711 / 755
第二十五章 アメリカ大陸編其の四
701 時の賢者記念館にゃ~
しおりを挟む白いピラミッドの防犯装置を力業で捩じ伏せたわし達は、頂上から見えたなだらかな階段に下りてみる。
「あ、ここ、扉があるニャー」
「ここが入口ってことですかね?」
ピラミッドの中腹辺り、なだらかな階段の最上段には踊り場と扉があったので、メイバイとリータが指差す。わしはなんとも言えない顔で振り返ったら、また日本語と英語のアナウンスが流れて来た。
『ようこそ。時の賢者記念館へ。時の賢者様の軌跡や数々のアトラクションを用意していますので、どうぞお楽しみください』
そのアナウンスが終わると、扉が自動で開いた。
「めっちゃ歓迎されてるにゃ……」
「さっきまでの苦労はなんだったのでしょうね」
「早く入ろうニャー!」
わしが肩を落とすと、リータは苦笑い。メイバイはアトラクションと聞いて楽しそうにしている。イサベレ達もメイバイ派のようだ。
「正規のルートから登ってみにゃい?」
苦労して登ったからにはすぐに入ってみたいところだが、正規ルートでは何が起こるか気になるのでわしは試したい。
しかしリータしか手を上げなかったので二人で下りる事にしたら、皆もついて来てくれた。
一番下まで階段を下りると、何も起きない。なので、手摺が両側に付けられた道らしき場所を歩く。そうして白い地面が切れる手前の場所に立つと、日本語と英語のアナウンスが聞こえて来た。
『ようこそ。時の賢者記念館へ。現在立っている場所から道なりに進んでください。それ以外の鉄色の場所に入りますと、防犯装置が作動します。大きな音や感電程度の装置ですが、心臓に持病のある方は死に至る場合もありますので、絶対に入らないでください』
アナウンスが聞こえてホッとしたわしであったが、ツッコミたい事もある。
「感電程度って……黒い獣でも消し飛ぶ威力だったんにゃけど……」
「ん。私も生きている自信ない」
わしのツッコミに、イサベレも同意してくれたので嬉しい。ただ、この場所に立っているとアナウンスがエンドレスに流れるようなので、二度目のアナウンスを聞いていたリータが何かに気付いたみたいだ。
「鉄色の場所なんてありましたっけ?」
「ううん。無いニャー。なんのことを言ってるんだろうニャー」
リータの問いにメイバイも不思議に思っているので、わしは予想を言う。
「もしかしてにゃけど、鉄が千年の時を経て白魔鉱になってるのかもにゃ。でも、おっかしいんだよにゃ~」
「おかしい……ですか??」
「ほら? いまのところ調査は済んでにゃいけど、鉄がレベルアップするには魔力が関係しているはずにゃ。にゃのに、ここにはその魔力がかなり少ないにゃ。こんにゃ所でレベルアップするもんかにゃ~?」
「何その話……詳しく聞かせて」
わしの説明にイサベレが食い付いてしまったが、言いたくない。イサベレはまだソウの地下空洞での研究に気付いていないので、ここはなんとしても阻止。
「猫の国の極秘事項にゃから言えないにゃ。どうしてもと言うのにゃら、わしの愛人をやめるにゃら教えてあげるにゃ~」
「じゃあ諦める」
「諦めるの早くにゃい??」
国の利益より、イサベレはわしの愛人を取りやがった。もうこの際、わしも国の利益よりイサベレの愛人を阻止しようと思ったのに……
「ここで考えていてもしょうがにゃいし、ピラミッドに入ろうにゃ~」
魔力の謎とイサベレの謎は残ってしまったが、わし達は正規の道を通り、ピラミッドの入口に移動するのであったとさ。
入口では扉が閉まっていたが、先ほど聞いたアナウンスが流れて終了したら、再び扉が開いたので中に入る。そこは明るく真っ白な小部屋で扉すらない。
なのでキョロキョロしていたら入口の扉が閉まり、「閉じ込められた」とか喋り「わしとコリスが見えづらい」とか笑っていたら、目の前の壁が横に開いた。
「「「「「にゃ~~~」」」」」
小部屋の先は、真っ白な広い空間。ガラスのショーケースが多数設置されており、中には何かが見えるので、さながら美術館のようになっている。
『こちらのフロアは、時の賢者様が愛用された品が展示されています。年代事の愛用品が楽しめますので、是非とも順路通りにお進みください』
フロアガイドのアナウンスを聞いたわし達は、またアナウンスが流れないように少し進んで、集まって喋る。
「順路通りって、どこに書いてるんにゃろ?」
「壁も床も真っ白でわからないニャー」
「ですね……あっ!」
わしとメイバイがキョロキョロしていたら、床を見ていたリータがしゃがみ込んだ。
「にゃんかあるにゃ?」
「この窪みって、矢印じゃないですか?」
「あ~……ぽいにゃ。文字っぽいのもあるにゃ」
「えっと……幼少期コーナーとなってますね」
「つまるところだにゃ……わかりづらいにゃ!!」
目を凝らしてやっと読めるのならば、案内板としては役立たずな気がする。壁にも何か書いているかも知れないから調べたかったが、イサベレのテンションがマックスみたいなので先に行ってしまったから皆で続く。
「ここは幼少期コーナーだったかにゃ? にゃにが飾ってあるにゃ?」
「器とスプーン。これで離乳食を食べたとなってる。フンスコ」
ショーケースの中には紙に書かれた説明文に、木の器とスプーンか……そんなもんで興奮するものかね? 飾る必要も感じられないんじゃけど……そもそも物持ち良すぎるじゃろう。
あ、時の賢者も次元倉庫を使っていたと玉藻が言ってたか。これって捨て忘れてただけじゃね? わしも次元倉庫を覚えたての時に拾った石が入ってるし……今度、断捨離しよっと。
わしが無駄な事を考えていると、皆は床に書かれた矢印を探して先へと進んでしまった。
「次はにゃに?」
「器とスプーン。これでごはん食べてた。フフンスコ」
いやいや、イサベレさん。それ、さっきもあったよ? 固形の物を初めて食べた記念って書かれているけども、いまでも買えそうですよ??
……ん? 待てよ……
「にゃあにゃあ? この展示物、おかしくにゃい?」
「そうですね……連続して器とスプーンは変かもしれません」
「そこもにゃけど~」
リータも美術品として飾られている物がショボいと思っていたようだが、わしが言いたいのはそれじゃない。
「仮にこのピラミッドが千年前に作られたとして、木や紙がそのままの姿で残っているはずがないんにゃ」
「なんでニャー?」
「風化してボロボロになってにゃいとおかしいんにゃ」
「風化ってなんニャー??」
「にゃ? そこからだにゃ」
メイバイ達にはわしの考えが伝わっていなかったので、風化の説明。形ある物は年月が経てば、老朽化したりして形が崩れ、最後には塵となると覚えさせる。
その証拠に、木や紙の類いはそのままの姿では出土されず、ほとんどの出土品は土器や鉄製品だと説明した。
「にゃんでこんにゃに綺麗に残ってるんにゃろ……」
「このケースに秘密があるとかですかね?」
「あ、白いところ、何か模様があるニャー」
「ちょっと見せてにゃ~」
わしはショーケースを色々な角度から見て、なんとなくの答えを得る。
「魔法陣っぽいにゃ。あ、時間停止の魔法……そんにゃの使ったら魔力が足りないかにゃ? 空気を抜いて真空にしてるのかもにゃ~……にゃ?」
わしがブツブツと考えを述べていたら誰からも返事が無かったので、振り向いたら誰も居なかった。どうやら保管方法はさして気にならないから、皆は先に進んだようだ。
なのでわしも「にゃ~にゃ~」言いながら追いかけ、皆の見学に付き合う。ただ、衣服も出て来るようになったのだが、どこでも売っているような物ばかりだったので皆の見学速度が速い。
ようやく興味の湧く物が出て来ると、わし達は喋りながら鑑賞する。
「にゃかにゃかいい杖だにゃ~」
千年前はハンターという職業は無く、時の賢者が傭兵ギルドに所属していた時代に使っていた杖が出て来たのだ。
「何個も白ダイヤが使われていますね……時の賢者様はお金持ちだったのでしょうか?」
「新人となってるから、この時は違うにゃろ。たぶん宝石はここに保管されている内に白くなったんじゃないかにゃ~? あ、この量にゃら、お金持ちだったのかもにゃ」
「時の賢者様の出生は謎だから、お金持ちとわかっただけでも凄い。フンスコ」
リータと喋っていたらイサベレも興奮して話に入って来たので、面白い予想を言ってみる。
「前にも言った通り、時の賢者はわしの同郷みたいなもんにゃ。たぶん転生した時に、スサノオからいい家の子供からスタートさせてもらったと思うにゃ」
「転生って、いいこと尽くめ」
「そうでもないにゃ。徳が多くないとリータのように貧乏に生まれたり、べティのようにどこだかわからない場所に飛ばされたりするにゃ。わしにゃんて徳が多かったのに、事故で猫になったにゃ~」
転生のデメリットのついでに愚痴ってみたら、皆は猫の姿のほうがよかったとのこと。本当はお金持ちのイケメンに生まれ変わる予定だったと言っても、撫で心地が違うから猫でよかったと心底感謝された。
それでもグチグチ言っていたら、リータに抱かれて次に移動。わしは撫で回されながら記念館の鑑賞を続けるのであった。
写真を撮りながら順路通り進めば、時の賢者の装備品は豪華になり、南米で手に入れた白い槍を見たところで、このフロアは終了。
矢印が書かれた壁の前で止まったら、アナウンスが聞こえて来た。
『時の賢者様の遺物はどうでしたか? 素晴らしい物ばかりだったでしょう。では、下の階に移動して、次は時の賢者様の軌跡を学びましょう』
わしがあまりいい物は無かったと皆に言っていたら目の前の壁が開いたので、その小部屋に入った。
「また閉じ込められたにゃ」
「下に移動って言ってましたけど、この部屋はエレベーターなのでしょうか?」
「そのわりには振動がないニャー」
「本当だにゃ。でも、自動で動くエレベーターは気になるにゃ~。完全に魔法で動いてるのかにゃ~?」
こんなエレベーターなら、キャットタワーで使えば人件費やエネルギーの節約になるので調べていたら、壁が開いた。
その先は、先程までのショーケースがひとつも無く白い柱が多く並び、石板のような物が柱にくっ付いていた。
「シラタマさん。行きますよ?」
「ちょっと待ってにゃ~」
リータ達は先に進んでしまったが、エレベーターの床には魔法陣のような物があったので、わしは調べてから外に出る。
『このフロアは時の賢者様の手記の写しが多数並んでいます。時の賢者様の冒険の数々をとくとごらんあれ』
リータ達はこのアナウンスを聞いて、順路通りに最初の柱の前に立っていたのでわしも追いかける。
「にゃにが書いてるあるにゃ?」
「この柱は、赤ちゃんの時のことらしいのですけど……」
「そこからにゃ!?」
まさか上のフロアと同じく、赤ちゃんの頃から手記を読まされるのだと知って、わしはげんなりするのであったとさ。
*************************************
さて……第十三章の新婚旅行編から時の賢者を追う旅を始めて、ついにクライマックス突入!
……345話からですので、物語の半分以上を使って追いかけているのですね。
まさかこんなに壮大な旅になるとは……
0
お気に入りに追加
1,171
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる