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第二十ニ章 アメリカ大陸編其の一 アメリカ横断ウルトラ旅行にゃ~

633 待遇改善にゃ~

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 あ……調子に乗り過ぎた!!

 モヒカン奴隷官をキャット百裂拳で倒したわしは、普通の人間に使う技じゃなかったと今ごろ気付き、必死の治療で一命を取り留めた。
 残りの二人は気絶した程度だったので、土魔法の荷車に乗せて、モヒカンの転がっている一番奥にご案内。全員を土魔法で床にうつ伏せで張り付けると、口に詰め物をしてから水をぶっかける。

「「「モゴッ!?」」」
「頭の中で言葉を浮かべたらわしと喋れるにゃ」
「「猫!?」」
「タヌキ!?」
「タヌキって言ったお前は死刑決定にゃ~~~!!」

 モヒカンがタヌキとか言うから、手加減をミスったのだ。いまだにタヌキと言うからキレるのだ。わし、悪くない!!

 ひとまずモヒカンには、ペチコーンとネコパンチ。頭を軽く叩いただけだが、顔面を床にぶつけて鼻血ブーとなった。

「ま、いますぐ殺してもいいんにゃけど、お前は自分の両手両足をわしが食べて消化してからにゃ。うんこ食わしてやるから覚えておけにゃ」
「なっ……両手両足を切られた時点で死んでしまう……」
「それで死ねると思うにゃよ? 首だけでも生かしてやるからにゃ」
「うっ……な、何故、そんな酷いことを……」
「自分の胸に聞いてみろ……と、言いたいとこにゃけど、わからないにゃろ? だから、ここに居る奴隷を放つにゃ。それでわかるかにゃ~?」
「そ、それだけは! 俺は上の指示に従っただけなんです! 本当はやりたくなかったんです!!」
「にゃ? にゃんだ~。ちゃんとわかってたんにゃ~。じゃあ、奴隷紋だけで勘弁してやるにゃ~」
「奴隷紋とは? ……ぎゃああぁぁ~!!」

 口を塞いでも、念話を繋いでいてはうるさいので切断。耐え難い苦痛にもがき苦しむ三人の奴隷官を奴隷に落とすと、立たせて話をする。

「さてと、お前達は今日からわしの奴隷にゃ」
「え……何を言っているのでしょうか?」
「誰が喋っていいと言ったにゃ~!!」
「「「………」」」
「にゃんてにゃ。喋ってもらわないと困るにゃ。この建物の人員を……モヒカン、喋れにゃ!」
「はっ!」
「返事はワンにゃ!」
「ワン!!」


 モヒカン奴隷官から得た情報によると、この施設には十人のアメリヤ兵が常駐してるとのこと。しかし、中に入るのは、四、五人程度で、あとは外で見張っているらしい。
 管理者は誰かと聞いたら、誰だかわからない貴族の名前を出された。なので、実質的に奴隷を管理している人物を聞いたらモヒカンのようだ。

 これならば楽だと思い、中に入る者を制限させる。どうしても入らなくてはいけない者は、いますぐ連れて来れるなら連れて来いと言ったら、二人連れて来てくれた。なので、そいつらも奴隷紋。
 これでこの施設を完全に制圧。奴隷に暴力を振るう事を禁じ、わしの指示があるまでいつも通りの仕事をさせる。もちろん、上の者には「いつも通り」と嘘の報告をさせるので、数日ぐらいならバレる事はないだろう。

「あとは~……お前達は奴隷のメシにゃ。お前達の食う分はここに運べにゃ。それだけじゃ足りないだろうから、軍の食料をバレないようにかっぱらって来いにゃ」
「わふん……」
「不満にゃの?」
「いえ!」
「そうだろにゃ。お前達が好んで食わせていたんだもんにゃ。嬉しいにゃろ?」
「ワン!」

 モヒカンに指示を終えると、鉄格子の鍵を全て開けさせ、地下に居る全ての者を集める。そして、さっき念話を繋いだ者に通訳を頼んで説明する。

「え~。近々、奴隷は解放されるにゃ。あ、騒がないでくれにゃ。……それまで、いつも通り動いてくれにゃ。変に動かれると、わし達の作戦が失敗して、死人がいっぱい出ることになるからにゃ。わかったにゃ?」

 皆が頷くと、次の行動に移る。

「じゃあ、体が痛い人……通訳の人からでいいにゃ。こっち来て座ってくれにゃ」

 通訳に痛い場所を聞いて回復魔法で治したらめっちゃ拝まれたけど、早く何が起きたか説明して並ばせろと命令。次々と奇跡を目撃して拝む人が増えるが、わしは無視。
 最後に回していた白人の男女を治療したら、女性が話し掛けて来た。

「あの……あなた様は、いったい何者なのでしょうか?」
「あ~。名乗るのを忘れていたにゃ。わしはシラタマ。東の国の特使、イサベレ様の部下にゃ」
「東の国?? アメリヤ王国以外にも国があるのですか!?」
「いっぱいあるにゃ~。アメリヤ王国の先祖って、東の海を越えて来たのは知ってるにゃろ? 逆に向かった者がいくつもの国を作ったんにゃ」
「そ、それじゃあ、そのイサベレ様が、この国を見て、奴隷を解放してくれるということでしょうか?」
「そうにゃけど……この国の形が変わるかもしれないってことだけは覚悟しておいてくれにゃ」
「腐った議員が居なくなるなら、東の国に吸収されたほうがいいはずです! イサベレ様に、そうお伝えください!!」
「う、うんにゃ」

 そこまでまだ考えておらんのじゃけど~? 女王は、アメリヤ王国を吸収したら喜ぶかな? ……うん。鉄砲や車の技術付きじゃから喜びそうじゃ。吸収合併は阻止しとこ。
 しかし、このお姉さん、手を取るのはいいんじゃけど、肉球をプニプニしないで欲しい。こちょばいんじゃ。

 わしが迷惑そうにしていたら、男性にも質問される。

「この奴隷官達は、どうしてあなたの言うことを聞いているのでしょうか?」
「わしが不思議な力で傷を治したのは見てたにゃろ? その魔法という力で奴隷にしたんにゃ」
「はあ……そんな力があるのですか……」
「信用できないかにゃ?」
「い、いえ。我々を檻から出すなんて、ありえないことだから信用できます」
「あ、そうにゃ。忘れていたにゃ。通訳お願いにゃ~」

 わしはモヒカン奴隷官達の使い道を、お願いと共に説明する。
 モヒカン達はわしの所有物となったから攻撃しないこと。これからモヒカン達に食料を運ばせること。少しは待遇改善させること。本来の業務はさせるから、従う振りは必ずすること。これらの事を、この建物に居る全ての者に伝えること。
 最後に、必ず報いは受けさせるから、恨みがある者は抑えるように頭を下げた。

「「「はっ! シラタマ様の仰せの通りに!!」」」

 その結果、いい返事をもらえたが、通訳とアメリヤ国民以外は何を言っているかわからない。でも、拝んでいるから少し訂正する。

「東の国の特使、イサベレ様の指示でわしは動いているからにゃ? その旨、ゆめゆめ忘れるにゃ~」
「「「「「はは~」」」」」

 これで白猫教の信者は増えないはず。わしはそう確信して、最後の言葉を残す。

「いいにゃ? みんにゃは必ず解放されるにゃ。それまで、どんにゃに惨めにゃ目にあっても反抗するにゃ。絶対に生き残れにゃ。生きていてこそなんぼにゃ。わかったにゃ?」
「「「「「はい!」」」」」
「モヒカン達も、みんにゃの味方をするんにゃよ~?」
「「「「「ワン!」」」」」
「それじゃ、また会える日を楽しみに待っていてにゃ~」

 こうしてわしは、犬の鳴きマネをしつつ敬礼するモヒカン奴隷官達と、それを見て首を傾げる原住民やアメリヤ国民に見送られ、建物から抜け出すのであった。


 もう真っ暗じゃ。早くリータ達と合流せねば……反応は向こうじゃな。

 わしはリータ達に渡した宝石の位置を特定する魔法を使いながら屋根をぴょんぴょん飛び交い真っ直ぐ向かうと、大きな屋敷の前で止まる。

 ここ? なんだか貴族でも住んでいそうなぐらいデカイ建物なんじゃけど、VIP対応でも受けておるのかのう。しまったな~。こんな事ならば、晩メシまでに戻ってくればよかった。

 闇夜に紛れて庭を駆け抜けると屋根に飛び乗り、宝石の反応が一番近いバルコニーに下りて、中を覗き見る。

 よしよし。全員、揃っておるな。開けてもらおっ……いや、ひとつ気になる事がある。皆に念話を繋ごう。

 わしは窓をカリカリする事をやめて、皆に念話で喋るように言ってから、リータに中に入れてもらった。

「ただいまにゃ~」
「おかえりなさい。でも、どうして念話なのですか?」
「敵地だからにゃ。ちょっとみんにゃで、家具の後ろや下を見てくんにゃい? にゃにか見付かっても、声に出さないでにゃ~」
「はあ……」

 皆は納得していなかったが、わしの指示通り家具を確認して、さっちゃん2のままのコリスがわしの探していた物を見付けてくれた。

「これ~?」
「それにゃ! さすがコリスにゃ~」
「やった! ホロッホロッ」
「シーーーにゃ~」

 コリスが「ホロッホロッ」と声を出してしまったので、静かにするように言いながら壁にくっ付けられた鏡台の下をわしが覗いていると、メイバイが覗き込んで来た。

「あの黒いのは何ニャー?」
「盗聴機にゃ。って、言ってもわからないかにゃ?」
「うんニャー」
「要は、繋ぎっぱなしの通信魔道具をこっそり置いて、離れている場所で聞いているんにゃ」
「あっ! だから王国に知られたくない内容は、念話でするように言ってたんニャー!!」
「まさか本当にあるとは思っていなかったんにゃけど、注意しておいて正解だったみたいだにゃ」

 わしがウンウン頷いていたら、リータも話に入って来る。

「それでその盗聴機はどうするのですか?」
「知らない振りして、お偉いさんに会う時に持って行ってにゃ。交渉しやすくなるにゃろ」
「シラタマ殿は意地悪ニャー」
「にゃはは。わし達をニャメてるのが悪いんにゃ~。どうせ、アメリヤ人にニャメられたにゃろ?」

 わしが質問すると、リータとメイバイはぷんぷん怒りながら今日あった出来事を話してくれる。

「そうなんですよ! 獣を狩る時に剣を使うって言ったら大爆笑だったんですよ~」
「魔法も使うって言おうかと、何度も思ったニャー! 私達に簡単に倒されたくせにニャー」
「目に浮かぶにゃ~。たぶん、鉄砲のほうが強いと思ってるんにゃ~」

 どうやら二人は、わし達の戦闘方法で笑われた事だけじゃなく、行きたい場所には一切連れて行ってもらえず、この屋敷に軟禁された事にも怒っているようだ。

「ふ~ん。そう来たにゃ~。ま、街並みにゃんかはわしが見て来たから、あとで聞かせてあげるにゃ。その前に、どんにゃ人に会ったか教えてにゃ~」
「最初に会った人は、ここの主さんです。公爵と紹介されました」
「やっぱりお偉いさんだったんにゃ。美味しい物は出たにゃ?」
「はい。でも、エミリちゃんの料理のほうが美味しかったですけどね」
「そうかニャー? アクアパッツァってのは美味しかったニャー! あと、マリネもニャー!」
「にゃ!? 魚介類が多い料理なんにゃ! パエリアは無かったにゃ~??」
「それは無かったニャー。でも、美味しそうな響きニャー!」
「あ、お米を使うからあるわけないにゃ。今度、エミリに作ってもらおうにゃ~」
「わたしも食べたい!」
「私も~」

 食べ物の話になったらコリスとオニヒメも入って来たので盛り上がっていたら、イサベレが冷たい声で割り込む。

「奴隷解放の話は?」
「「「「「にゃ……にゃははは」」」」」

 そう。わし達がアメリヤ王国に訪れた理由は、奴隷解放。目的を忘れて食べ物の話で盛り上がっていては、怒られても仕方がない。珍しくわしと一緒に怒られてくれたリータ達も、苦笑いしか出来ないのであったとさ。
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