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01 前科(アルタニア帝国)

001 戦士ヤルモ

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 ヨーロミ―ル大陸……

 ここは至る所にダンジョンが誕生した大地。各国は神から授かった職業制度を使い、勇者や聖女、数々の職業の者をダンジョンに送り込み、日々懸命に生きている。
 勇者を含む冒険者は、ダンジョンエネルギーが溜まり過ぎて魔王を発生させないように日夜ダンジョンに潜り、最下層のボスを倒してダンジョンレベルを下げていた。

 ここ、アルタニア帝国の片田舎に生まれたヤルモも、子供の頃から冒険者に憧れていた。しかしヤルモの両親はごく平凡的な職業で、長男には自分の職業を継いでほしいと考えていた。
 だが、ヤルモは両親の反対を押し切り、仕事を掛け持ちして貯めたお金を握って、13歳の誕生日に冒険者登録をすることになる。

 冒険者登録に必要な物は銀貨20枚。そのお金で、村人から戦闘職に転職できるのだ。

 ヤルモの望む職業は戦士。本来冒険者を志す者は勇者を夢見る者が多いのだが、ことヤルモに関しては堅実な性格をしている。
 勇者枠は各国に一人。転職するには実力もそうだが、聖女に転職してもらわなくてはならず、その聖女と繋がるには教会に見出してもらわなくてはならない狭き門。さらには当代勇者が存命では、その国で勇者に転職なんて不可能。

 そんななれるかなれないかわからない職業よりも、仲間の盾となり、敵を倒すことに秀でた花形の職業、さらには上級職の派生先が多くある職業……ヤルモは戦士を選んだのだ。

 子供の頃から戦士になるべく訓練していたヤルモは体ができており、冒険者登録してから一ヶ月もしない内に頭角を現した。
 ソロでダンジョンに潜り、危なげなく宝や素材を持ち帰るヤルモは、期待の新人としてパーティ勧誘が殺到する。しかしどこに入っていいか決められないヤルモは、お試しで多くのパーティに加入して決めようと考えた。


 それから一年……


 優柔不断で決めかねていたヤルモの前に、女神が舞い降りた。いや、女神は比喩であって、とても綺麗な女性に恋をしたのだ。
 その女性にパーティ勧誘されたからには、ヤルモは即決。誰しもが「あのヤルモが?」と騒ぎとなった。

 その日の内に歓迎会が開かれ、ヤルモは隣に座る美女から勧められるままに酒をがぶ飲みして朝になる。

「あの人に、犯されたんです……」
「……へ??」

 宿屋で起きるなり、パーティ仲間の男たちに囲まれるヤルモ。頭も回らないなか、衛兵を呼ばれてあえなく御用。冤罪を主張するが、まったく聞いてもらえない内に金目の物は全て慰謝料に没収され、鉱山送りとなってしまった。
 そこで戦士から鉱夫に転職。これが鉱山送りとなった者の抗えない現実。奴隷魔法で縛られるので、反抗することも許されない。


 それから五年……


 真面目に働いたヤルモは鉱夫をカンストし、刑期を終えて娑婆に戻る。実家に顔を出すものの、親兄弟は犯罪者を出したと嘆き、追い返される。仕方なく自分の素性を知らない町でなけなしの金を使い、冒険者に戻ろうとする。
 だが、転職はレベル1からのやり直し。レベル1の戦士になったヤルモは、またソロでダンジョンに潜ってレベルを上げていた。

 そんなある日、遠征に来ていた同期だった男と偶然出会い、不穏な噂を聞く。

「お前がレイプしたって女、隣町で美人局つつもたせをして捕まったらしいぞ。ひょっとして、お前もそうだったんじゃないか?」

 ヤルモは激怒した。

 その足で裁判所に向かい、冤罪を主張して犯罪歴を消せと叫び、慰謝料も求めたが門前払い。裁判所からしたら、冤罪で裁いたという事実を作りたくなかったのであろう。
 その日のヤルモはしこたま飲んで眠りに就いたのであった。


 それから一年……


 女性不信におちいっていたヤルモは、ソロで活動を続けていたが限界を感じ、とあるパーティに加入することに決めた。加入するに至った経緯は簡単だ。

 恋をしたのだ。

 ヤルモに多少の不安はあったのだが、一週間も共にダンジョンに潜っていたので気が緩み、好きになった女性に隣でお酌をされたからには飲み過ぎてしまった。

 そして翌朝……ヤルモはまた衛兵に御用になった。

 罪状は強姦罪。冤罪を主張するが、前科もあるので聞いてもらえない。またしても一文無しになって、五年の刑期を鉱夫として過ごし、家に帰ることもできずにレベル1戦士に転職することとなった。


 人間不信におちいったヤルモは、一年間誰も近付けずにソロでダンジョンに潜り続けた。


 そんなある日、新人冒険者の少年、エミルがまとわりついて来た。
 エミルは女の子と見間違う容姿だったのでヤルモは突き放していたのだが、毎日現れてはダンジョンについて来た。根負けしたヤルモは事情を聞き、不遇な生活を送っていたのだと涙した。

 そうしてパーティを組む事となった二人は、一ヶ月も寝食を共にする。その頃にはヤルモも警戒が緩み、エミルに恋をした。女性不信のヤルモにとっては、男ならば裏切らないと思ってしまったのだろう。
 今日こそ思いを伝えようと酒をがぶ飲みし、勢いに任せて告白しようとした矢先、睡魔に襲われて眠ってしまった。

 そして翌日、ヤルモは強姦罪で捕まった。

「な、何かの間違いだ! 男を犯すわけがないだろ? エミルも何もなかったと言ってくれ~~~!!」
「うぅぅ。あの人に無理矢理……」

 涙するエミルに衛兵は同情して余罪を調べると、出るわ出るわ。前科ニ犯の凶悪犯ならば、男でも襲うと言い張る始末。
 事実は、前の二件と同じく何もない。どこかでヤルモの素性を知ったエミルが、貯め込んでいる金を奪う為にひと芝居打っただけ。強姦したと言えば慰謝料が手に入るし、前科者の話なんて聞くわけがない。
 ヤルモは酒を少量しか飲まなかったから時間は掛かったが、エミルの策は成功して、まんまと大金を手に入れたのだ。


 そのことを知るのは、刑期を終えた五年後……


 五年間燃やしに燃やした怒りに我を忘れたヤルモは、エミルが居るであろう冒険者ギルドに飛び込んだ。

「ああ。アイツ? なんか盗みを繰り返したとかで、パーティ仲間に殺されたぞ。ま、ダンジョンの奥でモンスターに殺されたってことになってるけどな。そういえばオッサンって……あいつの最初の犠牲者じゃね? うっわ~。御愁傷様」

 怒りのヤルモに親切な男が事の顛末を教えてくれたが、礼を言わぬままその場を離れることとなった。しかし怒りの矛先は裁判所に向かい、怒鳴り込むがエミルの犯罪歴はついておらず、門前払いされてしまった。

 それから放心状態のヤルモは、足の向くまま向かった町で、冒険者ギルドに入るのであった。
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