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23 勇者と魔王

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「あ~。えっと……改善点なんか教えてくれないか?」

 姫騎士達が勇者のぐるぐるパンチをジト目で見ていたので、バツの悪くなった勇者は質問する。

「改善点? ハッ」

 しかし、姫騎士に鼻で笑われてしまった。サシャもコリンナもテレージアもフリーデも鼻で笑っているので、同じ意見なのだろう。

「戦い方を知らないんだから、仕方ないだろ~」

 泣きを入れる勇者。だから教えてくれと言っていたのに、冷たい目で見られたのだから致し方ない。

「ま、まぁそうだな……とりあえず……」
「ちょっち待つしぃ」

 姫騎士が勇者にパンチの打ち方を教えようとすると、サシャから待ったが掛かった。

「なんだ?」
「その攻撃で敵を倒したと言うのなら、それが弱点なんじゃね? 下手へたに変えないほうがいいかも??」
「一理あるな……でも、あまりにもかっこ悪くないか?」
「「「うんうん」」」

 姫騎士の質問に、コリンナ、テレージア、フリーデは深く頷き、サシャも軽く頷く。その皆の姿に、勇者は肩を落とす。
 しかし決定事項となったので、姫騎士はパンチの見本を見せていた。

「ふむ……いいんじゃないか?」

 基本的な型を見せただけだが、勇者は簡単にマスター。

「まぁこれぐらいなら……」

 いや、ゆっくり動いているだけだから、様になっているのかもしれない。

「あとは本番で同じ動きができるかどうかだろう」
「う~ん……」

 いまいち強くなった気がしない勇者がうなっていると、サシャが質問する。

「もっと速くできないしぃ? それができないと、役に立たないっしょ~」
「こうか?」
「わ! 【防御結界】だしぃ!!」

 サシャは慌てて明後日の方向に防御結界を張る。すると、勇者の出した拳の先は、地が削れ、防御結界は割れ、風が吹き荒れた。

「何が起こった……」

 勇者のパンチは、サシャ以外見えていなかったので、姫騎士達は呆気に取られている。

「急に危険なことすんなしぃ」
「す、すまん。こんな事になるとは思わなくて……」

 サシャにやれと言われてやったのに、素直に謝る勇者。いくらサシャより強い敵に勝ったといえど、妹に頭が上がらない事は変わらないようだ。

「でも、一通りの動きを覚えれば、それなりの攻撃にはなるかもしんないしぃ」
「なるほど……蹴り技も覚えておくか?」
「おう!」

 サシャの案に姫騎士は頷き、キックを教えようとするが、剣士である姫騎士は苦手なようだ。なので、フリーデに教えをうが、飛び蹴りが多い。いちおうマネはできた勇者だが、フリーデは何故か勇者に何発も蹴りを入れていた。
 どうやら魔王を守れなかった事を怒っているようだ。最後には泣きながら、「お姉ちゃんを助けて」と言っていた。


 そうして特訓を続けた勇者は、夕食後に、早目に寝ると言って自室に入って行った。しかし日が落ちてすぐだったため、ベッドに寝転んだ勇者はなかなか寝付けずにいる。

 そんな中、ノックの音が響いた。

 勇者は寝転んだ姿勢のまま入室を許可し、入って来た者はベッドに腰掛けて話をする。

「私も一緒に戦いたいのだが……」

 入って来た者は姫騎士。その言葉に、勇者は冷たく突き放す。

「ダメだ。姫騎士では戦力にならない」
「しかし、魔王殿がさらわれたのは、私のせいでもある。騎士として、逃げるわけにはいかない!」

 それでもついて来ようとする姫騎士に、勇者は優しく語り掛ける。

「姫騎士は、もう女王様だろ? 戦う必要はないんだ」
「でも……」
「わかってる。姫騎士もサシャ……魔王が心配なんだな。俺が死んでも連れ戻すから、心配するな」

 勇者の説得に姫騎士はうつむく。

「死ぬなんて言うな……私は勇者殿も心配しているんだ……」
「姫騎士……」
「勇者殿をボロボロにした敵より強い敵が居るんだ。心配しないわけがないだろ!」

 姫騎士は泣きながら勇者の胸元を掴む。

「勇者殿に死なれたら、私は……私は……」
「俺の事まで心配してくれて、ありがとう」

 そして姫騎士は勇者を抱き締めて泣き続け、勇者は姫騎士の気持ちを汲んだからか、感謝の言葉を述べながら背中をポンポンと叩いていた。

 しばらくして泣き止んだ姫騎士は、立ち上がって言葉を発す。

「これから戦場に向かう者に掛ける言葉じゃなかったな。すまなかった」
「いや……俺は……」
「勇者殿が戻った際には、伝えたい事がある。必ず生きて戻って来てくれ」
「ああ。魔王と一緒に、帰ってくるよ」
「必ずだぞ……」
「あ……」

 凛として勇者の帰還を求めた姫騎士は、勇者の頬にキスをして部屋から出て行った。残された勇者はと言うと、いきなりそんな事をされたので、放心状態となっていた。


 それから勇者が悶々としていたら、部屋にノックの音が響く。

「アニキ……」

 勇者の許可を得て入って来たのはコリンナ。勇者の寝転ぶベッドに腰掛ける。

「アニキは死なないよね? 絶対帰って来るよね?」

 勇者に覆い被さって捲し立てるコリンナに、勇者は優しく語る。

「ああ。さっき姫騎士とも約束したところだ。必ず生きて帰るよ」
「姫騎士さんが……他には何か話してなかった?」
「ん? ま、まぁ……それぐらいかな?」
「………」

 勇者はキスされた事を惚けたようだが、目が泳いでいる。さらには頬を触ったので、コリンナは姫騎士がした事を察したようだ。

「じゃあ、オレも……」
「わ! なんで!?」

 元々顔が近かった事もあり、勇者はコリンナのキスを避けきれずに、額に受ける事となった。
 コリンナはそれで満足したらしく、ベッドから降りてドアに向かって歩く。しかし、ドアに手を掛けたコリンナは忘れ物に気付いて振り返った。

「あ、そうだ。アニキが帰って来たら、伝えたい事があるんだ。だから、必ず帰って来てね」

 コリンナはそれだけ言うと、部屋から出て行った。

 勇者はというと、二人のキスの真意と、帰った時に何を言われるのかと考えているが、経験がまったくないので答えは出ない。
 なので、わかるかも知れない人物に聞いてみる。

「テレージア。居るんだろ? 出て来いよ」

 勇者が窓に向かって話し掛けると、カーテンの端が揺れ、パタパタと飛ぶテレージアが出て来た。

「な~んだ~。バレてたんだ~」

 どうやら勇者に群がるであろう乙女をおかずにするために、「妖精は見た」をしていたようだ。

「さっきの二人は、いつもと様子が違っていたんだが……」
「やっと気付いたんだ……二人は、勇者にそういう感情を持っているのよ」
「そういう??」

 テレージアは自分で言うのに気が引けていたので曖昧に言ったのだが、勇者はまだ気付いてなかった。

「なんでわからないのよ! 好きってことよ!!」

 あまりにも鈍いので、大声で言ってしまうテレージア。

「好き??」
「そこまで言ってもわからないの……」
「いや、その……俺にはサシャが……」

 モゴモゴと喋る勇者に、テレージアは呆れて質問する。

「そのサシャって、どっちのサシャ?」
「え……」
「妹? 魔王?」
「妹が……サシャ……」

 急な質問に、勇者はしどろもどろになってしまった。

「じゃあ、質問を変えるわ。今まで攻撃なんてする気もなかったのに、何のために、攻撃方法を習っていたの?」
「それは……」
「自分でもわかっていないみたいね。その事も考えてから、二人に返事しなさいよ」

 テレージアはそれだけ言うと、窓に向かってパタパタと舞い、振り返った。

「昨日は酷いこと言ってゴメンね! あと、私も勇者のこと好きだからね!!」

 どうやらテレージアは謝りに来たみたいだけど、勢い余ってよけいな事まで言ってしまい、顔を真っ赤にして逃げて行った。

 残された勇者はと言うと……

「プシューーー」

 許容オーバーでショート。予定通り、早めの就寝となるのであった。
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