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猫歴15年~49年
猫歴29年その5にゃ~
しおりを挟む我が輩は猫である。名前はシラタマだ。ペットの通訳ではない。
「えっと……その猫は、撫でるにゃ。にゃんであのカリカリから変えたにゃ? あと、君がくさいとか言ってるんにゃけど……」
「ココ! ココはそんなこと言わないよね~?」
「だからそこを撫でるにゃと言ってるにゃ~」
「ウソよ~~~」
でも、仕方なく通訳してあげたら、飼い主の欲しい答えは一切返って来ない。そりゃそうじゃろ。わしだってさっちゃんから出された猫飯に文句言ったもん。無駄に撫で回されて迷惑してるんだからな!
とりあえず5人だけ通訳したら、しつこく残っていた他の飼い主もペットの本音を聞くのは怖くなったのか、無言で神宮球場から出て行ったのであった。
ちなみに、某・国営放送の人も来ているけど、今回は排除していない。白猫党に事業を縮小されまくっていたからかわいそうに思って。衛星事業も各地にあった放送局も売却されて、残っているのは第一放送と教育テレビのみだもん。
第一放送の内容は、ニュースとこれまでやった番組の再放送ばかり。教育テレビも再放送ばかり。大河は5年に一度、民間から映画やドラマスタッフを借りて製作するようになったんだとか。
そのかわり、国民一人当たりの負担は100円程度。国が徴収した中から出すので、無駄な人件費が掛からない。プラス、社員には公務員並みの給料しか払わないし、天下りして来る者は排除しているので、これで充分やっていけるらしい。
その結果、何故か視聴者が増えたんだとか。昔のドラマのほうが面白いからか、もしくはテレビに掛かる負担が減ったから、若者のテレビ離れを止められたのではないかとの見解だ。
質疑応答が始まると、今回も来そうな質問は先に資料を配付しておいたので、その確認と詳しく聞いて来るだけ。それでも楽しく聞いてくれている。
一番多い質問は、奇妙な生き物のこと。いや、わしの子供やキツネやタヌキ。それと、掛け軸に描かれていた徳川家康そっくりな、タヌキ尻尾が六本生えている人物のこと。
子供は思ったより早く受け入れられたけど、家康は「どうして連れて来なかった!?」の嵐。だって本人が観光したいと言ったのだから、知ったこっちゃない。
二番目は、持ち帰った技術のこと。たった14年で多数の製品を作り、テレビ放送どころか人工衛星まで飛ばしているのだから、褒めてくれる声が多い。でも、家康の質疑応答はもう終わったじゃろ?
三番目は、ここ第三世界の話。中国とロシアが分裂して大変だったとの愚痴から始まり、日本が世界と渡り合える力を取り戻したと感謝の言葉が多数。
戦争や強奪された土地は全て無償で帰って来たらしいので、わしも感慨深い。そこに住む外国人は最初は戸惑っていたらしいけど、祖国からの援助が途絶えていたので、いまでは日本人になれてラッキーとか言ってるそうだ。
まだ家康の話するの? もうけっこう喋ったって~。
ちなみに猫の国や東の国、日ノ本なんかの質問は少ない。東の国の女王が代替わりしたぐらいだから、第三世界ほどの激しい変化はなかったからな。
だからあの家康は、鳴くまで待つ家康じゃないと言っておろう。殺して次のホトトギスを連れて来るタヌキなんじゃ。
ちゃんとした質問の間にちょいちょい家康に関する質問が来るので時間が掛かってしまったが、ようやく最後の質問だ。
「「「「「猫??」」」」」
「いったいお前たちは、いつになったらわしに慣れるんにゃ~~~!!」
てな感じで、会見はわしがキレて終了になるのであったとさ。
平行世界5日目は、靖国神社に全員でお参りしたら、今回は戦争関連のお勉強は早めに切り上げてランチ。そこからは各々自由行動だ。
リータとメイバイは皆を観光に連れ出し、ベディとエミリは先祖代々のお墓参りに向かった。
わしもお墓参りに行こうと思っていたのに、家康が連れて行って欲しい場所があると言うのでガイドさん。その場所は玉藻も興味あるらしくついて来た。
第四世界最強の化け物3人がダッシュでやって来た場所は、徳川ミュージアム。都心からけっこう離れていたから走って来たというわけだ。時間がもったいないんじゃもん。たぶん、人間には速すぎて見えていなかったと思う。
そこで、いつの間に家康が皇室に話を通していたのか知らないけど、館長で徳川家当主のおじいさんが出迎えてくれた。
「はは~」
でも、その姿は、紋付き袴で土下座。江戸時代が終わって長いのに、当主は気持ちが江戸時代にタイムスリップしている。家康はラッパーみたいな格好なのに……
「そう畏まる必要はない。儂の縁者は皆タヌキの姿なんじゃから、お主とは血の繋がりはなかろう。早う案内せい」
「ははっ!」
家康が優しく言っても、当主は畏まった態度は崩せず。徳川の血縁者からしたら、初代は神格化されているのだから神そのものなのだろう。いつもはタヌキそのものなんじゃけどな~。
そうして先を行く家康のあとにわしたちも続き、姿絵の掛け軸なんかを玉藻と「タヌキじゃないから顔がわかりやすいね」と喋ったり、当主のお話を聞いたりして進んでいたら、わしは気になる絵の前で足を止めた。
「その絵がどうしたのじゃ?」
そこをたまたま気付いた家康は、わしの隣にやって来た。
「聞き忘れてたんにゃけど、これって三方ヶ原の姿絵にゃろ? どうしてこのご老公だけ細いのかと思ってにゃ~」
「ああ。それか。それは腹を下しておったからじゃ。悪い物を食ったらしく何日も続いてのう。ここまで痩せたことがなかったから記念に書かせたのじゃ」
「へ~。ご老公も似たような絵を書かせていたんにゃ~。それにゃら、この時ウンコ漏らして敗走した史実は噓だったんだにゃ~」
「いや、噓ではない。腹を下していたと言ったじゃろうが。鎧を脱ごうとした時に武田が攻めて来たから、漏らしながら逃げることになったんじゃ。あの頃は若かったのう」
家康は感慨深く思い出話をしていたが、それを聞いていた、わし、玉藻、当主は目だけで「ウンコは隠そうよ~」と言い合うのであった。
徳川ミュージアムでは面白い話を聞き、当主も知らない歴史や間違っている歴史を正してもらったら、時間も時間なのでノベリティグッズを大量購入してダッシュで帰宅。
わしはまだやりたいことがあったので、東京に入ったところでタクシーを拾い、玉藻と家康は先に帰ってもらう。2人ともスマホを渡しておいたから、ケンカなんてしないと信じている。
タクシーが見えなくなったら、わしは一瞬で近くのビルの屋上に移動。そこから転移魔法を使って、以前マーキングしていた場所へ転移。
わしの作った会社を軽く見て、行き付けの和菓子屋で大福を大量購入。しかし店主のたっつあんは亡くなっていたらしく、味が少し変わっていたから、もう来ることはないかもしれない。
少し残念に思いながら、先祖代々のお墓参り。心なしか、ご先祖様に「また来たのか」と言われた気がしたので「あと10回は来る」と返したわしであった……
その日の夜は、外遊していた天皇陛下とようやく再会。もちろん天皇陛下は家康に興味津々。お酒を飲みながら楽しそうに話をしていた。
わしもその席にまざってお話したかったのだが、天皇陛下は話に入る隙を作ってくれなかったので、その他の皇族方の相手。めっちゃモフられました。
そのせいで、わしは爆睡。天皇陛下も帰ってしまった。
平行世界6日目は、皆にやりたいことを聞いてみたら、引きこもりたいとのこと。コリスとリリスはなんか食べたいだって。
まぁ、慣れない土地で歩き回っているのだから疲れが出たのだろう。ネットゲームに嵌まっているように見えるけど、課金しちゃダメだからね?
それを注意しながら、わしはコリスにスマホを使っての出前の取り方を教える。
「これを……千個っと」
「多すぎるにゃ~」
「ええ~。足りないよね?」
「うん。パパかってにゃ~」
「ほら? もっといっぱいの種類を頼んだほうが、味が違って口が楽しくないかにゃ~??」
「「じゃあ、そんにゃかんじで」」
でも、コリスとリリスにやらすとこの近辺の食べ物が無くなりそうなので、やっぱなしで。わしが適当にポチッとして、2人にはアニメを見せる。届くまでの繋ぎに、高級串焼き配布。少しでも食べる量を減らすためだ。
しばらくして料理が続々と届くと、女王と双子王女がわしたちの元へやって来て、テーブル席に着いた。
「にゃんか食べたい物あるにゃ?」
「いえ……この数々の食べ物がどこから来てどこへ消えるのかと思ってね……」
「消える場所はわかってるにゃろ~」
「「「まぁ……」」」
そりゃ、これだけの量がコリスとリリスのほお袋に消えるのだから、青ざめるのはわかる。リリスは猫の血が入っているのに、ほお袋はお母さん似なので食費が掛かって大変だ。
「どこからってのは、言ってわかるかにゃ~?」
「頑張って聞くわ」
女王は歳のせいか新しい技術について来れなくなっていると思ったけど、双子王女も似たようなモノだから口に出さない。スマホを見せて、お取り寄せの説明をしてあげた。
「はぁ~……つまり、この機械に地図が入っていて、数多ある料理店と簡単に連絡が取れると。そしてお金もこの機械に入っているのね」
「ちょっとおしいけど、だいたいその認識で合ってるにゃ。わしたちの世界でも未来には、家から一歩も外に出なくとも買い物ができるようになるわけにゃ~」
「そう……さすがにそこまでは無理でしょうね……」
女王が遠い目でそんなことを言うので、双子王女は慌てて話に入る。
「お母様はまだまだお元気なのですから、余裕ですわ」
「そうですわよ。わたくしたちより元気じゃないですか」
「ウフフ。ちょっと弱音が出たわね。でも、この日本の文化に追い付くには、2人の寿命でも無理じゃない?」
「「そうなのですの!?」」
女王を励ます双子王女を微笑ましく見ていたら、わしは怒鳴り付けられた。自分は生きていると思っていたみたいだ。
「この世界が、ここまでの技術に発展したのににゃん年かかってると思ってるんにゃ。およそ200年にゃよ? うちはいま、ようやく半分に届いたかどうかにゃ」
「そんなにかかってますの……」
「でも、シラタマちゃんはパクっているのだから、もっと早くできますわよね?」
「パクるにも頭がいるんにゃ。同等の勉強をしていないから、ここの人から見たらわしたちは赤ちゃんみたいなモノにゃ。だから加速させたくとも、人材がまったく足りないんにゃ~」
「「わたくしたちが、赤ちゃん……」」
双子王女は学問の差に納得していないみたいなので、インターネットにある勉強動画を見せてあげたら納得。大学と高校は頭が爆発して、中学と小学校は頭から煙りが上がっていたから負けを認めるしかなかったのだ。
ペトロニーヌも一緒に見ていたが、お手上げ状態で考えることを放棄して、ため息の連続だった。
「はぁ~……こんなに差があったなんて」
「にゃはは。ビックリにゃろ?」
「ええ。だから猫の国は、子供の勉強に力を入れていたのね」
「うんにゃ。そういえば、東の国はどうなったにゃ?」
「サティが頑張っているけど、町止まりね。村になると、子供の労働力を頼りにしている農家が多いし、学校を作るところからだから予算が取れないみたいよ」
「ありゃりゃ。人口が多いと、やっぱり厳しいんだにゃ~……わかったにゃ。ちょっと助けてやるにゃ~」
子供が勉強できない状況はわしも見てられないので、猫基金の立ち上げ。名前は意味がわからない。反対したとだけ言っておく。
猫基金から、村の子供が町の学校通いができるようにバスの購入資金を出せるようにする。もしくは、教師の確保にも使えるようにしたから、建物ぐらいは東の国が手配してくれ。文房具は出していいよ~。
わしの案と初年度の額を聞いたペトロニーヌは、難しい顔になっている。
「それは助かるし感謝するけど、この基金ってのは、なんなの?」
「特定の目的にしか使えない資金ことにゃ。今回はわしが100%支出するけど、その後はお金持ちや平民から寄付を募るんにゃ。要は善意のお金で、学びたくても学べない子供を助ける組織を作ろうって話にゃ」
「なるほど……でも、誰も出さないんじゃない? 特に平民なんかは」
「お金持ちからはガツンと貰って、余裕のない人は銅貨1枚からでもいいんにゃ。その銅貨を出す人が百人、千人と増えて行けば、できることが大きくなるって寸法にゃ~」
わしの説明に、ペトロニーヌたちは息を飲む。あと、わしのこと「詐欺師?」とか言ったな??
「まぁやる人の心しだいで詐欺にも使えるにゃ。どうしても諸経費は出るから善意のお金から出すことになるしにゃ。でも、ちょっとしたお金でいいことできると人々がわかってくれたら、これほどいい組織はないんにゃ~」
なので詳しく反論してみたら、ペトロニーヌたちも笑顔を見せてくれた。
「そうね。何か善行をしたくとも、どうしていいかわからない人もいたかもしれない。たった銅貨1枚で気分が良くなるなら出してくれるかもね」
「ま、誰かを助けたいと思う人は、自己満足で動いているのは確かだろうにゃ。ただ、その人が増えれば増えるほど、世界には優しい人が増えるんにゃ~」
「フフフ。偽善であったとしても、そうかもしれないわね。わかったわ。これを、私の最後の仕事にするわ」
「にゃ? やりたいにゃ??」
「ええ。テレビやゲームだけでは、やっぱり張り合いないもの。何かやりたいと思っていたのよね~」
「仕事好きだにゃ~。でも、ペトさんだったら、わしも安心してお金を預けられるにゃ。子供の未来のために頼んだにゃ~」
「にゃっ!」
「バカにしてるにゃ??」
女王まで猫軍式敬礼をするので、わしも納得がいかない。
あと、双子王女も仲間に加えて敬礼するのはこの際かまわないのだが、後日進捗状況を聞きに行ったら「ペトロニーヌ子供基金」に名称が変更されていたから、ちょっと揉めたのであったとさ。
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