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第二十五章 アメリカ大陸編其の四
720 アメリカ縦断旅行の報告会にゃ~
しおりを挟む「フフ……シラタマ君、まさかあたしがこんな所に居ると思ってないでしょうね」
キャットタワー屋上では、ベティが勝ち誇ったような顔で下を見ていた。
「そんにゃわけないにゃろ……」
「あはは。あの猫の頭じゃムリムリ。エミリは二階から飛び下りたと言ってるはずだから、空を飛んで屋上に来てるなんてわからないわよ~……へ??」
「やってくれたにゃ~~~!!」
「シラタマ君!?」
ベティは逃げ切ったと思って、わしが背後に立っていたとは気付かずに喋っていたが、途中で気付いて驚いた。
てか、ベティの逃走なんて、名探偵猫の鼻を誤魔化せない。二階から飛び下りてその場にベティのにおいが残っていないのだから、空を飛んだと思うのは自然の流れだ。
「さあ、シャンプーや化粧水の話をしようにゃ……」
「お……怒る??」
「怒るから全部話せにゃ……」
「そこは怒らないからって言ってよ~~~!」
普通なら「絶対に怒らないから」とか言って聞き出してから怒るべきだろうが、どっちみち怒るんだから無駄なやり取りはやめた。
それでもベティもやっちまったと反省しているようで、包み隠さず何があったか教えてくれる。
「ほら、あたしって、カーリーヘアじゃない? トリートメントを使えば、直るかな~っと思って……」
どうやらベティは、チリチリパーマの髪は気に入ってはいるのだが、大人になったら大阪のおばちゃんみたいになりそうだから、先に手を打とうと考えたそうだ。
シャンプーやトリートメントメントの成分はある程度覚えていたのに、前世ではお金が無くて作れなかったので、わしの威光を使えばもしかしたらと思ってベティは犯行に及んだらしい……
まずはケラハー博士達の研究所へ行って、わしが作らせるように言っていると嘘をつき、これが上手くいけばハゲの進行を遅く出来ると唆したらひょいひょい乗って来て、研究費を使ってくれたらしい……
ついでに化粧水や乳液も育毛剤と嘘をついて作らせ、試作品をエミリと一緒に使っていたら、目敏い双子王女に「最近、綺麗になった」だとか勘ぐられたとのこと。
もちろんベティはとぼけていたらしいが、お風呂にまで押し掛けられて、王女オーラに晒されてゲロッた。てか、二人の大きなよっつの柔らかい物に気圧されたんだって。
そこからは、あれよあれよ。双子王女の上手い言葉に騙され、いつの間にか東の国で作る事になったそうだ……
「にゃんてことしてくれたんにゃ~」
「だって~。こんなチャンスないんだも~ん」
「さっきまでの反省はどこ行ったにゃ!?」
ベティは王家にここまで食い込んだからその力を使ったらしいが、鬼の居ぬ間にやる事ではない。
「てか、ベティは女王に、わしと同じ転生者だと疑われてるんにゃよ? そんにゃことしたらバレバレにゃ~」
「うそ!? ……って、なんで女王様に転生バレてるのよ??」
「だって猫が歩いてるんにゃも~ん」
「だよね~。猫なのにやり過ぎてたもんね~」
わしの言い訳はすんなり受け入れるベティ。しかし、わしはやり過ぎた事なんてこれっぽっちも……
「車に電車に飛行機に……」
「わしのようになるにゃと言ってるんにゃ~」
わしのやらかし談を上げられると、さすがに弱い。今回の件は不問にするからと言ったら、ようやくベティは止まってくれた。
「ところでさあ……その頭の上の人形はなんなの?」
「にゃんでもないにゃ~」
「ノルンちゃんだよ」
「喋った……マジでなんなの??」
「わしはもう寝るから、夜に説明するにゃ~」
「待ってよ~!!」
同じ説明を何度もしたくない。どうしても聞きたいならノルンにでも聞けと言ってお風呂場に向かったら、ノルンがわしの頭から離れないからベティまで体にタオルを巻いて入って来た。恥ずかしいなら入って来るなよ……
とりあえず旅の疲れを落とそうとシャワーを浴びたところで猫パーティも入って来たから、ベティと二人きりのところを見られてしまった。
「これにゃ! シャンプーの説明を聞いてたんにゃ~~~!! シャンプーのあとにトリートメントを使えば、髪の毛がサラッサラッのツヤッツヤッになるんにゃよ~? みんにゃ洗ってあげるにゃ~」
リータ達の顔が怖かったので、最新の美容グッズで怒りを逸らす。コリスは泡まみれ。
シャンプーは今まで使っていた石鹸より泡立ちがいいので、皆に大好評。しかしわしとコリスは、泡が倍増なのであわっあわっ。綺麗に泡を流してトリートメントまでしてあげたら、湯に浸かって今度こそ旅の疲れを落とす。
何故かベティまで「朝風呂最高~!」とか言って浸かっているので、ちょっと喋る。
「みんにゃ喜んでるみたいにゃし、まぁ、これはこれでアリだにゃ~」
「女の子ばっかりなんだから、シラタマ君が作ればよかったんじゃない?」
「わしは美容関係はさっぱりなんにゃ~」
「あ~……昭和のジジイは石鹸で頭まで洗うもんね。レモン石鹸で全身イケるクチでしょ?」
「わしは牛乳石鹸一本にゃ~」
「それ、認めてるのと一緒だからね? わかってる??」
わしのツッコミは、ベティからしたらボケだったらしく逆にツッコまれてしまったので話を逸らす。
「そう言えばシャンプーとかって、あのまま販売してるにゃ?」
「どゆこと?」
「蓋を開け閉めするの面倒じゃないかと思ってにゃ~」
「あ、プッシュ式? あたしはシラタマ君とは逆で、そっち方面はわかんないんだよね~」
「じゃあ、猫の国はそっちを作ろうかにゃ? 東の国が売れば売るほど儲かるにゃ~」
「フフフ。転んでもただでは起きない猫ね。てか、あたしとシラタマ君が手を組んだら最強じゃな~い??」
「暑苦しいからくっつくにゃ~」
何が目的か知らないが、色仕掛けはやめて欲しい。
「ずいぶん仲がいいですね……」
「私達が居るのに何してるニャー!」
「ベティに言ってくれにゃ~! ゴロゴロゴロゴロ~!!」
リータとメイバイに怒られるから……
二人のモフモフの刑を受けたので長風呂となってしまったが、髪を乾かした皆は、なんか仲良く髪をバサバサ掻き上げてわしを見てる。
「うんにゃ。綺麗になったから、先に服を着ようにゃ。あと、ベティ。みんにゃに化粧水と乳液の使い方、教えてあげてにゃ~」
わしが適当に褒めたらリータ達は裸で迫ろうとして来たので、お肌のケアの話も出してベティに丸投げ。わしとコリスには必要ないので、一緒に寝室に逃げて、そのまま眠りに就くのであった。
その夜……
キャットタワーで暮らしている者や役場職員を集めて、わし達の帰還パーティが始まろうとしていた。
「え~。今回の旅の目的は、アメリカにある遺跡を探す旅だったんにゃけど、その副産物として、時の賢者が晩年過ごした施設を発見したにゃ。まずは、時の賢者の最強装備をご覧あれにゃ~」
「「「「「わあぁぁ~~~」」」」」
いつもなら、わしの乾杯の音頭で始まる宴なのだが、今日は時の賢者ルックのイサベレの入場から。あまり高級な服ではないが、時の賢者本人が着ていた物とあって、そこそこ受けている。
「んで、この本の山は、時のダンジョンという場所で発見した時の賢者直筆の手記にゃ。彼が千年前に旅した冒険譚が載ってるんにゃ~」
「「「「「おおおお~~~!!」」」」」
あまりの大発見に皆の声が野太くなっているが、わしは気にせず先を進める。
「最後に、わしの頭に乗っているのが、同じダンジョンで仲間になった、自立式ゴーレムのノルンちゃんにゃ。みんにゃも仲良くしてあげてにゃ~」
「ノルンちゃんだよ~!」
「では、新しい仲間と、時の賢者の遺物にかんぱいにゃ~~~!!」
「「「「「かんぱいにゃ~~~!!」」」」」
乾杯の音頭で宴が始まると、ノルンが大人気。見た目は妖精で受け答えするのだから、立って歩く猫やタヌキやキツネやウサギなんかより珍しいらしい……
そのせいで、わしの元へ話を聞きに来る者も少ないから双子王女が両隣に座り、ステレオ放送で話し掛けて来るからすっごく聞き取りづらい。
「「その手記は、どうなさるおつもりですの?」」
「日本語を翻訳しにゃいといけないからにゃ~……って、やっぱ東の国に欲しいにゃ?」
「「もちろんですわ!!」」
「シャンプーとかの権利を手放すにゃら考えてやるにゃ~」
「「ぐっ……」」
双子王女がうるさいから交換条件を出したのだが、騙して奪ったくせに返してくれない。時の賢者の遺物より、自分の美が勝るようだ。
「てか、解読と翻訳は、かなり時間が掛かると思うにゃ。女王達に報告するにゃら、そのことをちゃんと伝えろにゃ~」
どうせスパイから筒抜けになるなら、わしは早目の処置。こんな事を知られるとまた女王が飛んで来そうなので、これで阻止できるはずだ。
この日は、ノルンちゃんに飽きてわしの元へ冒険談を聞きに来た者と喋り、夜が更けて行くのであった……
「にゃに!? ゴロゴロゴロゴロ~!!」
まだ時差が抜けていないこともあり、翌日は昼まで爆睡していたら、わしは四本の手で全身撫で回されて強制目覚め。
起きてからもさらに撫で回されて、撫でていた人物が満足した頃に、ようやくわしは解放された。
「シラタマちゃ~ん。モフモフ~」
「まったく……いつまで寝てるのよ」
「にゃ……お早いお着きですにゃ……」
わしをしつこく撫で回していたのは、さっちゃんと女王。先に手を打ったのに、飛んで来たっぽい。
「来ても読めないって聞いてるにゃろ~?」
「聞いたけど、居てもたってもいられなかったのよ。手記を出してちょうだい」
どうやら女王は、わしが手記を保管していると聞いて、こんな雑な起こし方をしたようだ。まだ眠いわしは、やり取りが面倒なので次元倉庫から出してあげたら、女王は凄い勢いで手記をペラペラ捲り出した。
「乱暴に扱うにゃよ~?」
「わかってるわよ」
女王の処置が終わったら、わしはもうひと眠りしようとしたが、さっちゃんに止められる。
「ねえねえ? シラタマちゃんの胸の中で寝てた、この女の子の人形ってなに? そんな趣味あったの??」
「それも生きてるんだから乱暴に扱うにゃよ~?」
「生きてる? こんなちっこい子が??」
「ノンノンノン。ちっこい子じゃなくて、ノルンちゃんだよ」
「「はい??」」
さっちゃんがノルンをツンツンすると、今ごろ再起動して動き出した。
「昨日はシラタマがごはんくれなかったから、省エネモードなんだよ。お腹ペコペコなんだよ~」
「あ~。すっかり忘れてたにゃ~。ごめんにゃ~」
わしがノルンに魔力を与えていたら、さっちゃんの目がキラキラして来た。
「何この子!? かわいい!!」
「この子じゃなくて、ノルンちゃんだよ」
「ノルンって言うんだ~」
「ノルンちゃんだよ」
「へ~。ノルンは何を食べるの?」
「ノルンちゃんだよ」
「えっと……ノルンちゃん??」
「やっと正式名称で呼んでくれたんだよ」
「シラタマちゃん……何この子?」
「ノルンちゃんだよ」
「う、うん。ノルンちゃんだね……」
ノルンは執拗にちゃん付けで呼ばそうとするので、あのさっちゃんですら圧に押されてテンションが下がるのであったとさ。
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