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第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~

番外編3 リス王女様のお悩み

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 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。最近、皆がかまってくれないので少し寂しい。

 リータ達がハンター業に戻ると言い出してからは訓練ばかりして、わしは暇だ。一人の時間ができた事はいいのだが、一人で富士山に登ってもいまいち盛り上がりに欠ける。走ったら五分ぐらいで頂上に着いたし……
 訓練熱心ではないコリスぐらいついて来てくれてもいいのに、オニヒメがコリスの事を「おねえちゃん」と呼び出してからは、あまりわしと遊んでくれなくなった。エサには釣られるけど……

 というわけで、今日は何をして暇を潰そうかと猫の定位置、我が家の縁側でくつろいでいたら、ソウで訓練中のはずのコリスが一人でやって来た。

「モフモフ……」
「にゃ?」

 いつも元気なコリスが暗い顔をしていたので、何事かと思ったわしは隣に座らせて、とっておきの大福を振る舞う。

「食べないにゃ?」
「うん……」

 あれ? いつもならすぐに食べるのに、一向に手を伸ばさん。どこか体の調子が悪いのか? コリスが断るなんて一大事……

「パクッ」

 あ、一口でいった! 体調不良ってわけではないのか。でも、頬袋に溜めてあとで食べるみたいじゃ。

「うかない顔をしてどうしたんにゃ~?」
「あのね……」

 コリスは大福を口にしても暗い顔をしていたので、わしが質問したら逆に質問される。

「わたし、ヒメのお姉ちゃんじゃない?」
「うんにゃ。お姉ちゃんだにゃ」
「それでね。お姉ちゃんって……なに??」
「にゃ……」

 知らんのか~~~い!!

 リータ達に、姉妹設定にされたコリスに責任感的な物が芽生えたと思っていたわしは、突拍子の無い質問に縁側からずり落ちるのであったとさ。


「お姉ちゃんってのはだにゃ」
「うんうん」

 とりあえず、いつの間にか国民に認識されている猫の国王族の相関図を紙に書いて説明。わしからリータとメイバイに線を引いて、その中間から下に線を引いてコリスとオニヒメに繋げる。

「コリスとオニヒメは、わし達の娘って事になってるにゃろ?」
「え? わたしにはお父さんとお母さんいるよ~??」
「あ~。それは産みの親だにゃ。いまは忘れてくれにゃ」
「お父さんとお母さん……わすれられない……」
「いまだけにゃ~。これは書類上の話にゃ~」

 コリスがホームシックっぽい事を言い出したので、いつでも会いに行けると説明し、撫で回して餌付けしたら、キョリス達の事は忘れたようた。また頬袋が膨らんだけど……

「それでにゃ。どっちが早くわしの娘になったかで順位があるわけにゃ。一位の人がお姉ちゃん。二位の人が妹だにゃ」
「あ! わたしが一位だ! ホロッホロッ」

 本当は年齢と言いたかったんじゃが、オニヒメも百年は生きているからな。コリスと同年代は確実じゃし、どちらも正確な歳はわからんのじゃから、この定義が無難じゃろう。
 なんか一位と言ったら嬉しそうじゃしな。

「お姉ちゃんなのはわかったけど、お姉ちゃんってなにするの?」
「そうだにゃ~。お姉ちゃんは妹の世話をしたり守ったり……いまコリスがやってるようにゃ事だにゃ」
「それだけ~?」
「それが難しいんにゃ。お姉ちゃんは我慢したりしなくちゃいけないんにゃ」
「がまん??」
「例えばにゃ……」

 わしはドーナツをひとつ取り出すと、コリスにわかりやくすサイズ違いに割って、ふたつを皿の上に置く。

「今日のおやつはこれだけにゃ」
「す……すくなすぎるよ!」
「例え話にゃから怒るにゃ~」
「あ……あははは」
「にゃったく……でにゃ。コリスとオニヒメでこのふたつを分けて食べるとしたら、コリスはどっちを選ぶにゃ?」
「おっきいの!」

 コリス、即答。動物の本能が出て多いほうを選んでしまったのか、はたまた食いしん坊だからか……。どちらにしてもお姉ちゃん設定では不正解なので、わしが正解を言おうとしたら、コリスは自分で答えを変えた。

「やっぱりちっさいの……でも、おっきいのたべたい……ううん。ヒメにおっきいのたべさせたい……でも……」

 おお~。葛藤しておる。お姉ちゃんの意味はわかっていなかったけど、お姉ちゃんの優しさはわかっておるんじゃな。
 前までなら一択の答えだったはずなのに、コリスも成長しておったんじゃな。その一択とは、全部コリスの物じゃろうけど……
 しかしコリスの成長は嬉しい。うっ……なんだか目頭が熱くなって来た。

 わしが涙を我慢していたら、何故かわしより先にコリスが泣き出した。

「うぅぅ。えらべないよ~。わたし、お姉ちゃんしっかくだ。うっううぅぅ」

 別に泣くほどの問題を出したつもりはないんじゃけど……まぁいいところまでいったか。

「わしにゃら迷わず大きいほうを、オニヒメにあげるにゃ。コリスもお姉ちゃんにゃらそうするにゃ」
「うぅぅ……もっと食べた~い」
「そんにゃコリスには、お父さんのわしからプレゼントにゃ~」

 わしはまたドーナツを取り出して半分に割り、大きいほうをコリスに手渡す。

「わ! ふえた!!」
「にゃはは。妹が泣いていたらお姉ちゃんが助け、お姉ちゃんが泣いていたらお父さんとお母さんが助けるにゃ。これが、家族の思いやりにゃ~」
「おもいやり……」

 わしの話を聞いたコリスは感動して、お姉ちゃんがなんたるかを完全に理解するのであっ……

「でも、ヒメがこれも欲しがったら……」
「いっぱいあげるから、オニヒメの分には手を付けるにゃよ~?」
「うん! ホロッホロッ」

 いや、ちょっとだけしか理解していなかった。なので、わしが大量に食べ物を与える事で、コリスお姉ちゃんの威厳は守られるのであったとさ。
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