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22 ドラゴンの報酬にゃ~
しおりを挟む紅蓮竜の住み処はくまなく歩いて、貯め込んでいた金銀財宝は全て没収。さすがはドラゴンの最上位種だけあって、桁違いの値が付きそうなのでわしの笑いが止まらない。
「あらやだ奥さん。あの猫、お金持ちなのに悪い顔で笑っているざますわよ」
「シラタマは守銭奴ざますだよ。夜な夜な金貨を数えている姿を何度も見たざますだよ」
「「金に汚い猫ざますぅぅ」」
べティ&ノルンも「ざます遊び」が気に入ったのか、わしの耳に聞こえるように言っている。
「にゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ」
しかし、ツッコムと相手にしないといけなくなるので、わしは笑いで乗り切るのであったとさ。
「さてと……そろそろ帰ろうかにゃ? コリス、アオイさんの目を塞いでくれにゃ~」
「わかった~」
「まっ……モフモフ~」
アオイの目を塞いだら、全員で「とおぉ~う」と言いながらジャンプ。からの転移。今日もアオイにはわしの転移魔法は見せず、編集されたテレビ番組のように要塞都市に戻るのであった。
アオイからはどうやって一瞬で戻っているのかと質問されても聞き流し、べティ&ノルンの「ざます遊び」は無視して、コリスに餌付けしながら歩けば、冒険者ギルドに到着。
さっそく今日の成果を報告しに受付の列に並んでいたら、ギルドのドアが「バーンッ!」と勢いよく開いた。
「みんな~! 勇者パーティがドラゴンを倒して凱旋して来たぞ~!!」
何事かと振り向いたら、男がそんなことを言っていたので聞き耳を立てる。どうやらこの男は、たまたま勇者パーティがドラゴンを倒す現場を見ていたらしく、自慢したいが為にわざわざ大声で言いふらしているらしい……
「自分の手柄じゃにゃいクセに……」
「まぁ……しばらくは有名になれるからじゃない? ビール奢ってもらってるし」
わしとべティは男の行動にドン引き。小銭稼ぎの為に個人情報を勝手に吹聴しているのだから、絶対に近付きたくない人物だ。
念の為、フィルム代が超お高いインスタントカメラで男の写真を撮っていたら、騒ぎ声が「わっ!」とさらに大きくなった。
勇者パーティの登場だ。
勇者パーティは冒険者から拍手で出迎えられ、一人を除いて鼻高々。サトミは王女様なのでこの程度の騒ぎは慣れっこ。女騎士リンはドラゴンを倒せて誇らしげ。フェンリルのレオと妖精のモカも女騎士派閥のようだ。
唯一あわあわしているのは、勇者ハルト。田舎者と聞いているので、こんな騒ぎは落ち着かないのだろう。
そのハルトはわし達に気付いた瞬間、冒険者の隙間を縫って、凄い形相で寄って来た。
「シラタマさん!」
「う、うんにゃ。話の前に、いまのどうやったにゃ? めっちゃ細長くなってたにゃろ??」
「何故か行く先行く先で、僕達がドラゴンを倒したのみんな知ってるんですよ~」
そんなことは言われなくても知っているので、体が縄みたいになった謎現象のほうが気になるのだが、この世界の人はいつも無視するのでわしも諦める。
「犯人はこいつにゃ。こいつが言いふらして回ってるんにゃ」
「あっ! 半分マン!! この人、陰からずっと覗いていた人です! 全部は初めて見ました!!」
とりあえず写真を提出して教えてあげたら、この男はストーカーとのこと。今日一日、ずっと木や岩や持っていた盾から顔を半分出して見ていたので、誰が呼んだか半分マンと呼んでいたらしい。
「探したらどっかに居ると思うんにゃけど、手伝おうかにゃ?」
「知られるのも時間の問題でしたし、もういいです。そういえば、シラタマさんも仕事してたんですか?」
「うんにゃ。うちも……にゃんでもないにゃ。空いてる内に、わし達は買い取りしてもらうにゃ~」
「僕も行きます!」
こんな雰囲気では、ドラゴンの最上位種、紅蓮竜を倒したなんて到底言い出せない。紅蓮竜は今度売り払うことにして、受付に向かうわしであった。
「「「「「おお~~~」」」」」
勇者パーティが隣の受付に居るので、わし達まで冒険者にガン見されて恥ずかしい。隣ではハルトがアイテムを出す度に感嘆の声が上がっているので、すっごく出しづらいのだ。
「えっと……とりあえずこれだにゃ。太陽の雫にゃ~」
わしが依頼用紙と太陽の雫という何に使うかもわからないアイテムを提出したら、冒険者が息を合わせたような一糸乱れぬ二度見をしたので、ギルド内に風が起こった。
「偽物……ではありませんね……でも、あそこは、往復十日は掛かるのに、朝に出てもう帰って来てる……」
ウサミミ受付嬢がブツブツ言うと、なんかヤジが飛んで来た。「偽物」だとか「嘘つき」だとか「目立ちたがり屋」だとか「猫」だとか……
「うっさいにゃ~。お前らは勇者パーティを見に来たんにゃろ~。こっち見るにゃ~」
主役は勇者。わしは脇役なのに、勝手に評価するこいつらがおかしい。そうしてわしが冒険者どもと「にゃ~にゃ~」口喧嘩をしていたら、ウサミミ受付嬢が復活した。
「ワイバーン! あそこに辿り着くには、ワイバーンの巣があったはずです。ワイバーンは何匹倒しました??」
「……ここで出していいにゃ?」
「てことは~……別室行きましょっか」
「最初からそうしてもらえばよかったにゃ~」
勇者パーティと同時に買い取りをしてもらっているのがトラブルの元。このウサミミ受付嬢はわしのことを知ってるのだから、事情を説明して別室に移動すればよかっただけだ。
わしはあっかんべーしながら冒険者を「にゃ~にゃ~」罵り、べティ達を連れて会議室に移動するのであった。べティ&ノルンは「大人気ないざますぅぅ」とか言ってたけど……
会議室に入ったら、例の如くショルダーバッグを引っくり返して次元倉庫を開き、ワイバーンのドロップアイテムと金銀財宝をドボドボ出してやった。
「ギブッ! 一旦止めてください!!」
会議室はお宝の海となってしまったので、ウサミミ受付嬢からギブアップが入ってしまったからストップ。受付嬢の応援を呼んで来て、整理しながら金額をメモに取っている。
「あの……私達より遥かに多いんですけど……」
「にゃんで勇者パーティ全員入って来てるにゃ~」
「だってアオイからトンでもないこと聞いたんですも~ん」
アオイが居ないと思ったら、サトミに告げ口しに行っていたとのこと。だから自分達の買い取りが終わったら、慌ててこっちに来たようだ。
「じゃあ、もうバレてるってことなんにゃ……」
「信じられませんが……」
「今日は出すのやめとくにゃ。見たくないにゃろ?」
「せっかく大変な思いをしてドラゴンを倒して来ましたけど~~~!!」
「だから出さないって言ってるにゃろ~」
ドラゴンを単独撃破しただけでも値千金らしいのだが、その最上位種のアイテムならサトミは見たいらしい。でもその前に、ずっと涙目だからちょっとかわいそうなので、サトミ達の苦労話を聞いてあげる。
どうやら勇者パーティはドラゴンを倒しに出たわけではなく、近場のレベルアップポイントに出向いて狩りをしていたそうだ。そこで順調に経験値を溜めていたら、三組のパーティが逃げて来たとのこと。
このパーティがもう三組のパーティと共にドラゴン討伐を請け負ったのだが、実力不足で返り討ちにあって逃げ出した。しかし、ドラゴンの逆鱗に触れていたので追い掛けられていたらしい。
そこに偶然勇者パーティが居たので、助けてくれと言われたから、人のいいハルトが引き受ける。
その戦闘は熾烈を極めたとサトミ談。モカの補助魔法を受けたハルトとリンでドラゴンの攻撃に耐え、レオのアタック。サトミのヒールで拮抗を保ち、ドラゴンが弱って来たら、ハルトが必殺技を出して倒したそうだ。
このドラゴンもいちおうレイドボスなので勇者パーティひと組ではかなり苦戦したし、逃げて来た三組のパーティの怪我が酷かったから治療に時間が取られたので、要塞都市に戻るのが遅れて半分マンが先に帰って来たのだろう。
「それはお疲れ様にゃ~。とりあえずワイバーンは終わったみたいにゃし、手続き急いでにゃ~」
「紅蓮竜は!?」
「シーーーッにゃ~!」
「「「「「紅蓮竜!?」」」」」
わしが後日出すと言っているのにサトミがいらんこと言うので、ウサミミ受付嬢に壁ドンされて「出せ……」と低い声で脅された。目がイッていたので、仕方なくドロップアイテムを提出。
「本物だ……」
「「「「「ドラゴンが霞む……」」」」」
「見にゃかったことにしてにゃ~」
勇者パーティの活躍を奪っているのだから、わしは土下座。エリマキトカゲ人間のギルマスも駆け込んで来て、なんかブレイクダンスをしていたので回転は止めてやった。
「忘れようにゃ? 今日のことはお金だけ払って忘れようにゃ??」
「「「「「できるわけないでしょ!!」」」」」
さすがに紅蓮竜の素材や肉が手に入ったのに捌かないのはもったいないので、勇者パーティを加えての長い会議となるのであったとさ。
会議の結果、紅蓮竜の討伐発表は三日後に決定。謎のSランクパーティと勇者パーティが合同で倒したことにするらしい。
ハルトはやっていないことを自分の手柄にするのはやりたくなさそうだったが、サトミに泣き付かれて渋々了承していた。わしが単独で倒したとなったら、勇者の沽券に関わるそうだ。
これで諸々の話し合いも終わったので、わしはサトミにお願いを持ち掛ける。
「はい? 遺産相続の受取人ですか??」
「だってこんにゃ大金使い切る自信ないんにゃも~ん。もしもの時は、恵まれない子供の為に使ってくれないかにゃ? 王女様ぐらい偉くないと、そんにゃことできないにゃろ??」
「たしかに国家予算に匹敵する額なんて、一個人にどうこうできる物でもありませんね……でも、シラタマ様が死ぬ未来が見えないのですけど」
「いきなり行方不明になる場合もあるにゃ~」
「行方不明……あっ! 元の……」
「シーーーッにゃ~」
この場でわし達が異世界人であることを知っているのは、サトミとアオイだけ。目立ちたくないわしは、サトミの口を塞いだ。
「ちょっとぐらいにゃら着服していいから頼むにゃ~」
「その言い方だと、私が使い込みするみたいじゃないですか~」
「いや、経費と言いたかったんにゃった。にゃははは」
「もう! わかりました。そのご厚意、王女サトミの名にかけて無駄にはしないと誓います」
「ありがとにゃ~」
「こちらこそです」
少し強引に遺産を押し付けることになってしまったが、わしが笑顔で差し出した手をサトミも笑顔で取ってくれた。
どのような使い方になるかは見届られないが、サトミの笑顔を信じ、わし達はその場を立ち去るのであっ……
「にゃんでついて来るにゃ?」
「同じ宿に泊まってるじゃないですか~。一緒に帰りましょうよ~」
「ここは背中を見送るほうが締まると思うんにゃけどにゃ~」
かっこよく締めたかったのに、空気の読めないサトミのせいで、わいわい喋りながら宿に帰るわし達であったとさ。
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