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第二十一章 王様編其の四 ウサギ族の大移動にゃ~
586 移住第一弾にゃ~
しおりを挟む「ゴメンゴメンにゃ~」
新役場『キャットタワー』10階の食堂でささやかな完成パーティーをやっていたら、急患で帰りの遅くなったワンヂェンと、いつ帰って来るかわからないつゆが息を切らして階段を上って来たので、わしは適当に謝った。
「こんにゃ建物を建てるにゃんて、シラタマは鬼畜にゃ~」
「私も疲れました~」
鬼畜って言われた……たしかにわしは角を生やせる畜生じゃから間違っておらんけど、畜生仲間のワンヂェンには言われたくないのう。
「だから謝ってるにゃろ~? てか、役場を拡張するって昨日言ったにゃ~。それに外から見えてたにゃろ?」
「今日は忙しくて外に出てなかったにゃ~」
「私も一歩も出てませ~ん」
どうやらワンヂェンは、患者から高い建物がいきなり出来たとは聞いていたが、まさか10階もあるとは思っていなかったようだ。
つゆに至っては、誰とも会ってないから急に高い建物が現れて驚き、興味本意で走って階段を上り、途中で力尽きたところをワンヂェンに助けてもらったんだって。
「まぁ明日にでも、エレベーターの使い方をお春から教えてもらっておいてにゃ」
「「エレベーターにゃ!?」」
「今日は使うにゃよ? 明日も電力が尽きたら困るから、あまり使うにゃよ??」
「「やったにゃ~~~!!」」
エレベーターは、ワンヂェンは猫耳の里に里帰りした時に知っていて、つゆはソウのエレベーターに乗った事があるので、なんか二人で踊り出した。
そこまで喜ぶ事なのかと不思議に思ったら、二人とも三階まで階段を上るのは面倒だったようだ。
でも、明日教えてもらえと言ってるじゃろ? つゆは分解そうとするな! 今度、設計図あげるから!!
二人はテンションが上がって言う事を聞かないので、リータとメイバイのモフモフの刑。そのまま餌付けしてもらって、屋上庭園にて晩酌。チラホラと猫の街から漏れる光を眺めながら、未来の絵図をわしが語ってから就寝となった。
ちなみにワンヂェンとつゆは、階段で疲れた事と、リータとメイバイにモフられまくった事で疲れてすぐに寝ていた。
翌日は、旅から帰って連日動き回っていたわしは惰眠を貪る。というか、夜に仕事が待っているから寝ないといけないのだ。
リータ達も付き合ってくれていたが、コリスとオニヒメ以外はよく眠れなかったようだ。
お昼に一回起きてウトウトごはんを食べ、夕食時にはしっかりとごはん。双子王女にはあとの事を頼んだところで問題発生。
ワンヂェンとつゆが、エレベーターで遊びまくって中に取り残されたとのこと。自業自得だと言いたかったが、これから使うのだから雷魔道具に魔力を補充して助けてあげた。
腕時計を見ながら二人を説教しつつ、頃合いになったら猫ファミリーでお出掛け。以前マーキングしたクリフ・パレス近くの崖に転移した。
「ふぁ~……本当に太陽が昇っていますね」
「さっきまで夜だったのに不思議ニャー。ふぁ~」
リータとメイバイはキョロキョロしながらあくびをするので、わしは気遣う。
「昼夜逆転だからにゃ~。眠かったら無理して付き合わなくてよかったんにゃよ?」
「ウサギさん達を猫の国に迎えるのに、王妃が立ち会わないわけにはいきません!」
「そうニャー! 私も見届けるニャー!!」
「その手はにゃに?」
リータとメイバイは眠気が取れたようだが、手をわきゅわきゅしているところを見ると、ウサギハーレムに行きたかっただけのようだ。わしが質問しても無視するし……
二人にかまっている暇はないので、さっさとクリスパレスに大ジャンプ。ふわりと着地したらウロウロしていたウサギを捕まえて、酋長のヨタンカを呼んで来てもらった。
「神様! お待ちしておりました!!」
ヨタンカは走って来てそんな事を言うので、面倒臭そうにわしは答える。
「あまり時間がないから、簡潔に説明するにゃ」
まずは猫の国に移住は可能になったこと、いっぺんには無理だから十回は分けること、移住した者には家と仕事を与えること、千人はここに残すこと、それと移住第一弾は体の弱い者からと説明した。
「は、はは~」
「いや、土下座してにゃいでなんとか言ってにゃ~」
ヨタンカはわしを神として崇めているので質問はないみたいだ。なので、急で悪いけど、病弱な者や老人、仕事の出来ない者を、いま集められるだけ集めてもらった。
「けっこう居るにゃ~」
「はい。仕事は出来なくても、これまで貢献してくれた者も居ますので……」
「まぁいいにゃ。通訳よろしくにゃ~」
ヨタンカと少し話をしたら、百人以上居るウサギに語り掛ける。
「これからみにゃさんを猫の国に送り届けるにゃ。いきなり見ず知らずの土地に行くのは不安に思う者も居ると思うけど、どうしてもここに残りたい者は、猫の国で治療をしてから帰してやるから心配するにゃ」
ウサギはずっとざわざわしているが、わしとコリスとオニヒメは気にせず歩き回り、寄生虫も殺せる【ノミコロース】を全員に掛けた。
そして、空いてるスペースに三ツ鳥居を出して、走れる者から並べる。
「この先に、リータ達みたいにゃ人が居るけど、みんにゃあにゃた達の味方にゃ。心配せずに、身を任せて洗われてくれにゃ。そのあと治療してくれるからにゃ」
ずっとざわざわしていたウサギ達は、わしの言っている意味がわからないのか、クエスチョンマークが頭の上に浮かんでいる。
「さあ、新天地に走れにゃ~!!」
わしが三ツ鳥居に触れて呪文を唱えると、その先の景色が変わったが、ウサギは走り出さない。しかしそれは想定内。メイバイが先頭を切って走り抜け、リータがウサギをポイポイ投げる。
そのウサギをメイバイが受け取ると、猫の街の住人にトス。受け取った住人はプールに入ったお湯でウサギを揉み洗いする。
これは、危険なウィルスを持ち込まないため。【ノミコロース】で死んでいるだろうが、石鹸で洗えば確実だろう。
この為に、夜遅くに働く人を募集したら、めちゃくちゃ殺到した。理由は、高い給金が貰えるから……ではなく、わしに似た生物をモフモフ洗えるから。王様をモフるなんて失礼だから、この機会にモフりたい人が集まったらしい。
ウサギ達はわけのわからない展開に、体が硬直して動けないようだ。揉み洗いされて綺麗さっぱりとなったら、魔法使いが体を乾かし、ワンヂェン率いる治療班にバトンタッチ。
念話魔道具で診療され、痛い所がある場合は回復魔法や薬を飲ませる。処置が終わった者やただの加齢の者は次に移動。性別を聞いてから女性や子供達にお持ち帰りされ、抱き枕となって眠りに就く予定だ。
三ツ鳥居の向こう側ではそんな騒ぎが起きているが、こちらもウサギリレーで忙しい。コリスとオニヒメがウサギを捕まえてリータにパスし、わしは時計を見ながら荷車の作成。
そうこうしていたら、時計の針は二分に近付いた。
「ここまでにゃ! コリスとオニヒメは向こうに行って補充にゃ~!!」
「「にゃ~~~!」」
残念ながら、一回の開閉では全員を猫の街に送れなかったので、ストップ。メイバイがこちらに戻って三ツ鳥居が閉じたら、コリスとオニヒメは猫の街で。わしはクリフ・パレスで魔力を補充する。
その間、メイバイとリータは動きの鈍いウサギを取っ捕まえて荷車に乗せる。その時モフりまくっていたけど、見て見ぬ振りをしておいた。
そして猫の街側の三ツ鳥居の補充が終わったら、オニヒメが呪文を唱えて開き、わしが荷車を土魔法で操縦してガンガン送り込む。
これで百人以上居たウサギはゼロ。ものの十分足らずで、移住第一弾は完了したのであった。
「では、私も向こうでモフって来ます!!」
「モフモフパーティーニャー!!」
「にゃ……」
こちらに残ってもらおうと思っていたリータとメイバイまで三ツ鳥居を潜って行ったので、わし一人が取り残されるのであったとさ。
「あ~えっと……見ての通りにゃ」
嵐が過ぎ、ヨタンカが大口を開けたまま固まっていたので、わしは安心させようとする。
「本当に、居なくなりました……」
「これから、ここからどんどん住人が減って行くにゃ。ちょっと話があるから、椅子にでも座ろうにゃ」
わしはテーブルセットを次元倉庫から出したら、ヨタンカと共に腰を下ろす。
「さっきの人達には家族は居るのかにゃ?」
「はい……全員と言う訳ではありませんが……」
「じゃあ、突然居なくにゃって悲しむかもしれないから、説明は任せたにゃ。それとにゃ。次回の移住は多く運ぶ予定にゃけど、わしの都合で少し遅くなるにゃ」
わしも暇ではないので移住の日付と人数を説明して、最後に大事な事を聞く。
「いまさらにゃけど、ウサギ族が移住するのは、みにゃの総意にゃの?」
「あ、はい。残りたい者は少し居ましたが、猫の国の国民となりたい者は大多数でした」
「じゃあ問題ないにゃ。いまは口約束にゃけど、猫の国にウサギ族が加入する事を許可するにゃ。これは王の言葉で絶対にゃ。ウサギ族は、今日からわしの国民にゃから、幸せに暮らせるように頑張るにゃ~」
「あ、有り難う御座います!!」
ヨタンカは目を潤ませてわしの手を両手で握る。
「わしも頑張るけど、ウサギ族には仕事をしてもらわないといけないからにゃ~? 働かざる者食うべからずにゃ。これは絶対だからにゃ? 住人に説明しておいてくれにゃ」
「は、はい! 我らウサギ族は神様に忠誠を誓い、崇めたて、猫の国の国民として粉骨砕身いたします!!」
「にゃはは。きばりすぎにゃ~。あと、神様じゃなくて王様だからにゃ?」
ヨタンカはメラメラと燃えていて、王様と訂正しても聞いてくれない。しかし、まだ話す事があったので、エサを口に突っ込んで話の再開。
猫の国に来た際のルールや、クリフ・パレスの使い道を説明し、食糧をプレゼント。
それからわしは、クリフ・パレスや畑をウロウロ。クリフ・パレスから百人以上ものウサギがいきなり消えているので、道行くウサギに「口減らしではなくわしが連れて行った」と念話で説明する。
だから人攫いじゃないと言っておろう? ウサギ攫いじゃ。攫った奴はどうするかじゃと? 丸々太らせて食うんじゃ。
わしのジョークにウサギ族はいいツッコミをくれなかったから続けたら、「猫の国とは地獄の事ではないか」との噂が流れ、ヨタンカの元へ苦情が殺到するのであったとさ。
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