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第二十五章 アメリカ大陸編其の四

721 手記と魔法書の解読作業にゃ~

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「とりあえず、話はごはん食べてからにしようにゃ~」

 女王とさっちゃんが寝室にまで押し掛けていたので、わしは場所を移す。10階食堂ではリータ達も食事を始めたところだったので「あ~ん」しながらそこにまざり、楽しくランチ。
 しかし、時の賢者の手記を見ていた女王の顔が険しくなって来た。日本語が読めないのはそっちなんだから、怒らないで欲しい。空気が悪くなるんじゃ。
 それならば、時の賢者記念館に展示されていた手記の英語版の現像が終わったとお春が持って来てくれたので、女王にパス。でも、文字が小さ過ぎて読めないんだって……

「老眼にゃ~??」
「誰が老婆なの……」
「すいにゃせん!!」

 老婆なんて言っていないのに、女王がめっちゃ怖いので平謝り。ルーペがあればなんとか読めるが時間が掛かってしまうので、写真の引き延ばしを指示。
 それから猫ファミリーと東の国組はゾロゾロとエレベーターに乗り込み、キャットタワー庭園で猫耳小説家の取材を受ける。

 日記だけでなく、各種遺跡、戦ったり手懐けた生き物、マチュピチュやクスコの写真を見せると、猫耳小説家の執筆意欲が掻き立てられる。

「このアルパカっての、撫でてみたい!」
「お土産で持って帰って来たからあげるにゃ~」
「やった~~~!!」

 さっちゃんはモフモフ意欲が掻き立てられたようなので、お春にアルパカを連れて来てもらえるように指示を出す。

 さっちゃんのせいで話が逸れたが、皆の一番興味を惹いた物は、時の賢者が作った白いピラミッド。残念ながら内部は真っ白でほとんど写真に映ってなかったが、泥をぶっかけたモンスターの写真は大好評。
 複雑な迷路に罠を乗り越える冒険談も面白いらしく、猫耳小説家のペンが走る走る。その勢いは家に帰ってからも続き、いつもより文字数が増えたそうだ。

 こうして『猫王様のアメリカ縦断記』は二巻に分かれ、特にダンジョン攻略をした下巻が上巻より、倍以上売れる結果となるのであった。


 そんな事とは露知らず、猫耳小説家の取材が終わったら、次は女王の質疑応答だ。

「この手記と装備、誕生祭の目玉に出したいんだけど……譲ってもらえないかしら?」
「そこは買い取りとかじゃにゃいの??」
「もちろん払うわよ。相場がわからないから……これぐらいでどうかしら??」
「いや、それ、安すぎにゃい??」
「チッ……」

 わしが苦労して集めたのに、女王は相場がわからないとか言いながらゼロの数が明らかに少ない。舌打ちしてるところを見ると、確実にわしを騙しに掛かっていると思われる。

 神剣【猫撫での剣】の時は、あんなに高かったのに……あ、誕生祭の出し物が全て決まってるから予算が取れないのですか。そうです……だからって騙すなよ!!

 女王は冗談とか言っていたので、わしは疑いつつ本筋に戻す。

「ぶっちゃけ、表は問題ないんにゃけど、裏が問題なんだよにゃ~」
「どういうこと??」
「神様が関わっているから、読めない箇所があるんにゃ」
「そんな嘘で乗り切れると思ってるの?」
「嘘じゃないにゃ~。時の賢者はわしと同じで、転生者なんにゃ~」
「「やっぱり……」」

 時の賢者とわしが同郷と説明すると、二人は驚きもしない。逆にわしがどうしてかと驚いたけど、そう言えば昔さっちゃんに疑われた事があったと思い出したので、冷静さを取り戻した。

「どこまで喋れるかわからにゃいけど、疑わずに聞いてくれにゃ」

 わしは時々どもりながら、自分の転生の経緯と、わしが知る限りの時の賢者が転生した経緯を説明してみた。
 その説明に女王とさっちゃんは辛抱強く聞いてくれたので、おおよそは信用してくれたと思われる。

「この手記を解読すれば、時の賢者の事を詳しく知れると思うんにゃけど……裏を出してしまうと、嘘っぽく見えてしまうかもにゃ~」
「たしかにシラタマの話も半信半疑に聞こえたわね……」
「私は信じてるよ。シラタマちゃんが嘘を言う理由がないもん」
「にゃはは。さっちゃんらしいにゃ~。でも、みんにゃがみんにゃ、そうは思わないにゃろ。だって、わしが言ってるんにゃもん」
「あはは。猫だもんね~」

 白猫教信者や猫耳族ならわしの言葉は絶対だろうが、如何いかんせん、わしこそ信じられない存在だ。そんな奴が発表した研究成果は聞き流される可能性が高い。

「ま、女王達には報告はするつもりにゃけど、ある程度は情報を秘匿にしようと考えているにゃ。それでどうかにゃ?」
「そうね……神や転生なんて出してしまうと、真実がねじ曲げられて伝わってしまいそうね」
「じゃ、手記の話はそんにゃ感じにするとしてにゃ。残りはどうするかだにゃ~……」
「残り? ジョスリーヌ達から何も聞いてないんだけど……」

 女王が同席している双子王女に目を向けると、双子王女はノルン以外の全てを報告したような合図を目で送っていた。よくそれでわかるな……

「そりゃそうにゃ。昨日は喋っていない内容だからにゃ。ま、イサベレに聞いておけばすぐに知れたんだろうけど、みんにゃ冒険のことでいっぱいいっぱいだったからにゃ~」
「つまり、情報量が多すぎて後回しにしていたと……」
「と言うより、危険だからにゃ」
「危険な物? 何かしら??」

 いくら先見の明のある女王でもわからないらしいので、わしは次元倉庫から魔法書を取り出して教えてあげる。

「これは時の賢者が残した魔法書にゃ。まだ解読はしてにゃいんだけど、これがどれほど危険にゃ物かわかるかにゃ??」
「「「「………」」」」

 東の国組は、時の賢者の使っていた魔法と聞いて息を飲む。東の国ではどの様に伝わっているかわしは知らないが、そこそこの伝説があるのかもしれない。

 誰も喋ろうとしない中、わしが魔法書をペラペラ捲って読んでいたら女王が動く。

「正直、伝説上の話だから、どれだけ危険があるかわからないわ。それなのに、シラタマは危険だとどうして判断できるの?」
「あ~……そう言えば伝説の白い巨象って、ビーダール側で情報操作してたんだったにゃ。まずはその話を聞いてくれにゃ」

 女王達は白い巨象が千年前に時の賢者に石にされたと知らなかったので、説明したらある程度、魔法書の危険性が伝わったと思われる。

「おそらくにゃけど、50メートル以上の魔法陣に巨象を追い込んだんだろうにゃ。そんにゃの、戦争に使ったらどうなるにゃろ~?」
「罠に嵌め放題……勝利は確実になるでしょうね」
「それを使って女王は世界を統一しましたにゃ。めでたしめでたしにゃ~」

 わしが茶化しても、女王達の周りの空気が張り詰めている。仮に世界征服が可能でも、その魔法書の存在を知られた場合の被害状況が目に浮かぶのだろう。

「どうして、私にその話をしたの……」

 どうやら女王は知りたくなかったようだ。

「だって、絶対にイサベレが言うんにゃも~ん。あとで知るか先に知るかの違いにゃ」
「それはそうだけど……こんな物、持っているだけで揉めるのは目に見えているわよ!」
「にゃはは。女王が乗り気じゃなくてよかったにゃ~」

 アメリヤの近代兵器に続き、時の賢者の魔法書も世界が滅ぶ姿を刷り込めたので、ここでようやくわしは本題に入る。

「それで相談なんにゃけど……」
「わかったわ。聞かなかったことにしてあげる」
「あ、それもそうにゃんだけど、またノエミを貸してくんにゃい? わし、魔法陣にうといんにゃ~」
「そんな物、調べてもいいことないでしょ」
「まぁ危険な物はにゃ。ひょっとしたら、生活に便利にゃ物があるかも知れないにゃ。協同研究して、危険がない物は両国で発表しにゃい?? 時の賢者は出さずににゃ」
「それぐらいなら……利益は分配するのでしょうね?」
「もちろんにゃ。あ、日本語で書かれてるから、日ノ本も仲間に入れるつもりにゃ。その分減るから了承してくれにゃ」
「ええ。わかったわ」

 女王にも笑顔が戻ったので、口約束ではなく誓約書を交わして、魔法書の扱いが決まるのであった。
 ちなみに禁書と次元船は秘密じゃ。魔法書を出して、イサベレからの聞き取りを阻止したから、たぶん知られないだろう。わしの勝利だ。

「ところでノルンちゃんって、お土産にもらえない?」

 さっちゃんのおねだりがなければ……

「どうぞどうぞにゃ。あげるにゃ~」
「酷いんだよ! シラタマがノルンちゃんを売るんだよ! ドナドナなんだよ! 親失格なんだよ! 人身売買なんだよ! え~~~んだよ~~~!!」
「大声で物騒にゃこと言うにゃ~」
「あ……やっぱいいや。ごめんね」

 ノルンが泣きわめいてさっちゃんが諦めなければ、わしの大勝利だったのに……


 それから細かい話をしていたら、もう夕方。女王達は明日の朝帰るらしいので、わしはモフられまくった。それと、双子王女と同じで髪をバサバサ掻き上げてたので、褒めてからシャンプーとかの苦情を言ってみたら……

「そもそも猫の国は人が足りないから、ジョジアーヌ達が気を遣って製造はこちらに回したのよ。新しい町まで作ってるのに、猫の国でやれるの??」
「えっと……どうにゃろ??」
「王が民の仕事を把握してないなんて……世も末ね。これだから新米国王は……」

 女王の説教が始まった。なのでわしは逃げ出して、さっちゃんとゴロゴロお喋り。だって怒られたくないんじゃもん。
 どこからか女王の高笑いが聞こえた気がしたが、あっという間に朝になって、女王達は三ツ鳥居から自国に帰って行き、それと入れ替わりに、東の国魔法師団ナンバー2のノエミがやって来たのであった。


 この日からは、猫の街学術部門は大忙し。手記の表は写真を引き伸ばした物を清書し、日本語の読める者は原本を見ながら確認作業。
 裏手記はあまり知られたくないので、日本語の読めるリータ、メイバイ、お春、エミリ、べティ、それとつゆも駆り出して解読作業。文字の読めないところはわしが担当するので、付箋を張ってもらう。

 わしはと言うと、魔法書の解読で忙しい。魔道具研究所にこもって、ノエミやケラハー博士達と一緒にやっていたのだが、超難解な部分は翻訳が面倒臭いので、ケラハー達には日本語を習って来いと言って突き放した。
 ケラハー達は数式を見せただけで「画期的な数式じゃ~!」とか目を剥いて叫んでいたから、たぶん死ぬ気で日本語を覚えて来るだろう。

 最初の部分だけ飛ばして魔法陣のところを翻訳しておけば、あとはノエミと数人が勝手に研究。しかし、翻訳する人員がわしとノルンしか居ないので、猫の手も借りたい。
 「わしは猫なのに……フフフ」って途方に暮れて笑っていたら、ちょうどいい人がやって来た。

「シラタマ! 時の賢者の手記を見付けたとは本当か!? わらわにも読ませてくれ!!」

 玉藻だ。アメリヤ王国への神道と仏教の普及活動が終わって帰って来たのだ。

「玉藻~。わしの作業、手伝ってくれにゃ~」
「な、なんじゃ!? 擦り寄るでない!!」

 恥を忍んで、わしは玉藻の足に引っ付いてスリスリ。いくら玉藻が怪力でも、わしよりやや劣るので引き剥がせず。これで玉藻は折れて、渋々だが手伝ってくれる事となった。

「時の賢者の魔法じゃと! それを先に言わんか!!」

 いや、説明したら、めっちゃ手伝ってくれた。でも、玉藻も魔法陣は不得意らしいので筆が遅い。なので「分身魔法を使ったらどうだ」と言ってみたら、難しい作業をするのは二人が限界らしい。
 どちらにしてもわし達の仕事は翻訳だけなので、二人増えたのはかなり助かる。だから考えるのはあとにして、文字を書いてくれ~い。

 玉藻を「にゃ~にゃ~」急かしながら作業を続けていたら夜になったので、キャットタワーに戻ってディナーをしながら旅の報告をしてみた。

「なんと!? そんな場所があるのか!? 連れて行ってくれ!!」
「作業が終わったらにゃ~」

 もちろん玉藻は白いピラミッドに興味津々でうるさいので、なんとか宥めて布教活動を聞いてみた。

「千客万来じゃ。皆、熱心に聞いてくれてのう。日ノ本へも来たいと大人気じゃったぞ。ジョージ王とも国交を結んだから三ツ鳥居は置いて来たんじゃが、シラタマに聞かないと動けないとか言っていたんじゃが……」
「あ~……渡航許可も考えなきゃだにゃ~」
「そちはどんな条約を結んでおるんじゃ?」
「後付けしまくりのめちゃくちゃ酷い条約にゃ~」
「なっ……そちは鬼か!!」
「猫だにゃ~。にゃははは」

 いちおう角は生やせるが、ベースは猫で間違いない。玉藻が鬼と言ったり銃を欲しがっても、わしは笑いながら聞き流すのであった。

「あと、その頭に乗ってるのは……」
「ノルンちゃんだよ」
「おい……喋ったぞ?」
「詳しい話はノルンちゃんから聞いてにゃ~」

 もちろんノルンにも食い付いて来たので説明は丸投げして、この日は早めの就寝。明日の英気を養うわしであった。


 それからも、わし達は手記と魔法書の解読に忙しく過ごし、ケラハー博士達の超難解な発表は聞き流し、玉藻やべティと喧嘩したり、手が空くようになったらさっちゃん達と遊んだり、玉藻とべティを白いピラミッドに連れて行ったりしながら月日が流れるのであった……
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