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第二十ニ章 アメリカ大陸編其の一 アメリカ横断ウルトラ旅行にゃ~
615 最後の仕上げにゃ~
しおりを挟む出雲大社観光を終えたわし達は、猫の国に帰る……のは、玉藻を飛行機で京に送り届けてから。三ツ鳥居を使ったから、足がないんだって。
そんなもん、走って帰ればいいじゃろ! 玉藻なら一時間も掛からんじゃろ!!
と言ってみたけど、オニヒメがジト目で見ていたから送ってあげた。
だって、娘に心が狭いと思われたくないんじゃもん。
玉藻はしばらく京で休息を取ってから、また西の地を回りに来るようだ。その時には挨拶に来ると言っていたが、わしも忙しい身。会えるかどうかは運次第と言っておいた。
「どうせ暇じゃろ?」と言われたが、ぶっちゃけマジで忙しい。お昼寝とか散歩とか……じゃなくて、ウサギ族関係でまだやる事があるのだ!
玉藻はまったく信じていないが、そのまま別れるわしであった。
猫の国に帰って二日……
「「また寝てますの……」」
双子王女が屋上の離れまでわしのお昼寝を邪魔しに来た。
「だって……疲れて……ごめんにゃさい!!」
言い訳しようとしたら、双子王女の顔に「わたくし達のほうが忙しいですわよ!」って文字が浮かんだので平謝り。口に出される前に用件を聞いてみたら……
「「そろそろ冒険に出てくれないと、小説のストックが尽きますわ」」
とのこと。
「別にそんにゃ急いで出さにゃくても……」
「「読者が待っていますのよ!」」
「それ、二人が読みたいだけじゃにゃい?」
「「そうですわ!!」」
わしがツッコんでも二人は隠す事もしない。自分達はわしから直接聞いて、さらに発売前の小説を読んでるクセに……
「そう言えば、東の国に送るウサギの教育はどうなってるにゃ?」
「そこそこ使えるようになりましたが、もう少しってところですわね」
「ですが、お母様が早くするように言ってましてよ?」
話を逸らそうと質問してみたら、双子王女は話し合いを始めたのでわしも入る。
「そこそこにゃら、もういいんじゃにゃい? あとは城で教育してもらおうにゃ。女王の相手も面倒にゃろ?」
「「面倒ではございませんが……」」
「二日後に送り届けて来るにゃ。そのあとチェクチ族を見て来て、ウサギ族の仕上げ。それが終わってから冒険ってことでどうにゃろ?」
「「まぁそれで……」」
女王の連絡は毎日来ていたようだから、双子王女の仕事の邪魔だ。なので二人は渋々っぽい返事をしたが、たぶん内心はせえせえしているのだろう。
双子王女との話を終えたら、ウサギ族のまとめ役と、ヨタンカの息子カレタカと、代表のウサギ女を呼び出して会議。英才教育をしていたウサギの手配をし、数日後にクリフ・パレスに帰る旨を伝える。
それからソウで訓練しているリータ達の元へ帰り、これからの予定を説明してダラダラ過ごすわしであった。
二日後……
わしは十人のウサギ族を連れて、三ツ鳥居集約所から東の国に移動。城の廊下を歩くモフモフの集団は、城で働く者達からモフられ掛けたが「女王への貢ぎ物だから」と言って追い払った。
いや、方便だからね? たぶん最初はモフられるかもしれないけど、食べられたりしないよ? 売るわけではないからね? レンタルだし、期間が来たら帰れるから心配しないで!
わしが貢ぎ物と言ったせいで、ウサギ族は騙されて売られるウサギのような事を言い出したので、宥めていたら玉座の間に着いた。
そこには、女王とさっちゃんとエルフのリンリー、それと見物人が十数人。何やらわしもガン見されているが、ひとまずウサギ族を跪かせたら、わしから簡単な挨拶をして大事な質問をする。
「まずはウサギ保護法は、ちゃんと整えてくれたかにゃ?」
「ええ。そちらの法律をそのまま採用したわ。サティ」
「はい!」
女王から声を掛けられたさっちゃんは書類を持ってわしの元へ進み、同時にウサギ族をガン見するメイドがテーブルを運んで来た。
わしはさっちゃんに頭を撫でなれながら書類に目を通し、不備がないかを確認したらサインする。
「これで、この十人のウサギ族は、しばらく女王の物にゃ。双子王女から話は行っていると思うけど、ある程度の教養があるから下働きくらいは出来るからにゃ」
「ええ。でも、少な過ぎるわ」
「まだお試しにゃ~。どんにゃ問題が出るかわからにゃいんだから、ちゃんとレポートしてにゃ~? リンリーもウサギ族のことを守ってくれにゃ~」
今回のウサギレンタルは、一ヶ月のお試し期間。お城でのメイドや事務が仕事となっている。
猫の国でそれらの教育は行ったからある程度は問題ないだろうが、こちらのメイド長にでもしごいてもらえば、さらにスキルアップしてくれるだろう。
その間にも何人か送り込まないと女王から毎日連絡が来そうなので、最終的には30人のウサギを送る。第一陣は期間が来れば一度戻して、実技の先生になってもらう予定だ。
ここで問題なのが、ウサギ族がちゃんと仕事を出来るか。猫の国からの使者のようなものだから、不甲斐ない事をして欲しくない。その旨は双子王女から口を酸っぱくして言われているだろうから大丈夫だと思うけど、問題は東の国側だ。
絶対に仕事の邪魔をする!
ウサギ族は飛んで火に入る初夏のウサギ。確実にモフられるので、仕事中は撫でないようにしなくてはならない。
ここで重要なのが、ウサギ保護法。
仕事中は撫でない。休みの日は撫でない。廊下の角を曲がったところでふいに出会っても抱きつかない。こけてるところを助けてもモフらない。週休完全二日。城から出る場合は抱いて運んであげる、等々。
守らない国には、一切レンタルしない契約にするつもりだ。ただ、あまり厳し過ぎるとウサギを奪う戦争が起こるかもしれないので、一部緩和している。
仕事は14時まで。残りの仕事の時間は用意した個室で撫でられる。休日の一日は複数人に餌付け体験が出来る催し、等々。
ウサギ族もこれならばと、手を上げる者が現れた。そりゃ、仕事はほぼ半日でお給料が貰えるのだ。撫でられ慣れた奴なら眠っていれば時間は過ぎるのだ。王都のお店にだってタダで連れて行ってくれるのだ。
わしだってそんな生活がしたい!
「シラタマちゃんって、仕事もせずに美味しい物食べてるじゃない??」
さっちゃんに言われて気付いたが、わしはもっと優雅な生活をしていたので、やっぱ無しで!
先も言った通り、守らない国には一切レンタルしない契約にするつもりだが、さじ加減がいまいちわからないので、東の国で試してから、ウサギ保護法をイジッて行く予定。
もしもウサギがイジメられたら、リンリーに報告を上げるように言っておいたので連れ帰ってもらう。リンリーもレンタル中だが、うちの国民なので守ってくれるはずだ。
「ちゃんと守ってやってにゃ?」
「え? あ……はい!」
リンリーも撫でたいからか、ウサギの集団を見ていて話を聞いていたか微妙なので、ちゃんと仕事しないとオンニと別れさせると言ったらようやく話を聞いてくれた。
「でね。彼ったら~」
「うんにゃ。さっきその話は聞いたから、もうあっち行けにゃ~」
オンニの名前を出したら、イチャイチャエピソードを話すので邪魔だ。まだ「あ~ん」までしか行ってないのに、何度も話す事なのかね~?
とりあえず諸々の話し合いが終わったら、八人のウサギ達はメイド長の後ろについてゾロゾロと玉座の間から出て行った。残り二人は、現時点から女王とさっちゃんのお付きの者の下に就くらしい……
ウサギ族を預けたら、わしも女王達から口を酸っぱくして言われていた仕事に着手。女王から渡された城の一角の設計図を見ながら、太陽光発電セットと魔力電源、それと部屋を縦にくり抜いてエレベーターを取り付ける。
その姿をメイド講習を受けているウサギに見られ「アレって王様の仕事?」とかコソコソ言われていたけど、無視して完成させた。
さすがは魔法様々。エレベータを二基も取り付けたのに、昼までに終わらせる事に成功した。これでもう、わしの元に連絡は来ないだろうとさっちゃん達を呼んで見せたら大絶賛。
「これなら城をもっと高くしてもよさそうね」
「お母様、キャットタワーより高いお城にしましょう!」
「わしは作らないからにゃ~~~!!」
大絶賛なのはいいのだが、絶賛し過ぎて変な方向に話が行ったので、わしはすかさず止める。ビルまで建てさせられそうなので当然だ。
ひとまず使い方を教えていたらお腹がなったので、そろそろわしはお暇する。
「さ~てと……仕事も終わったし帰るにゃ~」
「え~! もうちょっといいじゃな~い?」
「わしも忙しい身でにゃ~」
「お昼ぐらい一緒に食べようよ~」
「じゃあ、お言葉に甘えるにゃ~」
「はやっ!?」
元々お昼はタダメシを集ろうと思っていたけど、二人のウサギが見ている手前、王様が集るのはみっともないから帰ると言ってみただけだ。一度断ったのだから、威厳は保たれただろう。
「はい、あ~ん」
「ゴロゴロ~。あ~んにゃ~。モグモグ」
女王とさっちゃんに撫でられながら餌付けされたから、威厳はどこ吹く風。またウサギ二人にコソコソ言われていたが、猫の国に帰ったのであった。
その翌日は、また仕事。リータ達は訓練で忙しいようなので今日も一人で転移。チェクチ族の集落にやって来た。
代表のヴクヴカイと面談すると、さっそく感謝の言葉。バスやトラック、魔道具や食材、数々の物を売り付けたから生活が楽になったそうだ。
チェクチ族は猫の国でもダントツのお金持ちなので、商品は少し割高にしたから、そこまで感謝されると心苦しい。
商品よりも喜んだ物は、レシピブックとレンタル料理人。料理教室なんかも開いているので、料理のバリエーションが増えて泣くほど感謝して来ている。
ただし、食べ過ぎ注意。ゲウトワリが激太りした時の写真を配って、食べ過ぎたらこうなるぞと脅しておいた。ゲウトワリは太った姿を嫌っていたから、たぶん守ってくれるはずだ。たぶん……
感謝はもういいからと言って、国の話。半年後には猫の国の制度に移行するのだから、住人を抑えるように指示を出す。
それと、レアアースの採掘量調整。金より価値があるのだから、湯水のように採掘されては、西の地の経済が破綻してしまう。
集落で必要な一ヶ月分の商品と同額を算出するように言っておいたが、ヴクヴカイに言ってもどんぶり勘定になりそうなので、もう一人の代表とナヴガンに任せた。
ヴクヴカイを隠居させて、息子のナウガンに首を挿げ替えてやろうか……
テコ入れをするには、まだ時期尚早。もう少し様子を見て、不甲斐ない結果になっていたらヴクヴカイはクビにすると言って猫の国に帰った。
仕事ばかりをしていたらまた侍の勘が鈍りそうなので、わしもリータ達の訓練に参加。でも、イサベレはいつになったら帰るんじゃろう? ソウの地下空洞に居れば、そんなに食費は掛からんけど……
あ、冒険について来るから残っていたのですか。そのことはわしに伝えたって……ああ。あの日ですね。覚えていますとも!
仕事し過ぎて放心状態の時に言われたから忘れていただけで、ボケているわけではない。ちょっと忘れていただけでボケてないんじゃ~!
皆の訓練も終わったら、ポポルの最終確認と武器の贈与式。気を付けしたポポルに白魔鉱できた三つ叉の槍を手渡す。
「じゃあ、今までの成果を見せてくれにゃ~」
「はい!」
ポポルは槍を振り回し、何度も白い模擬刀を構えるわしに向かって来る。槍だけでなく風魔法も使い、死力を尽くして戦う。
しかし相手が悪すぎる。わしに何度も弾き返され、一発も攻撃を入れられない。
うん。ひょろっひょろのウサギだったポポルが、この短期間でバーカリアン並みに強くなったな。技術面ではまだまだ届かんと思うが、これだけ強くなれたらもう訓練は終わりにしてもいいじゃろう。
それにあまり長期間この訓練をやらすと、長寿のエルフみたいになってしまうから危険じゃ。女子じゃないから出産の危険はないじゃろうけど、大食いになられると食費が嵩むからな。
わしが考えている間もポポルは攻撃の手を緩めず、泥だらけになりながら立ち上がり、動けなくなるまで向かって来るのであった。
「よくやったにゃ。これだけ強くなれたら十分にゃ」
わしが倒れて動けないポポルを褒めながら顔を覗き込むと、悔しそうな顔をしていた。
「まったく敵いませんでした……」
「誰を相手にしてると思っているにゃ。お前はメイバイに勝てたにゃ? オニヒメにも届かなかったにゃろ?」
「はい……」
「リータ達全員を相手に、わしが負けそうになったにゃ? 余裕だったにゃろ?」
「はい……」
「そうにゃ。わしはこの地で最強の猫王にゃ。そんにゃわしが太鼓判を押したんにゃ。弱いわけがないにゃ。自信を持てにゃ~」
「……はい!」
ポポルが力強い返事をすると、手を取って立たせる。
「それじゃあ故郷に帰ろうにゃ~」
こうしてポポルの訓練は終わりを告げ、今日は猫の街の我が家でお別れパーティーを開くのであった。
「あなたと離ればなれなんて……私、耐えられない!」
「いや、お母さんとはそんにゃに一緒に暮らしてにゃいし、そもそも他人だからにゃ?」
「そ、そんな……あの日の約束は……」
「一切してないにゃ~! リータ、メイバイ。助けてにゃ~~~!!」
いつの間にか勝手にわしと結婚している事になっていた未亡ウサギのルルを宥めながら……
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