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第二十四章 アメリカ大陸編其の三 南米で遺跡発掘にゃ~
696 宴会は大盛り下がりにゃ~
しおりを挟むコリスが元の姿に戻ると驚かせてしまったが、次々とマントを脱いで変わった者が現れると静まり返る。猫とリスよりはマシだが、混乱してしまったようだ。
「聞きたいことが多々あるにゃろうけど、話は中でしようにゃ~」
「は、はあ……」
クスコの長、カパックを差し置いて勝手に門を潜るわけにはいかないので、わしは催促。
その時、カパックが足を引きずって歩いていたので質問したら、御輿に乗って現れたのは偉そうにしていたわけではなく、緊急事態なのに走って駆け付けられないから乗っていたそうだ。
歩くのも遅いので、土魔法製の車椅子をプレゼント。わしが押してあげると言ったのに、ヒゲ男に奪われたので隣り合って歩く。
向こうもいろいろ聞きたいだろうが、わしだって聞きたい事がある。ここは譲ってもらっていろいろ聞き出した。
まずは国名。いちおうクスコの民となっているらしいが、国家という体制を取っていないそうだ。その理由が、黒い森が溢れた時に複数の部族が逃げて来たので、ひとつの名前に縛る事をやめたからだそうだ。
と言うことは、クスコ王国の民も残っているのではと聞くと、その当時の国王が大軍を連れて出兵したあとの、クスコ王国に不満を持つ者しか残っていなかったとのこと。
一部は警備の為に王国派が残っていたようだが、民衆に負けたようだ。そのおかげで、逃げて来た他部族も快く受け入れてもらったので、軋轢はまったく無いらしい。
ここの成り立ちさえわかれば、難しい話はあとで。目に見える遺跡みたいな街並みを質問しまくる。
ただ、先の質問に時間を使い過ぎて、気付いたら立派な王宮の前。興奮して走り出しそうになったが、なんとか耐えて奥へ。
宴の準備はいまから始めるらしいので、会場となる中庭に連れて行ってもらい、黒い獣をプレゼント。10メートルオーバーの獣を出したので、わしが解体してあげた。
「えっと……シラタマ王は、本当に王様なのでしょうか?」
「別に信じなくていいにゃ~」
カパックには、わしは強い兵士か何かに見えたらしいが、猫にしか見えないと思う。王様には絶対に見えないもん!
宴の準備を待つ間、わし達は見晴らしのいい場所で待機。別にバカだから高い場所が好きと言うわけではなく、ここから街並みを見たかったからだ。
ついでに航空写真も出してカパックにも見せてあげたら、驚きの連続で口調が丁寧な口調に変わっていた。
「これが王宮ですよね?」
「そうだろうにゃ」
「こ……こんなの軍事機密みたいなものじゃないですか!?」
「あ、そう言えばそうだにゃ。この辺が守りが弱そうだにゃ~。……破っても、にゃん枚もあるからもう遅いにゃよ?」
カパックに言われて気付いたが、こんなに精巧な地図は他国に取ってはお宝。写真を破こうとしても仕方がない。
「うぅぅ……いきなり王が現れたと思ったら、何もかも筒抜けなんて……」
「にゃんか悪かったにゃ~。お酒あげるから元気出すにゃ~」
カパックはクスコの防衛に絶対的な自信があったようだが、変な集団のせいで壊滅。わし達が異常なだけと言いながらお酌して、元気付けるのであった。
カパックの愚痴に付き合ってあげていたら、準備が出来たと呼びに来たので、中庭に集合して宴の開始。宮廷料理の数々が並んだが、味は薄い。
わし達のテーブルには、塩やべティ作「なんでも美味しくなる香辛料」も出して、それらを追い掛けして食べていた。
「ここの料理は味が薄いように思うんにゃけど、こんにゃもんにゃの?」
「はあ。遠い海に何度も足を運ぶのは危険なので……塩は貴重なもので……」
「ふ~ん……海まで取りに行ってるんにゃ~」
ここから海はけっこう離れていると思うけど、そうでもしないと塩が手に入らないってことか。たしか空から見ても、黒い森があったから抜けるのは大変そうじゃな。
「あと、この肉は、にゃんの肉を使ってるにゃ?」
「出来るだけ現地の料理を食べたいとおっしゃっていましたので、アル……」
「やっぱいいにゃ! わしのあげた肉を持って来いにゃ~!!」
ちょっと怖い事を聞き掛けたので、リータ達の耳に入れないように阻止。残りはコリスに食べてもらった。
だってアルパカの肉だったんじゃもん。リータ達が愛でていたのに食べていたと知ったらかわいそうなんじゃもん。
料理で話を弾ませていたら、ずっと気になっていた質問。
「あのわし達をずっと睨んでいる人達は、にゃんなの?」
「あ……不快でしたよね。アレは各部族の代表者です」
カパックが言うにはここクスコでは、住人をまとめる長を各部族の持ち回しで行っているとのこと。任期は三年。各々の部族を優遇しないように政策を見張る役目もあるらしい。
「けっこうピリピリムードのところに、わしが石を投げ込んでしまったってことかにゃ~?」
「いえ。普段は仲良くやってますよ。単純に他所者を入れた儂が気に入らないだけです」
「後腐れが残ってもなんにゃし、わしからも挨拶させてくれにゃ~」
わしのせいで部族間に亀裂が入っては申し訳無さ過ぎる。なので、猫の国産の清酒を注ぎ注ぎ、族長達をよいしょ。
うまい酒とツマミのせいか表情が緩んで来たので、最後の追い討ち。
「にゃんか余興でもしようにゃ~! クスコの強者……出て来いにゃ!!」
わしが体を反りながら叫んでも、言葉が通じないので全員ポカン。なので、「マジで?」って顔のカパックに通訳してもらい、各部族の猛者を出してもらった。
「一人ずつ相手するのも面倒にゃし、一気に掛かって来いにゃ~~~!!」
またわしが叫んでも通じず。カパックも空気を読んで、すぐに通訳してくれないかな~? スベっているみたいで恥ずかしいんじゃ。
遅れてわしの言葉が伝わったら、猛者の集団はへらへら笑って、一番大きな男が前に出て来た。
「こんだけナメられちゃあ、王様だからって手加減しねぇぞ?」
「そりゃ助かるにゃ~。手加減にゃんてされたら、わしの強さが伝わらないんだからにゃ」
「くはははは! このちっこいの、面白いこと言ってんぞ!!」
大男は笑いながら通訳してくれるが、このままでは場がシラケてしまう。
「いいから全員で掛かって来いにゃ~」
「ハッ! 俺一人で十分だ!!」
大男はそれだけ言って、上からパンチ。わしは人差し指を立てて、そのパンチを受け止めた。
「にゃ~? ぜんぜん足りないにゃ~」
「ま、まぐれに決まっている!!」
まぐれでそんな芸当が出来るわけがないので、大男以外は静かなもの。大男はパンチキックと何度も攻撃するが、全て人差し指で捌いてやった。
「お前は飽きたから退場にゃ~」
キックを掴んだら、空にぶん投げるだけ。大男は空に浮かぶお星様となったのであった。
「余興って言ってるんにゃから、盛り上がってくれないかにゃ~?」
大男が消えて、全員が空を見上げる中、わしはカパックの袖を引っ張って通訳してもらう。
「さっきの男は、どこへ……」
「そろそろ落ちて来るにゃ」
「はい??」
カパックがとぼけた声を出した頃に周りの人が空を指差して騒ぎ出したので、わしは風魔法を使って大男をふわりと下ろす。
その大男にわしの強さの説明を頼みたいところだが、気絶していて役に立たない。
「ほれほれ~? まだ余興は続いてるんにゃよ~? にゃんで誰も掛かって来ないんにゃ~??」
わしの言葉が通訳されると、猛者達は後退る。
「こうも盛り上がらないにゃら、もういいにゃ。全員、気をしっかり持てにゃ! じゃにゃいと死ぬからにゃ!!」
カパックの通訳を確認して、わしは隠蔽魔法を解いて殺気を漏らし、すぐに掛け直した。
その間、およそ一秒……
その一秒で、クスコに住む全ての者が、恐怖して震えるには十分だった。
「みんにゃ~。気絶している人を起こしてあげてにゃ~」
「「「「「はいにゃ~」」」」」
そんな覇気に晒された近くに居る者は、約半数は気絶。残り半分は、立ってられずブルブル震えて何かを祈っている。
「お~。カパックは気絶してるもんにゃと思っていたけど、昔はにゃかにゃかの実力者だったんじゃにゃい?」
「も……申し訳ありませんでした!」
「にゃに謝ってるにゃ~。それより、族長達と酒でも飲もうにゃ~」
「は、ははっ!」
族長達に近付くと謝りながら命乞いして来たので、わしは一升瓶をドンッと置いて笑顔を見せる。それからまた全員にお酌しながらご機嫌取り。
まったく緊張は取れないが、わしは全員に念話を繋いで語り掛ける。
「まぁさっきので、カパックがわしをもてなしている理由がわかってくれたにゃろ?」
ちょっと強引だが、わしの強さを知った族長達は高速で首を縦に振ってくれたので、カパックへの非難の声は無くなっただろう。
「そこでお願いがあるんにゃけど……」
イエスしか言えない状況の中でのお願い。全員、無理難題を吹っ掛けられ、断れないと察した。
「ここから北にあるマチュピチュにも人間が生き残っているんにゃ。一度だけでもいいから、会ってやってくれないかにゃ? お願いにゃ~」
わしのお願いは、思っている事と違い過ぎたので、カパックの反応も遅れた。
「あの……どういうことでしょうか?」
「マチュピチュでは、クスコ王国の滅亡も知らずに暮らしているんにゃ。わしのほうから伝えてもいいんにゃけど、やっぱり生き証人から聞いたほうが確実にゃろ? その過程で仲間に入れて欲しいとなったら、他の部族と同じ扱いをしてやって欲しいんにゃ」
「ちょ、ちょっと待ってください。整理させてください」
カパックはまだ混乱しているようなので、族長達と相談するように言っておく。
ここまでのやり取りを説明すると、余興と託つけて脅しまくったのは、部族どうしの軋轢を生まない為という理由もあるが、マチュピチュの民が孤立しているなら助けてあげたかったのだ。
しかし、クスコ王国の生き残りはあまりいい印象を持たれていなっかったので、受け入れてもらうには脅すほうが手っ取り早い。下手したら、猫の国に入ってしまうし……
わしが黙ってマチュピチュの猫の国入り阻止を考えていたら、カパック達の結論も出たようだ。
「仲間に入れるのは、まずは話をしてからということではダメでしょうか?」
「うんにゃ。それでいいにゃよ。あ、そうそう。マチュピチュから塩田に行ける道があるみたいにゃし、仲良くしたら塩も手に入るかもにゃ」
折衷案みたいな案もわしは快く許すと、またカパック達はゴニョゴニョやってからこちらを見た。
「その塩田……先に教えて欲しい情報でしたね……」
「にゃんで~~~??」
「いえ、なんでも……」
カパックは口を濁して理由を教えてくれないが、念話で盗み聞きしていたから、質問はただの嫌がらせだ。
その理由とは、そんなメリットがあるなら友好的にしてもよかったそうだ。なので、わしの脅しはまったく必要無かったかもしれない……
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