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猫歴50年~72年
猫歴60年その1にゃ~
しおりを挟む我が輩は猫である。名前はシラタマだ。猫の国の王様なんだから首相に頭が上がらないワケがない。
東の国にスマホとパソコン、タブレット工場を輸出することを首相に電話した時は、渋っていたのは事実。しかしわしの発案なんだから「今回だけですよ」と言ってくれたのだ。
わしがペコペコ頭を下げていたのは、電話を切ったあと。ちょっとでも情けない姿を見せて、また功績をねだるであろうアンジェリーヌに踏み留まってもらうため。さっちゃんの子供なんだから、確実に言って来ると思う……
あとは首相と最終的な詰め。本当は肝となるCPU工場は輸出しないほうがいいのだろうが、スマホ等は13年間進化していないから、大盤振る舞い。東の国と猫の国で新機種を競ったほうが、世界の発展に役立つはずだ。
とはいえ、うちは通信網を全て握っているんだから、ここが旨い。スマホやパソコンが増えれば増えるほど、猫の国にお金が入って来ると首相に耳打ちしてあげたら、めっちゃ笑顔になった。そこは悪い顔で笑ってほしかったな~。
このこともあって、東の国との窓口は首相みずから。交渉や各種調整をやってくれるから、わしは安心してお昼寝生活に戻るのであった。
猫歴59年は、東の国に新しい産業が生まれると発表したら景気がよくなったらしいが、わしはたまに報告を聞く程度。研修やら工事があるから、工場の稼働は来年になるそうだ。
その猫歴60年に入ると、続々と工場が稼働して、キャットホーンやキャットタブレット、ウィンニャーズが生産されているらしい……品名変えてもいいって言ったのに!?
わしの恥が量産されるなか、猫の国も2月にイベントがあるのでわしも忙しい身。
「お昼寝してるじゃん……」
「マスターは怠け猫なんだよ~」
ベティとノルンがいちいちうるさいけど、そう、猫の国慰霊祭があるのだ。
この慰霊祭は、さすがに内戦から60年も経っているから簡素化しているが、毎年やっている。ただ、10年の節目ではニュースで大きく宣伝して、その時は少し豪華に。
50年目は、それはもう故人を想う人が多く集まり、盛大な式典となった。
ちなみに、翌月にある建国記念日は毎年大盛り上がりだけど、王族はわしと王妃以外は出席していない。みんな祭りを楽しみたいとか言うんじゃもん。コリスは王妃だけど、ずっとそわそわするから王族の護衛として逃がしてる。
慰霊祭の場所は、猫耳市とソウ市の2ヶ所。前にも言ったが、このふたつの町では意味合いが違う。この日は本来ならば終戦記念日なのだが、猫耳族からすると独立記念日。元帝国人からすると敗戦記念日。
どちらも恨みは薄れているが、一緒にやると揉め事が起こるのは目に見えているので離しているのだ。
今年は10年の節目なので、どちらも少し豪華に飾り付けをして、当日はわしたち猫ファミリーもおめかししていたら、キャットタワーの下層階にある猫市役所に緊急連絡が入った。
その連絡は、子供や孫たちに「カッコイイ」とムリヤリ言わせようとしいるわしのスマホにも届けられたので、そんなことをやっている場合ではない。
わしが深刻な顔をしてその場で指示を出していたから内容が聞かれてしまったので、皆も心配しているからだ。
「シラタマさん抜きで式典は大丈夫でしょうか?」
「う~ん……」
リータの問いに、わしは少し考えて答えを出す。
「インホワ、わしのフリして出席してくれにゃい?」
「オレにゃ? 堅苦しいのは嫌にゃ~」
「そこをにゃんとか! あ、サクラかニナでもいけるかにゃ??」
「私はパパと似てないにゃ~~~!!」
「あーしのどこが似てるにゃ~~~!!」
サクラとニナ、激ギレである。女の子だもんね。お父さんとそっくりは嫌だよね。でもね。わしとそっくりなの。だから皆も、笑いそうになってるんだよ。
その目にサクラとニナはまたキレて、インホワにやれと噛み付いて押し付けたので、わしの影武者問題は解決。あとは猫耳市とソウ市に送るメンバーを決定。
猫耳市には、式典に出席するリータ、メイバイ、わしの正装を着たインホワ。白猫サクラとニナ、猫耳キアラとアリスも見た目からこっちだ。
ソウ市には、イサベレをリーダー。コリスをサブリーダーにして、残りの猫クランメンバーを派遣。念の為、警備をしてもらう。
最後にフユに通信関係を任せたら、わしたちは円陣を組んでから、各々の向かう場所に走り出すのであった。
車使うよりこっちのほうが速いんだよね~……
* * * * * * * * *
時は遡り、猫耳市の早朝……猫耳族は式典の準備で忙しそうにしていた。
その顔は笑顔が多い。確かに猫耳族は元帝国人に奴隷にされて酷い扱いを受けていたが、60年も経ったいまでは直接被害を受けた者は他界しているので、お祭り気分になっているからだ。
この日は10年の節目と言うこともあり、他の町に住む猫耳族も例年より多く集まって来ている。早い者は数日前から宿に泊まり、観光やお祭りを楽しむ。
遅い者は、今日はいつもより多くのキャットトレインや臨時バスが出ているので、それらに乗り込んで式典が始まる前にやって来る。
時間通り、猫市からのキャットトレインが到着すると、人々は笑顔で降車して会場に向かっていた。
その乗客が全て降りた頃を見計らって、駅のホームに銃声が響いた。
「我ら、真・猫耳族! 温い貴様らの代わりに、帝国人に鉄槌を下す者! 死にたくなければ、さっさとホームから出て行け~~~!!」
テロリストだ。キャットトレインをジャックしに来たのだ。しかし、人々は訝しげに見るだけで動こうとしない。
「テメェ! これは銃といって、当たり所が悪ければ死ぬぞ~~~!!」
猫の国では、銃は持ち込み禁止。だからいまいち危険性がわからなかったみたい。しかし、テロリストがサブマシンガンを乱射してガラスや壁を壊せば別だ。
「「「「「キャーーー!!」」」」」
一般人が多いのだからパニックに。少なからずいた武器を持った警備員も、散り散りに逃げる人々が邪魔になって猫耳テロリストに向かっていけない。
その騒ぎの中を猫耳テロリスト集団は銃を撃ち鳴らしながらキャットトレインに乗り込み、中年の猫耳男性のリーダーは操縦席に押し入った。
「死にたくなければ、いますぐ降りろ! わかったか!!」
「は、はいっ!」
そしてリーダーは運転手の服を掴み、強引にドアのほうに向かわせた。
「待て! そこで止まれ!!」
「ひっ!?」
運転手が外に出たところで、足元に発砲。運転手はヘロヘロと尻餅を突いた。そこをリーダーは、銃を突き付けながら体を半分だけドアから出した。
「おい! 衛兵! 軍隊か!? それ以上近付いたらこいつを殺すぞ!!」
非難誘導を終えた警備員が迫っていたからだ。最後尾ではすでに銃撃が行われていたから、仲間を止めに出たのかもしれない。
「俺たちの要求はこれだけだ! キャットトレインを貰ったら、それだけでもうここから出て行く! 無駄な血を流すな!!」
どちらに言い聞かせているのかわからないリーダーのセリフ。ただ、警備員もキャットトレインは国の持ち物なのだから、おいそれと渡すワケにはいかない。
警備員は話し合い、盾を構えて前に出た。しかしその時、一本の電話が入り、ジリジリと後退することに。
「よし! 追って来るなよ! 行けっ!!」
「うわ~~~!!」
おそらくリーダーは仲間にキャットトレインを発車させろと言ったのだろうが、銃と人質に慣れていない運転手は悲鳴をあげながら逃走。
リーダーも背中に照準を合わせていたが、キャットトレインが動き出したら追っ手がいないかを窓から体を乗り出して確認し、速度が乗って来たら完全に中に入るのであった。
「リュウホ。やったな!」
「おう!」
キャットトレイン操縦席では、リュウホと呼ばれたリーダーが、運転している中年の猫耳男性クガイとハイタッチした。
そしてリュウホは後方車両に向かい、仲間に声を掛ける。
「第一段階は成功だ!」
「「「「「うおおぉぉ!」」」」」
「ソウに着いたら帝国人を皆殺しにする! 頼みにしてるぞ!!」
「「「「「うおおぉぉ~~~!!」」」」」
キャットトレインの中は、大盛り上がり。猫耳テロリスト集団は銃を片手に、大声でリュウホに応えた。
それからしばらく休むように告げたリュウホは、操縦席に戻って前を見ながら決意を固めた。
走行時間はおよそ1時間。そろそろ猫市が見えて来る頃、リュウホは仲間に戦闘準備を告げた。そのことにクガイは不思議に思って質問する。
「ソウはまだまだだろ?」
「念の為だ。あのわからず屋にも連絡が入ってるだろうから、いちおうな」
「あぁ~……国王か。ま、この速度じゃ、もう止めようがねぇよ」
「だろうが、注意しておいて損はない。道を塞がれてないかも注意しておけ」
「心配性だな~。あんな何もしないヤツに何ができんだよ……ん?」
シラタマについて話をしていたら、クガイは何かに気付いて前をよく見る。
「なあ? 誰か立ってねぇか??」
「……ああ。いるな。ちょっと待て」
リュウホは双眼鏡で前を見たら、焦った声を出す。
「国王だ! 国王が立ってるぞ!!」
「はあ? ……マジだ。死ぬ気か……」
シラタマがたったひとりで道を塞いでいたからだ。
「ど、どうする? 国王なんて殺したら、俺たち……」
「やれ。帝国人を生かしているアイツも同罪だ。轢き殺せ」
「フッ……どうせ大罪人か。いや、国王の首を取ったんだから、俺たちが王様か??」
「そうだ。俺たちの国を俺たちの住みやすいように変えてやるぞ」
「リーダーの仰せのままに……」
「行け~~~!!」
「うおおぉぉ~~~!!」
一瞬シラタマに怯んだクガイであったが、リュウホに諭されてやる気満々。キャットトレインのスピードを上げた。
「「殺った!!」」
シラタマの顔が目視で確認できた次の瞬間、ドンっという音と衝撃があったので、轢き殺したと2人の声が重なった。
「なんだ……スピードが落ちたぞ?」
「国王が車輪に挟まったのかもしれない」
「それなら走っていたら外れるんじゃないか? もっと速度を上げろ」
「ああ。いや、最大だ……どうなってるんだ??」
しかし、キャットトレインは速度が落ちたので不思議そうにするリュウホたち。何をしても速度は上がらず、徐々にスピードは落ちてついには止まってしまった。
その原因を調べようと2人が外に出ようとしたその時……
『え~。御乗車のみにゃさん。この列車は、これより地獄に向かいますにゃ~。しっかり掴まって、衝撃に備えることをお勧めしますにゃ~』
キャットトレインの最後尾まで届く大きな声のアナウンスが聞こえた。
『では、出発進行にゃ~~~!!』
「「「「「うわああぁぁ~~~!!」」」」」
キャットトレインはあり得ない高速バック。初速から100キロを超えてさらに上がる。中にいるテロリストたちは、立ち上がることもできずに備え付けのイスにしがみつくしかできなくなるのであった……
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