった。遠い昔に何度もしたことのあるヤルモであったが、一人で活動していた期間が長すぎたので、すっかり忘れていたことをいいように使われのだ。

「け、契約書は……」
「無効に決まってるでしょ。ギルマスも了承済みよ」

 ヤルモがなんとか絞り出した言葉も、マルケッタに握り潰される。ここでようやくギルマスもグルだったと気付き、ヤルモは膝を突いた。

 その後、高笑いして魔王の間に入って行く勇者パーティの後ろ姿を放心状態で見送ったヤルモは、ここに居ても仕方がないからと地上に向かう。
 満身創痍でも、足手まといの勇者パーティがいなくなったことで、楽に地上に戻ることができたヤルモであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...