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第二十ニ章 アメリカ大陸編其の一 アメリカ横断ウルトラ旅行にゃ~

625 敵の正体にゃ~

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 モノンガヘラ族の少年少女にはジュースのおかわりを催促されたので、もう一杯ご馳走。もっと欲しいなら、話が終わってからと約束させた。

「どこから話をしたらいいか……」
「今日、一日の出来事を話してみたらどうかにゃ? あいつらと会ったのは、いつかによるけどにゃ」
「あ、今日です……」

 テナヤは暗い顔をして話が整理できていなそうだったので、わしが助言したら、今日の朝からの出来事を一から語るのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 テナヤの朝は早い。兄弟や家畜の世話、時には狩にもついて行く。いつも通り遅い朝食を取り、いつも通り早い夕食を取って眠りに就く毎日。

 今日もいつものように兄弟や家畜の世話を終えて朝ごはんを食べていたら、東から聞いた事もない音が聞こえて来たそうだ。
 何事かと外に出ると、東から何個もの四角い塊が砂煙を上げて進んで来た。もちろんモノンガヘラ族はパニックになったが、酋長しゅうちょうが宥め、獣対策の戦闘準備に入った。
 そうして槍を構えて待っていたら、突っ込んで来ると思っていた四角い塊は集落の目の前で止まり、驚く事に、そこから人間が降りて来たのだ。

 この時、モノンガヘラ族は獣じゃないとわかって安心したらしい。
 しかし、その安心は一度の弾ける音で掻き消される。

 軍服の男達に近付いた一人のモノンガヘラ族が突然倒れたのだ。一瞬、何が起こったかわからなかったモノンガヘラ族は、倒れた男に近付く仲間がまた倒れて、ここで殺されたのだと理解した。
 怒ったモノンガヘラ族は槍を構えて走り出したが、軍服の男達に近付く事も出来ずに倒れる者が続出。そんな状況のなか酋長は、獣に襲われて集落が壊滅するケースに使われる最終手段を用いる。

 それは、馬を操れる少年少女を逃がし、モノンガヘラ族の血を絶やさないこと。

 テナヤを含む少年少女は二人の男に守られてすぐに出発したので、このあとの事はわからない。必死に逃げる事がモノンガヘラ族の為なのだから、歯を食い縛って逃げ続けるしかなかったのだ。
 しかし敵はそれは許してくれず、四角い塊が追いかけて来た。その四角い塊はすぐに追い付けるにも関わらずテナヤ達を追い回し、馬の限界も近くなった頃、護衛の男二人が時間を稼ぐと言って、速度を落とした。
 後ろを振り向くと一人が馬から落ち、涙を堪えて走り続けると、またさっきの弾ける音が聞こえる。

 テナヤ達は「ここまでか」と思ったらしいが、変な集団とすれ違ったので、頭にクエスチョンマークが浮かんだそうだ。
 それから追っ手がいなくなった事に気付いて「さっき大きなリスが居なかった?」とか「敵に向かって行ったよね?」的な話をして、もしかしたら敵を倒してくれたのではないかと思って戻って来たら、また変な猫が居たから驚いたらしい。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 テナヤから話を聞き終えたわしは、少年少女にジュースを入れるようにリータに頼んでから考える。

 途中まで緊迫感のある話じゃったけど、コリスが出て来てから台無しになったな。わしもその中に入っていたけど……。はぁ……て、溜め息吐いてる場合じゃなかった。
 つまりこの部族は、軍隊にいきなり撃ち殺されたってことか……なんちゅうことをするんじゃ! 目的はなんじゃ!? 何にしても殺す必要はなかろう!!

 わしは怒りに毛を逆立ててアイスコーヒーを一気に飲み干すと、少し冷静になる。

 待てよ? リータ達はあいつらが英語を使っていたと言っておったな。目的は何にしても、言葉が通じないんじゃ、一発ガツンとしたほうが早い……
 しかし、あいつらの目的はなんじゃ? 圧倒的武力を持つ先進国が部族から欲しい物とは……労働力。
 なるほどな。わしの世界でもあった植民地、もしくは奴隷が欲しくて、勢力を拡大しておるのか。


 わしが考え事をしていたら、リータとメイバイが「怖くない猫だよ~?」とか言いながらわしの頭を撫でていたので、二人の手を掴んで止める。

「だいたい君達が襲われた理由はわかったにゃ。ちょっと確認して来るから、ごはんでも食べて待っててにゃ~」
「ごはん!」
「コリスはあの子達の取っちゃダメだからにゃ?」

 料理を適当にテーブルに並べて、コリス専用テーブルにも山積みにしたら、わしはトコトコと拘束されている軍服の男達の元へと出向く。
 だが、全員気絶中だったので、【大水玉】を落として起こしてあげた。

「「「「「ピューマ!?」」」」」
「猫だにゃ~」

 わしの事をピューマと勘違いしていたので、念話で訂正。英語でわしの悪口を言っていたが、念話で全て筒抜けだぞと教えてあげた。

「にゃんかお前達は、悪い人間みたいだにゃ。今までにゃん人殺したにゃ?」
「お、俺達は、上の指示に従っただけだ。それに邪教徒なんて、死んで当然だ」

 邪教徒じゃと? こいつらは宗教を信じておるのか。てことは、わしの奴隷説はハズレかも。自信満々で説明しなくてよかった~。

「にゃるほどにゃ。ところでわしは、白猫教って宗教の神様をやってるんにゃけど、そっちの神様はどう思っているのかにゃ?」
「猫が神だと……」
「まぁ意味不明だろうにゃ。じゃあ、質問を変えるにゃ。白猫教の神として、お前達のあがめる神の信者を皆殺しにしていいってことだにゃ?」
「そ、そんなこと、神が許すわけがない!」
「それをやれと言っているのはお前達の神にゃろ!!」

 男の声より大きな念話で怒鳴り付けたわしは、リータに渡されていたサブマシンガンを構えた。すると、わしと喋っていた男の顔が一瞬緩んだ。

「お前、いま、安全装置も外していにゃいのに撃てるわけがにゃいと思ったにゃろ?」
「え……」
「死ねにゃ……」

 わしはわざと安全装置を外してなかっただけなので、パチンとロックを外し、ズガガガっとサブマシンガンを往復させて、弾が切れるまで男達の近くの地面を撃ち続けた。

「チッ……不快な音にゃ」

 そして英語で愚痴りながら弾倉マガジンを外して中身を確認していたら、男達はポカンとした顔になった。

「い、いま、喋らなかったか?」
「にゃ? そりゃ、全知全能の猫神様にゃ。人間の言葉ぐらい楽勝にゃ~」
「嘘だろ……まさか本物……」
「もっと証拠を見せてやるにゃ」

 わしは消えるように走ったら、ジープに乗り込んでエンジンを掛ける。その音で、わしを探していた男達は一斉にジープを見たが、拘束中ではスピードを上げて突っ込んで来たジープに避ける事もままならず、目を閉じるしかなかった。
 急ブレーキで男達の目の前で止まるとジープから降り、乱暴にドアを閉めたら、男達はわしを驚愕の表情で見ていた。
 それに気付いたわしであったが、また消えて、トラックを運転して男達の元へ走らす。

 おお~。久し振りのミッションじゃったけど、上手く運転できた。ビビらせてやりたかったから、エンストしなくてよかった~。まぁ急ブレーキしたらエンストしちゃったけどな。

 トラックを運転しながらドキドキしていたら、すぐに男達の真横に到着。運転席から飛び降りたら、給油口を開けて匂いの確認。それから男達の前に立つ。

「ヘリコプターも操縦してやりたいけど、もうわかったにゃろ? ついでに猫神様は、構造まで理解してるんだよにゃ~? トウモロコシの油で動いていたにゃ~~~!!」

 名探偵猫の鼻は誤魔化せない。男達もわしの正解に驚きを隠せず、高速で首を縦に振ってくれたのであった。

「さてと……わしは怒っているにゃ。地獄より酷い所に送って欲しい人は、好きにしたらいいからにゃ。……質問にゃ。お前達はにゃに者にゃ??」

 わしが質問した時点で全知全能の神は失格なのだが、まさか自分達が優位に使っていた物を全て使いこなされたからには混乱してしまい、その事に気付かず素直に答えてくれた。


 この男達は、北アメリカ大陸東海岸にある国、アメリヤ王国の生まれとのこと。その歴史はそこそこ長く、九百年以上もあるそうだ。
 始まりは、東にある海を方舟はこぶねで越えてやって来た百人前後の開拓者。村を作り、街を作り、国を作り、徐々に人を増やしていったそうだ。

 国の成り立ちがわかれば、次は技術の話。

 驚く事に、アメリカ大陸到着以前から、エンジンと銃はあったそうだ。しかしあまり技術が進化していないので、その事を聞いてみたらわからないとのこと。
 ただ、技術革新のような事が五十年ぐらい前にあったらしい。

 技術に関してはいい情報が得られなかったので、次はモノンガヘラ族を襲った理由。

 わしは宗教弾圧が起こったのだと意見を変えたのに、正解は奴隷狩りだった。何故、モノンガヘラ族をいきなり撃ったのかと聞くと、一人か二人は殺して言う事を聞かせる為と、これもわしの予想通り。
 ただ、リータから聞いた話では、少年少女を追っていた理由は殲滅だったので、その事も聞いてみたら、ちょっと脅しただけと言われた。目が泳いでいたから、たぶん嘘だと思う。


 東の海を越えたか……方舟ってのは旧約聖書に出て来るからそれを引用したのかと思ったけど、これはスサノオのやっちゃった案件じゃね?
 フランスやイギリスの戦争のせいで黒い森が生まれ、森や獣から西へ西へと逃げていた人に船や鉄炮を作れる転生者を与えて、アメリカに逃がしたのじゃろう。
 五十年前の出来事はようわからんが、藤原恵美里さんみたいに、この世界に転生したいミリタリーに特化した転生者でも現れたんじゃなかろうか……

 だとしたら、スサノオが東に行けと言ったのは頷ける。さらに、シャーマンの婆さんが試練があると言った理由、アマテラスが止めた理由もようやくわかった。
 わしのトラウマを刺激する事があるとわかっていたから、試練と言ったり止めたりしておったんじゃな。

 はぁ……どうしたものか……

 見て見ぬ振りはできんか。こいつら、アメリカを制したあとは世界に出るぞ。何年先になるかわからないが、いまより強い武器なんて開発されたら止めようがなくなる。
 これ以上黒い森を作らない為には、わしがやるしかない。


 わしは覚悟を決めると、男達に質問する。

「それでお前達の部隊は、襲った集落に残っているのかにゃ?」
「計画では、部族を落としたあとは、そこで一泊する予定です」
「にゃるほどにゃ~。貴重な情報ありがとにゃ」

 わしが礼を言うと、男達はホッとした顔をしながら命乞いして来た。

「これだけ話したのですから地獄行きは……」
「にゃ? まだ信じてたんにゃ」
「へ??」

 とぼけた声を出す男達に、わしは名を名乗る。

「ある時は猫、ある時は神、その実体は……猫の国、シラタマ王にゃ~~~!!」
「「「「「お、う……ええぇぇ!?」」」」」

 フフン。珍しく決まったな。まさかアメリヤ王国以外に国があるとは思っておらんかったじゃろう。わしもアメリカに国なんてあると思っていなかったけどな。

 わしがドヤ顔で見ていると、男達はボソボソ話し合っていた。

「猫が王なんて……」
「まだ神様と言われたほうが信じられる……」
「「「「「うんうん」」」」」

 どうやら驚いている理由は、わしが思っているのと違うかったみたいだ……
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