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第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~

572 目的地は観光地にゃ~

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「さあ! サンドリーヌ冒険隊……新たなる出会いに向けて出発にゃ~~~!!」

 アレウト族と別れの挨拶を済ませたら、さっちゃんは仁王立ちで空を指差して大声を出すので、わしは応じる。

「またやってるにゃ? さっちゃんが最後なんにゃから、早く乗ってにゃ~」
「『にゃっ!』とか『にゃ~!』とか返事してよ~~~」
「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~。ほい、これでいいにゃろ。乗るにゃ~」
「違うにゃ~~~」

 どうしても気合いの入った返事を欲するさっちゃんは、後ろから抱きかかえて戦闘機に押し込む。バタバタ暴れて「にゃ~にゃ~」言っていたが、気にせず離陸。

 手を振るアレウト族に見送られ、戦闘機は南南東に進むのであった。

「てか、いつからサンドリーヌ冒険隊になってるにゃ?」
「私が参加した時点で??」
「………」
「なんか言ってよ~~~!!」

 うるさいさっちゃんに強いツッコミを入れてしまうと、うるさくなるかと思って黙ってみたら、それでもうるさくなるさっちゃんであったとさ。


 テンションマックスなさっちゃんはしばらくうるさかったが、プツリと動かなくなった。どうしたものかと背中をパカッと開けて調べたら、電池切れとのこと。
 いくら完全無敵のさっちゃんロボでも、あのテンションを長時間維持するエネルギーは無かったようだ。てのは冗談で、ずっと騒いでいたから疲れたようだ。

 まぁこれで静かになったので、リータ達に任せていた族長の会話を聞いてみたら、写真を見た族長は驚き過ぎてアゴが外れたらしい。幸いリータのアッパーカットでアゴは嵌まり、オニヒメが回復魔法で治したから大事ないようだ。
 いちおう猫の国の暮らしについての質問には全て答えたようだが、族長は現実を噛み締めるのに時間が掛かり、半分ほどアルバムを捲ったところで息絶えたらしい。
 リータ達が心配して揺らしたら生き返ったが、アルバムをバンッと閉じて、天気の話をし出したようだ。現実逃避をしたいようだが、わしの話をしたら「獣が立って喋ってた!?」とか言って、頭から煙が出たんだって。

 どうやら猫を知らなかったから驚いたようだ……違う? わしの見た目が変だから驚いたのですか。でしょうね。

 族長との会話の内容を喋り終えれば、リータはわしに質問する。

「いまはどこに向かっているのですか?」
「まだ北極圏だから南に行こうかと思ってにゃ。寒すぎるから暮らしが質素だったにゃろ? あったかい所にゃら、もうちょっと面白い物が見付かるかもにゃ~」
「皆さん、村のような暮らしでしたもんね。日ノ本のような場所が見付かるといいですね」
「島じゃないと、人間が生き残るには難しいかもにゃ~」

 わしとリータが喋っていると、メイバイも入って来る。

「そう言えば、時の賢者はどうなったニャー?」
「聞いてみたけど、知らなかったにゃ」
「じゃあ、ここは通ってないんニャ」
「いや、家を覗いた時に、小さにゃ砂時計があったにゃ。たぶんにゃけど、先祖は会ったのかもしれないにゃ。それとも、他の地を回っている時に、誰かに貰ったか……少にゃくとも、時の賢者はこの近辺を通った証拠になるにゃろ」
「さすがシラタマ殿ニャー! 賢いニャー!!」

 名探偵猫の推理を聞いたメイバイが褒めながらわしをこねくり回すと、またリータの質問が来る。

「それにしても、時の賢者様は、どうして砂時計を渡して歩いているのでしょう?」
「さあにゃ~……路銀に困ってたんじゃないかにゃ? 時間を計れる物にゃら、珍しくて高く売れたのかもにゃ」
「ん。面白い説」

 珍しくてイサベレがわし達の雑談に乗って来た。

「時の賢者に興味があるにゃ?」
「ん。謎が多い。一説には、私の先祖を、時の賢者様が東の国に連れて来たと言われている」
「初耳だにゃ~。そんにゃの、歴史書に載ってたにゃ?」
「たしか、城の蔵書に……古いから、どこまで本当かわからないんだと思う」
「まぁ検証は難しいだろうにゃ~」
「それより、ダーリンは時の賢者様が向かった先がわかるの?」

 イサベレの質問に、わしが黙って考えると、リータ達の視線も集中する。

「う~ん……観光地巡りかにゃ?」
「「「観光地巡り??」」」
「元の世界より千年過去に来てるんにゃ。わしだったら、歴史で習った古代遺跡に行ってみたいにゃ。まだ人が生活しているかもしれないしにゃ」
「古代遺跡……ビーダールの神殿や猫帝国の宮殿みたいな物ですか?」
「それそれ。それにゃ。リータ達だって、人が居る時に行きたかったにゃろ?」
「たしかに……暮らし振りを見てみたい気がします」
「うんニャー! 私はご先祖様が繁栄した時代を見たいニャー!!」
「ん。西の国のその先から、いまの民が来たらしい。きっと国があったはず」

 リータ、メイバイ、イサベレもタイムスリップに興味を持つと、わしは笑いながら今後の方針を決める。

「にゃはは。歴史ってのは人が居にゃくても、その場所に立つだけで、そこに居た人に想いを馳せる事が出来るんにゃ。すると、そこには現代の人が集まり、観光地の完成にゃ~。わしの知る観光地を見て回れば、時の賢者の終着点に辿り着けるかもしれないにゃ~」
「面白そうですね!」
「いっぱい教えてニャー!」
「何個あるの?」
「そうだにゃ~……実はそんにゃに知らないにゃ……」
「「「ええぇぇ!?」」」

 さすがに有名どころしか知らないので、何個あるかまではわからない。リータ達の期待を裏切ってしまったからわしは撫でられまくるが、とりあえずの目的地はあるので、その事を言ったらようやく……優しい撫で方に変わった。

 撫でるのは変わらんのじゃ……あんまり気持ちいいと眠ってしまいそうなんじゃけど……


 ゴロゴロ空を行くと、戦闘機は海の上ばかりをブッ飛ばしているので順調に進むのだが、さっちゃんが目覚めやがった。

「海! 海!? う~~~み~~~!!」
「にゃに~? うるさいんにゃけど~??」
「陸は!? 人は!? どこに居るのよ!!」
「ちゃんと探してるにゃ~。いまは居そうにゃ所に向かってるんにゃ~」
「なんでわかるのよ!?」
「だからわしは転生者だと言ってるにゃろ~。頼むから静かにしてくれにゃ~」

 機内で大きな声を出されると、耳がキーンってなる。わしが静かにするように言ってもさっちゃんはうるさいので、コリスの出番。モフモフロックで口を塞いでもらった。
 静かになったらこれまでの話し合いを説明するが、そろそろ日が暮れそうだ。なので戦闘機は東に機首を向け、陸に近付く。

 それからしばらくしたら、オニヒメとイサベレが何かに気付いたらしく、戦闘機を傾けてくれと言われたので右に傾ける。

「人じゃない?」
「人にしては大き過ぎる」
「でも、あの形は人でしょ?」
「人に見えるけど……」

 何やら二人は下を見ながら盛り上がっているが、わしの視界には入っていない。そうして話し合っていても答えが出ないからか、二人はリータとメイバイに意見を求めていた。

「人みたいですね」
「尾ヒレがあるから魚じゃないかニャー?」
「見えるのですか?」
「私にも見せて~」

 メイバイは裸眼でも視力がいいから、皆より下に居る生き物の全容が見えたようだ。その事についてリータが質問していたが、双眼鏡を持ったさっちゃんが二人の間に割り込んだ。

「本当に人みたい……どれどれ~? うん。尾ヒレはあるわね。でもアレって……もしかしたら、古い文献に出て来る伝説の人魚かも??」
「「「「人魚??」」」」
「上半身は人間で、下半身は魚の生き物よ。人魚は本当に実在したんだ……大発見よ!!」

 聞きなれない言葉に一同首を傾げ、さっちゃんが興奮して人魚と断定すると機内は興奮状態になって、わしに捕まえろと言って来た。
 捕まえるかどうかは置いておいて、わしも皆の話し声は聞こえていたのでめちゃくちゃ見たい。猫と人間が子をなす世界だ。魚と人間が子供を作る事だってあり得るかもしれない。
 なので、皆に揺れに備えるように言ってから、宙返り。一度空に上がり、一回転してから垂直に下りる。すると、海を優雅に泳ぐ人魚と呼ばれていた生き物の全容がわしの目にも入った。

「にゃ~~~……人魚じゃないにゃ~」
「なんで言い切れるのよ~。頭だって腕だってあるじゃない?」
「わしの世界でも、あの生き物を人魚と見間違えた人が居るからにゃ」
「うっそ……じゃあ、なんて生き物なの?」
「マナティーにゃ。たしか温和な生き物だったし、近付いてみるにゃ~」

 皆も興味津々なので、高度を下げて並走してみる。すると皆はワーキャー言いながらお喋りしていたけど、わしは話に入らずに白いマナティーを凝視していた。

 デカイ……デカ過ぎるわ! こんなの、よくもまぁ人魚と断定したな。ヤマタノオロチぐらいあるぞ。でも、この世界でもマナティーを人魚と見間違うって事は、人魚の正体はマナティーって説は、本当の事なのかもしれんのう。

 カメラ係のメイバイに写真を撮らせていたら、白マナティーは体を捻って顔が空を向き、わし達に気付いてしまった。温和かもしれないが、この巨体でじゃれられると戦闘機が墜落してしまうので、高度を上げて先に進むのであった。


 白マナティーと別れてオレゴン州辺りの陸に近付くと、さっちゃんがまた煙がとか言い出したので、その方向へ。そうしたら、本当に煙が上がっていたので、空からの偵察を行う。

 今回は、壁の中に集落があるな。周りは……黒い木が近くに少ない。その代わり、目の前の海が白く見える。日ノ本と同じように、サンゴ礁が白く成長したのじゃろう。
 まぁもうすぐ日暮れじゃし、あの集落でお泊まりさせてもらえるか聞いてみるとするか。

 皆に着陸する旨を伝えると、さっちゃんだけうるさい。「今度こそは上手くやる」とか言っていたけど、さっちゃんに任せるとこじれそうだ。
 しかしさっちゃんが、わしが対応しても拗れると反論したら、全員頷いていたから任せる事にした。ただし、前回みたいな事は絶対に言うなと注意し、王族関係もチェクチ族で拗れた経験があるのでタブー。旅人で通すように言っておいた。

 戦闘機が着陸すると、いつも通り走って壁の近くへ。そうするといつも通り、黒髪で日焼けした原住民から弓を向けられ、さっちゃんを背負ったわしだけさらに近付く。
 ある程度の距離を残し、さっちゃんを下ろすと、わしはフードを深く被り直して少し前に出て、さっちゃんの挨拶が始まる。

 さっちゃんは、頭に羽を付けたおっさんと、その隣に居る男に向けて念話の魔道具を使う。

「私達は旅人です! 敵意は無いので、どうか一晩だけ、中に入れてくれないでしょうか!!」

 原住民は念話に驚いていたので、さっちゃんは魔道具の説明をしつつ落ち着かせようと頑張っている。
 そのさっちゃんの頑張りのおかげで、今回はすんなりと中に入れてもいいという流れになり、皆を呼び寄せて門の前に辿り着いたところで、おっさんからストップが掛かった。

「そこのお前!」
「わしにゃ?」
「そうだ。布で隠していないで、顔を見せろ」
「えっと……ちょっと驚くようにゃ顔をしていてだにゃ。人様に見せられないんにゃ~」
「見せられない? 顔に傷でもあるのか。そんな事で、俺達が驚くわけがないだろ」
「傷じゃなくて、毛深いんにゃ~」

 わしが忠告していたら、さっちゃんが「ププププ」笑っている。その笑いが皆に伝染して「ププププ」肩を震わせ、笑いをこらえるのに大変そうだ。

「ゴチャゴチャ言ってないで、いいから取れ!」
「驚かないでくれにゃ~?」

 さっちゃん達が我慢できずに大爆笑をしては心象が悪いので、わしは覚悟を決めてフードをバサッと外す。

「ば……化け物だ~! 撃て! 撃て撃て~~~!!」

 あれだけ忠告したのに、原住民は酷い。弓まで放つ始末。なのでさっちゃん達を光盾で守るのだが、全員漏れなく大爆笑。
 しばしゲラゲラと笑われ、原住民の弓矢がやんだ頃に、さっちゃんがニヤニヤしながらわしの肩を叩いた。

「ねえねえ? アレウト族の時って、私のせいって言ってなかった~??」
「わしだって傷付いてるんにゃから、傷をえぐらないでくれにゃい?」
「それはわからないではないけど……私に言う事はないのかな~??」
「すいにゃせんでした!!」

 さっちゃんは泣きながら謝ったんだ。たぶん根に持っていて、謝れと言っているのだと気付いたわしは平謝り。

「それでいいのよ~。オホホホホ~」

 正解したのはいいのだが、さっちゃんの高笑いがわしのプライドに突き刺さる今日この頃であった……
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