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第二十五章 アメリカ大陸編其の四

713 最終フロアに待ち構えている者にゃ~

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「ただいま~」
「「オニヒメちゃん!」」

 猫パーティが個別に挑まされた第9フロア攻略、一番最後に終えたオニヒメが開いた通路から姿を現すと、リータとメイバイは駆け寄る。
 オニヒメの事を信用していると言っていたわりには、けっこう心配していたようだ。

「ヒメ、おかえり~」

 リータとメイバイに遅れてお姉ちゃん設定のコリスも、抱き合っている三人をモフッと抱き締める。イサベレも心配していたのか、怪我はないかと質問していた。

「アレ? パパは??」
「シラタマは寝てるんだよ」

 皆が落ち着くと、オニヒメはわしの姿が無いと不思議に思って口にしたら、ノルンが教えてくれた。

「ブー……一番心配してると思ってたのに……」
「にゃに!? ゴロゴロゴロゴロ~!!」

 床に転がって寝ていたわしは、頬を膨らませてわしゃわしゃするオニヒメに起こされた。

「なんで寝てるのよ~。もっと心配してよ~」
「ゴロゴロ~。にゃんでもにゃにも……ゴロゴロ~。にゃ!? にゃんでわしは寝てたにゃ! オニヒメ! 怪我は無いにゃ!? ゴロゴロ~」
「ブー。遅い~」

 遅いと言われても、わしも何が起こっているかわからない。なので、リータとメイバイに、わしはどれぐらい寝てたか尋ねてみた。

「あれから……一時間ぐらいですかね?」
「うんニャー。そんなもんニャー」
「にゃ! オニヒメを助けに行かにゃくっちゃ!!」
「だからもうクリアしたって~」
「にゃ~~~??」

 わしはたしか10分後にはオニヒメを助けに行こうと思っていたので、オニヒメに起こされたが為に、混乱してしまった。

「てか、そもそもわしは、にゃんで寝てたにゃ? わし、壁を破壊してでもオニヒメを助けに行くって言ってたよにゃ~??」
「えっと……私達が眠らせました」
「ほら? 10分じゃ短すぎると思ってニャー」
「「ごめんなさいにゃ~」」

 さすがにあんなにわしがキレていたと言う事もあり、リータとメイバイはわしの名誉を守る為に真実を語ってくれた。

「もう……パパったら過保護すぎ」
「だってにゃ~。心配にゃも~ん」
「えへへ~」

 そのおかげで、オニヒメも機嫌を直してくれたようだ。とりあえず心配事が無くなったらお腹が鳴ったので、時のダンジョン攻略記念パーティだ。

「まだ終わってないんだよ!」

 オニヒメの頑張りが嬉し過ぎて忘れていたけど、ノルンにツッコまれて気付いたので、ただのディナーに変更。皆で美味しく食べるが、コリスって二日分食たべてなかった? モゴモゴか~……わしの気のせいかな??

 コリスは否定してウンウン頷いているので、わしの気のせいだろう。オニヒメの冒険譚を聞きながら、楽しくディナーを終えるわし達であった。


 安堵感のせいで食べ過ぎたわしが床に大の字に寝転んでいたら、真ん丸のお腹にノルンが乗ったので気になる事を聞いてみる。

「そう言えば、このフロアってボスは居ないにゃ?」
「居るんだよ。それなのに終わったような雰囲気出すんじゃないんだよ」
「それにゃらそうと言ってにゃ~。お腹いっぱい食べたから、もう動きたくないにゃ~」
「ここには休憩場所は無いんだから、寝るなら先に進むんだよ」
「ええぇぇ~~~」

 本当に終わったと思っていたので、わしはもう眠たい。しかし、皆に意見を聞いたところ、中途半端よりは先に進みたいとのこと。コリスはウトウトしてる。
 仕方がないのでノルンのあとに続いて、ボス部屋に入るのであった。

「にゃ! トイレ行きたいにゃ!!」

 ボス部屋に入った瞬間に、もよおしてしまったので戻ろうとしたら、通路が消えていたのでわしはノルンに助けを求める。

「さっきの部屋で済ませてないシラタマが悪いんだよ。時のピラミッドの守り神、ブラックスフィンクスにビビってババチビるといいんだよ」
「ババとか言うにゃ~」

 こんな緊急事態に汚い言葉は聞きたくない。それにブラックスフィンクスとかいう名前のわりに巨大で真っ白なゴーレムを倒さないとトイレに行けないと聞いたらには、わしも覚悟を決めるしかない。

「わしがやってもいいよにゃ? にゃ!?」
「えっと……」
「出すにゃよ? ここで出してもいいにゃ? わし、そんにゃことになったら泣くにゃ~~~」
「もう! いいですからやっちゃってください!!」

 リータからも許可が出たので、わしは刀を抜いた。

「さあ! ブラックスフィンクスに跡形も無く消されたらいいんだよ!!」

 今までで最大級の大きさ。頭は人間で体はライオンの姿をしたピラミッドの守り神。おそらく黒魔鉱で作られたスフィンクスなのだろうが、長い年月のせいで白魔鉱にレベルアップしたこの施設最強のモンスター。
 人間の顔にある口がガコンと開き、そこから青白い炎が漏れるブラックスフィンクスを見て、ノルンが諸手をあげてドヤ顔をするので、わしは急かす。

「もう倒したからトイレに案内してにゃ~」
「はあだよ!?」

 ノルンが喋っている間にわしは消えるように素早く動いて、ブラックスフィンクスを斬り刻んで戻った。ノルンに報告した頃には、ブラックスフィンクスは粉々に崩れて行くのであった。


 真っ白なブラックスフィンクスが崩れ行く中、ノルンは目玉を飛び出して驚いていたので、わしはノルンを掴んで壁に開いた穴に飛び込んだ。

「セクハラなんだよ!」
「いいからトイレに案内してにゃ~!」

 わしは緊急事態なので、ノルンの訴えは聞いてやれない。しかしノルンは案内してくれないので探知魔法を使ったら、通路があったのでそこに飛び込んだ。
 そこは、運良く男子トイレ。わしは個室に駆け込み、ウンを捻り出すのであった。

「ノルンちゃんだってセクハラしてるにゃ~」
「ノルンちゃんはシラタマの生態を確認するのが仕事なんだよ」

 個室までついて来たノルンに見られながら……


 お腹スッキリ、お花畑気分でトイレから出たら、リータ達がウンウン唸っていたのでわしは近付いてみる。

「みんにゃもトイレ我慢してるにゃ?」
「シラタマさんと一緒にしないでください!」
「私達はトイレなんて行かないニャー!」

 女性に対して失礼な事を言ってしまったわしは、リータとメイバイにわしゃわしゃされてしまったけど、どこのアイドルなんじゃ……
 皆がトイレに行く姿は何度も見た事があるけどそこをツッコムと撫で回しが酷くなるので、唸っていた理由を聞いてみた。

「宝箱から魔法書が出て来たのですが……」
「難し過ぎて読めないニャー」
「開けるにゃら待っていてくれてもいいにゃろ~」

 どうやらわしがトイレに行っている間に、皆は「どうする?」的な感じになって、遅かったから宝箱を開けてしまったようだ。
 文句を言ってはみたがどう考えてもわしが悪いので、謝罪してから魔法書を読ませてもらった。

 うっわ……あの野郎、スサノオから貰ったチート魔法書をそのまま書いてやがる。熟読したわしでも一割も理解できないのに……
 これ、魔法を教える気がないんじゃね? ……あ、この辺からなら行けるか??

 わしは魔法書の半分辺りから書かれていた魔法陣を指差して、皆に説明する。

「最初のほうは、事象をこと細かく書いてあるみたいにゃ。たぶん、この辺りからが時の賢者の使っていた魔法だと思うにゃ」
「この魔法陣がですか……これでも無理ですよ~」
「シラタマ殿はわかるニャー??」
「う~ん……わしも魔法陣を使う魔法はさっぱりだからにゃ~。専門家に聞かないことにはわからないにゃ」

 魔法書をペラペラ捲って読んでみたが、時の賢者の得意魔法は魔法陣を使った物だったので、わしはお手上げ。その時、イサベレも手を上げていたのでどうしたものかと聞いてみた。

「魔法陣がわからないのに、どうして最初のところがわかるの??」
「にゃ? それは……ほら、ここにゃ。化学式が書かれているんにゃけど、この世界には無い式にゃろ?」
「化学式……言ってる意味がわからない」
「ほら、無いにゃ~……いや、ケラハー博士が使っていたかもにゃ。ま、要は、空気の成分を元素の構成で表現してるようなものにゃ」
「「「「「さっぱりにゃ~」」」」」

 イサベレに何か疑われたので詳しく説明したら、上手く話を逸らせた。魔法書チートなんてわしが使っていると知られたらまたうるさくなりそうなので、化学式の説明で逃げ切るわしであった。

「チッ……今度は13巻もあるにゃ~」
「時の賢者様の魔法が、1巻で収まるわけがないんだよ」
「手記と回数を合わせろにゃ~」

 「にゃ~にゃ~」ノルンに文句を言っても仕方がない。しかし、また潜る回数が増えたのでわしのやる気も失せた。

「そんじゃあ、今日のダンジョン攻略はここまでにしようにゃ~」

 残り1フロアだが、最終フロアに何が待ち構えているかわからない。もう夜の8時なので、時間が掛かると寝る時間が遅くなりそうだから、休める時に休んでおくほうが無難だろう。
 わし達は休憩室でお風呂に入ったり、オニヒメ用の着物を選んだり、時の賢者の手記や魔法書を読みながら各々夜を過ごすのであった。


「さあて……ラスト、いってみようにゃ!」
「「「「「にゃ~~~!!」」」」」

 各種準備を済ませたら、わし達は元気よく出発。ノルンに案内された小部屋に移動し、わいわい喋っていたら、目の前の壁が横に開いた。

「広い……部屋ですかね?」
「中央に何かあるニャー」

 目の前は真っ白な空間なのだが、目の慣れたリータとメイバイはキョロキョロしながら報告してくれるので、わしも探知魔法を飛ばして辺りを確認する。

「う~ん……ドーム状の広い空間みたいにゃ。中央には板のような物が立ってるし、そこまで進んでみようにゃ」

 皆が頷くと、罠に注意しながら前進。歩きながらノルンに、このフロアの特徴を聞いてみる。

「最終フロアにゃのに、迷路もモンスターも居ないにゃ?」
「ボスなら目の前に居るんだよ」
「にゃ? いま、にゃんて言ったにゃ??」
「だから、ボスは目の前に居るって言ってるんだよ。このすっとこどっこいだよ」
「迷路にゃいの!?」

 ノルンに酷い事を言われても、わしはそれどころではない。

「てことは、ボスを倒しただけで終わりにゃの?」
「そうだよ。なのに、一泊するなんてどうかしてるんだよ」
「言ってくれたら昨日の内にクリアしてたにゃ~」
「聞かれなかったからだよ」
「そういうのは聞かれなくても言えにゃ~。このダメゴーレムにゃ~」
「ノルンちゃんだよ」

 ノルンに愚痴を言っても暖簾のれんに腕押し。悪口も通常の返しをするので、イラッと来るだけ。リータとメイバイに頭を撫でてもらい、気分を変えるわしであった。


「モノリス……かにゃ?」

 最終フロア中央には、白魔鉱で出来た高さ10メートルはある長方形の板が立っているのみなので、わしは映画に出て来る板を思い浮かべた。

「モノリスってなんですか?」
「説明が難しいんにゃけど……その時代では作れない技術品のことをオーパーツと言うんにゃけど、その代表的な物で、鉄製の綺麗な板のことをモノリスって言うんにゃ。一説には、宇宙人が残したとかにゃ」
「また宇宙人ニャー? これは時の賢者が作ったに決まってるニャー」
「そりゃそうにゃんだけど、原住民が見たらにゃにかわからないにゃ~……にゃ?」

 わしがリータの質問に答えてメイバイにバカにされていたら、突如モノリスが輝き、その光は集約されて人の形を作った。

『ハーハッハッハッ。勇者よ。幾多の試練を乗り越え、よくぞここまで辿り着いた。我がこのダンジョンを作りし魔王だ。ハーハッハッハッ』

 その角を付けた半透明の人物はマントをひるがえし、わし達の事を勇者と呼び、自分の事は魔王と呼んで笑い出したのであった……
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