611 / 755
第二十一章 王様編其の四 ウサギ族の大移動にゃ~
601 前々、前夜祭にゃ~
しおりを挟む建国記念日前夜祭の前日……
ポポル親子は太陽も見えない場所で訓練漬けだったので、息抜きに祭りに連れ出そうと、わしはソウの地下空洞に顔を出した。
「あ! シラタマさん。訓練の成果を見てください!!」
わしを発見したポポルは嬉しそうに手を振っているので近付いたら、ルルも寄って来てわしの腕に絡み付いて来た。
「ウフフフ。お久し振りです。ウフフフ」
「う、うんにゃ。久し振りにゃ」
「行きますよ? 【鎌鼬】にゃ~!」
ルルの笑い方が気持ち悪いが、ポポルが風魔法を使ったようなのでそっちに目を持って行く。ポポルまで語尾に「にゃ」が付いているのは、オニヒメから習ったせいだと思われる。
ポポルの放った風の刃は大きな四角い土の塊にぶつかると、減り込んで霧散した。
「凄いでしょ! 僕って天才じゃないですか?」
「また調子に乗ってるにゃ~? あんにゃの獣に当たっても怪我するだけにゃ~」
「そんなわけないです! 瞬殺です!!」
「はぁ……【鎌鼬】にゃ~」
わしが溜め息を吐きながら【鎌鼬】を放つと、一瞬でブロックを貫通。ついでに操作して、何度もブロックを斬り、真っ二つにしてやった。
「うそ……」
「まぁこんにゃの出来るのは、わしかオニヒメぐらいにゃ。でも、貫通するぐらいはやってもらわにゃいと困るからにゃ」
「はい……」
ポポルの二本目の鼻っ柱もへし折ってやったら、ルルがよけいな事を言い出した。
「ウフフフ。ちゃんとお父さんの言い付けを守るのよ。ウフフフ」
「え……お父さん? そういうこと!? ……わかりました。お父さん!!」
「いつからわしはポポルの父親になったんにゃ~~~!!」
察しのいいポポルはルルの味方に付くのでうっとうしい。ルルもマジでわしとの再婚を目指しているので笑い方が怖い。もう、このままクリフ・パレスに強制送還したほうがいいのではないかと思うわしであった。
ポポル親子はソウからの出席者と共に飛行機に乗せてモフられる。
猫の街に着くと、ホウジツ達はキャットタワーの五階より下の空き部屋にご案内。他の代表にもキャットタワーの空き部屋を割り当てたので、建国記念日の間はここに滞在してもらう。
しかし、各代表はエレベーターに幽閉されてしまった……
理由はエレベーターで遊び過ぎ。最上階の王族居住区にまでやって来て騒ぐし、エレベーターウサギをモフりつつ、自分達で操縦していたから電力が尽きたのだ。
「明日使う電力も無いにゃ……どうしてくれるんにゃ?」
「「「「「申し訳ありませんでした……」」」」」
せっかく太陽光発電で貯めた電力を使われたのなら、わしはオコ。緊急魔力電源に切り換えて助けてあげた代表達は、しゅんとして謝るのであった。
まぁこれぐらいのお茶目は、ビル初体験の者ならやり兼ねないとある程度想定していたので、説教は短時間。ぶっちゃけ、クールダウンさせるには閉じ込めたほうが早いと思っていたから好きにさせていたのだ。
皆も反省しているようなので、猫会議前夜祭の開始。内容は、ただの会食。美味しい物を食べながら雑談するだけだ。
この雑談から明日の猫会議の議題が増える場合もあるが、「上手くやってね~」と言うだけ。ところがトウモロコシ料理を食べさせたせいで、猫会議のフライングが始まった。
「うちでもトウモロコシを作りたいです!」
センジだ。国民の腹を満たす農業地区の代表なので、一枚噛ませてくれと鼻息が荒い。
「いいんにゃけど……その話は明日でもよくにゃい?」
「「もう譲るのですの!? せめて一年は……」」
「双子王女までにゃに~? 明日やろうにゃ~」
楽しい会食が猫会議に発展してしまったので、早く寝る為には落ち着かせる必要がある。
「ウサギ小屋……三軒買います!!」
「うちもウサギ小屋をひとつ作りたいです~」
「うちもウサギ小屋を……」
資料用に作っておいた工場の写真を見せたのも大失敗。ホウジツとセンジだけでなく、他の街の代表にまで火がついた。
「それも明日にゃ~。てか、ウサギ小屋じゃなくて工場だからにゃ? 工場にはウサギは付かないからにゃ?」
「「「「「そこをなんとか!!」」」」」
「ウサギが目当てにゃのか~~~!!」
写真に映っているのはウサギばかりなので、皆はこの素晴らしい技術に気付かず、ウサギ小屋と思って買いたいらしい。
なので一から説明してやったら、さらに倍プッシュ。工場とウサギ族を欲しがって、猫会議前夜祭は長引くのであった。
ちなみにポポル親子はオニヒメとエミリにモフられて眠っていたので、ルルはわしの元へ近付けなかったとさ。
翌日は、建国記念日の前夜祭。今回は各国の参加も緩和したので、また各国の王族が全員集まって来た。たいした事はしないと説明はしたのだが、うちの料理がうまいから来たかったらしい。
しかし、一月前に日ノ本へ行った事もあり、各国の王は仕事が立て込んでいるらしいので、三ツ鳥居で移動したい模様。そんな時の、猫の国!
三ツ鳥居レンタル業も始めてみた。
一番のネックは魔力の補充。ソウの地下空洞を使えば楽なのだが、雷魔道具等で魔力を奪っているので枯渇が心配。なので、エルフに補充を任せている。
元々魔力の多い種族だ。いくら多くの魔力を注がないといけない三ツ鳥居でも、十人でやれば一日に二個は補充できる。
ただし、全員でやると里の防衛に支障をきたすかもしれないので、一日に補充する人数は一割程度。それに他国でも補充にかなりの人件費が掛かるので、うちもけっこうなボッタクリ価格に設定したから、そこまで多くは必要ないだろう。
あとは三ツ鳥居をキャットコンテナに入れてキャットトレインで運搬すれば、遠くの国でも短時間で移動する事が出来る。
ちなみに返さない場合は、その国に経済制裁する契約になっているので、必ず帰って来ると信じている。性善説ではなく、力業でうちに勝てないからな。もしも盗賊に奪われでもしたら、死ぬ気で取り返すだろう。
猫の国にやって来るVIPの相手は猫ファミリーのお仕事。王族関係は三ツ鳥居集約所に現れるからリータ達で対応して、バトンタッチした役場職員に宿やキャットタワーに案内してもらっている。
あとで聞いた話だが、コリスとオニヒメも頑張ってくれたようだ。まぁ首輪の付いていない巨大リスと鬼が揃って挨拶したら、王族でも素直に従うわな。「コリスだよ~」とか「オニヒメだよ~」とか言われても……
わしはと言うと、猫会議で忙しい。今日はチェクチ族とウサギ族もお試しで出席させたから、代表女性陣がモフモフうるさいのでなかなか始まらない。もう面倒なので、あとで撫でさせてやってくれと頼み込んだ。
チェクチ族からは、留学生のナヴガンとゲウトワリ。英語を完璧に話せるようになっていたので挨拶をさせる。
まだ猫の国に入るかどうかは決まっていないが、鉱石の豊富な地だと説明したらホウジツがロックオンしたので、たぶん勧誘が始まると思う。
ウサギ族からは、代表名代のカレタカと、代表予定の女性だと紹介されたウサギ。片言の英語で挨拶させ、ウサギ族の話をする。
出会った経緯、ウサギ族の現状、五千人もの移住、その後のクリフ・パレス。まだ決め兼ねているが、アメリカ旅行なんかも計画している。たぶん、モフモフ旅行で終わると思うけど……
いちおうどちらも拍手で受け入れられたけど、ウサギ族の他の街への移動はまた今度じゃ!
ただでさえ押しているのに、ウサギ族ばかりに時間は使ってられない。各地の報告や懸案事項を聞いて「上手くやってね~」と言っておく。
その後は工場の話。現在生産している各地の物を確認して、どのような工場が欲しいかと聞いていく。
その結果、ラサは穀物を挽く工場。ソウは鉄鋼業が楽になる工場。猫耳の里と猫穴温泉は食品工場。エルフの里は特に無し。
これら全てが完成したら失業者が増えるかもしれないので、次の猫会議で報告を聞いてから、次なる工場の話をする事にした。
これで猫会議の議題は全て終了。雑談しつつ他の懸案事項を炙り出そうとするが、チェクチ族を口説いているホウジツ以外の興味はウサギばかり。
ただ、猫会議に出席していたチェクチ族とウサギ族が煙を吐いて思考停止し掛かっていたので質問してみたら、高度すぎる会話についていけなかったみたいだ。
まぁ辺境の部族にはない文化と技術のオンパレードでは、そうなっても仕方がない。ウサギ族とチェクチ族の留学生には、学校でもう少し高度な勉強を受けられるように双子王女に手配してもらった。
「じゃあ、こんにゃもんかにゃ? あとは祭りを楽しんでくれにゃ~」
もう夜という事もあり、解散を言い渡すと……
「「「「「ラビットランドって、まだやってます?」」」」」
「これ、VIPルームのチケットにゃ。夜8時までだからにゃ~」
「「「「「ぴょ~~~ん!!」」」」」
ほとんどの代表はわしの出したチケットを乱暴に受け取って、ラビットランドに走るのであったとさ。
ラビットランドに興味の無い、もしくは、もう行っていた者を引き連れてエレベーターに乗ると、わし達は各国のVIPの相手。
10階大食堂では給仕をしているウサギが捕まって仕事にならない。まぁぶっちゃけホステスで大量投入していたから、他の住人が給仕をしているので問題ない。
本日のメニューは、フィッシュアンドミート。どちらも白い生き物なので好評だと思う。それと、トウモロコシ尽くし。珍しい食品だから好評だと思うけど、ウサギに目が行っていてよくわからない。
わしは簡単な挨拶をして回り、ウサギの発注は受け付けず、トウモロコシの感想を聞き、日ノ本の出席者のテーブルでは軽く雑談する。
「玉藻、陛下、久し振りにゃ~」
「ああ。久し振りじゃな。しかしエライ騒ぎになっておるのう」
「もう、これが毎日で大変だったにゃ~。日ノ本のキツネやタヌキは、こんにゃことにならなかったにゃ?」
「そうじゃな。撫でる奴などおらんかった」
「うちとにゃにが違うんにゃろ?」
「うぅぅむ……」
玉藻が唸りながら考えていると、焼きトウモロコシをかじっていたちびっこ天皇が予想を言う。
「どちらも天皇家と徳川家の縁者だと思われたんじゃない?」
「あ~。にゃるほど。偉い人と勘違いされてたんにゃ」
「それで節度を持って対応していたのが、今日まで続いているわけじゃな。さすがは陛下。聡いのう」
「てことは、もう手遅れなんにゃ~。あ~あ。こんにゃことにゃら、陛下に助言を聞いておけばよかったにゃ~。そしたら全員わしの親戚とか言っておいたのににゃ~」
わしがグチグチと愚痴っていたら、ちびっこ天皇と玉藻は声を揃える。
「「無理じゃね?」」
「にゃんでにゃ~。これでも高貴にゃ王様にゃ~」
「王様とかじゃなくて、猫じゃない?」
「うむ。猫とウサギが親戚ってのは無理がある」
「「アホなのか??」」
「アホって言うヤツがアホなんにゃ~~~!!」
どうやらわしの耳の長さが足りないから、ウサギを親戚とは認められない二人であった。
「いや、だから種族が違うと言ってるだろ」
「耳が問題じゃないんじゃ」
「わかってるにゃ~~~!!」
何やらわしの心の声まで馬鹿にして来るので、しばらく二人と喧嘩になるわしであったとさ。
0
お気に入りに追加
1,168
あなたにおすすめの小説
半身転生
片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。
元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。
気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。
「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」
実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。
消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。
異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。
少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。
強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。
異世界は日本と比較して厳しい環境です。
日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。
主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。
つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。
最初の主人公は普通の青年です。
大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。
神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。
もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。
ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。
長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。
ただ必ず完結しますので安心してお読みください。
ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。
この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる