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第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~
581 大冒険の終わりにゃ~
しおりを挟む酋長のヨタンカが泣きやむのを待って、わし達はクリフ・パレス観光を楽しむ。さっちゃん達は……なんかモフモフばかり見て、この素晴らしい遺跡に対しての質問はないようだ。たまに痴漢してるし……
わしがまず最初に驚いた事は、ウサギ族の出勤風景。畑は崖下にあるらしく、崖にある道とは思えない道にウサギ族がわらわらと群がり、転がり落ちないかひやひやさせられた。
いちおう一定の距離は空けているらしいが、芋づる式になりそうだから、もう少し距離を空けて欲しい。
ウサギの密が収まった頃に建物が見やすくなったので、クリフ・パレスの質問。五百年前に移り住んだと聞いていたから、その前の住人はどこに言ったか聞いてみた。
しかし、ウサギ族が発見した時点で誰もおらず、伝承も知らないとのこと。なので、文字や変わった物は無かったかと聞いて案内してもらう。
残念ながら文字はなかったが、面白い物を発見した。
「時の砂……」
さっちゃんが言う通り、とある建物の中に大きな砂時計が二つあったのだ。片方は発見した時点で壊れて修復不可能だったらしいが、もう片方は現役で、毎日引っくり返して時間を計っているらしい。
数秒のズレが起きるが、日時計より正確に時を計れるから重宝しているようだ。
「時の賢者はここに来ていたみたいだにゃ~」
「シラタマさんが言った通りでしたね」
「となると、ここの元の住人に会ったんだにゃ~。羨ましいにゃ~」
「モフモフだったニャ!?」
リータと喋っていたらメイバイが話に入って来たけど、モフモフならなんでもいいのかな?
「違うにゃ~。たしかアナサジ族だったかにゃ? 古い伝承で『家に帰った』と言われていたにゃ。そのアナサジ族が宇宙人とか言われていたけど、砂時計なんて欲しがるって事は、嘘だったんだにゃ~」
「「「「宇宙人??」」」」
わしがウンウン頷いて感慨深く喋っていたら、皆は宇宙人に食い付いて来た。だが、何百億キロも先の星からやって来たと言ったら、信じてくれなくなった。
そもそもどうやって測ったかと聞かれても答えられん。でも、偉い人がそう言ってたんですって~。厳密に言うと、わし達も宇宙人なんですって~。
説明しても男のロマンは面白くないらしく、次に移動する事となったので、わしも続くしかなかった。
次はお土産探しで工房にやって来た。繊維工房はマントと絨毯しか作っていないし、木工工房は食器類ばかりなので、お土産にする物は限られる。
たいした物はないが、絨毯やマントの柄は綺麗だったので、未使用の物をひとつずつ受け取った。ただ、作っている物は、ウサギ族で順番に渡す予定だったらしく、わしのせいで順番をズラす事になってしまった。
まぁ次の調理工房で、大量の大蟻と保存食のレシピ。必要な調味料を渡す事で支払いとしたから、ヨタンカに非難は来ないだろう。
調理工房では、トウモロコシをウスで挽いているウサギが居たので、どんな食べ方をしているか質問する。さっちゃん達はまた痴漢してるけど……
どうやらトルティーヤみたいな物や、タコスのような物、コーン茶なんかも作っているらしい。少し味見をさせてもらったが、コーン茶以外、硬くて味がないので、皆には不評だった。
コリスは「星ふたちゅ!」じゃったけど……味がわかって来たの? そうかそうか。エライエライ~。
まだまだ採点は甘々だが、わしに褒められて嬉しそうなコリス。ただ、わしも皆に甘々と言われてしまったけど……
マズかったけど、食品はエミリのお土産。改良して、南米料理なんかを作れないかお願いしてみるつもりだ。
それとヨタンカにもお願い。トウモロコシの種籾を催促してみた。
「あまり多く持って行かれますと、次の収穫が……」
「十粒だけあればいいにゃ。これでも多いかにゃ?」
「それぐらいでしたら……でも、当たり外れもありますので、そのまま調理する場合は気を付けてください」
「どういうことにゃ?」
「うちでも収穫の直後は調理するのですが、実が柔らかい物もあれば硬い物があるので、ほとんど粉として使っているのです」
「あ~……にゃるほど。ま、種籾の現物を見せてくれにゃ」
「はい」
場所を移動し、トウモロコシ貯蔵庫に入ると、ヨタンカはその変にある麻袋からコップ半分の乾燥トウモロコシを掬って見せてくれた。
「これって、収穫の時に仕分けしてるにゃ? さっき言ってたのも混ざってるにゃろ?」
「いえ……種籾はそのままです。どちらにしてもコーンが出来るので……でも、どうしてそんな事を聞くのですか?」
「それが一番大事にゃ事だからにゃ。似てるけど、何種類かの品種があるから、美味しさに違いが出るんにゃ~」
「なんですと……」
「たぶんこの大振りな粒が、そのまま調理するのに適してるんだと思うんにゃけど……わしもコーンは育てた事がないからにゃ~」
「育てた事がないのに、何故わかるのですか??」
おっと。調理用やポップコーン用のトウモロコシがあると知らないのでは、言ったところでわかってくれんじゃろう。中途半端な知識で喋りすぎたな。
「うちでも似たようにゃ穀物があってにゃ。二種類の品種の仕分けで大変にゃ思いをしたんにゃ」
わしが! 餅が食べた過ぎて、餅米と普通の米を分けるのは大変じゃったな~。
「そのようなことが……今まで、私達は間違った育て方をしていたのですか……」
「そうなるにゃ。でも、気付けたんにゃら、修正すればいいだけにゃ。次の種付けはいつにゃ?」
「もう一月ほどすれば始まります」
「それまでに、わしのほうで調べておいてあげるにゃ。あと、移住の件もあるから、植えるかどうかも考えておいてくれにゃ」
トウモロコシの種籾を十粒受け取ると、遺跡観光に戻る。そこで、日時計のような物を見付けて話を聞き、お昼が来たらヨタンカを誘ってランチ。崖から農作業をするウサギや景色を楽しみながら食べる。
あまりうますぎる物を出すとヨタンカが驚きすぎて死ぬ可能性もあるので、おにぎりとサンドイッチにしておいた。足りない人には、高級串焼きのセット。見た目はただの串焼きだから、何の肉を使っているかヨタンカにはわからないだろう。
もちろんヨタンカは、おにぎりとサンドイッチだけでグロッキー状態。どれも高級肉と高級野菜が使われていたのをすっかり忘れてた。まぁ息はあるようだから、大丈夫だろう。
ランチが済めば、全員で紐無しバンジー。ヨタンカは「押すな押すな」と言って押して欲しそうだったので、わしが押してあげた。
皆は慣れたものなので楽しそうに落下するが、わしとヨタンカは悲鳴をあげながら落ちる。
だって、何度やっても慣れないんじゃもん。わしも怖いのは一緒なんじゃから、酋長はポコポコしないでくれる? 骨が折れてもしらんぞ?? ほれみたことか。
怖かったと怒るヨタンカの細腕で叩かれても、わしには蚊が刺した以下。逆に手の骨をポッキリやっていたので、回復魔法で治してあげた。
ヨタンカが復活したら、畑見学。ウサギがうじうじゃと居て、鍬を振っていたり、バケツリレーしてたりと、ファンシーな空間になっている。
さっちゃん達は見学するより、ウサギを侍らせたいみたいなので、ヨタンカに頼んで数人……十人も連れて来てもらった。今回のエサはアメちゃん。少しランクを落としたが、チョコを食べたウサギは居なかったので満足してくれた。
モフモフうるさい奴が居ない内に、わしだけ畑見学。何を植えているのかと聞くと、この時期はジャガイモを植えているようだ。その他に麦や葉物野菜も育てているらしいが、収穫時期では無いので野菜の名前だけ聞いておいた。
畑は獣が入り込まないように崖で隠されているのだが、二ヶ所の出口があるから、少なからず入って来てしまうそうだ。そこそこ広く、走って出口に向かった先には木のバリケードが設置してあり、獣対策がしてあると思われる。
だが、バリケードはつぎはぎだらけだから何度も破られていそうだ。なので、土魔法で作った高くて分厚い壁と門をプレゼント。深いお堀と橋も作ったから、よっぽどの大物以外、入って来れないだろう。
いきなり大きな壁が出現したので、ヨタンカが腰を抜かしていたけど気にしない。逆側のバリケードまでヨタンカを背負って走り、同じ壁セットを作ってあげた。
「これで獣被害はなくなるにゃろ。あ、移住したらいらなくなるかにゃ? にゃはは」
「は、は……」
ヨタンカは、見た事もない魔法と、とんでもない移動速度で混乱中。「はい」の一言も言えないよう……
「はは~」
いや、なんか土下座の体勢になって、両手を上に下にとパタパタてる。
「にゃにしてるにゃ?」
「シラタマ様は、我等ウサギ族の救世主……いや、神そのものです! はは~」
「わしは救世主でも神でもなく、猫だにゃ~!!」
この時を境に、ヨタンカからわしは名前を呼ばれなくなり、神様と呼ばれるのであった。
畑見学を終えると、最後のとっておきの場所に移動。ウサギハーレムを解散させられて「モフモフ、ブーブー」うるさいさっちゃん達と、低い声で「とお~う」と掛け声を合わせる。
「さすが神様! 崖の上まで一瞬で着きました!!」
ヨタンカの言う通り、ここはクリフ・パレスの頂上。ヨタンカから教えてもらった崩れた遺跡がある場所だ。ヨタンカはもう神様としかわしの事を見てくれないので、編集されたテレビのような移動方法はツッコンでくれない。
「【突風】に乗ってやって来たんにゃ」
「なんの話ですか??」
なので、無駄に状況説明をするわしであったとさ。
いちおう遺跡は皆も興味があるらしく、どんな家が立っていたのかと喋っている姿があり、わしもヨタンカに質問していた。
「どうしてここは、直して使わないにゃ?」
「昔は建物が残っていて使ったと聞きましたが、何度も大きなコンドルの襲撃を受けて、崩れてしまったようです。さすがにそんな所には住めませんよ」
「にゃるほどにゃ~。鳥対策も必要だにゃ~」
ここでは池みたいな大きな水溜まりも発見したので、その事も聞いてみたら、雨水とのこと。この水が自然ろ過されて、下のクリフ・パレスに流れて飲み水として使われているらしい。
あとは見る物も質問する事も無かったので、さっさと撤収。また飛び下りて、クリフ・パレスにてポポル親子と合流する。
「荷物は……そんだけにゃ?」
「家にある物は全部持って来たのですが……」
二人の持ち物は、二人で風呂敷半分程度。見せてもらったら、食器と羽根飾りしか入ってなかったので、持って行く必要も感じられない。
なので、「もう捨てて行けば?」と言い掛けたが、すんでのところで止めた。
だって、ウサギ族って全裸なんじゃもん。風呂敷かと思ってたの、マントだったんじゃもん。これが、この二人の全財産なんじゃもん。
オヨヨヨと泣きそうになったわしは、涙を堪えてヨタンカと別れの挨拶をする。
「じゃ、ちょくちょく顔を出すから、その都度、移住について話し合っていこうにゃ」
「はっ! 猫の国に移住できるように、手筈を整えておきます!!」
「いや、東の……むぐっ!?」
もうすでに、ヨタンカの中では猫の国への移住が決定していたので訂正しようとしたら、リータとメイバイに口を塞がれてしまった。
「正式に猫の国の国民になる事も考えておいてください!」
「猫の国は、皆さんを歓迎しますニャー!」
「ズルイ! シラタマちゃんは、東の国を推してくれているのよ! 私が必ずウサギ族を幸せにするから、もう少し決定は待ってて!!」
そして勝手にウサギ族を猫の国の国民にしようとし、さっちゃんも参戦する。ただ、ヨタンカはわしの信者だから、決意は固そうだ。
このまま喋らすと猫の国入りが決定してしまうので、ウサギハーレムを使って話を逸らす。しかしそのせいで、ウサギを侍らせた皆がなかなか帰ろうとしてくれない。
時差があるからまだ大丈夫とか言って、晩ごはんを食べても頑としてウサギを離してくれなかった。
なんとか皆を引き離せたのは、完全に日が落ちた頃。ウサギがぐったりして眠ってしまったので、さすがにやり過ぎたと思ったようだ。しかし、いつ再燃するかわからないので、さっさと別れの挨拶をしてしまう。
「夜遅くまで悪かったにゃ。それじゃあ、まったにゃ~。バイバイにゃ~ん」
「またの御越し、心よりお待ちしております」
こうしてわし達は、深々と頭を下げるヨタンカに見送られ、【突風】に乗って逆側の崖の上に降り立つのであった。
そのせいでヨタンカに、猫が空から舞い降りた伝説を作られてしまったのであったとさ。
崖の上に着地したわし達は、少し奥に行ってお風呂を取り出す。別にウサギ族が汚いとかではなく、昨日はわし達もお風呂に入っていなかったし、アメリカ大陸の病原体を持ち帰る可能性がゼロではないので、綺麗さっぱり服も着替える。
ポポル親子はリータ達に揉み洗いされて戸惑っている内に、皆の脱いだ服やポポル親子のマントはわしが揉み洗い。魔法で短時間で洗い、【ノミコロース】も使ったから、おそらくウイルスは除去できただろう。
それからポポル親子には、裸でわし達の暮らす土地を歩かせるわけにはいかないので、洗い立ての質素なマントを羽織らせた。毛皮で恥部は見えないから必要はないかもしれないが……
ポポル親子の食器類をわしの次元倉庫に入れたら、偽三ツ鳥居を取り出して目隠しをして、リータとメイバイに手を引かせて少し歩かせる。
そうして全員が固まったら、東の国の三ツ鳥居設置場所まで転移。ポポル親子の目隠しを取ってから外に出ようとしたら、問題勃発。さっちゃんは鍵を持っていなかったようだ。
皆からどうするか責められたので、ぶっ壊してやろうかと言ったが皆に止められた。まぁこのあと、女王の説教も待っているので、粗相をすると説教が延びてしまう可能性がある。
それならばと鍵穴を覗くと、鉄魔法で開けられそうだったから、ガチャンと開けてやった。
フフ。怪盗猫又に、開けられない扉はないのだよ……
決め顔をしていたら、一同ドン引き。わしが泥棒でもしないか心配しているようだ。なので、やるわけがないと言いながら部屋から押し出して、鍵も掛け直しておいた。
隠蔽工作も上手くいったので女王の元へと進むが、綺麗な庭園に入ったところでポポル親子がはぐれてしまった。おそらく、さっきまで夜だったのに明るいから、ここを天国と勘違いして死んだ父親を探しに行ったのだろう。
とりあえずリータ達がウサギ狩りに向かってくれたので、わしとさっちゃんは近くのベンチに腰掛けた。
「それで……初めての冒険はどうだったにゃ?」
「すっごく楽しかったよ!」
さっちゃんは目を輝かせてわしに顔を近付ける。
「新大陸に降り立った時はドキドキしたし、人と会った時は感動した。見たこともない生き物、見たこともない種族、古代遺跡!」
「にゃはは。今回は目白押しだったからにゃ~」
「飛行機があるからもっと楽に進んでいると思っていたけど、シラタマちゃん達の苦労も知った。そこに暮らす人々の楽しみや苦しみも知った。それもひっくるめて、ぜ~~~んぶ、楽しかったよ!!」
さっちゃんは満面の笑みを浮かべてわしの顔を両手で挟み込む。
「シラタマちゃん……ありがとう」
そして、ほんの少しだけ、わしと唇を合わせてから立ち上がった。
「あ! 見付かったみたい。行こう! シラタマちゃん!!」
さっちゃんはキスをしても何もなかったように駆け出し、ポポル親子を抱きかかえてモフモフしているリータ達の元へと走って行った。
「シラタマちゃ~ん! 早く~」
「にゃ! いま行くにゃ~~~」
いきなりキスをされて固まっていたわしであったが、振り向いて手を振る笑顔のさっちゃん達の元へと駆け出す。
こうしてさっちゃんの大冒険は、多くの経験を積み、幕を下ろしたのであった。
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