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第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~

557 ちびっこ天皇のおにゃ~り~

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 わし達の武器の件で江戸の刀鍛冶に頼むことになったのだが、秀忠と老人がびったんばったん引っくり返ってなかなか話が進まない。
 なので、メイバイとイサベレに肘でこづかれて……いや、常人なら死ぬレベルの肘鉄で頭を挟まれたので話を急ぐ。

「とりあえず、形と重さを決めようかにゃ」

 ここは鍜治屋という事もあり、見本になりそうな刀があったので、老人をまじえて素振りをさせていく。さすがは日ノ本一の刀鍜治。二人の意見を聞きながら、頭の中に形を描けているようだ。
 刀の形が描けたらわしが通常の鉄を使って、鉄魔法でその形を再現する。老人の指示は細かいから、何度も修正をさせられたが仮の刀は完成した。

 次は重さを決めたいのだが、秀忠がガン見していてやりづらい。

「将軍は仕事で忙しくないにゃ?」
「今日は休みだ。だから、いつまでだってお相手してしんぜよう」
「邪魔だから帰って欲しいんにゃ~」

 あまり製造方法を見せたくないので、遠回しに帰れと言ってみたが、聞き入れてくれないので直接帰れと言うわし。しかしテコでも動いてくれないので、秀忠の刀も同じ製法で作る事で、ようやく帰ってくれた。

 邪魔者が居なくなったら、重力魔法で刀の圧縮。その結果、二人は二倍の重さが丁度いいようだ。
 これで諸々は決定したので、しばしランチ。老人と刀談義に花を咲かせ、様々な案も出す。その時、わしの魔法は秘密にするように脅しておいた。
 秀忠に聞かれたら「死刑になりそうだったら話してもいいよ」と言っておいたが、秀忠も脅す予定なので、聞かれるかどうかは微妙だ。


 ランチが終われば、さっそく刀製作。メイバイとイサベレには「暇なら遊んで来ていいよ」と言ったが、江戸の散歩より、わしの魔法のほうが面白そうなんだって。

 まずは白い巨大矢の加工。わしの分は脇差しを三本。イサベレは細身の刀を二本。メイバイは小刀を四本。各々の分量を分けると合体。黒い巨大矢で、秀忠用の刀も二本分、用意しておいた。
 次に、ヤマタノオロチの魔道具に加工できる部分を取り出して、粉微塵に砕く。これは刀を打つときに使われる炭の代わり。正直上手くいくかわからないので、メイバイの小刀で試してから、全てに使う予定だ。
 素材が準備できたら、高火力の【火球】の中に入れて、こねくり回す。その時、老人からの指示を聞きながらこねくり回したので、わしの作った【白猫刀】よりいい刀が出来るはずだ。

 焼き入れまで終了したら、一時休憩。昔作った時よりも、魔法の精度、魔力の総量、共に上がっていたから二本ずつ同時並行で作れたが、さすがに六本もの加工は疲れる。
 だから大福や緑茶、お昼寝と撫で回しを受けて英気を養った。

 それから重力魔法を使っての圧縮。ゆっくりとじっくりと平均的に、重力を掛ける。やはり、さすがは日ノ本一の刀鍛冶の指示という事もあり、一発成功。
 これであとは、ぎの作業だけだと思ったが、老人が刀を触ると凄い熱を持っていたので、もう一度焼き入れをしたいと言い出したので、やってみることにした。
 一本目の時点で、特に問題なく作業を続けられたから、全ての焼き入れが済んだらここでバトンタッチ。研ぎとつか等は老人に任せ、わし達は完成を楽しみに待つ。


 完成には数日かかるというので、秀忠をきっちり脅したら、今日は猫の街に帰る。
 日ノ本では日が落ちていたが、時差のおかげで日暮れ前に役場に帰り、出迎えられたリータに、メイバイは抱いていたわしをパス。どうやら気を使ってわしを投げたらしいけど、やるならやると言ってからやって欲しかった。

 わしはラグビーボールじゃなくて、王様なんじゃよ?

 わしの苦情は聞いてもらえず、それよりも大事なことがあるらしく、リータはわしを食堂に連れ込みトライ。

「にゃ? 陛下が居るにゃ」

 トライされたわけではなく、普通にリータはつまずいただけ。そこで起き上がったら、ちびっこ天皇が夕食を食べている姿があった。

「シラタマ王。久方振りだな」
「久し振りだにゃ~。京でちょっと話した以来かにゃ? お玉も久し振りにゃ~」

 玉藻の娘も居たので、わしは挨拶しながら対面に座る。それから近況を聞きながら、わしの前に並んだ料理をつまみ、そこそこ腹が膨らんで来た頃にちびっこ天皇に質問する。

「てか、にゃんでこんにゃ所に居るにゃ?」
「おっそ……」

 たしかに用件を聞くのは遅かったけど、ちびっこ天皇は呆れながらも理由を教えてくれた。

 わし達が江戸に行っている間の昼前、ちびっこ天皇達は万国屋の配達の時間に合わせて猫の街にやって来たようだ。
 やって来た理由は、わしに相談があったから。どうやら平賀家が開発していた新型電池が完成したのだが、問題が発生したようだ。

 その問題とは、電力不足。現在ある発電所では、電車と街の明かりだけで手一杯なので、平賀家から天皇家に、発電所を増設できないかと相談があったそうだ。
 しかしちびっこ天皇では答えが出せず、お玉や公家から案を出させたが解決しなかったとのこと。そこで玉藻の名が出て来なかったから質問してみたら、旅に出ているらしい。
 わしが北極を目指している間に猫の街に来て、一週間ほど英語の勉強をしてわしの帰りを待っていたらしいが、待ち切れなくなって世界旅行に出掛けてしまったとのこと。だからどこに居るかさえわからないようだ。

 この事から、同じように電車を作ったわしなら解決案があるのではないかと、平賀家当主、源斉を連れて相談しに来たようだ。


「ふ~ん……その当事者の源斉の姿が見当たらないんにゃけど……」
「つゆとか言ったか……平賀家の女子おなごと共に、工房に入ってから出て来ないんだ」
「あ~……平賀家だもんにゃ。おもちゃがいっぱいあるから、メシも忘れているんにゃろ」
「本当に平賀家は扱い難い。玉藻はよく、あのような者を従えていたと、つくづく思うぞ」
「にゃはは。玉藻も苦労していたし、そんにゃもんにゃ。陛下が気にする事じゃないにゃ~」

 平賀家なんて、誰も上手く扱えないのでその事を伝えても、ちびっこ天皇はなんとかしたいようだ。

「どうしても上手く扱いたいにゃら、同程度の知識がないと無理にゃ。猛勉強するしかないにゃ~」
「うぅむ……いまは諦めるしかないか。平賀家は置いておいて、それで、電力を確保する案は、何かないか?」
「そうだにゃ~……いまある手札にゃら、ふたつほど思い付くにゃ」
「ふたつも!?」

 ちびっこ天皇が大袈裟に驚くので、さっそくひとつ目の、ダムでの水力発電を出してみたらガッカリした。

「それは真っ先に思い付いたが、候補地の選定から始めて、工事等の時間が掛かるからな~」
「京から海に向けて電車を走らせる予定にゃろ? それ用の発電所候補地で、破棄した場所を使えば、時間短縮できるにゃ~」
「たしかに……なにぶん生まれる前の話だったから、その案が抜け落ちていた」
「玉藻もちゃんと引き継ぎしてから行けよにゃ~」
「まぁ、まさか破棄したダム予定地を使うとは思っていなかったのだろう。それより、ふたつ目の案を教えてくれ」

 ふたつ目の案は、双子王女の目が光っていたので、適当な事を言いながら日本語で筆談。猫の国でやっている雷魔道具を買えば、新津呪力場を使って補充できるまで教えてあげた。
 ただ、いまの生産体制では雷魔道具が量産できないので、どちらにしても時間が掛かるから、待ってられないようだ。

「なるほど……どうやっても時間が掛かるのだな……」
「だにゃ。輸出してあげたいけど、予約も入っているからにゃ~」
「そう言えば、いまある手札と言っていたな? 他にも案があるの??」

 あ……あっちゃ~。やっちゃった。無意識に選択肢を提示しておったな。でも、この問題は、近い将来、猫の国でも起こる問題か。
 ダムと発電所は作りたいし、協力を仰ぐ確約を取っておこう。それと、欲しい物も奪い取っておこっと。

「わしの頭の中に、水力発電以外の発電方法があるにゃ」
「そんな方法があるのか!?」
「あるっちゃあるけど、平賀家の力が不可欠にゃ。案はあげるから、猫の国で作る時に、発電所の知識と平賀家を貸してくれにゃ~」
「うぅぅむ……」

 さすがに日ノ本のトップシークレットをふたつも要求したら、ちびっこ天皇も唸り出した。ついでに欲しい物も付け足したら、多すぎると断られた。
 なので、腹ごなしの戦い。居住スペースでちびっこ天皇とお玉と共に「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」喧嘩して、発電機に関しては、利益の分配を日ノ本が七割、猫の国が三割。開発費用をうちが出す形で落ち着いた。
 ぶっちゃけ、開発は平賀家に丸投げする約束だから、三割も取れるとは、わしの大勝利だ。日本語の講師で猫の街に残っている公家がきちんと書面に残してくれたから、破られる事もないだろう。


 話し合いが終わると、リータにチェクチ族の話を少し聞いてから夜道を走り、つゆ専用工房にお邪魔する。

「ほれ、エサにゃ。ちょっとは食えにゃ~」

 わしが扉をノックしても開けても咳払いしても、つゆと源斉は振り向きもしやがらないので、珍獣扱いしてエサをちらつかせる。
 さすがに腹は減っていたらしく、味噌汁の匂いには反応したようで、二人は塩むすびと味噌汁を腹に掻き込んでいた。

「シラタマ様!!」
「師匠!!」

 腹が落ち着いたら、やっとわしの存在に気付いてくれたようだ。

「つゆはメシを抜くなと言ってるにゃろ~」
「す、すみません! 当主様とこんなに話が弾むなんて思っていなくて……時間が過ぎるのを忘れていました~」
「源斉もいちおう陛下のお供にゃろ? ほったらかしてにゃにしてるにゃ~」
「うっ……見た事もない機械がいっぱいあって楽しくて……それに天皇陛下とは話が合わないし……」

 つゆは反省しているようだが、源斉はまったく反省してない。また機械に手を伸ばしているし……

「とりあえず、二人は早く寝るにゃ~」
「「ええぇぇ~!?」」
「にゃんで驚くんにゃ~。もう八時を回っているにゃ~」
「まだ全て説明し終わっていませんし……」
「まだ機械をいじっていたいし……」

 チッ……つゆだけならもっと楽に対応できるのに、源斉が居るせいで平賀家病が再発しておる。

「寝ろにゃ! じゃなきゃ、もっと面白い事は教えてやらないにゃ~!!」
「「これよりなんて……」」
「つゆはソウを知ってるにゃろ~」
「ソウ……あ! 当主様。もっと凄い技術がありますよ! 私、この目で見ました!!」
「本当か!?」
「本当にゃ~。朝イチで出掛けるから、早く寝るんにゃよ~?」
「「はい!」」

 なんとか二人は寝る事を了承してくれたが、わしが工房を出てしばらく歩いたところで、誰もついて来ていなかった事に気付いた。なので工房に戻ったら、二人してまだ機械をいじってやがった。
 そのせいでキレたわしは、源斉は縄で縛り、つゆはモフモフロックでお持ち帰りするのであったとさ。
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