猫王様の千年股旅

ma-no

文字の大きさ
上 下
31 / 117
猫歴15年~49年

猫歴24年にゃ~

しおりを挟む

 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。泣いてもいい日はあると思う。

 オニヒメが出産で死にかけたがなんとか命は繋ぎ止め、子供も健康に産まれて来てくれたので、その場にいた者は大号泣。若干、別れの言葉を残していたオニヒメは照れくさそうだが、赤ちゃんが笑い出したらどうでもよくなっていた。

 オニヒメの子供は男の子。オニタと命名。もしもの時はコリスに名前を伝えていたらしいが、出番はなかった。
 髪の色は白、額から親指大の角らしき物が1本生えている。おそらく、成長するに連れて、お母さん譲りの立派な角になるはずだ。

 オニヒメはというと、出産の影響で髪の毛が真っ黒になってしまった。
 数日経っても戻る気配も根本も黒いままだったので、さっちゃんに事情を説明してイサベレに駆け付けてもらったら、イサベレの母親も出産後、徐々に髪の毛は黒くなって、しまいには真っ黒になったそうだ。
 このことから、わしたちにまた不安がのし掛かる。このままでは、オニタの10歳の誕生日にオニヒメは死んでしまうのではないかと……

 かといって、不安をあおるわけにはいかない。オニヒメもそれだけ生きられたら充分だとか悟っているので、皆は普通に接するように話し合っていた。

「もう一回でも二回でも、わしが寿命を延ばしてやるにゃ~。にゃははは」
「もう! アレ、生き残った人はすっごく恥ずかしいんだからね!! あははは」

 わしは諦めない男。いや、猫。普通に接するだけでなく、それをネタにしてオニヒメと笑い合うのであった。


 オニヒメはこのままソウの地下で1ヶ月の静養に入るので、わしたちもお泊まり。オニヒメの吸収魔法が解けたら心配なので、夜はしばらく寝ずの番だ。
 そんななか、オニヒメがセンエンの存在を思い出し、誰か連絡したのかと質問されたが、全員ハテナ顔。わしはてっきりワンヂェンかコリスがやっている物だと思っていたけど、大変だったから忘れてたんだって。

 というわけで、リータとメイバイを猫市に走らせ、センエンを呼ぶついでに王族全員を連れて来てもらった。
 出産から3日遅れで、センエンはオニタとご対面。めっちゃ泣いていたし怒っていたから、オニヒメとオニタのことを心配していたのは伝わった。だから、ワンヂェンの伝達ミスじゃと言っておろう……

 わしが意地悪したと思い込んでいるセンエンは置いておいて、皆にも無事産まれたと報告。オニヒメの体調についてはごまかして伝えたが、大人は勘繰っていたのできちんと説明しておいた。
 子供たちとは1週間近くも会っていなかったので、わしは過度なスキンシップ。小学生グループは喜んでくれたけど、社会人グループはてんで喜んでくれない。そりゃそうか。

 とりあえずしばらくわしは動けないので、猫パーティは活動休止になるから、ここで訓練するしかない。でも、狩りには行きたいみたいなので、無理しない程度なら許可する。
 まぁ猫の国周辺なら、そこまで危険な獣はいないからな。


 オニヒメの出産から1ヶ月が経ったが、オニヒメの体調は一向によくならない。魔法じたいは眠っていても切れない程度にはなったけど、筋力が全盛期と比べられないほど落ちている。
 まだ心配なのでもう1ヶ月静養日を延ばしたら、体調は戻ったらしいが筋力は一般人並み。魔法も常時ふたつも発動しているので、攻撃魔法が使えなくなってしまった。

「私の冒険はここまでだね。子育てに専念するよ」

 猫パーティ、初の脱退者はオニヒメ。少し寂しそうな顔でそう告げた。

「うんにゃ。今までお疲れ様にゃ。でも、綺麗なところを見付けたら、オニタと一緒に連れて行ってやるからにゃ~」
「パパ……ありがとう……うぅぅ……」
「にゃに泣いてるんにゃ。パーティから脱退しても、オニヒメはずっとわしたちの子供なんだからにゃ~」

 涙するオニヒメを、わしとリータとメイバイとコリスは抱きしめ、これまでの冒険の思い出を語り続けるのであった……


 オニヒメのおめでたでここ2ヶ月はパーティ活動が疎かになってしまったが、狩りに行かないことにはオニヒメが自分のせいだと言い兼ねないし、子供たちのレベリングはとっくに終わっているので行かないわけにはいかない。

「お~。ヨチヨチ。ジイジにゃよ~?」
「パパ……狩りは??」

 しかし、この世界での初孫もかわいすぎる。なので、しょっちゅうオニタの相手をしているので、オニヒメに冷たい目で見られてしまった。

「あ~! いたにゃ!!」
「オヤジ! 狩りに連れて行けにゃ~!!」
「こりゃマズイにゃ。オニタ~。またあとでにゃ~?」

 その現場をサクラとインホワに見られてしまったので、わしはダッシュで逃走。夜まで身を隠す。

 何故、わしが2人と鬼ごっこしているかと言うと、猫パーティの活動頻度ってめっちゃ少ないから。週1でやっていた狩りを週2に増やしてやったのに、2人は足りないとかうるさいのだ。
 ボランティア活動を入れたら週3回もやってるんだからと説得しても、聞き入れられず。ボランティアはハンターの仕事じゃないんだって。わしだって知ってる。

 2人は血気盛んなお年頃なので、どうしても強い獣と戦いたいらしく、わしを見付けたら「にゃ~にゃ~」お願いして来るので逃げ回っているというわけだ。


「ワンヂェンおばちゃん。パパ来なかったにゃ~?」
「シラタマにゃ? 見てないにゃ~……てか、お姉ちゃんって呼んでにゃ~」
「どこ行ったにゃ~~~!!」
「インホワ! 院内で大声出すにゃ~! 走ってもダメにゃ~!!」
「「はいにゃ~」」

 サクラとインホワは、治療院で働いていたワンヂェンにわしのことを質問して怒らせる。いちおう悪いとは思ったのか、2人は競歩で去って行ったけど、そのスピードは100メートル走レベルだ。

「にゃったく……」

 ワンヂェンは呆れ顔でイスに深く腰掛け、カルテに目を通す。

「2人が迷惑掛けて悪かったにゃ~」
「にゃっ!?」
「にゃんで驚くにゃ~」

 そこにわしが声を掛けたら、ワンヂェンは毛が逆立つぐらい驚くので少し悲しい。

「どこから入って来たにゃ~」
「普通に扉からにゃけど」
「そうっと入るにゃよ~」
「大きな音を出したらサクラたちにバレるにゃろ~」

 わしたちが迷惑を掛けてしまったので、ワンヂェンにはお茶とお菓子でお詫び。わしもしばらくここでまったりだ。

「2人が捜していたけど、こんにゃにゆっくりしていていいにゃ?」
「一度捜した場所にゃから、しばらくは大丈夫にゃろ」
「ひっどい親だにゃ~」
「めちゃくちゃいい親にゃ~」
「子供が一緒に仕事しようと誘っているのに、逃げてるのににゃ?」
「うっ!?」

 今世では子育てを頑張って来たからいい親だと思っていたけど、ワンヂェンに言葉にされたらめっちゃ突き刺さる。しかし、わしはいくつもの職業を兼任しているから、ハンターばかりやってられないのだ~!

「他も丸投げじゃにゃい??」
「ぎゃふん!」

 言い訳してみても、ワンヂェンに一言で論破されてしまうわしであったとさ。


「てか、くだまくにゃら他でやってくんにゃい? 邪魔にゃ~」

 ワンヂェンに論破されたわしがグチグチやっていたら邪険に扱われたので、何か仕返ししてやりたい。

「ところでワンヂェンって、わしと出会った頃、18、9だったよにゃ?」

 わしがワンヂェンの年齢に触れると、ワンヂェンはゆ~~~っくりと振り返った。

「にゃ、にゃに? そ、それがどうしたにゃ??」
「いまって、猫歴24年にゃろ? 足したら……」
「足すにゃ! 引くもんにゃ! ウチは永遠の二十歳はたちにゃ~~~!!」
「引いても二十歳にはならないにゃ~」

 このワンヂェン、背丈も1メートルちょっとしかない黒猫なので年齢が謎だったのだが、簡単な足し算をしてみたら立派なおばさんになっていたから、さすがにわしも引いた。

「にゃにその顔!? 笑ってくれにゃ~。大笑いしてくれにゃ~。にゃあにゃあ??」
「う、うんにゃ。にゃしゃしゃしゃ……」
「同情するにゃら聞くにゃよ~~~」

 頑張って笑おうとしたわしであったが、上手く笑えなかったので、ワンヂェンは益々落ち込んで行くのであったとさ。


「冗談はさておきにゃ……」

 冗談にもならない事態だけど、わしも聞いておかないといけないことがあるので質問してみる。

「ワンヂェンは結婚とか子供に興味ないにゃ?」
「昔はあったんにゃけど……ほら? 結婚したらヤーイーみたいに出て行かなくちゃいけないんにゃろ? この豪華にゃ暮らしを捨てたくにゃいから、ウチは1人を取ったんにゃ~」
「……本当にゃ? お春に調べてもらうにゃよ??」
「ウソにゃ! 恋愛が億劫おっくうになっただけにゃ~~~!!」

 なんかウソっぽいけど詳しく聞いてみたら、猫耳族からの求婚は多かったらしいが、そもそもワンヂェンは猫耳族に巫女に祭り上げられて迷惑していたので、伴侶にしたくないとのこと。
 人族から選ぼうとしていたらソウハという男からプレゼント攻撃にあい、目が怖かったから保留にしていたら、泥棒ウサギに取られたんだって。

「ソウハ……ワンヂェンも狙ってたんにゃ……」
「いきなりピタリと会いに来なくなったんにゃ~。男性不信になっても仕方ないにゃ~」

 ソウハとは、猫の国初期に狩りで猫市のお腹を支えてくれた、わしが一番といってもいいぐらい頼りにしていた男。
 その男がウサギ市へ移住して、わしとの結婚をたくらんでいたルルという未亡ウサギと一緒になってからは、あまり会うことはなくなった。
 だって、2人してわしのことを元カレみたいに扱うんじゃもん。居心地悪いんじゃもん。

 ちなみに2人の子供を授かっており、見た目はバニーガールとバニーボーイ。ウサギ族初の新人類の誕生となった。
 もしも見た目で迫害を受けるようなら猫市に移住を薦めたけど、いまのところそんな話は聞いていないし、ウサギ市で幸せに暮らしているらしい。

「もう、猫耳族で妥協したらどうにゃ? 家ぐらいキャットタワーに用意してやるにゃ」
「いいにゃ??」
「わしとワンヂェンは親戚みたいにゃもんだしにゃ。いや、妹……姉? そんにゃ関係にゃろ??」
「ウチは妹だと思うにゃ~」
「実年齢……」
「言うにゃ!!」

 こうしてワンヂェンの婚活は始まったのだが、結婚相談所で実年齢を書いてしまったせいか猫耳族からも希望者が少なく、ワンヂェンの選り好みも激しいので、全然決まらないのであった。

「ひょっとしてワンヂェンって……ワガママにゃ?」
「夢見たっていいにゃろ~」
「夢見る年齢はとうに終わってるにゃ~」
「にゃんてこと言うにゃ!?」

 なかなか現実を見てくれないワンヂェンであったとさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夢の中ならイジメられっ子でも無敵です

ma-no
ライト文芸
 高校一年生の吉見蒼正は、学校ではイジメ被害に遭っていた。その辛い気持ちを紛らわそうと、夢の中では異世界転生したり暴力的な不良になったり、自分の思い通りにして楽しんでいた。  しかし同じ境遇の女子高生、堀口純菜の夢の中に迷い込んでからは、不思議な事が次々と起こる。  蒼正と純菜は夢の中で一緒に過ごす事で、夢が繋がった理由に気付くのであった…… ☆ 一日一話更新です。 ライト文芸大賞エントリー中です。ご応援、宜しくお願い致します。

ポテチ ポリポリ ダイエット それでも痩せちゃった

ma-no
エッセイ・ノンフィクション
 この話は、筆者が毎夜、寝る前にボテチを食べながらもダイエットを成功させた話である。  まだ目標体重には届いていませんが、予想より早く体重が減っていっているので調子に乗って、その方法を書き記しています。  お腹ぽっこり大賞……もとい! 「第2回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしています。  是非ともあなたの一票を、お願い致します。

野良の管狐は幼女に妖狐の夢を見させられる

ma-no
キャラ文芸
 若い霊能者に飼われていた管狐(くだぎつね)は、引っ越しのドサクサに巻き込まれ、野に放たれる。管狐は野に出ると、様々な危険が付きまとうが、霊能者が迎えに来るのを夢見て、必死に生きて待っていた。  そんなある日、幼女と出会い、無理矢理飼われる事となってしまった。  しかし、幼女は勘違いしている。 「俺は管狐。妖狐ではない!!」  はてさて、管狐は無事、立派な妖狐になれるのでしょうか……。もとい、霊能者に迎えに来てもらえるのでしょうか。  ❓❕完結しました❕❓  画像はイメージで、登場キャラと関係ありません。

【R18】前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配

ma-no
ファンタジー
 冤罪で三度も鉱山奴隷に落とされた主人公。再度戦士に職業変更を申し出たら何故かレア職業に転職。ここから主人公の快進撃が始まったのだが、今度は勇者殺害の冤罪で他国へ逃亡。  老後の蓄えも心配なのだが、いまだ童貞の主人公は寂しさのあまり性奴隷を買っちゃった。ここからついに主人公の運気が上がる! ……のかな~? ☆注☆ R18のお話は番号を『 R-1 』『 R-2 』と書いて行く予定です。出来るだけ本編と切り離して書いて行く予定ですので、大人な話が邪魔な方は飛ばしてください。 『小説家になろう』にて同時掲載。こちらはR15指定ですので、大人な話無しで一気に読みたい方は『小説家になろう』にてお読みください。  更新スケジュールは現在、二日に一話。時々連日更新しております。 『次世代ファンタジーカップ』にエントリーしていますので、応援していただけると幸いです。

お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no
キャラ文芸
 お兄ちゃんの前世が猫のせいで、私の生まれた家はハチャメチャ。鳴くわ走り回るわ引っ掻くわ……  このままでは立派な人間になれないと妹の私が奮闘するんだけど、私は私で前世の知識があるから問題を起こしてしまうんだよね~。  この物語は、私が体験した日々を綴る物語だ。 ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。  1日おきに1話更新中です。

選挙で誰に投票していいかわからないって言ったらぶちギレされた若者達へ

ma-no
エッセイ・ノンフィクション
「選挙で誰に投票していいかわからないんですぅ~。てへへ」って言ったら大人にぶちギレされた経験がある人っていますよね。  そんな人のために書いたエッセイですので、これを読んで逆ギレしてやりましょう!  ちなみにこのエッセイは殴り書きのような物なので、衆議院選挙終了後、自動的に廃棄され……手作業で消しますのであしからず。

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

夜遊び大好きショタ皇子は転生者。乙女ゲームでの出番はまだまだ先なのでレベル上げに精を出します

ma-no
ファンタジー
【カクヨムだけ何故か八千人もお気に入りされている作品w】  ブラック企業で働いていた松田圭吾(32)は、プラットホームで意識を失いそのまま線路に落ちて電車に……  気付いたら乙女ゲームの第二皇子に転生していたけど、この第二皇子は乙女ゲームでは、ストーリーの中盤に出て来る新キャラだ。  ただ、ヒロインとゴールインさえすれば皇帝になれるキャラなのだから、主人公はその時に対応できるように力を蓄える。  かのように見えたが、昼は仮病で引きこもり、夜は城を出て遊んでばっかり……  いったい主人公は何がしたいんでしょうか…… ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  一日置きに更新中です。

処理中です...