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第二十一章 王様編其の四 ウサギ族の大移動にゃ~

583 時差ボケにゃ~

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「じゃあ、説教は長くするわ」
「善処しにゃす!!」

 ウサギ族の取扱いについて女王がわがままばかりを言うので断っていたら、最終手段を使って来たのでわしが折れる。だって怒られたくないんじゃもん。

「はぁ……朝から多大な労力を使ったわ。少しの間、撫でさせて」
「ゴロゴロ~」

 わしは返事しておらんのに、もう撫でておる……あ~あ。ウサギ族はうちで引き取らなくちゃいけないのか。面倒くさっ!
 せっかく東の国に押し付けてやろうと思っていたのに……ん? あさ??

 女王はわしを撫でながら書類仕事を始めたが、気になる事が生まれたので質問する。

「いまってにゃん時にゃ?」
「八時過ぎよ」

 女王は部屋の壁にある置時計を見ながら答えた。

 あれはうちで売った時計かな? ……じゃなくて! 朝の八時じゃと? ……あ! しまった。時差……
 時計を合わせたのに、日ノ本の時差の感覚のまま三時間じゃと思っておった。こことアメリカ大陸は十時間ぐらい時差があったんじゃから、向こうで朝の内に帰っておれば、怒られる必要はなかった!!
 うっそ~ん。怒られるわウサギ族は引き受けてくれないわ、踏んだり蹴ったりじゃ。ふぁ……なんだか朝と聞いたら眠気が……


 さっきまでクリフ・パレスでは夜だった為、急に眠気がやって来たわしは女王の膝の上で熟睡。
 執務室にはわしの喉から鳴るゴロゴロという音と、女王達が仕事をする音しか無くなるのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 時計の針が十時を過ぎた頃、執務室にコンコンとノックの音が響き、王のアンブロワーズが入って来た。

「サンドリーヌが帰って来たのはよかったんだが、また変な生き物を連れて歩いていたぞ?」

 どうやらアンブロワーズは仕事の途中でサンドリーヌと会って、わざわざ女王に報告しにやって来たようだ。

「立って喋るウサギらしいわ。この猫が新大陸から連れて帰って来たのよ」
「居たのか……」

 女王がシラタマを両手で持ち上げるが、シラタマは起きる素振りも見せずにグースカ言っているので、アンブロワーズは呆れている。

「その猫は、新しい土地に行ったら何か連れて帰らないと気が済まないのか?」
「フフフ。面白いからいいじゃない。でも、今回は別件みたいよ」
「別件??」
「これ、読んでみて」

 女王が一冊のノートを前に出すと、アンブロワーズは持ち上げてペラペラ捲る。

「な、なんて悲惨な状況だ……」

 ウサギ族の現状が書かれたノートは、国や領を統治するものからしたらデスノートに近い代物なので、目を通したアンブロワーズは顔を歪める。

「それを見て、サティは怒ったらしいわ」
「サンドリーヌならそうなるだろうな」
「でも、ウサギ族を救う方法は、私と同じ答えに至ったらしいの」
「サンドリーヌがか!?」
「フフフ。たぶん、私もあなたと同じような顔をしていたのでしょうね」
「そうか……サンドリーヌも成長しているのだな……」

 アンブロワーズは娘の成長に喜ぶでなく、物悲しそうな顔で女王の目を見る。

「あの時、君が苦しむ姿を俺は見ていた。隣に居る事しか出来なかった俺を許してくれ」
「いえ……それでどれだけ私が救われたか……」

 アンブロワーズと女王は、自国が食糧難であった時の事を思い出し、見つめ合いながら距離が近付く。そうして両手を握り合って、さらに距離が近付く……

「あの~? イチャイチャするにゃら、誰も居にゃいところでしてくんにゃい?」

 だが、さっきまで寝ていたシラタマがガン見していたので、パッと離れた。

「さ、さあ。仕事しよっかな~?」
「お、俺も、仕事が途中だったんだ!」

 女王とアンブロワーズは顔が真っ赤。辺りにはシラタマ以外にも、数人空気になって見ていた事に気付いた二人は、慌てて仕事に戻るのであった。

「にゃはははは。面白いところを見れたにゃ~。にゃはははは」
「もう! うるさ~~~い!!」
「にゃ~~~!!」

 笑い転げていたシラタマは、女王に首根っこを掴まれて、執務室の窓から投げ捨てられるのであったとさ。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 きゃっと空中五回転っと……

 城の二階にある執務室の窓から追い出されたわしは、庭にくるりと着地した。

 ちょっと多かったか。てか、面白い物が見れたのう。あとでさっちゃんにチクってやろっと。これを脅しのネタに使えば、説教は短くなるかもしれんしな。
 さてと……リータ達と合流したいところじゃけど、どこにいるんじゃろ? 見当もつかんし、もうすぐお昼の時間じゃから食堂で待ってよっと。

 わしはトコトコと城の中を歩き、王族専用食堂に無断で入ったら、ポポル親子と共にリータ達がテーブルに突っ伏していた。ちなみにコリスは床で丸まって爆睡。オニヒメもコリスベッドで爆睡だ。

「リータ、メイバイ。起きてるにゃ?」

 わしが二人をゆさゆさ揺すると、ゆっくりと体を起こす。

「ふぁ~……ダメです。いつになったら夜になるんですか~」
「夜に帰ったのに、なんでまた朝を経験してるんニャー。ふぁ~」

 どうやら皆も眠気マックス。わし同様眠気には勝てなかったらしく、お城見学もままならなかったようだ。

「時差の話をしたにゃろ? アメリカとここでは時差が十時間ぐらいあるんにゃ。時差ボケでしんどいだろうけど、あんまり寝過ぎると夜に眠れなくなるからにゃ~」
「「はいにゃ~。ムニャムニャ」」
「もうごはんができるにゃ~」

 わしが喋っている間も、二人はうつらうつらと現実と夢を行き来しており、テーブルに倒れ込んでしまった。なのでエサで起こそうとしたが、起きたのはコリスだけ。
 ただし、コリスは飛び起きたので、その上で寝ていたオニヒメが天井付近まで飛ばされてしまった。わしは慌てて高級串焼きを遠くに投げて、滑り込んでオニヒメを受け止めるのであった。


 オニヒメを撫でつつコリスに餌付けしていたら、食堂にフラフラなさっちゃんが入って来た。

「うぅぅ……眠いよシラタマちゃ~ん。なんで私は一日をやり直してるの??」

 さっちゃんはわしに抱きつくと、タイムスリップした少女のようになってしまった。その時、ちょうど女王が入って来たので、眠そうにしているさっちゃんを叱る一幕があったが、わしが説得して先に料理を食べる。

「つまりにゃ。わし達は現在、20時間以上起きているから徹夜状態なんにゃ。いや、勉強していたさっちゃんだけかにゃ?」
「みんな寝てたの!? ズルイ~」
「このあとお昼寝すればいいにゃろ。女王もそれぐらい許してやれにゃ~」

 さっちゃんがわしをぐわんぐわん揺するので味方についてあげたら、なんとか女王からの許可も取れた。

「寝てないのはわかったけど、そんなに時間が違うのは信じられないわ」
「日ノ本でも時差の説明したにゃろ。これ、向こうで正午を合わせた時計にゃ。確認してくれにゃ」

 女王はまだ信じられないようなので、両手につけた腕時計をテーブルに置く。ひとつは、ちびっこ天皇から貰った菊の御紋が入った時計で猫の国時間。もうひとつは予備で買った時計でアメリカ時間だ。
 皆もこんなに時間が違うのかと驚き、質問が多かったので地球儀を使っての時差講座。日付変更線の話までしてしまったので、女王の目がキラリと光った。

「シラタマは、どうしてそんな事を知ってるのかしら?」

 ヤベッ……ちょっと喋り過ぎた。地球が回っているのも半信半疑の者に、言う話じゃなかったな。ここはいつも通り、アレで煙に巻こう。

「「「「猫だからにゃ~」」」」

 とても言い訳にならないボケを言ったら、何故か、さっちゃん、リータ、メイバイと声が重なった。おそらく、わしの転生の秘密を守ろうとしてくれたと思うが、それで大爆笑となり、女王の追及をかわせるのであっ……

「で……なんで知ってるの?」
「平賀家で計算してもらったからにゃ~」

 当然、猫では押し通せなかったので、平賀家を出して無理矢理納得させるのであったとさ。


 昼食が終わっても皆はグロッキー状態なので、城の一室を借りてお昼寝。結局、夕飯の時間帯まで寝てしまって夜が長くなる。

「さっちゃん! 寝てたらわしだけ怒られるにゃ~!!」
「ご、ごめん……明日怒られるから、今日は、許し…て……」

 女王の寝室で説教を受けていたのに、仮眠しか取っていないさっちゃんだけ限界が来て眠るものだから、夜だけでなく説教も長くなるわしであったとさ。

 ちなみに、リータ、メイバイ、ポポルはお昼寝し過ぎて眠れなかった模様。コリスと兄弟はお昼寝好きだからいつでも眠れるし、オニヒメは眠り姫の経験があるからいつでも眠れて、ポポルの母親ルルは病気が治って間もないから眠れたようだ。
 いつの間にか姿が消えていたイサベレはというと、ちゃっかり仮眠を取り、日中は女王と喋っていたのでいつも通りの時間に眠ったらしい。

「あ……なんで撫でるの!?」
「「モフモフ~」」

 全然眠れないリータとメイバイは、わしの代わりにポポルをモフモフして時間を潰したらしい……


 翌朝は、リータとメイバイとポポルがお寝坊。わしも説教が長くて寝不足だったので、三人のベッドに倒れ、十時頃になったら行動に移す。

 あくびをする三人を連れてお城見学。ポポルは目新しい景色に目が覚めてルルと話が弾んでいたが、リータとメイバイは辛そうだ。
 お昼になったら王族専用食堂でゴチになり、テーブルマナーを知らないポポル親子は、昨日同様メイドさんに餌付けされていた。たぶん撫でたいが為に近付いているのだろうけど……
 わしもマナーは知らないが、たいして注意されないのでムシャムシャモグモグ。たぶん、王族からは諦められているのだろう。猫が立って喋っているだけで奇跡なのだから……

 お腹いっぱいになると、ここでようやくさっちゃんとお別れ。また遊ぼうと言って、女王とも約束を適当にしてから飛行機に乗り込む。
 城の庭から飛び立てば、ポポル親子がうるさいぐらいで、二時間も経たずに猫の街役場だ。


「「ウサギ?」」
「ウサギですわね……」
「立ってますわね……」

 何度も旅をしている事もあり、双子王女の出迎えがなかったので仕事部屋にポポル親子を連れ込んだら固まった。

「にゃ? 女王が連絡してくれるって言ってたんにゃけど、聞いてなかったにゃ??」
「「サティは戻ったとは聞きましたけど……ウサギ??」」

 どうやら女王は、双子王女からドッキリを受けた事があるので仕返ししようと、ポポル達の事は言わなかったようだ。

「ほんで、六千人ぐらい国民が増えるにゃ」
「「なんでそうなりますの!?」」

 当然この情報も知らなかったので、一から説明させられるわしであったとさ。
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