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第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~
574 面白い物を探すにゃ~
しおりを挟む陽気な部族、モララ族の神様に見送られ、わし達は東に向かって空を行く。機内では、白マナティーがかわいいと話題になって、その話はもう終わったはずなのに再燃している。
「シラタマちゃ~ん。戻ってよ~」
そう。さっちゃん達は、白マナティーと触れ合いたいと恐ろしい事を言っていたのだ。これにはイサベレはわしの味方に付いてくれたが、リータ達はさっちゃん派閥だから多数決で負けた。
だが、さっちゃんの冒険は今日が最終日。「もっと面白い物があるかも?」と唆したら、派閥の長なのに寝返ったので、戦闘機を飛ばす事が出来たのだ。
「危ないからダメにゃ~。海に落ちたら大変にゃ~」
「じゃあ、陸だったらいいの?」
「まぁそれにゃら……でも、次回だからにゃ?」
「なんで言う事がわかったのよ~」
さっちゃんは自分のお尻を見ながらボヤいていたけどなんでじゃろ? まぁいいや。先に進も進も。
最近わしが心を読ませないから、さっちゃんはわしの尻尾を握って字を書いているみたいだったが、心を読まれる秘密を知らないわしは、何をやっているかわからない。
後ろで何やら盛り上がっているけど、「LOVE」ばっかり書く理由もさっぱりわからないわしであった。
なんだか皆は満足げな顔をしていたので、戻る問題は解決したようだ。ただ、東に飛んでいるから太陽の光が眩しいと苦情が入ったので、振り返ったら笑われた。
ナメてんじゃね~よ!
笑われた理由は、サングラス姿のわしが学ラン姿の猫に見えたから。いや、似合ってないから笑われたっぽい。
皆も掛けたいと笑っていたので、作っていた猫パーティ用サングラスを回してもらう。
「シラタマちゃん、似合う~?」
「プッ……にゃはははは。それ、コリスのにゃろ~」
「あはははは」
さっちゃんがコリス専用ビッグサングラスで顔を出したからには、わしも吹き出してしまった。リータ達もビッグサングラスを掛けたのか、箸が転がっただけでも笑う女の子のようにかしましく、空の旅は続くのであった。
そうして空を行くこと二時間。おそらく目的の場所に着いたが、まずは超高度からの写真撮影。
さっちゃんがまたうるさくなって「月にタッチしようぜ~」とか言っていたから、地球と月の距離、宇宙空間には空気が無いと説明したら静かになった。
馬車で何日掛かるか計算していたけど、両手では計算できないと思う……それに馬車は飛べないし、空気が無いから死ぬと思う……
ちょっと未来を教え過ぎただけで、さっちゃんはおバカさんになったようだ。だが、静かになった今がチャンス。戦闘機を回転させてメイバイに写真を撮らせる。
ふむ……北アメリカは、黒い森があまりないな。およそ半々で緑と黒の森か……大戦は無かったのかな? 白い森も多少はあるようじゃけど、おそらく化石燃料の採掘地じゃろう。
それに引き替え、南アメリカまでの道中は酷いもんじゃ。アマゾン辺りは緑は多いけど、メキシコ周辺は黒い森と白い森。たしか、メソアメリカ文明があった場所か……大戦があったのは確実じゃ。
超高度からアメリカ大陸を確認すると、ゆっくり高度を落とし、気になる場所を質問する。リータ達は白い森に突撃訪問しようとか言っていたけど、わしが却下。さっちゃんが居るからと言って、観光地で遊んでからお昼にしようと提案する。
すると、コリスが「ホロッホロッ」と嬉しそうに味方についてくれたので、リータ達も折れてくれた。コリスはエサと聞いたからだろうけど……でも、ランチはもうちょっとあとだよ?
待ち切れないコリスと物欲しそうなオニヒメにおやつを食べさせながら高度を落としていたら、皆もわしが連れて来た観光地に興味を持ってくれたようだ。
「シラタマちゃん! 何あれ?? なんで地面に亀裂が入ってるの!?」
「あれは川が干上がった跡にゃ~」
ここはアリゾナ州にあるグランドキャニオン。複雑に入り組んだ渓谷を見て、皆は感動している。
わしはさっちゃん達の質問に答えながら、戦闘機が降りられそうなポイントを探し、着陸すれば崖の上から絶景を楽しむ。
「水が山を削ったんだ……自然って凄いのね~」
「そうだにゃ。わしも初めて見たけど感動にゃ~」
「シラタマちゃんも初めてだったんだ! でも、どうしてこんなに遠い土地の事を知ってるの?」
「この世界より、情報を仕入れるのが楽だったからにゃ。その土地土地に人が居て、その人達が撮った写真や動く写真が簡単に見られる箱があったんにゃ」
「動く写真!? 欲しい!!」
「にゃはは。女王が死ぬまでには、にゃんとか平賀家に作らせてみせるにゃ~」
さっちゃんはわしが意味不明な事を言ったにも関わらず、テレビに食い付いた。しかし、そこで女王を出したのは失敗だったかもしれない。なんで自分にはそんな面白い物を教えてくれないのかと苦情が来てしまった。
「それを言ったらさっちゃんだって、女王を除け者にして冒険してるにゃ~」
「うっ……でも~」
「それに知ったところで、無い物は無いにゃ。出来るまで、この光景を目と心に刻もうにゃ。そして、歳を取ったら写真を見て、こんにゃ事があったにゃ~……とか話そうにゃ」
「そうね。思い出が写真に残っているんだから、いつでも思い出せるね! ……てか、なんでシラタマちゃんに散歩させられてるのよ~」
さっちゃんには申し訳ないけど、ロープで縛ってわしが握っていたのだが、残念ながら気付きやがった。
「ここは危険だからにゃ。落ちたら大変にゃ~」
「それなら皆も必要でしょ~?」
「たぶん……いらないにゃ。さっちゃんと違って、みんにゃ運動能力が凄いからにゃ」
さっちゃんの指摘を受けて皆が落ちた時を想像してみたが、死ぬ姿が思い浮かばないから、ちょっとブルッと来た。
リータは落ちても怪我をしないだろうし、コリスはコロコロ落ちるだけ。メイバイは崖をぴょんぴょん下りるだろうし、イサベレは空を飛べる。オニヒメだってその気になれば、風魔法で飛べるはず。
兄弟達に至っては、猫。それも、普通の猫より敏捷でタフな猫だから、落ちたところでケロッと戻って来るだろう。
「私も気を付けて歩くから~。あ……」
「言ってるそばから落ちるにゃ~!!」
さっちゃんは後ろ向きに歩いて崖から落ちたものだから、ロープを引いて止める。すぐに向かおうかと思ったが、イサベレがすでに崖から飛び下りていたから問題ないだろう。
それからさっちゃんを抱いたイサベレが戻ったら、さっちゃんはめっちゃ笑っていた。反省してないように見えたが、目が笑っていなかったのできつく叱る事はやめた。
さっちゃんはちょっとした窪みに落ちたようだけど、何百メートルも落ちる事を想像した恐怖心で笑っていただけなので、もうそんなお茶目な事はしないはずだ。
念の為、さっちゃんはコリスの背に乗せてイサベレも張り付かせたから、落ちる事も難しいはずだ。コリスがお茶目な事さえしなければ……
さっちゃん問題が落ち着いたら、グランドキャニオン観光の再開。崖の上からだけじゃなく、ぴょんぴょん下りて、渓谷を見上げて景色を楽しむ。
そうして川の跡を確かめるようにしゃがんで見ていたら、リータがわしの隣にしゃがみ込んだ。
「シラタマさんが言っていた通りですね」
「にゃ? にゃんのこと??」
「ほら~。私の故郷に似てる場所の話ですよ~」
「あ~。そんにゃ話したにゃ~。ここは似てるのかにゃ?」
「こんな崖じゃなかったですけど、石の質は似てますね」
「おしいんにゃ……リータの故郷探しも面白そうだにゃ~」
わしの案に、リータは首を横に振る。
「もう見飽きちゃったからいいですよ」
「でも、心が落ち着いたりしないにゃ?」
「そうですね……少し落ち着くかもしれません」
「故郷ってのはそういうもんにゃ。この先長いんにゃから、別に遠慮しなくていいからにゃ」
「はい!」
わしとリータが笑顔で喋っていたら、メイバイがわし達の正面からパシャリと写真を撮って、何を喋っていたかと聞いて来た。なので、包み隠さず説明すると、メイバイもリータの故郷探しに行きたいと言ってくれた。
下からの景色を楽しんだら、【突風】に乗って崖の上に乗り、ランチをしながらぺちゃくちゃ喋る。だが、グランドキャニオンは広すぎて、全てを見て回るには時間が掛かりすぎるという話になった。
そこからは、さっちゃんは「もっと面白い物をプリーズ」とねだり、リータ達は「戦闘をプリーズ」とねだる始末。なのでわしは、さっちゃんの制限時間も迫っている事もあり帰還を提案したが、全員に却下されてしまった。
面白い物と戦闘を一緒にやれる事なんて……白い森に入れば解決なんですか。でも、さっちゃんを連れて行くわけには……せめて黒い森で獣を見たいのですか。う~ん……あ!
わしはこの近くに面白い物の候補を思い出したので、面白い物を見せれば戦闘狂を黙らせる事が出来るかと思い、戦闘機で出発する。ただ、行き先を告げずに飛んだものだから、皆がめちゃくちゃ撫で回すので邪魔だ。
しかし、さっちゃんの制限時間も差し迫っているのでブッ飛ばさなくてはいけない。皆の愚痴と撫で回しを耐え、なんとか目的の場所近辺まで辿り着いたが、記憶があやふやなので目的の物は見付からない。
なので、皆の撫で回しが激しくなってしまい、ちょうどあった黒い森の近くに降りるしかなかった。
「さあ! 日が暮れるのも時間の問題ですし、強い獣を狩りますよ~!」
「「「「「にゃ~~~!」」」」」
元気ハツラツ……リータを先頭に、戦闘狂の集団は黒い森に入り、わしとさっちゃんは取り残される。
「面白いのは~?」
「力不足で申し訳にゃい!」
「え~~~!!」
「わしが背負ってさっちゃん様を守りにゃすので、ここはにゃにとぞ、ご納得を……」
「何かかわいい動物を捕まえてよね~」
「にゃっ! 善処しにゃす!!」
わしが敬礼すると、さっちゃんはご満悦。さらにさっちゃんを背負ったら、なんか「猫騎士3号、しゅっぱ~つ!」とか言っていた。
わしはさっちゃんの友達であって、騎士じゃないんじゃけど……てか、3号って事は、わしはエリザベスとルシウスより下なのか??
若干、納得のいかない事を言われたが、ツッコンでしまうと機嫌を損ねそうなのでだんまり。だが、何か喋れと命令されたので、アメリカの歴史を語りながらリータ達のあとを追うわしであった。
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