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第二十五章 アメリカ大陸編其の四
717 時のダンジョン完全制覇にゃ~
しおりを挟む「あ~あ。にゃんだか骨折り損のくたびれ儲けみたいにゃ~……あ、このベッド、すっごく寝心地いいにゃ~」
次元船が十年も使えないと聞いたわしはやる気が失せたので、ノルンに出してもらった白銀のベッドに飛び込んでダラダラ。するとリータとメイバイがベッドに腰掛けてわしを撫でる。
「あ、本当ですね。フカフカです」
「白銀の鉄なのに不思議ニャー」
「どうなってるんだろうにゃ~? ゴロゴロ~」
ノルンはある程度の説明を終えると、あとは禁書を読めと言って教えてくれなくなったので、しばしリータ達とゴロゴロしながら喋る。
「それにしても、十年は長いですね」
「本当ニャー。すぐにシラタマ殿の世界に行きたかったのにニャー」
「とりあえず、ここに置いておくしかないだろうにゃ~。ゴロゴロ~」
「魔力はそれでいいとして、渡航券はどうするのですか?」
「そんなのおねだりしたら、また兄弟喧嘩に巻き込まれると思うニャー」
「う~ん……」
スサノオのなんでも叶えてくれる権利や、アメリヤ王国のいざこざを解決した貸しがあるから大丈夫じゃと思うけど、これ、言っちゃっていいヤツじゃろうか? 変に禁止事項に引っ掛かるとどもるから注意して……
「スサノオには貸しがあるから、にゃんとかなると思うにゃ」
「「やったにゃ~」」
「ゴロゴロ~。あとは、残りの手記と魔法書をどうするかだにゃ~。ゴロゴロ~」
「手に入れるに決まってる。フンスコ」
二人に撫でられてわしが気持ち良さそうにしていると、イサベレが鼻息荒く話に入って来たが、正直わしは、時の賢者の性格を知ってどうでもよくなっている。それよりも、この猫をダメにするベッドが気持ち良すぎて動きたくないのだ。
「あと12回も潜るのもにゃ~……面倒臭いにゃ~」
「じゃあ、一人でなんとかする」
「それは危ないにゃ~」
イサベレでは、時の賢者のだるまさんが転んだをクリア出来ないので、とりあえずノルンに攻略法を聞いてみる。
「そう言えば、いまはエネルギー不足だったよにゃ? この状態でもダンジョンに挑戦できるにゃ?」
「うんだよ。第1フロアでクリスタルスカルを掲げたら出来るんだよ」
「と言うことは~……」
「チャ~ンス」
ノルンに聞かれるとゴネられる可能性もあるのでわしは答えの先を言わなかったのだが、イサベレは気付いて悪い顔している。そんな顔、初めて見たぞ……
「とりあえず、上に戻ろうかにゃ? どうやったらいいにゃ~??」
「ついて来たらいいんだよ」
ノルンは案内役の責務を果たしてくれるようなので、パタパタと飛ぶノルンに続いてわし達は次元船を出ると、モノリスの前まで連れて行かれた。
「時の賢者様の有り難いお言葉があるから、その円の中に入って、耳の穴かっぽじって聞くといいんだよ」
ここで、時の賢者フォログラムとチェンジらしいので、ノルンが指差した床の辺りを確認して、わし達は円の中に入った。
『勇者よ……よくぞ我の用意した試練を乗り越えた』
あ、まだ魔王設定続けるんじゃ……でも、また顔が真っ赤じゃぞ?
『てのは冗談で、次元船は持ち帰らないのか?』
もうやめるんか~い。最後まで締まらん奴じゃな。
「エネルギーがすっからかんみたいにゃし、しばらくここで補充するにゃ。だから、もう予備バッテリーで使うにゃよ?」
『うむ。すでに所有権は移っているから約束しよう。それでは、魔法書や手記のコンプリートを目指して楽しんでくれ。また会おう! ハーハッハッハッハッ』
時の賢者の高笑いが響くと、わし達の立っていた場所に魔法陣が現れ、一瞬にして、時のダンジョン第1フロアの台座の前に移動したのであった。
「にゃ? ノルンちゃんがどっか行ったにゃ」
あれだけウザかったノルンが居ないので、キョロキョロと探してみたが、見当たらないのでもういいや。
「一度外に出ようにゃ。色の無いところは気が狂いそうにゃ~」
真っ白な空間に何日も居たので、皆も色を求めているようだから反対意見はない。なので、来た道を戻り、何度かアナウンスを聞きながらピラミッドの外に出る。
ピラミッドの一番下まで下りると、広場のようになっている場所にテーブルセットを出して、少し早いがランチにしてしまう。
「それで……このあとどうします?」
モグモグしていたらリータから質問が来たので、わしはイサベレをチラッと見てから答える。
「イサベレが一人でも行っちゃいそうにゃし、わしが付き合うにゃ。みんにゃはどうしたいにゃ?」
「私は……もういいですかね?」
「う~ん……私もいいかニャー?」
「「あきた~」」
わしの質問に、リータとメイバイは濁して答えてくれたが、コリスとオニヒメは正直だ。
「じゃあ、リータとメイバイで手記を読んで簡単にゃ年表でも作っておいてにゃ。コリスとオニヒメは……遊び道具でも置いて行くにゃ~」
リータとメイバイには仕事を頼む事になってしまったが、手記の内容は気になるらしいので、暇潰しには持って来いだとのこと。
コリスとオニヒメはお子様なので、暇潰しアイテムは数多く与え、いつでも眠れるようにキャットハウスも出しておく。二人はすぐに入って行ったから、眠かったみたいだ。
わしはと言うと、イサベレと二人っきりで時のダンジョン攻略。
「デート……フンスコ」
いや、イサベレはデート気分。鼻息荒いけど、手記はいいのかな?
腕を組んで来るイサベレのせいでわしは浮いてしまっているから進んでもらっていたら、時のダンジョン第1フロアの台座に到着。
「ノルンちゃんだよ~!」
すると、ノルンが飛び出して来たので、わしは嫌そうな顔をする。
「シラタマは、また飽きもせず来たんだよ」
「コンプリートしろと言ったのはそっちにゃろ~」
「二回目なんだから、さっさと開始の位置に進んでクリスタルスカルを掲げるんだよ」
「『時の賢者様かっこいい』は、言わなくていいにゃ?」
前回ノルンに無視された合い言葉の事を再び聞いてみたが、やっぱり無視。仕方がないので、イサベレと共に開始線の中に入ってクリスタルスカルを掲げた。
すると、目の前の壁が開いたので、ノルンに続いて入る。
「迷路が苦手なんだよにゃ~……一回目と変わってるにゃ?」
「当然なんだよ。というか、毎日、朝の五時から六時の間に変わるんだよ」
「にゃるほど……聞いたにゃ?」
「ん。急げば今日中に終わるかも」
わしの言いたい事に気付いてくれたイサベレには、次の指示。
「ちょっと無茶にゃことをするから、耳を塞いでおいてにゃ~」
「ん」
「ノルンちゃんもうるさいのが苦手にゃら、耳を塞いでおいてにゃ。マイクが壊れるかもしれないにゃ~」
「音でノルンちゃんは壊れないんだよ」
「念の為にゃ~」
ノルンの耳の位置はよくわからないが、胸に両手を持って行ったから、そこにあるのかもしれない。てか、時の賢者はなんちゅうとこに付けておるんじゃ……
イサベレも準備万端のようなので、わしは大きく息を吸って大声を出す。
「すぅ~~~~……に゛ゃっ!! ……ぎゃっ!?」
諸刃の剣。声の反響が大き過ぎてわしの耳が超痛い。そのわしが耳を擦っていたら、イサベレが頭を撫でて来た。
「何してたの?」
「探知魔法を強くして使っていたんにゃ。ちょっと簡単にゃ地図を書くから待っててにゃ~」
わしの探知魔法は微細な音でも遠くに飛ぶのだが、こんな折り返しばかりの迷路ではわかる範囲が狭かったから、魔力と大声で一気に広げたってわけだ。
リータ達とやらなかったのは、迷路を楽しむ為もあるが、鼓膜が破れる危険性があったから。痛いのは嫌なんじゃもん。
それに出口が塞がっていたら、まったく意味がない。痛い思いをして無意味だったら嫌なんじゃもん。一度クリアした今だから使えるチートだ。
とりあえずノートにさらさらっと一本道を書いたら、ノートはイサベレに渡す。
「分かれ道が来たらどっちに行くか教えてにゃ~」
「ん」
「ノルンちゃんは置いて行かれたくないにゃら、わしの胸元に入るといいにゃ」
「くさそうなんだよ」
「いいにおいにゃ~!!」
ノルンは失礼な事を言うので、もうしらない。襟にでもしがみついておけばいい。ノルンが肩に乗ったところで、イサベレを背負ったわしは走り出したのであった。
「速すぎるんだよ!」
第1フロアの迷路を制したら、ノルンの苦情。わしとイサベレのタッグなら、物の数分で終わったので仕方がない。
ちなみにノルンは、わしの襟を掴んでいたけど飛ばされたので、イサベレがキャッチして救っていた。それからは、わしの胸元に入ってブーブー言ってるからうるさい。
「だから速すぎるんだよ!」
もちろん、フロアボスのアイアンゴブリンも一瞬で小間切れ。第2フロアに移動して、ここからも同じ要領でクリア。罠がある場合は一瞬で駆け抜けるので、落とし穴も壁から槍が出ても掛かるわけがない。
ボスも大型モンスターも邪魔ならば斬り刻み、毒ガスも息を止めるだけで置き去り。前回よりモンスターが三分の一しか居ないスカスカのスタンピードもほとんど無視。
時間が掛かったのは、第9フロアの個別攻略でイサベレと分かれた時ぐらい。そこのモンスターは、最初の頃と比べて強さも大きさも半分以下だったので、イサベレのクリア時間も半分は減っていた。
一番きついと予想していた時の賢者との「だるまさんがころんだ」も、数も威力も半分以下だったので、楽勝でクリア。獲得アイテムを持って、リータ達と合流するわし達であった。
「ただいまにゃ~」
「「はやっ!?」」
ニ時間も掛からずに帰ったからリータとメイバイに驚かれてしまったが、ドロップアイテムを提出。それと、進捗状況を聞いておく。
「ふ~ん……記念館の手記とあんまり変わらないんにゃ~」
「なんだかページが飛んでる所があるんですよね」
「そうそう。日付が合わないんニャー」
「あ~……にゃるほど。裏手記が、そこに当て嵌まるかもしれないにゃ。ちょっと裏から読んでいってにゃ~」
「「はいにゃ~」」
リータとメイバイに新しい仕事を頼むと、わしとイサベレはまた時のダンジョン攻略。ダッシュで駆け抜け、五週目ともなるとモンスターの数がさらに少なくなり、所要時間は半分に減る。
この頃には迷路も完璧に覚えてしまったので、イサベレも脱退。
イサベレには個別フロアでわしを待たせて迷惑になるからと言われたが、手記が気になるんじゃろ? けっこう溜まったから、早く読みたかったんじゃろ? 日本語を読めなくて残念がっているのが全てを語っておるぞ??
イサベレの脱退の理由はわかりきっていたのだが、たしかに迷路を覚えてからはお荷物感はあった。暇だから撫で回すし……
イサベレが居なくなったので、さらにスピードアップ。六周目は30分で戻ったので、イサベレが落ち込んだ。自分でお荷物って言ってたのが事実になったので致し方ない。
しかし、宥めている時間がもったいないので、適当な夕食をバクバク食べてまたダッシュ。
一周ごとに難易度の下がるダンジョン内を走り回っていたら、ついにわしは全てのアイテムを集めて、時のダンジョン完全制覇に至った。
『コングラチュレーション』
「コングラチュレーションだよ~」
散々見た、時の賢者とノルンの拍手はスキップしたい。
「さっさと禁書を出せにゃ~」
わしが文句を言ってもしばらく続くので、イライラしていたら、ようやく時の賢者が宝箱を出してくれた。
とりあえずさっそく開けて、裏手記12巻と禁書を握ったらおさらばだ。
「それじゃあ、地上に送ってくれにゃ~」
『まだだ。スペシャルプレゼントの贈与が残っているぞ』
「にゃ? あ~……そんにゃこと言ってたにゃ。もう眠たいんにゃから、手短にお願いにゃ~」
『では、行くぞ』
時の賢者はわしのお願いを無視して長いドラムロールを流し、最後に「パンパカパーン」という音が鳴ったら、小振りの本を抱いたノルンをわしに押し付けて来た。
「いらないにゃ~!」
『我が最高傑作のノルンちゃんを譲渡する』
「いらないって言ってるにゃろ~!」
『使用方法は取り扱い説明書に載っているから、よく読んで大切に育ててやってくれ』
「聞けにゃ~~~!!」
わしがフライングで拒否っても、時の賢者はお構い無し。取り扱い説明書を抱いたノルンもわしの頭に乗って離れてくれない。
こうしてわしは、クーリングオフも聞いてもらえず、振り出しに戻されるのであったとさ。
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