上 下
155 / 187
20 帝都攻め 1

155

しおりを挟む

「どうして私はナデナデできないんですか~」

 一向に頭をナデナデしてくれない勇者に泣き付く魔王。勇者も触れようと頑張っていたのだが、最愛の妹だけにヘタレな勇者では致し方ない。

「す、すまない……もう少し時間をくれ」
「もういいです!」
「プシューーー」

 謝る勇者を暗殺。抱きついて意識を奪い、手を持ってセルフナデナデ。しかし、魔王は満足していないようだ。

「うぅぅ。なんか違います~」

 そりゃそうだろう。自分で撫でさせているのだから、人形とたいして変わらないのだからな。

「もうアニキの事は諦めたら? オレが貰ってやるよ」

 策略のコリンナのクリティカルヒット。相思相愛なのだが、勇者から触れられないのだから、チャンスはあると考えて略奪しようとしている。
 この辛辣なセリフに魔王は涙目になるが、反論が思い付かない。

 そんな中、フリーデとテレージアがテーブルに同席した。

「またヤったの? いつになったら勇者は魔王に慣れるのよね~」

 幸せそうに眠る勇者を横目に見ながら食事を始めるテレージア。見慣れた光景では、おっさん妖精女王には物足りないようだ。

「どうしたらお兄ちゃんは、私を抱いてくれるんでしょう……」

 かなり際どい事を呟く魔王の言葉に、テレージアの耳がピクピクする。最近、三人の進展がないので、新しい刺激が欲しかったようだ。

「イメチェンしてみたらどう? サシャと見た目が変われば、緊張しなくなるかもよ」
「そ……それです! さすがテレージアさんです!!」

 魔王に褒められたテレージアは鼻高々。しかしコリンナは敵に塩を送られて、テレージアを睨んでいる。

「コリンナもイメチェンしてみなよ。いつも男っぽい格好だし、女の子っぽくしてみたら?」
「た、たしかに! でも、服なんて持ってない……」
「たしかあっちに、住人に配る服があったはずよ。わたしもコレ、端切れから作ってもらったんだ~」

 テレージアは戦いに参加しないので、暇すぎて軍の馬車をウロウロしている。そこで出会った女性にチヤホヤされて、何着か服をプレゼントしてもらった。

 ゆるふわ系の服を着たテレージアは空を舞ってくるりと回ると、魔王とコリンナは目を輝かせる。

「かわいいです~。私も欲しいです~」
「オ、オレも、ちょっと着てみたいかも」
「フフン。じゃあ、これを食べたら行きましょう」

 食い意地の張った妖精女王を急かす魔王とコリンナであったが、案内役が居なくては服を調達できない。仕方なくバクバク食べるテレージアを、恨めしそうに見続けるのであった。


 テレージアの食事が終わると、フリーデもちょうど食べ終わり、ウトウトとし始めた。なので魔王とコリンナはフリーデの手を引いて歩き、空を舞うテレージアの案内で、とあるテントに入った。
 そこで「キャーキャー」と叫ぶ女性に次々と服を着せ替えさせられる。どうやら、美人の魔王と、かわいらしい少女二人に舞い上がっているようだ。
 魔王達はと言うと、魔王以外はたじたじ。魔王はいろんな服を着れて楽しそうだが、コリンナは戸惑っている。フリーデは……寝てるな。寝てるのに、無理矢理着せ替え人形にされている。

 そうして長い時間服を選んでいた魔王達は、勇者の眠るテーブルに戻った。
 しかし勇者は起きる気配がないので、魔王が魔法で作った水をぶっかけて起こす。

「わ! な、なんだ!?」

 驚きながら目覚めた勇者はキョロキョロしたのも束の間、魔王に目を留める。

「サシャは何を着ても似合うな~」
「うっ……一目でバレてしまいました~」

 魔王の格好は、いつも下ろしていた髪をポニーテールにまとめ、スーツ姿に眼鏡を掛けた秘書スタイル。出来るだけ元の姿から変えたのだが、勇者には一発で見破られてしまった。

「オ、オレはどうかな?」
「……コリンナか? かわいらしくなったな~」
「やった」

 手をグッと引いて喜ぶコリンナの格好は、何がなんだかわからなくなって、テレージアと同じくゆるふわ系。しかし仕草が男っぽいので、少しもったいない。
 ちなみにフリーデは森ガール。寝ている内に着替えさせられ、本人は何を着せられているかわかっていない。

「で、あたしはどうよ? 褒め称えなさい!」

 無い胸を張るテレージア。

「……どこか変わったか??」
「ムキー!!」

 しかし羽虫程度にしか見ていない勇者には、違いがわからなかったようだ。怒ったテレージアは勇者の顔にドロップキックをお見舞いしていたが、ノーダメージ。虫に刺されたほども効かなかった。


 それから服飾テント近くに移動して、服を替えては勇者の前に現れるファッションショーが始まった。

 魔王達がわいわい騒いでいると、姫騎士も魔王達のファッションショーに加わる。ただし、魔王に対してだけ勇者のテンションが変わるので、姫騎士とコリンナは納得いかない顔をしていた。
 それに付き合わされていた勇者はと言うと、美女をはべらせていたので、兵士達の羨望せんぼうの眼差しが突き刺さっていた。まぁ頑丈な勇者には効かないし、魔王を見る事に忙しかったので、気付いていない。
 その事もあって、何事かと人々が集まり、ファッションショーは男も女も関係なくテントを囲み、大きな輪となった。

 しかし、そんな騒ぎが起こっていたならば、あの人も黙っていない。

「うぅぅ。楽しそうだし~」

 サシャだ。ファッションショーは、もう、勇者一人に見せるモノではなくなってしまい、壇上に立ってポーズを決める魔王達を見てうずうずしている。

「クリスティアーネ殿下のドレス姿を見れるとは……うぅぅ」

 ヨハンネスは何故か涙している。微かな恋心を押し殺していたのかもしれない。

「なぁに~? あんたクリクリに惚れてたの~?」
「そ、そんな不敬な事は考えていない!」

 サシャに頬をつつかれるヨハンネスは、慌てて否定する。よっぽど弱味を握られたくないんだろう。

「あははは。バレバレだっつうの」
「うっ……誰にも言わないでください」
「黙っていてあげるから、ウチに協力するしぃ!」

 ヨハンネスは、怪しく笑うサシャがよからぬ事を考えていると気付く。

「ま、まさか……あの場に立つつもりなのか??」
「こんな楽しそうな事に参加しないわけないっしょ~!!」
「いや、こんな大勢の前に姿を現したら、勇者殿にバレてしまうぞ!」
「そこをなんとかするのがあんたの仕事だしぃ!!」
「む、無理だ~!!」

 こうして飛び入り参加のサシャを加え、ファッションショーは続くのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。 ⚠『終』の次のページからは、番外&後日談となります。興味がなければブラバしてください。

グラティールの公爵令嬢―ゲーム異世界に転生した私は、ゲーム知識と前世知識を使って無双します!―

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
ファンタジーランキング1位を達成しました!女主人公のゲーム異世界転生(主人公は恋愛しません) ゲーム知識でレアアイテムをゲットしてチート無双、ざまぁ要素、島でスローライフなど、やりたい放題の異世界ライフを楽しむ。 苦戦展開ナシ。ほのぼのストーリーでストレスフリー。 錬金術要素アリ。クラフトチートで、ものづくりを楽しみます。 グルメ要素アリ。お酒、魔物肉、サバイバル飯など充実。 上述の通り、主人公は恋愛しません。途中、婚約されるシーンがありますが婚約破棄に持ち込みます。主人公のルチルは生涯にわたって独身を貫くストーリーです。 広大な異世界ワールドを旅する物語です。冒険にも出ますし、海を渡ったりもします。

【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん
ファンタジー
 人族によって滅亡を辿る運命だった魔族を神々からの指名として救った魔王ジークルード・フィーデン。 しかし神々に与えられた恩恵が強力過ぎて神に近しい存在にまでなってしまった。  膨大に膨れ上がる魔力は自分が救った魔族まで傷付けてしまう恐れがあった。 なので魔王は魔力が漏れない様に自身が張った結界の中で一人過ごす事になったのだが、暇潰しに色々やっても尽きる気配の無い寿命を前にすると焼け石に水であった。  暇に耐えられなくなった魔王はその魔王生を終わらせるべく自分を殺そうと召喚魔法によって神を下界に召喚する。 神に自分を殺してくれと魔王は頼んだが条件を出された。  それは神域に至った魔王に神になるか人族として転生するかを選べと言うものだった。 神域に至る程の魂を完全に浄化するのは難しいので、そのまま神になるか人族として大きく力を減らした状態で転生するかしか選択肢が無いらしい。  魔王はもう退屈はうんざりだと言う事で神になって下界の管理をするだけになるのは嫌なので人族を選択した。 そして転生した魔王が今度は人族として2度目の人生を送っていく。  魔王時代に知り合った者達や転生してから出会った者達と共に、元魔王様がセカンドライフを送っていくストーリーです! 元魔王が人族として自由気ままに過ごしていく感じで書いていければと思ってます!  カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております!

異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D
ファンタジー
異世界召喚。 おなじみのそれに巻き込まれてしまった主人公・花散ウータと四人の友人。 友人達が『勇者』や『聖女』といった職業に選ばれる中で、ウータだけが『無職』という何の力もないジョブだった。 ウータは金を渡されて城を出ることになるのだが……召喚主である国王に嵌められて、兵士に斬殺されてしまう。 だが、彼らは気がついていなかった。ウータは学生で無職ではあったが、とんでもない秘密を抱えていることに。 花散ウータ。彼は人間ではなく邪神だったのである。 

森に捨てられた俺、転生特典【重力】で世界最強~森を出て自由に世界を旅しよう! 貴族とか王族とか絡んでくるけど暴力、脅しで解決です!~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 事故で死んで異世界に転生した。 十年後に親によって俺、テオは奴隷商に売られた。  三年後、奴隷商で売れ残った俺は廃棄処分と称されて魔物がひしめく『魔の森』に捨てられてしまう。  強力な魔物が日夜縄張り争いをする中、俺も生き抜くために神様から貰った転生特典の【重力】を使って魔物を倒してレベルを上げる日々。  そして五年後、ラスボスらしき美女、エイシアスを仲間にして、レベルがカンスト俺たちは森を出ることに。  色々と不幸に遇った主人公が、自由気ままに世界を旅して貴族とか王族とか絡んでくるが暴力と脅しで解決してしまう! 「自由ってのは、力で手に入れるものだろ? だから俺は遠慮しない」  運命に裏切られた少年が、暴力と脅迫で世界をねじ伏せる! 不遇から始まる、最強無双の異世界冒険譚! ◇9/25 HOTランキング(男性向け)1位 ◇9/26 ファンタジー4位 ◇月間ファンタジー30位

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

処理中です...