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猫歴50年~
猫歴50年その1にゃ~
しおりを挟む我が輩は猫である。名前はシラタマだ。さっちゃんはいつになったら帰るんじゃろ?
「もう1年はいるわよ?」
「心を読むにゃ~~~」
だそうです。
東の国では女王を退位すると、現女王に口出ししないように数年は世界旅行をすることが通例らしいけど、ペトロニーヌは1年ぐらいで帰ったはず。
そのことをさっちゃんに問い質してみたら、キャットトレインのせいで交通が便利になり、思ったより早く世界旅行が終わったから早く戻ったとのこと。それは聞いていたけど、そのせいでさっちゃんはめちゃくちゃ小言を言われたんだってさ。
だから戻らないようにしてるらしいけど、さっちゃんが娘に小言を言う姿が思い浮かばない。
「わ、私だって言う時は言うわよ~」
「最後の小言はにゃんだったにゃ?」
「えっと……ウサギ族を雇いすぎだから、私にも回してだったかな?」
「それは普通、無駄遣いするにゃと言うべきじゃにゃい?」
「あ、それそれ~。言った言った」
「言ってないにゃろ……」
ウソをつかれてるのはわかるし、その小言はどうでもいいこと。もうちょっと詳しく聞いてみたらペトロニーヌがよく小言を言うから、さっちゃんが口出しする隙がなかったらしい。
「その目はやめてよ~~~」
「帰ったらやめるにゃ」
「シラタマちゃ~~~ん!!」
さっちゃんが親として、女王としての責務をペトロニーヌに任せていたので、わしは冷めた目でスタスタ去って行くのであった。
猫歴49年はおめでたいことや悲しいことがあったが、わしたちの生活は変わらない。家族でワイワイしたり皆で世界旅行に行ったり、仕事したり。
「仕事なんてしてたっけ?」
「だから、さっちゃんは心の声にツッコまないでくれにゃい?」
「だって~。キャットタワーの工事しただけで、お昼寝ばっかりしてたじゃな~い」
「週一で狩りに行ってたにゃ~。さっちゃんもついて来たにゃろ~」
「シラタマちゃんは戦ってなかったような……荷物持ちが仕事??」
「みんにゃに横取りされたんにゃ~~~」
さっちゃんがいちいち口を挟むのでうっとうしいが、荷物持ちも立派な仕事。でも、わしもたまには出番がほしいな~?
ちなみにわしの出番がゼロになったのは理由がある。ハイエルフ族のアリーチェとマティルデのせいだ。
アリーチェは王族になったし、マティルデはキアラといちおう付き合っているから「仕事をするか?」と聞いたら……いや、ずっとテレビの前で食っちゃ寝しているから強制的に狩りに連れ出してやった。わしより酷かったもん。
その2人は魔法がとんでもなく得意なので、わしの魔法を教えてあげたら即戦力。猫パーティに不足気味だった後衛職の穴を埋めてくれたので、アダルトチームもヤングチームもバランスがよくなったから、わしとコリスは追い出されたの。
だから、どうしてもついて来るってうるさいさっちゃんの護衛を2人でしていたのだ。たまに回って来る獣もコリスに取られていたから、わしは2年近く何も殺してない。さすがにこれはマズイか?
なんだかんだイロイロあった猫歴49年は過ぎて、猫歴50年に入ってしばらく経った頃、今日はさっちゃんの目を盗んで転移。
「たのもうにゃ~~~!」
後藤家の剣術道場に、道場破りしに来た。
「また来た……王様は暇なんですか?」
でも、12歳の少女に出鼻を挫かれた。この子が前世の孫娘に似てるから、けっこう来てるもん。
「超忙しいにゃよ? おじいさんはいるかにゃ??」
「はあ……」
少女は「話を逸らしやがった」って顔で奥に消えると、しばらくして鉄之丈がやって来た。
この鉄之丈、京の御所で剣術指南役をやっていたのだが、10年ほど前に「強くなりたい」という理由で退職して実家に戻った。指南役をやりながらでは宮本武史から出された宿題がぜんぜん捗らなかったらしい。
年齢は還暦ということもあり、シワが増えて頭は陽気な家族のおじいさんみたいになっている。それを笑ってやりたいところだったが、前世のわしそっくりなので、悲しみが勝るから笑えない。
じい様はフサフサだったのに、なんでこんなハゲ方になったんじゃ……
「シラタマ王、文を出そうと思っていたところだったのでちょうどよかったです」
鉄之丈はにこやかに近付いて来たので、わしもハゲには触れない。
「おっ。使えるようになったにゃ?」
「実践では試していませんが、なんとか。見てください」
とりあえず2人で庭に出たら、少女は何を始めるのかと縁側に座ってワクワクしてる。そんな中わしは土魔法で頑丈なキューブ状の塊を作って、鉄之丈にあとは任せる。
「いきますよ? フンッ!」
鉄之丈は竹刀を縦に真っ直ぐ振っただけで、土の塊に綺麗な切り込みが入った。
「うんにゃ。まずまずにゃ~」
「まずまず? まさかシラタマ王はもっと??」
「それ、にゃん年前に教えたと思ってるんにゃ。わしだって上達してるに決まってるにゃろ。貸してみろにゃ」
わしは鉄之丈から竹刀を受け取ると、下から斜めに一閃。それだけで土の塊の上部はズサッと滑り落ちた。少女はやんややんやと拍手してくれてる。
「凄い……俺なんて、剣先に乗せるのがやっとなのに……」
「にゃはは。これは魔法にゃから、魔力の少ない鉄之丈にはちと辛いかにゃ? ま、こんにゃ難しい魔法を剣先でも乗せられるのはたいしたもんにゃ。鉄之丈……よくやったにゃ」
「はっ!」
わしたちがどんな魔法を使っていたかというと、空間断絶魔法。防御無視の魔法だ。
これは宮本武史が編み出した魔法で、本来ならば本人から学ぶか開発しないと使えないのだが、宮本はヒントしか言わずに他界したのでわしが開発するしかなかった。
ただし、一からやるのは面倒くさい。わしの頭の中にある、全世界の全ての魔法が載っている魔法書さんで探しだけど、量が多すぎるのでこれもしんどい。
わしには腐るほど時間があるからいつか見付かると探していたら、「そういえば宮本先生、名前を付けずに死んだな」と思い付き、宮本武蔵にあやかって勝手に【五輪斬】と名付けしたらヒットしたのだ。
最初はわしも苦労して使えるようになったら、鉄之丈レベル。そこから魔力を多く使って攻撃範囲を広くする訓練をしたので、いまでは20メートルまで使いこなせる。
ここで重要なのが、敵の大きさに合わせられるか。ちょうどぐらいにしておかないと、全てを巻き込んで斬ってしまうから、甚大な被害になってしまう。だから、パーティ戦では怖くて使えないの。
「はぁ~……相変わらずシラタマ王は、いとも簡単にやってしまう……」
「わしは魔法が得意だからにゃ。そういえば、鉄之丈の宿題はどうなったにゃ?」
わしとのレベル差に落ち込んでいた鉄之丈であったが、質問には口の端が上がった。
「それはもう、完璧です。前回のような不甲斐ない結果にはなりません!」
わしの言った宿題とは、宮本武史が最後に使った【無意の剣】の習得。優しい剣の使い手の鉄之丈なら習得できると言っていたから任せていたのだが、完成したと聞いて訪ねたら、ウンともスンとも言わず。
騙されたと帰って、数年ごとにできたと聞いて出向いたけど、4回も無駄足させられた。どうやらかなり集中力がいるし、わしを目の前にすると緊張していたらしい。
ちなみにわしの空間断絶魔法は半年で完成させたけど、鉄之丈の【無意の剣】は時間が掛かっていたから、邪魔しないように3年前まで黙っていたよ。
苦節20年、ついに鉄之丈は完成した【無意の剣】を、わしに振るった。
「おお~。宮本先生の剣と違和感そっくりにゃ~」
その結果、竹刀はわしの頭にスパーンッと接触したので拍手だ。
「でしょ? 避けられもしませんでしたでしょ??」
「うんにゃ。でも、いまのに【五輪斬】が乗っていたら、どうなるかはわからないにゃ」
「あぁ~……宮本先生の時は薄皮一枚で避けていましたもんね。ただ、合わせて使うのは怖いです」
「誰に物を言ってるにゃ。わしは最強の猫にゃよ? 左腕ぐらいにゃら貸してやるにゃ~」
「けっこう怖いのですね……」
当たり前だ。絶対避けられない攻撃に絶対斬れる攻撃を足したら絶対にアカンやつ。体全部で試す勇気はわしにはない。宮本先生にやられた時は、寝る前に思い出して震えたもん。
「行きますよ?」
「こいにゃ~~~!!」
「チェスト~~~!」
「にゃ?」
「あれ?」
とりあえず絶対にアカンやつをやらせてみたけど、不発。空間断絶魔法だけ発動して【無意の剣】は発動しなかったので、左手はひょいっと引いた。
その後もやらせてみたけど、鉄之丈はどっちか片方しか発動できなかった。
「宮本先生のようにやるには、もう少し修行が必要だにゃ」
「はい……精進します」
「んじゃ、そろそろわしにも【無意の剣】の使い方を教えてくれにゃ」
「えっとですね。斬るとか斬らないとか考えずにですね。剣を振ることだけに集中してですね」
「にゃ~??」
どうも鉄之丈もどう使っているかはよくわからないらしい。言葉での教え方も要領を得ないので、とりあえずわしは何度も頭を竹刀で叩いてもらった。
少女が叩こうとした時は避けたけよ。真面目なことをやってるんだから入って来ないでね?
「う~ん……にゃんか鉄之丈の剣には、斬られていいと言うか、引き寄せられている感じがするんだよにゃ~」
「引き寄せられている、ですか。てことは、宮本先生とは違う型と言うことですか」
「いや、斬られてもいいとも感じるから、同じと言っていいにゃ。何度も喰らったから、そう感じるようになったんにゃ」
2人でああだこうだ話し合っていたら、わしに閃きがやって来た。
「これ、ひょっとしたら、精神攻撃かもしれないにゃ」
「どういうことですか?」
「ほれ? 宮本先生の修羅の剣は、斬られたことを錯覚させられるにゃろ?」
「あ……はい……」
「それと同じにゃ。鉄之丈の優しい剣は相手に斬られたいと思わせているんにゃ」
喋れば喋るほど、わしの頭はキレッキレ。侍の剣の謎が解けた。
「侍とは、先の先、後の先の取り合いを常にするにゃろ? アレは相手の頭の中を覗き込む行為にゃ。そしてさらに極めると、相手を操れるようになるんにゃ。ま、斬るに特化した操り方だけどにゃ」
「なるほど……」
少女はチンプンカンプンって顔をしているが、鉄之丈は腑に落ちたのか拳を強く握り締めた。
「ということは、俺もついに宮本先生の域に達したということですね……」
「だにゃ。優しい剣で、同じ境地に達したにゃ。おめでとうにゃ~」
「うおおぉぉ~~~!!」
鉄之丈、天下無双に追い付いたと雄叫び。わしも祝福して拍手していたら、さらに閃いた。
「さっき、鉄之丈は変にゃこと言ってたよにゃ? 斬るでもなく斬るようにゃこと……」
「あ、はい。優しい剣の極意です」
「要は、中道ってことにゃろ?」
「あぁ~……ですね。陰陽道ではそうなります」
「その陰陽道で例えると、修羅の剣は陰、優しい剣は陽にゃ。これって、もしも合わせることができたら……」
「そ、そんなこと……」
「「プッ……」」
「にゃははははは」
「わはははははは」
わしの言いたいことを鉄之丈が理解すると、同時に吹き出して大笑い。
「わははは。まだ先があったとは!」
「にゃははは。子孫に託せって期間が長すぎると思っていたんにゃ。このことだったんだにゃ~。にゃははははは」
「まったく、剣とは斯くも面白い。わはははははは」
「それ、宮本先生も言ってたにゃ~。にゃははははは」
剣の道は、まだ終わりが見えない。この日は宮本武史を懐かしみ、わしと鉄之丈は多いに笑い、多いに飲み明かしたのであった……
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