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13 死の山の調査
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しおりを挟む勇者サシャの究極魔法の余波を受け、姫騎士軍に大量の魔獣が押し寄せる中、姫騎士は大声を張り上げる。
「直ちに防御陣形! 戦闘態勢がとれていない者は準備を急がせろ! 魔王殿も勇者殿を起こしてくれ!!」
姫騎士は焦りながらも的確な指示を出し、魔王も死の危険が迫っているので、勇者から渋々離れ、水魔法をぶっかけて起こす。
勇者は何が起こっているのかわからないが、魔王から魔獣が迫っていると聞き、「焦るサシャもかわいいな~」とか言って気持ち悪い顔で見る。
魔王も照れている場合ではないので事情を説明し、勇者に前線に立つようにお願いする。魔王のお願いに、勇者はふたつ返事で駆け出すが、姫騎士に止められた。
最強の盾と矛で戦った方が効率がいいんだとか。
そうして勇者は、お姫様抱っこで姫騎士を運ぶのであった。
現在、姫騎士軍は森の中に作った道を進軍しているので、隊列は長く延びている。先頭に居た姫騎士と勇者は、どちらでも対応できるように、ひとまず中央に移動した。
そこで各種報告を聞いて、軍隊では手に負えない、または手こずりそうな魔獣が出た場合、姫騎士と勇者の出番となる。
そうして待機していると、姫騎士軍の数ヵ所で戦闘が始まったようだ。
「姫殿下。いまのところ、小さい魔獣との戦闘が起きていますが、対応できているようです」
「うむ。感知魔法ではどうだ?」
「まだ大型の反応は無いようです」
「引き続き、魔法使いには注意を促すように伝えてくれ」
「はっ! ……?」
伝令兵から情報を得た姫騎士は、安堵の表情を浮かべる。それとは違い、伝令兵は困惑の表情を浮かべて下がって行く。
困惑の表情を浮かべている者は、もう一人いる。勇者だ。
「なあ?」
「どうした?」
「いつまでこの体勢でいるんだ?」
「えっと……このままのほうが、移動に適しているだろ!」
どうやら姫騎士は、お姫様抱っこのまま、真面目な顔で指示を出していたようだ。そりゃ、ポンコツ勇者でも、疑問に思うわけだ。
姫騎士は姫騎士で、先ほど魔王が勇者に抱きついていたのに触発されて、降りたくないようだ。でも、そんな言い訳では、勇者も納得しないだろう。
「いや、おんぶのほうが良くないか?」
ほら、勇者も気付いた。お姫様抱っこは微妙に走りにくいのだからな。
「そ、それは……」
「姫殿下~! 来ました! 大型魔獣です!!」
「なに!? どちらの方向だ!」
「後方です! 数は一匹です!」
「わかった。すぐに向かう! と言う訳で、勇者殿?」
「あ、ああ」
姫騎士に天の助け。兵士から救援の報せが届いた。勇者もいちいち降ろすよりも早いかと、そのままお姫様抱っこで走り出す。
そうして大型魔獣の到達位置に着くと、ようやく姫騎士は勇者から降りる。若干、残念そうな顔で……
それからしばらく経ち、木を掻き分けて、人を簡単に丸呑みできるほどの巨大な蛇が姿を現した。
「キングコブラか……」
「とりあえず、俺が行って来るよ。あとは任せた」
「おう!」
勇者は「シャーシャー」と舌を出しているキングコブラに無防備に近付き、姫騎士は、騎士や兵士に指示を出す。
そうして勇者がキングコブラの攻撃範囲にまで近付くと、キングコブラは勇者に噛み付こうとする。
姫騎士はその様子を見て、兵士達に遠距離攻撃の合図をしようと手を上げる。
だが、勇者は牙をひょいっと避けてしまった。姫騎士は焦って合図を止めて、勇者の動向を見守る。
そして次の瞬間、勇者はキングコブラに巻き付かれてしまった。
「よし! 放て~~~!!」
「「「「「ええぇぇ!?」」」」」
姫騎士が命令を下すが、兵士達はポカンとする。勇者のでたらめな頑丈さを知らない者では仕方の無い反応だ。
「いいから放て! 撃って撃って、撃ちまくれ~!!」
「「「「「は、はい!!」」」」」
姫騎士の、二度目の命令で兵士達は我に返り、魔法や弓矢を放つ。すると、全てキングコブラに着弾。キングコブラは苦しそうな声を出し、標的を兵士に移す。
凄い速度で動くキングコブラは兵士の前まで行くと、大口を開ける。
「お前の相手は俺だろ? よいしょ~!」
当然、勇者はあの程度の巻き付きではびくともせず、胴体を引っ張られたキングコブラはすんでの所で止まる事となった。
「いまだ! 私に続け~!!」
「「「「「おおおお~!」」」」」
キングコブラが勇者に引っ張られて体が伸びた瞬間を狙い、姫騎士たち近接戦闘部隊が、次々とキングコブラに剣を突き刺す。
トドメは姫騎士。頭に飛び乗り、奥義を放ってキングコブラの命を刈り取った。
「ふぅ~」
姫騎士が一息ついていると、兵士達から歓喜の声があがる。
本来ならば、怪我人大多数、死者も覚悟させる程の魔獣を、誰ひとり怪我人を出さずに倒したのだから、姫騎士の手腕を褒め立てずにはいられないのだろう。
しかし、浮かれている場合ではない。伝令兵から新たな大型魔獣の接近を聞いた姫騎士は、戦闘区域に急ぐのであった。
勇者のお姫様抱っこで……
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