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12 姫騎士軍 進軍

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 魔の森、中間にある砦から弓矢が降り注がれ、勇者が姫騎士の前に立ちはだかる。姫騎士を守りながら勇者は声を掛けるが、一向に動こうとしない姫騎士に対して勇者は語気を強くする。

「下がれって言ってるだろう!」
「あ、ああ……」

 弓矢が刺さる勇者の声を聞いて、ようやく我に返った姫騎士は、ジリジリと後退する。そして自陣にまで戻ると、砦でのやり取りを眺めていた魔王達の元へと近付く。

「姫騎士さん……」

 魔王は姫騎士の雰囲気に、心配になって声を掛ける。

「……大丈夫だ」
「でも……」
「先ほどのやり取りで覚悟はできた。我が道をさえぎる敵は、皆殺しにしてみせようぞ!」

 姫騎士の叫びに、魔王は焦ってコリンナを見る。 

「コリンナさん! できるだけ死傷者を出さないような作戦を考えてください!!」
「え? わたし??」
「姫騎士さんは冷静さを無くしています。なんでもいいからお願いします!」

 魔王の無茶振りにコリンナは驚いているが、それでも無茶振りを続けるので、コリンナは適当な作戦を勇者に伝える。

「アニキ。前の戦いの時みたいに、指揮官を連れて来てくれない?」
「おう!」
「待て!」

 勇者がいい返事をするが、間髪入れず姫騎士が魔王に詰め寄る。

「これは我々の戦争だ。口を挟まないでくれ!」
「いまの姫騎士さんには任せられません! 皆殺しにしなくとも、解決できるはずです!!」
「何を甘い事を……」
「姫騎士さんだって、その甘さで戦って来たじゃないですか!」
「それは……過去の話だ!」

 魔王と姫騎士は言い合いを続け、皆が止めに入る事態となる。それでも平行線が続く中、勇者が声を掛ける。

「ちょっといいか?」
「なんだ!?」「なんですか!?」

 勇者の声に、二人は同時に「がるるぅぅ」と怒りの声をあげる。

「あ……すまない。でも……」
「「だから!」」
「これを……」
「「え??」」

 勇者は申し訳なさそうに、首根っこを掴んだ一人の男を差し出す。

「指揮官だと思うんだけど……」

 そう。勇者はいい返事をして喧嘩が始まる前に走り出し、砦の壁を飛び越えて、どんな攻撃を受けようとも指揮官を探して持ち帰って来たのであった。

「あ……そうなのか……」
「お、お疲れ様です……」

 喧嘩をしていた二人であったが、この事態には冷静さを思い出したようだ。
 だが、呆気に取られて思考が追い付いていないので、代わりにコリンナが勇者に指示を出す。

「アニキ。砦から誰も出て来ないし、もう何人か偉そうな人を捕まえて来てくれない? あ、できるだけ砦は傷付けないでね」
「わかった。行って来る!」

 勇者は味方の兵士に指揮官を預けると、走って砦に向かい、壁を飛び越えて指揮官に成り得る人物を捕まえては、壁を越えて戻る。
 勇者が何度も自陣に戻る姿を見て、姫騎士も自分のやる事に気付き、指揮官の尋問と無血開城の説得を行う。


 そうして勇者が、十人の騎士を連れ帰ったところで砦から白旗が上がり、門も開く事となった。その光景に、コリンナは振り返って姫騎士を見る。

「もう説得はいらないみたい」

 そりゃそうだ。四万の兵と戦う事でさえ無謀なのに、次々と指揮官が抜けて行っては戦う事もできない。
 こうして砦は無血開城となり、姫騎士軍中枢は、易々やすやすと占領するのであった。


 砦内に入った姫騎士軍は隅々まで中を調べ、帝国軍は一ヶ所に集められる。指揮官等は姫騎士の言葉に耳を傾けてくれないが、約三分の二は姫騎士軍に帰属する事となった。
 そこで長兄の足取りを手に入れるが、兵士から意外な進路を聞き、姫騎士は頭を悩ませる事となる。
 ひとまずここは信頼できるベティーナ達に任せ、姫騎士は軍の後方にある小さなテントに許可を得て入る。

「それで、話ってなんだしぃ?」

 もちろんサシャの滞在するテントだ。少し面倒そうに言うので、姫騎士は緊張して言葉を発する。

「ラインホルト兄様が、兵を連れて南に行ってしまったのだ。魔獣を連れて帰ると言っていたらしいんだが、少し調査をして来てくれないか?」
「ふ~ん……調査ね~」
「南には、死の山と言う危険な場所があるのだ。そんな所に四万の兵を連れて行くなんてどうかしている。どれほどの死者を出しているかもわからない」
「調査してどうすんの?」
「無論、助けられる命があるなら助けたい!」
「そっか……」

 サシャはおもむろに立ち上がると、くるっと回って決めポーズ。姫騎士は何が起こったかわからずに目をパチクリ。

「この美少女勇者、サシャ様が解決してやるしぃ!」
「あ、ああ……ん? 解決??」

 サシャの力強い言葉に、姫騎士は空返事。しかし、思っていた答えと違ったからか、サシャは質問する。

「だってクリクリは帝国に行かないといけないから忙しいっしょ?」
「クリクリ??」
「あんたのことだしぃ!」
「えっと……」
「だからウチが、生存者が居たら連れて来てやるしぃ!」
「本当か!? ありがとう!」

 姫騎士は変なあだ名で呼ばれて困惑したが、サシャの言葉は嬉しかったのか手を握る。

「でも、ライナーはダメだしぃ。そんな無謀な作戦をしていたのならば、ウチが殺すしぃ!」
「できれば連れ帰って裁きたいのだが……」
「一兵も失っていなかったら考えてやるしぃ。逆だったら、ウチの理性が持たないしぃ」
「そうか。わかった……では、美少女勇者サシャ殿。調査と兵士を連れ帰る作戦をお頼み申す。頼んだぞ」
「硬いしぃ!!」

 その後、サシャは変な言葉遣いを姫騎士に伝授し、気分よくなって後ろ姿を見送る。

 そうしてサシャは、死の山に向けて飛び立つのであっ……

「姫殿下から、仕事を頼まれたって言ってなかったか?」
「明日できる事は、明日やるしぃ!!」

 いや、もう日暮れが近かったから、ヨハンネスに何か言われたところで、頑として動かなかったのであった。
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