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20 帝都攻め 1
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しおりを挟む「うぅぅ。楽しくなって来たところだったのに~」
アンコールを二曲歌い終えたサシャは、一曲だけだと聞いていた姫騎士、魔王、コリンナに羽交い締めにされ、ステージから降ろされて愚痴っている。
「も、もう兵士も疲れているのだから、勘弁してやってくれ!」
「うぅぅ……あ!」
恨めしそうに姫騎士を見ていたサシャだったが、いらぬ事を思い付いたようだ。
「ウチとアイドルユニットを組んでくれしぃ!」
「アイドルユニット??」
「みんなで歌って踊るしぃ!」
突然のサシャのわがままで、姫騎士は「無理無理」と首を横に振り続ける。それでも説得を繰り返すサシャに、またわがままを言われると困ると感じた魔王とコリンナは、姫騎士を売る。
「それぐらい、いいじゃないですか?」
「みんな姫騎士さんが好きだから、きっと喜ぶわよ」
「なっ……」
二人に売られた姫騎士はたまったもんじゃない。声も出ないほど驚いている。そんな中、サシャは決定したかのように喜ぶ。
「二人も乗り気でよかったしぃ。一度、五人ユニットでやってみたかったんだしぃ」
「「五人??」」
笑顔のサシャに、魔王とコリンナは同時に質問した。
「ウチだしょ? それにクリクリと魔王……」
「私ですか!?」
「それとコリっち!」
「オレまで!?」
「あとは~。フリフリ~……」
「そこはあたしでしょ!」
サシャのメンバー発表に、皆が驚いているとテレージアが飛び込んで来た。
「あ、テレシーが加入してたの忘れてたしぃ。六人ユニットだったしぃ!」
「も~う。忘れないでよね~」
「ごめんだしぃ」
テレージアはアイドルが楽しかったのか、サシャが謝ると珍しく簡単に許していた。
だが、いきなりユニットに加えられた魔王とコリンナは違う。顔を青くして止めようとする。
「「む……」」
二人が無理と言おうとしたた瞬間、誰かに肩を同時に叩かれて、言葉が止まる。
「いいんじゃなかったのか~? それとも、私を売ろうとしたのかな~??」
姫騎士だ。仲間と思っていた魔王とコリンナに売られてオコのようだ。二人は怖くて姫騎士の目を見れず、アイドルユニットに加入する事となった。
「さあ、ビシバシ特訓するしぃ!!」
「お~!」
サシャの掛け声にテレージアは手を上げて応え、特訓に励む三人であっ……
「「「いやいやいやいや」」」
これから帝都攻めがあるからと、平和になってから特訓すると言って、アイドル活動は延期となるのであった。
サシャの説得に時間の掛かった姫騎士であったが、その夜はやる事が多かった。帝都から続々と抜け出る住人が現れ、対応に走り回る。
住人だけでなく、多くの帝国兵も姫騎士軍に合流するので手が足りなくなり、魔王やコリンナも手伝いに動き回っていた。
そうして夜が明けた頃には、帝都の三分の一もの人族が姫騎士軍の元へ流れ、帝都攻めをするには兵士の疲弊もあり、一日延期となってしまった。
* * * * * * * * *
一方、帝国皇帝の元へは、宰相から続々と凶報が届いていた。
「へ、陛下……」
「またか」
真っ昼間から帝国兵が姫騎士軍に流れると、その場所から住人が流出するので止めようがない。いちおうは止めに兵は派遣されるのだが、流出箇所が多くて止められないでいる。
「も、申し訳ありません!」
報告を終えた宰相は、謝るしかない出来ない。だが、皇帝は叱る事はせずに冷静に語り掛ける。
「よい。もう外壁は役に立つまい。いま残っている者を城壁内に集めよ」
「しかし数が……」
「忠誠心の高い者が残ったのだから、よいではないか。これで士気が上がるというものだ」
「それはそうですが……」
現在、帝国兵は約半数まで減っている。一万の兵で、六万にまで増えた姫騎士軍を相手にしなくてはいけないのだから、宰相も口ごもってしまった。
「それに例の兵器もあるだろう。頃合いを見て投入すればいいだけだ。いつでも出せるようにしておけ」
「は……はい!!」
ついに皇帝は最終兵器を使う決断をする。万の敵を討ち滅ぼした兵器だ。これを使えば、万の幸福が得られるのだろうと……
皇帝の命令に、宰相は足早に執務室から出て行く。その背中は、笑っていたように皇帝には見えたのだが、勝利の笑いだと受け取ったようだ。
それからは兵士や貴族を中心に帝都城に集まるのだが、民はほとんど全員、姫騎士軍の元へ走り、広大な敷地を誇る帝都はもぬけの殻となるのであった。
* * * * * * * * *
そんな帝都とは違い、姫騎士軍は民が膨れ上がり、対応に苦労していた。これも皇帝の策略のひとつ。民に甘い姫騎士ならば、必ず放り出さないと考えての策だったのだ。
現に兵士の半分以上は民の対応にあたり、食糧の配布だけでもてんてこ舞いになっている。この事態には勇者も駆り出され、走り回って各所に食糧を配っていた。
「これは急がないといけないな」
姫騎士軍は膨大な人口増加で、寝泊まりするテントはまったく足りていない。これでは、住人は屋根の無い場所で寝泊まりするしか方法がなく、不満が高まるのは必至。姫騎士は早急に帝都を奪って生活の基盤を作りたいようだ。
会議ではその事を伝え、兵士の数の調整。こちらには勇者が二人もいるので城壁は役に立たないとみて、倍の人数で押し切る作戦で決定する。
会議出席者は賛成大多数で決定したのだが、魔王は何か言いたげだった。しかし、口を挟める雰囲気ではなかったので、暗い顔をしながら会議の場から離れて行った。
その夜……
巨大馬車の前で、焚き火を見つめる魔王の姿があった。
「サシャ」
「お兄ちゃん……」
魔王が塞ぎ込んでいると、勇者が後ろから声を掛け、そして隣に座る。
「辛そうだな」
魔王の顔を見た勇者は、いつものテンションでは話せないようだ。
「明日の戦闘は、どうしても避けられないのですよね……」
「……だな」
「それに、多くの死者が出そうです……」
魔王の心配は人族の死者。会議の場でも、脱走兵から皇帝に忠誠を誓う者が集まって士気が高いと聞いていた。もちろん姫騎士も、出来るだけ死者を減らしたい考えだが、味方の命に関わる事なので、手加減するのも難しい状況なのだ。
魔王は、先の戦争で自軍が殺した人族を思い出して、塞ぎ込んでいるようだ。
「お兄ちゃん。怖いです……」
魔王は震える手を、勇者の太ももに置く。すると勇者は魔王の手に手を合わせ、笑顔を見せる。
「大丈夫……大丈夫だ。俺がなんとかする」
「え……?」
攻撃の出来ない勇者。魔王に触れられて倒れる勇者。今まで不甲斐ない姿を見せていた勇者の力強い言葉に、魔王は不思議に思う。
「俺は勇者。勇者なんだ……もう間違わない」
「お兄ちゃん??」
「サシャは何も心配する事はないぞ。俺に任せておけ!」
「お兄ちゃん……ありがとうございます!」
魔王は勢い余って勇者に抱きつく。すると勇者はいつものように気絶……
「さぁ、明日のために、早く寝よう」
「はい! ……あれ?」
いや、気絶せずに、魔王と共に立ち上がって歩き出した。魔王も不思議に思ったのか、腕を組んだり抱きついたりしながら一緒に大型馬車に入るのであった。
「プシューーー!」
「やっぱり……」
リビングのソファーに倒れ込んだ勇者は、ショートして眠りに就くのであったとさ。
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