上 下
610 / 755
第二十一章 王様編其の四 ウサギ族の大移動にゃ~

600 トウモロコシ収穫大会にゃ~

しおりを挟む

 太陽光発電セット、電動ミシン、縫製工場が稼働すると、何やらまた住人が集まってしまった。どうも工場というモノが気になって見に来たらしいが、その中で行われているファンシーな光景に釘付けになっているようだ。

 工具を持つウサギ、ミシンで服を作るウサギ、ピョンピョン移動するウサギ、モフモフ働くウサギ……

 五百人近くものウサギが集結する施設なので、工場の事よりもウサギを見てうっとりしている者が大多数。

 でも、アレはタヌキつゆじゃからな?

 なんだか動物園みたいな施設になってしまったが、極一部の住人以外は工場内に立ち入る事は禁じているので、窓から見るだけならガス抜きになるから許している。でも、テントを張る事は禁止した。

 大量のウサギの出勤風景は見応えあるだろうけど、夜はちゃんと家で休んでね?

 ちなみに予定していた家電工場より縫製工場を急いだ理由は、ウサギ族の服が足りなかったから。素っ裸で歩かれると街の風紀が乱れるので仕方がなかったのだ。

 ぬいぐるみにしか見えないけど、そのぬいぐるみを襲う輩が出るかもしれんしのう。アイ達みたいに……

 それにこれからウサギ族は五倍も増える。各国で子供服が買えなくなってしまったので、自分達で作らせようというわけだ。

 作っている物は二種類。浴衣ゆかたとサンダルだけ。これはウサギ族から聞き取りをしたところ、ズボン等は穿き心地が悪く、シャツも窮屈。靴も痛いらしいので、わしの着流しを着せたら一番楽と言っていたからだ。
 慣れてないと着崩れする事もあるが、大量生産するにはかなり楽。上下ともに作らなくていいし、コストも安価。元々猫の街でも作っていたので、すぐに取り組む事が出来たのだ。


 浴衣は続々作られているから、服問題はある程度解決したので次の視察。街中をウロウロして、各種準備を確認する。

 宿屋、飲食店、見せ物、踊り……

 そう。建国記念日が近付いているので、わしもサボッているわけにはいかないのだ。と言っても、これは双子王女主導で進んでいるから問題はない。
 各街からも応援が来てくれるので、猫の街の住人もおもてなしするだけでじゃなく、一日は楽しめる。

 問題はウサギ族だ。

 その日は各国から人が集まるから、必ずモフられる。なんとか止めたいが、猫の街の住人でもあれだけ苦労したのだ。絶対無理!
 いちおうウサギ族に一日は楽しめるように自由時間は作るつもりだが、そこが一番の危険。前もってゲストには「ウサギを撫でないで」と書いたパンフレットを配るが、絶対守られないだろう。

 そんなことで捕まえたら、全員猫の国から帰れなくなると思う……

 なので、裏方の仕事を教え込んでいるウサギ族には、進捗状況を確認しながら「建国記念日だけは我慢してくれ」と頭を下げながら回った。

 夕方になるとウサギ居住区に入って、何度も頭を下げてお願い。食べ物を貰って撫でさせると調子に乗る奴が増えるから、絶対にやるなと念を押しておいた。
 これまで王様一人でウサギ族を守る為に奮闘していたんだ。それにそのせいで過労で倒れた噂も流したので、快く受け入れてくれた。


 それから毎日ウロウロし、住人にもウサギ族を守ってくれとお願いして数日……

「第一回、トウモロコシ収穫大会を開催するにゃ~!」

 ついに育てていたトウモロコシが豊作となった。収穫に駆り出したウサギ族は、こんなに早く収穫できるなんて思ってもいなかったので、少し説明。
 白い巨象の血でもよかったのだが、ヤマタノオロチの血も少し回収しておいたので、今回はその血を使ったのだ。少しと言ってもトンでもなく巨大だったので、けっこうな量がある。
 もうすでに研究は済んでいたので危険性はない。巨象栄養水より少し割合を減らし、建国記念日に間に合うように配合したのだ。

 収穫はウサギ族だけにやらさず、半分は住人にも手伝ってもらう。と言うか、ウサギだけでは二種類のトウモロコシが混ざってしまいそうなので、苦肉の策で住人に頼んだのだ。

 だって、ウサギの見分けがつかんのじゃもん。いちおう色は違うけど、いちいち色分けするの面倒だったんじゃもん。ブチが居るから分けられないし……

 そんな大人数でやったので、収穫は昼までに終了。お昼休憩を挟んで、再び作付け。少し面積を増やして栄養水を掛けておいたので、収穫した物は次の移住者の食糧になる。
 収穫が終われば、ちょっとだけ試食。トウモロコシは建国記念日の目玉商品として振る舞う予定なので丸々食べさせられないが、せっかく収穫したのだ。フライングで、茹でトウモロコシを輪切りにして住人にも振る舞ってあげた。

「わっ! 甘くて美味しいです~」
「ちょっと食べにくいけど美味しいニャー!」
「星みっちゅ!」
「もっと食べたい……」

 リータとメイバイはトウモロコシを食べて目を輝かせ、コリスは最高得点。オニヒメも美味しく食べておかわりを要求するので、わしはコリスにかじられた。

「家に帰ったらあげるにゃ~」
「「やった! ホロッホロッ」」
「シーーーにゃ! 住人には内緒だからにゃ~??」
「「シーーーにゃ~。ホロッホロッ」」

 コリスとオニヒメが大声で喜ぶのでいさめたら、嬉しそうにわしのマネをする。別にマネしなくてもいいのに……でも、オニヒメがコリスに似てきたのはなんでじゃ?

 気になる事はあるが、トウモロコシ収穫大会は大盛況のまま幕を閉じ、撤収。トウモロコシは猫の街穀物貯蔵庫と、キャットタワーの地下貯蔵庫に分けて運ばれるのであった。


 キャットタワーに帰ると夕食を食べてから、空中庭園で夜食。猫ファミリーだけでなく、ビルの上階に住む者を集めてトウモロコシパーティーだ。

「じゃあ、エミリはわしと一緒に作ってくれにゃ~」
「はい!」

 茹でトウモロコシは食べたので、まずは一番食べたかった焼きトウモロコシ。それも、醤油を塗ったお祭りメニューだ。

「これ、本当に合ってます?」

 アミの上でトウモロコシをコロコロ転がして焼いていると、醤油の香ばしい匂いから焦げるような匂いに変わり、エミリは不安そうな顔をしている。

「ちょっと焦げたぐらいが美味しいはずにゃ」
「本当ですか? 真っ黒ですよ??」
「その辺はエミリのさじ加減でやってにゃ~」
「うぅ……わからないです~」

 いくら日本からの転生者の娘であっても見た事もない食べ物ではわからないらしいので、わしが適当なところで判断。二人で少し味見をして、一番美味しいと思った物を切り分けて皆に振る舞った。

 当然、焼きトウモロコシは大好評。皆は美味しそうに食べている。もちろん、わしとエミリも美味しく食べながら話し合っていた。

「凄く醤油に合いますね!」
「にゃ~? 久し振りに食べたけど美味しいにゃ~」
「他にレシピはないのですか!?」
「あるっちゃあるけど、わしはヒントしかあげられないからにゃ」
「なんとかします!!」
「ま、その前に、もうひとつ作っちゃおうにゃ」

 次にわしが取り出したりますは、かっさかさのトウモロコシ。枯れたようなトウモロコシを見たエミリは首を傾げる。

「不良品ですか?」

 そりゃさっきの瑞々みずみずしいトウモロコシを見たら、そう思うか。わしも自信ないし……

「たぶんこういう品種にゃ。粒をほぐしてくれにゃ~」
「はい……」

 二本ほどトウモロコシの粒をほぐすと、フライパンを熱して油を引いたら粒をぶち込む。そして蓋をして数分……

 パンッ! パパンッ!

「な、なんですか!? 中で爆発してますよ!!」

 フライパンの中から弾けた音が響き、エミリだけでなくこの場に居る者が驚きの声を上げた。

「お~。やっぱり合ってたにゃ~」
「あ、開けないと!」
「ダ、ダメにゃ! にゃ~~~!!」

 パパパパパンッ!!

 焦ったエミリが蓋を開けるものだから、辺りに散弾のように飛び散るので、わしはエミリを抱えて逃げた。

「あ~あ……ちょっとしか残らなかったにゃ~」
「だって~。こんなの料理じゃないんですも~ん……モゴッ!?」

 フライパンには一握りの白い物体しか残らなかったので、わしが嘆いてもエミリには伝わらない。なので、塩を少量掛けて、エミリの口に放り込んだ。

「なんですかこれ!? あんなに固かった物が、さくふわですよ!!」
「にゃはは。ポップコーンの出来上がりにゃ~。パクッ」

 エミリが大袈裟に驚くので皆も欲しがり、あっという間にポップコーンは売り切れ。また新たに二個のフライパンにトウモロコシ乗せて、多く作って振る舞う。

「面白い食べ物にゃろ~?」

 エミリはポップコーンを食べながらブツブツ言っていたのでわしは問う。

「閃きました! バターが合うかもしれません!!」
「お~。それも美味しいんだにゃ~。あ、さっきの品種でバター炒めも美味しいんにゃ~。今度作ってにゃ~」
「なんで新しいレシピまで知ってるんですか~」
「お母さんも知ってるからにゃ~。ゴロゴロ~」

 エミリは納得いかないとわしを撫で回すので、トウモロコシの話で落ち着かせる。

「柔らかいトウモロコシでは、スープを作れるんにゃ。たしか、潰してペースト状にして、牛乳で伸ばすのかにゃ?」
「あ……なるほど。なんとなく味が想像できます……塩も入れたほうが……他にはありませんか!?」

 エミリの興味が移ったので、わしは畳み掛ける。

「乾燥した物は、臼で挽いて生地として使えるにゃ。焼いたらたぶん固くなるけど、それは食感にゃから、美味しく食べれる物を作って欲しいにゃ。トウモロコシを売るにはレシピが無いといけないからにゃ」
「面白そうな料理ですね……でも、想像できないです~」
「う~ん。わしも詳しく知らにゃいからにゃ~……あ! ウサギ族が主食にしていたから、作れる人を探しておくにゃ~」

 わしがトウモロコシの未来を語ると、エミリの目が輝いた。

「モフッていいのですね!」

 いや、ウサギが近くに来ると聞いて興奮しているようだ。

「ダメに決まってるにゃろ~」
「あ! 違います違います!! 助手に雇って欲しいと言いたかったんですぅ~」
「ちょっと本心がにゃ~」
「お願いしますぅぅ~~~」

 どうやらエミリは、建前より先に本音を口にしてしまっていたようだ。なのでわしは、ウサギ族を雇う事を渋るのであった。

「モフリませんから~~~」

 しかし、ウサギ族の協力が無いとトウモロコシが売れないので、仕方なくエミリに助手を付けるのであった。たぶんモフると思いながらも……


*************************************
【告知】
 以前、短編で書いた小説を『前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配』とタイトルを変えて長編小説でアップしました。
 前は文字数の関係で中途半端でしたが、今回は逃走する経緯からざまぁまで行きます!
しおりを挟む
感想 962

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...