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第二十ニ章 アメリカ大陸編其の一 アメリカ横断ウルトラ旅行にゃ~

637 教会に潜入にゃ~

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「にゃにゃにゃ~~~ん! ムグッ」

 イサベレが教皇を殴ったと聞いて驚いたわしは声に出してしまったが、リータが慌てて口を塞いでくれた。そのせいで三途の川が見えたけど、リータが慌てて活を入れてくれたから息を吹き返した。

「ば、場所を変えようにゃ」

 また大声を出してしまっては、盗聴している者に聞かれかねない。森の我が家に転移して、晩ごはんを食べながら話を聞く。


 朝に別れたイサベレ班は、貴族街のような場所を案内されたそうだ。しかし入る店入る店、イサベレ達の服装は「田舎者丸出し」とコソコソと笑われ、苛立ちが溜まったとのこと。
 貴族街を少し見てから教会に出向くと、神父やシスター、教皇が勢揃いでお出迎え。ようやく特使らしい対応をしてくれたと感じたらしいが、イサベレ以外の対応は酷かったらしい。

 イサベレだけチヤホヤされて、ランチに出された食事もランク違い。さらにマナーがなっていないとクスクス笑われて、コリスがキレたそうだ。いや、食事が足りないと文句を言ったらしい。
 いちおうそれで料理は出て来たが、それは奴隷用だったらしく、周りがニヤニヤ笑いながら見ていたとのこと。コリスは気にせずペロリと食べて、足りないとまた文句。
 リータもイライラしていたので、黒いスーツケースに入っている料理の中で一番豪華な食事を出して、猫パーティで食べたとのこと。
 蒲焼きやバーベキューソースなど、匂いの強い物もあったので、見ている者全員、漏れなくよだれを垂らしたらしい。

 これで猫パーティ全員勝ち誇った顔になって、くれくれとうるさかったから、バーベキューを一本だけならあげると意地悪したそうだ。
 だが、出した料理はメガロドン肉だったから、一口食べた者は全員倒れたので、毒を盛ったと疑われたんだって。
 目覚めてからは、いちおうこの世のモノとは思えないほど美味しいとの評価で、もっとくれと凄かったらしいが、無視したらしい。


 場所は変わって、礼拝堂で歓迎会が開かれたらしい。ここでも、イサベレ以外は塩対応。リータ達は教徒が座る席の一番後ろに座らされて讃美歌を聞き、イサベレは教皇の隣で座っていたとのこと。
 さすがに、一人だけこの厚待遇はおかし過ぎるとイサベレが理由を聞いたら、あとから話すの一辺倒。歓迎会の最後、肥え太った教皇の有り難く長いお話のあとに、ようやくその理由が告げられる。

「本日、しゅからの御使い、ジャンヌ・ターク様が降臨された。皆も祈りを捧げるのだ~」

 とのこと。リータに聞いたら、珍しくイサベレの顔が引きってたんだって。

 そりゃ説明もなしに、御使い様扱いをされたら困るだろう。もちろんイサベレも勝手な事をするなと言ったらしいがまったく話を聞いてくれず、さらに話があると、一方的に個室に連れ込まれたらしい。

 そこで、聖職者の試練が行われた……

 まさか冗談で言った処女検査が行われたと聞いて、わしは開いた口が閉じなくなった。イサベレもわしの冗談を聞いていたから怒りの前に呆れたらしいが、教皇のいやらしい顔と気持ち悪い手付きにキレて、ぶん殴ったんだって。

 しかも一発で終わらずに、一瞬で五発入れ、教皇は壁の一番上まで吹っ飛び、ぶつかってから床にドサッと落ちたとのこと。これで教皇は全身複雑骨折。瀕死の重傷。生きているのが奇跡。

 イサベレもやり過ぎたとあわあわしたらしいが、幸い部屋の中には二人しか居なかったので、オニヒメとコリスをちょいちょい呼び込んで治してもらったようだ。
 なんとか息を吹き返した教皇は記憶が飛んでいたので、何も告げずにイサベレ達は教会を脱出。車にも乗り込まず、走って公爵邸まで戻って来たそうだ。


「ゴメン……」

 しゅんとして謝るイサベレの頭をわしは撫でる。

「ま、誰も追って来てにゃいってことは、おとがめ無しってことにゃろ。わしが近くに居たら、もっと酷い目にあわせているにゃ~」

 わしの意見に、リータ達もウンウン頷いてイサベレを励ましていた。これで報告は終わりかと思ったら、オニヒメが何かに気付いていたらしい。

「ちょっと気配を消して教会の中を調べたんだけど、すっごく嫌な感じがする場所があったの」
「ふ~ん……にゃにがあるんにゃろ??」
「おばけでも出そうな感じだったから、すぐに引き返しちゃった」

 オニヒメって、おばけなんて怖いんじゃ。記憶の無い時は、百鬼夜行を見ても怖がっておらんかったのに……かわいらしい弱点があったもんじゃ。ウンウン。

「そっちはあとで忍び込んでみるにゃ。だいたいの間取りを教えてくれにゃ~」
「正面のドアから入ってね……」

 オニヒメから話を聞いたら、次はわしの報告。井戸端会議や議会に参加し、見聞きしたこと、ジョージ13世と会って意気投合したまでを説明する。

「すっごい情報を手に入れたのはわかりましたけど……」
「「「「井戸端会議??」」」」
「おばちゃん達の情報網をニャメたらアカンにゃ~」

 たしかに無駄話が多くて情報量は少なかったが、これで国民の財布事情がわかったのだ。キャシーさんの下世話な話、様々だ。

「まぁアレにゃ。王様は悪ではないにゃ。悪いのは議員にゃ。明日会ってたしかめてくれにゃ。それとにゃ……」

 最後に明日の事件の打ち合わせ。やり過ぎに注意するように言ってから、ここでお風呂。皆の苛立ち解消の為に、高級薬草の入った露天風呂だ。


 お腹もいっぱい、綺麗さっぱりになったら転移。すると、公爵邸は騒ぎの最中。何事かとリータが部屋から外に出たら、特使一団が行方不明で騒いでたんだって。
 いったいどこに行っていたと部屋に雪崩れ込んで来そうになったので、わしはバレる前に窓から脱出。外から念話で「教会を見て来る」と言ってその場を離れた。

 失敗したな~。夕食前に帰ったんじゃから、呼びに来るのは目に見えておった。また食べ損ねてしまったわい……じゃなくて!
 抜け出してごはん食って来たとか、適当な嘘を言ってくれよ~? これぐらい、わしが指示を出さなくてもいけるはず。嘘が苦手な者が多いけど、大丈夫かな……

 リータ達の事を心配しつつ、屋根をピョンピョン飛んでいたら教会に到着。大きくて開けっ放しの窓がいっぱいあるが、窓から入るとオニヒメから聞いた順路がわからなくなるから、正門から入る事にした。
 もう真っ暗なので、影には困らない。影魔法で影の中を移動し、見張りのサブマシンガンを持った男の足元を抜けて、無事、教会に潜入した。

 たしかこっちのほうに……

 教会の中も薄暗かったので影の中を移動して、オニヒメの辿った道順通りに進めば、本当におばけが出そうな階段を発見した。

 お~。オニヒメが言う通り、年期が入っていて気持ち悪い。心なしかうめきき声のような音も聞こえるし……うっ。変な想像してしまった。ただの風の音、風の音……

 雰囲気のある階段に少しビビりながら階段を下りていたら、呻き声がはっきりと聞こえて来てチビりそうになった。
 しかしその声はわしを急がせ、重厚な木のドアに引き込まれ、音の発生源までノンストップで連れて来られた。

 ぐっ……やはり、拷問部屋じゃ……

 影に潜ってドアから入ったら、そこでは両足がひしゃげてボロボロの男が石のテーブルに張り付けられ、拷問を受けている最中であった。

「主はお優しい。邪教徒であるあなたにも許しを与えてくれます! さあ、この試練を全て乗り越えられたら、あなたもキルスト教の信者! 頑張って耐えるのです!!」
「ぐぎゃああぁぁ~~~!!」

 イサベレ達から聞いていた特徴から察するに、豪華な法衣をまとっている太った老人は教皇。本日は試練の予定はなかったのだが、気付いたらイサベレ達の姿が無かったので、原住民で憂さ晴らししていると思われる。
 その教皇が嬉々として声を張りあげる中、黒ずくめのデカイ男が重量のある円形の物体を落とす。すると原住民の左腕がグシャッと潰れ、とても人間が出すような声とは思えない叫び声をあげた。

「もう一本です。それが終われば、あちらのユタの揺りかごですからね。他の方も早く試練を受けたがっています。頑張りましょう!」

 教皇は嬉しそうにピラミッドのような物を指差し、次に原住民だと思われる拘束されて怯えている老若男女に手の平をかざした。
 その瞬間、またグシャッと肉が潰れる気持ち悪い音が鳴り、原住民の男から断末魔のような声があがった。

 パシャッ……

 突如、光を浴びせかけられた一同は目を瞑り、体が固まる。

「写真が出来るまで、ちょっと待ってにゃ~」

 教皇達が目を開けると、そこには人型のわし。インスタントカメラを首から下げて、写真を右手でフリフリしている。

「ビューマ? いや……猫??」

 一同見た事のない立って喋る猫を見て混乱中。そのお陰で時間が稼げ、絵が浮き出て来たので、わしは教皇の先ほどの質問に答えてあげる。

「猫だにゃ~」
「ど……どこから入った!? お前達! なに寝てるんだ!!」

 一通り驚いた教皇はキョロキョロして、わしが意識を奪った男達に怒鳴り付けているが無視して、出来立てホヤホヤの写真を見る。

「うっわ……気持ち悪い顔にゃ~。お前って、聖職者じゃにゃいの? よくもまぁ、こんにゃ気持ち悪い顔が出来るにゃ~。吐きそうにゃ~」

 わしが吐きそうな演技をしたら、教皇の血管が切れたようだ。

「この猫……私が気持ち悪いだと……主から一番愛されている教皇であるこの私が気持ち悪いわけがなかろう! 貴様は主ではなく、私みずから断罪してやる!! 捕まえろ~~~!!」

 教皇が怒りのあまり二人の大男をけしかけるが、わしは少しだけ速く動いて、教皇の隣に移動する。

 ボトッボトッ……

 その直後、わしを見失った大男達は、仲良く右手を落とした。

「「ぎゃっ……アレ?」」

 斬られて腕の先が無くなった大男達は痛みを感じないので、不思議そうに血が吹き出す断面を見ている。

「痛くないにゃろ? でも、早く拾ってくっ付けにゃいと、出血多量で死んでしまうにゃ。騙されたと思ってくっ付けてみろにゃ」
「「う、うわ~~~!!」」

 死んでしまうと聞いて、大男達は焦りながら腕を拾って断面を合わせる。すると腕は綺麗にくっ付いたようなので、隣に立って口をあわあわしている教皇に声を掛けてみる。

「これこそ、神の奇跡にゃ~。お前んとこの主とやらは、こんにゃこと出来るにゃ?」
「で……出来る! 出来るに決まっている!!」
「言ったにゃ~? じゃあ、次はお前の腕を斬り落としてやるにゃ」
「ヒッ……ぎゃああぁぁ~~~!」

 腕を斬られると聞いて教皇は飛び退くが、わしは素早く追いかけて、鋭い爪で右腕をポトリと落としてやった。

「腕が~! 腕が~~~!!」
「ほれ、早く奇跡を見せてくれにゃ」
「ぐっ……ううぅぅ」

 神業は【猫撫での剣】があっての代物。

「な、なんで……なんで付かないんだ~~~!!」

 いくらくっ付けようとしても、腕はボトボト落ちるので、教皇は慌てふためいている。

「しょうがないにゃ~。痛いの痛いの飛んで行けにゃ~」

 教皇にはまだ死なれては困るので、わしは回復魔法で治してあげた。

「な、治った……」
「ほんで……お前の主とやらは、にゃにをしてくれたにゃ?」
「こ、この奇跡こそが、主の奇跡です!!」
「それはわしが主ってことなのかにゃ??」
「主は……主は、もっと尊い存在……」
「にゃにもしにゃい奴が尊いにゃ~……バカにゃの??」

 わしが愚弄すると、教皇は少し元気が出たのか、二人の大男をまたけしかける。

「この猫を捕まえ……丁重に扱いなさい!」

 言葉を変えても意味はない。近付いた瞬間に二人は殴り飛ばし、教皇の足も土をまとわせ、動けないようにしてしまう。

「くっ……くそ! 動けない」
「お前の相手はあとにゃ。すぐに治してあげられなくてゴメンにゃ~」

 わしは両手両足を複雑骨折している奴隷に近付き、回復魔法で治して鎖も切ってあげる。そして仲間の元へ連れて行き、全員の怪我も治してあげるのであった。


*************************************
☆注☆
 作中に「ユタの揺りかご」という拷問器具が出て来ますが、誤字ではなく、この世界で呼ばれている名称です。
 ちなみにこの拷問器具の正式名称は「ユダの揺りかご」。ピラミッドの尖った部分に人を落とす拷問となっていました。
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