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第二十五章 アメリカ大陸編其の四

701 時の賢者記念館にゃ~

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 白いピラミッドの防犯装置を力業ちからわざで捩じ伏せたわし達は、頂上から見えたなだらかな階段に下りてみる。

「あ、ここ、扉があるニャー」
「ここが入口ってことですかね?」

 ピラミッドの中腹辺り、なだらかな階段の最上段には踊り場と扉があったので、メイバイとリータが指差す。わしはなんとも言えない顔で振り返ったら、また日本語と英語のアナウンスが流れて来た。

『ようこそ。時の賢者記念館へ。時の賢者様の軌跡や数々のアトラクションを用意していますので、どうぞお楽しみください』

 そのアナウンスが終わると、扉が自動で開いた。

「めっちゃ歓迎されてるにゃ……」
「さっきまでの苦労はなんだったのでしょうね」
「早く入ろうニャー!」

 わしが肩を落とすと、リータは苦笑い。メイバイはアトラクションと聞いて楽しそうにしている。イサベレ達もメイバイ派のようだ。

「正規のルートから登ってみにゃい?」

 苦労して登ったからにはすぐに入ってみたいところだが、正規ルートでは何が起こるか気になるのでわしは試したい。
 しかしリータしか手を上げなかったので二人で下りる事にしたら、皆もついて来てくれた。

 一番下まで階段を下りると、何も起きない。なので、手摺が両側に付けられた道らしき場所を歩く。そうして白い地面が切れる手前の場所に立つと、日本語と英語のアナウンスが聞こえて来た。

『ようこそ。時の賢者記念館へ。現在立っている場所から道なりに進んでください。それ以外の鉄色の場所に入りますと、防犯装置が作動します。大きな音や感電程度の装置ですが、心臓に持病のある方は死に至る場合もありますので、絶対に入らないでください』

 アナウンスが聞こえてホッとしたわしであったが、ツッコミたい事もある。

「感電程度って……黒い獣でも消し飛ぶ威力だったんにゃけど……」
「ん。私も生きている自信ない」

 わしのツッコミに、イサベレも同意してくれたので嬉しい。ただ、この場所に立っているとアナウンスがエンドレスに流れるようなので、二度目のアナウンスを聞いていたリータが何かに気付いたみたいだ。

「鉄色の場所なんてありましたっけ?」
「ううん。無いニャー。なんのことを言ってるんだろうニャー」

 リータの問いにメイバイも不思議に思っているので、わしは予想を言う。

「もしかしてにゃけど、鉄が千年の時を経て白魔鉱になってるのかもにゃ。でも、おっかしいんだよにゃ~」
「おかしい……ですか??」
「ほら? いまのところ調査は済んでにゃいけど、鉄がレベルアップするには魔力が関係しているはずにゃ。にゃのに、ここにはその魔力がかなり少ないにゃ。こんにゃ所でレベルアップするもんかにゃ~?」
「何その話……詳しく聞かせて」

 わしの説明にイサベレが食い付いてしまったが、言いたくない。イサベレはまだソウの地下空洞での研究に気付いていないので、ここはなんとしても阻止。

「猫の国の極秘事項にゃから言えないにゃ。どうしてもと言うのにゃら、わしの愛人をやめるにゃら教えてあげるにゃ~」
「じゃあ諦める」
「諦めるの早くにゃい??」

 国の利益より、イサベレはわしの愛人を取りやがった。もうこの際、わしも国の利益よりイサベレの愛人を阻止しようと思ったのに……

「ここで考えていてもしょうがにゃいし、ピラミッドに入ろうにゃ~」

 魔力の謎とイサベレの謎は残ってしまったが、わし達は正規の道を通り、ピラミッドの入口に移動するのであったとさ。


 入口では扉が閉まっていたが、先ほど聞いたアナウンスが流れて終了したら、再び扉が開いたので中に入る。そこは明るく真っ白な小部屋で扉すらない。
 なのでキョロキョロしていたら入口の扉が閉まり、「閉じ込められた」とか喋り「わしとコリスが見えづらい」とか笑っていたら、目の前の壁が横に開いた。

「「「「「にゃ~~~」」」」」

 小部屋の先は、真っ白な広い空間。ガラスのショーケースが多数設置されており、中には何かが見えるので、さながら美術館のようになっている。

『こちらのフロアは、時の賢者様が愛用された品が展示されています。年代事の愛用品が楽しめますので、是非とも順路通りにお進みください』

 フロアガイドのアナウンスを聞いたわし達は、またアナウンスが流れないように少し進んで、集まって喋る。

「順路通りって、どこに書いてるんにゃろ?」
「壁も床も真っ白でわからないニャー」
「ですね……あっ!」

 わしとメイバイがキョロキョロしていたら、床を見ていたリータがしゃがみ込んだ。

「にゃんかあるにゃ?」
「この窪みって、矢印じゃないですか?」
「あ~……ぽいにゃ。文字っぽいのもあるにゃ」
「えっと……幼少期コーナーとなってますね」
「つまるところだにゃ……わかりづらいにゃ!!」

 目を凝らしてやっと読めるのならば、案内板としては役立たずな気がする。壁にも何か書いているかも知れないから調べたかったが、イサベレのテンションがマックスみたいなので先に行ってしまったから皆で続く。


「ここは幼少期コーナーだったかにゃ? にゃにが飾ってあるにゃ?」
「器とスプーン。これで離乳食を食べたとなってる。フンスコ」

 ショーケースの中には紙に書かれた説明文に、木の器とスプーンか……そんなもんで興奮するものかね? 飾る必要も感じられないんじゃけど……そもそも物持ち良すぎるじゃろう。
 あ、時の賢者も次元倉庫を使っていたと玉藻が言ってたか。これって捨て忘れてただけじゃね? わしも次元倉庫を覚えたての時に拾った石が入ってるし……今度、断捨離しよっと。

 わしが無駄な事を考えていると、皆は床に書かれた矢印を探して先へと進んでしまった。

「次はにゃに?」
「器とスプーン。これでごはん食べてた。フフンスコ」

 いやいや、イサベレさん。それ、さっきもあったよ? 固形の物を初めて食べた記念って書かれているけども、いまでも買えそうですよ??
 ……ん? 待てよ……

「にゃあにゃあ? この展示物、おかしくにゃい?」
「そうですね……連続して器とスプーンは変かもしれません」
「そこもにゃけど~」

 リータも美術品として飾られている物がショボいと思っていたようだが、わしが言いたいのはそれじゃない。

「仮にこのピラミッドが千年前に作られたとして、木や紙がそのままの姿で残っているはずがないんにゃ」
「なんでニャー?」
「風化してボロボロになってにゃいとおかしいんにゃ」
「風化ってなんニャー??」
「にゃ? そこからだにゃ」

 メイバイ達にはわしの考えが伝わっていなかったので、風化の説明。形ある物は年月が経てば、老朽化したりして形が崩れ、最後には塵となると覚えさせる。
 その証拠に、木や紙の類いはそのままの姿では出土されず、ほとんどの出土品は土器や鉄製品だと説明した。

「にゃんでこんにゃに綺麗に残ってるんにゃろ……」
「このケースに秘密があるとかですかね?」
「あ、白いところ、何か模様があるニャー」
「ちょっと見せてにゃ~」

 わしはショーケースを色々な角度から見て、なんとなくの答えを得る。

「魔法陣っぽいにゃ。あ、時間停止の魔法……そんにゃの使ったら魔力が足りないかにゃ? 空気を抜いて真空にしてるのかもにゃ~……にゃ?」

 わしがブツブツと考えを述べていたら誰からも返事が無かったので、振り向いたら誰も居なかった。どうやら保管方法はさして気にならないから、皆は先に進んだようだ。
 なのでわしも「にゃ~にゃ~」言いながら追いかけ、皆の見学に付き合う。ただ、衣服も出て来るようになったのだが、どこでも売っているような物ばかりだったので皆の見学速度が速い。

 ようやく興味の湧く物が出て来ると、わし達は喋りながら鑑賞する。

「にゃかにゃかいい杖だにゃ~」

 千年前はハンターという職業は無く、時の賢者が傭兵ギルドに所属していた時代に使っていた杖が出て来たのだ。

「何個も白ダイヤが使われていますね……時の賢者様はお金持ちだったのでしょうか?」
「新人となってるから、この時は違うにゃろ。たぶん宝石はここに保管されている内に白くなったんじゃないかにゃ~? あ、この量にゃら、お金持ちだったのかもにゃ」
「時の賢者様の出生は謎だから、お金持ちとわかっただけでも凄い。フンスコ」

 リータと喋っていたらイサベレも興奮して話に入って来たので、面白い予想を言ってみる。

「前にも言った通り、時の賢者はわしの同郷みたいなもんにゃ。たぶん転生した時に、スサノオからいい家の子供からスタートさせてもらったと思うにゃ」
「転生って、いいことくめ」
「そうでもないにゃ。徳が多くないとリータのように貧乏に生まれたり、べティのようにどこだかわからない場所に飛ばされたりするにゃ。わしにゃんて徳が多かったのに、事故で猫になったにゃ~」

 転生のデメリットのついでに愚痴ってみたら、皆は猫の姿のほうがよかったとのこと。本当はお金持ちのイケメンに生まれ変わる予定だったと言っても、撫で心地が違うから猫でよかったと心底感謝された。
 それでもグチグチ言っていたら、リータに抱かれて次に移動。わしは撫で回されながら記念館の鑑賞を続けるのであった。


 写真を撮りながら順路通り進めば、時の賢者の装備品は豪華になり、南米で手に入れた白い槍を見たところで、このフロアは終了。
 矢印が書かれた壁の前で止まったら、アナウンスが聞こえて来た。

『時の賢者様の遺物はどうでしたか? 素晴らしい物ばかりだったでしょう。では、下の階に移動して、次は時の賢者様の軌跡を学びましょう』

 わしがあまりいい物は無かったと皆に言っていたら目の前の壁が開いたので、その小部屋に入った。

「また閉じ込められたにゃ」
「下に移動って言ってましたけど、この部屋はエレベーターなのでしょうか?」
「そのわりには振動がないニャー」
「本当だにゃ。でも、自動で動くエレベーターは気になるにゃ~。完全に魔法で動いてるのかにゃ~?」

 こんなエレベーターなら、キャットタワーで使えば人件費やエネルギーの節約になるので調べていたら、壁が開いた。
 その先は、先程までのショーケースがひとつも無く白い柱が多く並び、石板のような物が柱にくっ付いていた。

「シラタマさん。行きますよ?」
「ちょっと待ってにゃ~」

 リータ達は先に進んでしまったが、エレベーターの床には魔法陣のような物があったので、わしは調べてから外に出る。

『このフロアは時の賢者様の手記の写しが多数並んでいます。時の賢者様の冒険の数々をとくとごらんあれ』

 リータ達はこのアナウンスを聞いて、順路通りに最初の柱の前に立っていたのでわしも追いかける。

「にゃにが書いてるあるにゃ?」
「この柱は、赤ちゃんの時のことらしいのですけど……」
「そこからにゃ!?」

 まさか上のフロアと同じく、赤ちゃんの頃から手記を読まされるのだと知って、わしはげんなりするのであったとさ。

*************************************
さて……第十三章の新婚旅行編から時の賢者を追う旅を始めて、ついにクライマックス突入!
……345話からですので、物語の半分以上を使って追いかけているのですね。
まさかこんなに壮大な旅になるとは……
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