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第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~
576 さっちゃんの怒りにゃ~
しおりを挟む「#、#*$$、*+#+**~!?」
人間みたいな細身の灰色ウサギが、さっちゃんを見て何か叫びながら体を引き摺って後退ると、コリスにぶつかった。
「ぎゃああぁぁ~~~!!」
そして悲鳴をあげて別の方向に後退り、オニヒメとぶつかって、また悲鳴をあげて別の方向へ……
灰色ウサギはわし達に囲まれて逃げ場が無いので、グルグルと回転している。
「にゃにこれ??」
「絶対うちで飼う!!」
わしと同じくらいの大きさの奇妙な生物を指差して問うと、さっちゃんは闘志をメラメラと燃やして、手をわきゅわきゅし始めた。
「ちょっ! そんにゃ場合じゃないにゃろ!!」
「どうしたのですか? ……わっ! かわいい!! うちで飼ってもいいですよね??」
「リータまでにゃ!?」
「何がかわいいニャー? ……私がちゃんとお世話するニャー!!」
「メイバイまでにゃ~!!」
「じゃあ、私はダーリンをかわいがる」
「イサベレのその手はにゃにかにゃ~?」
さっちゃんが手をわきゅわきゅする中、リータとメイバイも灰色ウサギを見てわきゅわきゅし出し、イサベレは何故かわしに向けてわきゅわきゅする。
なので、わしと灰色ウサギは抱き合ってプルプル震えるのであった。
「てか、パパこそ何してるの??」
さっちゃん達が「ハァハァ」言っている中、冷ややかなツッコミを入れるオニヒメの言葉で、わしと灰色ウサギは「ハッ」として見つめ合う。
はて? なんでわしはウサギとなんか抱き合っておるんじゃ??
てか、このウサギって、さっちゃんを指差しながらなんか喋ってたっぽいよな? 服は着ておらんから、野生か文明人かよくわからん。とりあえず、念話が通じるか試してみよう。
「あ~……ちょっといいかにゃ?」
「え? 頭の中で声がする……」
「わしにゃ、わし。念話という特殊な力で話し掛けているんにゃ」
「君が……それより、この毛のない生き物はなんなの!?」
リータ達の事を言っておるのか? てことは……人間を知らない野生のウサギってことか??
「わしの仲間にゃ」
「はい? そう言えば、君なんて初めて見たかも……耳! 耳が千切れてるよ!?」
耳? ひょっとして、わしの事をお仲間さんと思っているのか??
「わしは猫だから、これが素にゃ。怪我なんてしてないにゃ」
「猫?? その顔は……うわ! ピューマ!!」
灰色ウサギは少し冷静さを思い出したのか、わしを突き飛ばして後退る。ただし、その先は手をわきゅわきゅしているリータが待ち構えていたので、抱き上げられてしまった。
「うわ~~~! 助けて~~~!!」
「モフモフ~!!」
リータがモフモフすると、灰色ウサギは悲鳴をあげるがお構いなし。
「「モフモフ~~~!!」」
「殺される~~~!!」
さっちゃんとメイバイも襲い掛かって、耳や腹をモフモフする。
「モフモフ~!」
「イサベレもあっちをモフれにゃ~!!」
イサベレはわしに襲い掛かって来たので、わしの大事な所を触ろうとする魔の手は、尻尾でぺちぺち叩き落とすのであったとさ。
灰色ウサギはリータの馬鹿力で捕まったからには、どんなに暴れても逃げ出す事は難しく、諦めて皆にモフられる。そうして長時間の撫で回しを受けた灰色ウサギはぐったり。
何故か涙目でわしを見ながら助けを求めて来たところを見ると、見た事のない人間よりは、同じモフモフなら話が通じると思ったのかもしれない。
ただ、あまり早く助けてしまったら、わしも悪魔達に撫で回されかれないので、頃合いを見て助けてあげる。
「みんにゃ~。もう離してやれにゃ~。このままじゃ死んじゃうにゃ~」
「「「ハッ!?」」」
ようやく灰色ウサギが、リータの腕の中でぐったりしている事に気付いた三人。わしが死ぬと言ったからか、素直に地面に下ろしていた。
それから灰色ウサギの事情聴取。おやつと飲み物を出して落ち着かせようとしたが、灰色ウサギは全然手を付けないのでコリスに取られてしまった。
なので、コリスは「メッ!」と叱ってから追加のおやつを支給し、リータ達にも押さえてもらい、灰色ウサギの事情聴取を開始する。
「わしはシラタマというにゃ。君には名前があるのかにゃ?」
「うん……ポポル」
「ポポル君? ポポルちゃんにゃ?」
「僕は男です」
「すまないにゃ。わしもこんにゃ姿だから、性別を間違われる事があるんにゃ」
簡単な自己紹介をすると、次に移る。
「いちおう言っておくけど、ポポルは獣に襲われていたにゃ。それを助けたのは、わしの仲間にゃ。この辺の記憶はあるのかにゃ?」
「襲われていたところまでは……」
「じゃあ、わし達は命の恩人にゃ。ポポルの事は取って食う事もしないし、にゃんだったら仲間の所に帰る手伝いだってしてあげるにゃ」
「仲間……」
「居るにゃろ?」
「居るけど……まだ帰れない……」
ポポルが暗い顔をするので、まずは怪我がないかと質問する。ポポルはリータ達に驚いて忘れていたようだが、至るところ打撲の症状があったらしく、今ごろ痛がっていたので魔法で治してあげた。
それからクッキーとジュースを与えてみたら、美味しいと言いながらバクバク食べ出したが、すぐに手が止まった。どうしたものかと聞いたら、お母さんに食べさせたいとのこと。
母親の分は追加であげるから好きなだけ食っていい事と、その代わり、わしの質問には全て答える事を約束させて、情報をスムーズに聞き出せた。
どうやらポポルはウサギ族の一員で、崖にある集落で暮らしているそうだ。
その集落にはけっこうな数の住人が暮らしており、全てウサギの姿をしているらしいので、念話で盗み聞きしている女子の目が「キラーーーン!!」と、眩しいぐらい辺りを照らした。
集落を出て、どうして一人で居るのかと聞いたら、狩りをしていたらしい。
ポポルの家は、父親は他界しており、母一人、息子一人の家族構成で、その母親が病気がちでウサギ族の為の仕事が少ししかできないから、食料の配給が少ないんだとか。
ここ一ヶ月、母親は寝込んでしまい、ポポルが頑張るしかないのだが、決められた仕事量をこなすだけで手一杯。そのせいでポポル家はウサギ族の貢献度が低く、配給も一人分しか出ないらしい。
そんなので暮らしていけるのかと聞いたら、集落には前借り制度があって、一日の食料の半分だけは出してくれるとのこと。しかし、返済の期日が迫っているので、一人で狩りに出て、大物を狩って帰ろうとしていたらしい……
「にゃるほどにゃ~……でも、大物を狩るには実力不足に見えるにゃ。にゃんでそこまで無理してるにゃ?」
「返済の期日が迫っているから、仕方なく……」
「貢献度だったかにゃ? そんにゃの払わなくても、殺される事はないにゃろ? ちょっと過酷にゃ仕事に回されるだけじゃないにゃ?」
「こ……れる……」
「にゃ~?」
わしの質問に、ポポルは何か呟いたが、念話の声が途切れ途切れで聞き取れなかった。なので質問したら、ポポルの目から涙が落ちた。
「お母さんが殺されるんだよ! もう仕事が出来ないからって、集落から追い出されるんだ! そうなったら生きていけない。コヨーテの餌になるだけだ……うっうぅぅ」
貢献度が低いと配給が少なくなると言っておったな。という事は、食べ物が少ないから、口減らしって事か……
わしの感性からしたら到底看過できんが、時代背景によっては、やらざるを得ないのかもしれん。どうしても口減らしが必要ならば、わしが老人だったら真っ先に手を上げそうじゃわい。
てか、これは、いつか猫の国でも起こる事柄か……。昔、女王を非難した事はあったが、わしの身にも降り掛かって来るとは……
「ひどい……」
泣き続けるポポルを見ながらわしが考え事をしていたら、さっちゃんが震える声で呟いた。
「酋長だっけ? その酋長は、民の命をなんだと思っているの! 民を見殺しにするなんて、あってはならないわ! ふざけんじゃないわよ!!」
さっちゃんが怒りを露わに念話魔道具を使って怒鳴り散らすと、ポポルは何故か酋長の弁護をし出した。
「ちがっ……酋長は悪くない。少ない食料でなんとかやりくりしてる。酋長が居なかったら、とっくにお母さんは死んでた」
「なに言ってるのよ! その酋長が、お母さんを殺す命令を下すのよ! 役に立たないからって切り捨てるなんて酷すぎるわ!!!」
「だから、僕達が悪いって……」
さっちゃんに押されてポポルは下を向いてしまったので、わしはさっちゃんを止める。
「これがウサギ族の常識にゃんだから、そんにゃに責めてやるにゃ」
「シラタマちゃん……何を言ってるの? 民が死ぬのよ??」
わしの発言で、さっちゃんはキョトンとする。
「さっちゃんは、ウサギ族が置かれている状況を全て把握して、そんにゃ事を言ってるにゃ?」
「状況なんて関係ないわ! いまは命の話をしているのよ!!」
ダメじゃ。さっちゃんの視野が狭くなっておる。これは、いまは何を言っても通じんじゃろう。
「はぁ……もう日が暮れそうにゃし、さっちゃんは国に帰らないとだにゃ。ポポルは、そのあとわしが送り届けるにゃ」
熱くなり過ぎているさっちゃんに帰還の話を振ると、噛み付いて来る。
「いやよ! ウサギ族の酋長にガツンと言ってやるまで、私は帰らないわよ!!」
「いまのさっちゃんは、冷静にゃ判断が出来てないにゃ~」
「冷静よ! シラタマちゃんこそどうしたの? いつものシラタマちゃんだったら、私と同じように怒っていたはずよ!!」
う~む……話が通じん。もう帰らないと女王に怒られそうなんじゃが……致し方ない。さっちゃんの勉強の為に、わしが怒られてやるか。
さっちゃんの剣幕に、リータ達も心配するような目を向ける中、わしはさっちゃんに言い聞かす。
「そこまで言うにゃら、帰りは一日延長してやるにゃ。その代わり、ウサギ族の状況を把握するまで、さっちゃんの会話は禁止にゃ」
「それじゃあ何も言えないじゃない!」
「じゃなきゃ、いますぐ帰るにゃ」
「ぐっ……ズルイ……」
さっちゃんが恨めしそうな目を向けるので、わしは飛び付いて頭を優しく撫でる。
「別に怒る事を禁じているわけじゃないにゃ。酷いと思うにゃら、あとから叱責したらいいだけにゃ。にゃ?」
「……うん」
さっちゃんが納得したところで、ウサギ族の集落に向かう事が決定したのであった。
集落に向かうにしても、わし達は場所も知らないので、ポポルを頼るしかないのだが……
「えっと……たぶん北東に行けば……どっちが北東??」
頼りにならない。なので、方位磁石を頼りに、ポポルが知っている場所まで走る事にする。
さっちゃんは少し気まずいからかわしのおんぶは断って、オニヒメと一緒にコリスの背中。わしはポポルを背負って走り、皆も続く。
するとイサベレが近付いて来て、「早く帰らないと」と苦情を言って来たが、わしは聞き入れない。これもさっちゃんの為だと言いくるめる。
リータ達も寄って来て、わしの雰囲気が変だった事を心配してくれたが、大丈夫と言っておいた。
そうして喋っていたら、ポポルからストップが掛かったので下ろしたら、ポポルは耳をピクピクとし、辺りの匂いなんかも嗅いで、行き先を指差す。
その行為を二度ほど繰り返し、しばらくして岩壁地帯に入り、日が沈んで間もなく、ポポルは集落に着いたと言って木の板で作られたバリケードの中にわし達を招き入れた。
「にゃ? どこにも家にゃんてないにゃ」
バリケードの内側には家どころかウサギっ子一匹見当たらないので、わし達はキョロキョロしている。
「下じゃない。上……上を見て」
「「「「「にゃ~~~」」」」」
ポポルが上を指差して、わし達が見上げると、全員感嘆の声を出す。
ここは、わしが探していたコロラド州南西部にある観光地、メサ・ヴェルデ遺跡。崖をくり貫かれた場所に作られた岩窟住居、クリフ・パレスだ。
もう日も暮れた事もあり、崖の中にある集落から漏れる光にわし達は見惚れて、しばし言葉を失うのであった。
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