上 下
56 / 187
06 反撃

055

しおりを挟む

 精鋭騎士は一斉に斬り掛かると、剣は勇者の頭に当たり、肩に当たり、腕に当たり、足に当たり、硝子が割れるが如く、ことごとく砕け散る事となった。

「なるほどな。そんじょそこらの剣では傷も付かないわけか。ならば、わしの愛剣で相手をしてやろう」
「そんな古びた大剣でか?」
「これは彼のドアーフが打ち出した大剣だ。ドラゴンをも一刀両断に切り裂いたと言われる名剣。皇帝陛下から授かってからも、手入れをおこたった事はない!」
「ふ~ん……」
「とくと味わえ~~~!」

 ベルントは大剣を振りかぶると勇者の頭に落とす。勇者はいつも通り避けな……あ、避けた。勇者が避ける事によってベルントは空振りするが、力業で大剣を止めると、今度は地面と平行に大剣を振るう。

「フフ。やはり避けるか……」
「まあな」

 ベルントは避けられたにも関わらず笑い、勇者も素直に応える。そのやり取りの後、ベルントは気を引き締め、何度も剣を振るうがそれも当たらない。

「なかなか速いな。だが、これはどうだ! 【ブースト】」

 ベルントは攻撃が当たらないと見ると、肉体強化魔法を使ってスピードを上げる。そして、倍ほど上がった速度で、縦、横、斜め、勇者を何度も斬り付ける。
 しかし、勇者はその速度の中でも大剣を避け、徐々に間合いを詰める。

 かすりもしない攻撃に、ベルントに焦りが生まれたその時、勇者が行動に移す。
 ベルントが両手で振りかぶって大剣を落とそうとした瞬間、勇者は懐に入り、大剣の内側、頭に腕が当たる位置にまで接近する。
 すると、ベルントは止める事は出来ずに、腕を勇者の頭にぶつけ、大剣の重みもあり、両腕は逆に曲がる事となった。

「ぐあ~~~!」
「ごめんな~」

 ベルントが痛みに悲鳴をあげると同時に、勇者は小さくびを入れる。そして、ベルントの手放した大剣を拾い、アイテムボックスに保管する。

「あんたのおかげで、いいお土産が出来たよ」

 どうやら勇者は、ドアーフの作った大剣を回収する為に避けていたみたいだ。
 その後、痛みにのたうち回っているベルントに近付き、薬草のような物を口に突っ込み、飲み込ませる。それが終わると咳き込むベルントを肩車をして担ぎ、両足を持って動けないようにする。

「痛みが引いた??」
「じゃあ、行こっか」
「何処に……うわ~~~!」

 ベルントは質問するが、勇者は答えずに走り出す。いや、答えはすでに言っている。

 勇者は魔王の待つ、パンパリーの町に向けて走り出したのであった。




 一方その頃魔王達は、押し寄せる人族兵を押し返し、大穴の開いた壁の修復に勤しんでいた。
 姫騎士は刀を振るい、人族兵を傷付け、ミヒェルは片手に大鍋の盾、右手にくわを持って振り回す。フリーデは素早く動いては蹴り飛ばし、魔王とエルフは風魔法で傷付ける。その他の魔族もフォークを振って応戦している。

『姫騎士さん! ミヒェルさん! もう間も無く壁が閉じます。戻ってください!!』

 スベンから報告を受けた魔王は、撤退の指示を出す。

「ミヒェル殿。先に行ってくれ!」
「でも、姫騎士どんが~」
「私は大丈夫だ! 急いでくれ!!」
「す、すまないだ……みんな、壁に飛び込むだ~~~!」

 魔族が壁に続々入り、最後に塞ぐように盾を構えたミヒェルが飛び込むと、壁は完全に閉じてしまった。
 姫騎士はたった一人残され、人族兵に囲まれる。

「全員入ったな。奥義……【真空斬り】!」

 姫騎士が放つは、剣速を使った真空の刃。本来ならば鎧を着込んだ人間を真っ二つに出来る技だが、刀の峰で振るったおかげか、囲んだ兵士が吹き飛ぶ程度で済んだ。だが、骨は折れたのか、立ち上がる兵士は居ない。
 それを見て姫騎士は壁に走り、壁を蹴って飛び上がると、急いで戻って来たミヒェルによって引き上げられる。

「姫騎士どん。ありがとな~」
「礼を言うのは、まだだ。勝ってから、いくらでも聞いてやる」
「そ、そうだな。モォーーー!」

 ミヒェルは礼を遮られると、迫り来る人族兵に石を豪速球でぶつける。そのやり取りを見ていた魔王だが、周りの戦況を見て決断するかを悩む。
 人族兵は壁まで辿り着き、魔族のフォークや鍬で攻撃を受け、壁から弾き飛ばされている現状。
 残るか、引くか……魔王が悩んでいると、コリンナが叫びながら走り寄って来た。

「魔王さ~ん! もう無理~~~!!」

 その声を聞いて、魔王は決断する。

『全軍撤退! 足元に気を付けて、撤退で~~~す!!』

 魔王の指示を聞いた魔族は、徐々に壁を飛び降り、パンパリーの町に向けて列を組んで走り出す。壁に残った者は、登って来る兵士を撃退していたが、人族兵も魔王の言葉を聞いていたからか、壁を登る事をやめて兵士の損耗を減らすようだ。
 魔王達は動きの止まった人族兵を見て、壁から一斉に飛び降り、パンパリーの町に向けて必死に走る。殿しんがりに四天王や姫騎士を起き、エルフの風魔法で牽制しながら走る。

 人族は壁に梯子はしごを立て、仲間を踏み台にして壁を越えると、人員がそろうのを待って、ゆっくりとパンパリーの町に向けて歩を進める。

 ついに魔族は壁を越えられ、戦いは最終局面を迎えるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D
ファンタジー
異世界召喚。 おなじみのそれに巻き込まれてしまった主人公・花散ウータと四人の友人。 友人達が『勇者』や『聖女』といった職業に選ばれる中で、ウータだけが『無職』という何の力もないジョブだった。 ウータは金を渡されて城を出ることになるのだが……召喚主である国王に嵌められて、兵士に斬殺されてしまう。 だが、彼らは気がついていなかった。ウータは学生で無職ではあったが、とんでもない秘密を抱えていることに。 花散ウータ。彼は人間ではなく邪神だったのである。 

【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん
ファンタジー
 人族によって滅亡を辿る運命だった魔族を神々からの指名として救った魔王ジークルード・フィーデン。 しかし神々に与えられた恩恵が強力過ぎて神に近しい存在にまでなってしまった。  膨大に膨れ上がる魔力は自分が救った魔族まで傷付けてしまう恐れがあった。 なので魔王は魔力が漏れない様に自身が張った結界の中で一人過ごす事になったのだが、暇潰しに色々やっても尽きる気配の無い寿命を前にすると焼け石に水であった。  暇に耐えられなくなった魔王はその魔王生を終わらせるべく自分を殺そうと召喚魔法によって神を下界に召喚する。 神に自分を殺してくれと魔王は頼んだが条件を出された。  それは神域に至った魔王に神になるか人族として転生するかを選べと言うものだった。 神域に至る程の魂を完全に浄化するのは難しいので、そのまま神になるか人族として大きく力を減らした状態で転生するかしか選択肢が無いらしい。  魔王はもう退屈はうんざりだと言う事で神になって下界の管理をするだけになるのは嫌なので人族を選択した。 そして転生した魔王が今度は人族として2度目の人生を送っていく。  魔王時代に知り合った者達や転生してから出会った者達と共に、元魔王様がセカンドライフを送っていくストーリーです! 元魔王が人族として自由気ままに過ごしていく感じで書いていければと思ってます!  カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております!

森に捨てられた俺、転生特典【重力】で世界最強~森を出て自由に世界を旅しよう! 貴族とか王族とか絡んでくるけど暴力、脅しで解決です!~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 事故で死んで異世界に転生した。 十年後に親によって俺、テオは奴隷商に売られた。  三年後、奴隷商で売れ残った俺は廃棄処分と称されて魔物がひしめく『魔の森』に捨てられてしまう。  強力な魔物が日夜縄張り争いをする中、俺も生き抜くために神様から貰った転生特典の【重力】を使って魔物を倒してレベルを上げる日々。  そして五年後、ラスボスらしき美女、エイシアスを仲間にして、レベルがカンスト俺たちは森を出ることに。  色々と不幸に遇った主人公が、自由気ままに世界を旅して貴族とか王族とか絡んでくるが暴力と脅しで解決してしまう! 「自由ってのは、力で手に入れるものだろ? だから俺は遠慮しない」  運命に裏切られた少年が、暴力と脅迫で世界をねじ伏せる! 不遇から始まる、最強無双の異世界冒険譚! ◇9/25 HOTランキング(男性向け)1位 ◇9/26 ファンタジー4位 ◇月間ファンタジー30位

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...