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第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~
555 北極点到達にゃ~
しおりを挟む山だと思っていた物は巨大な白いセイウチで、その白セイウチが天気の話しかしてこなかったのでツッコンだら、さすがに怒……
「話す事なんて、天気の事しかないし……」
いや、微妙にへこんだ。
「縄張りに入ってにゃにしてるとかあるにゃろうに……」
「あ、それそれ。何してるんだ?」
「道に迷って辿り着いただけにゃ」
「ふ~ん……」
「ふ~ん……じゃにゃい! そこは出て行かにゃいと殺すぞ~……にゃ!」
「なんで??」
「にゃんでって……」
はて? なんでじゃったかのう?? ……って、わしはそもそも何の話をしておるんじゃ??
こいつがおかしな事を言い出したから、ペースが乱れておるな。まったく北極の生き物と来たら、やる気のない奴ばかりで困るわい。
「まぁいいにゃ。また遊びに来てもいいにゃ?」
「こんな何もない所でいいならいつでも来なよ」
「おうにゃ! ほにゃまた~」
「ほにゃまた~」
やる気のない白セイウチと別れたわしは、ブリザードが吹き荒れるなか鎖をもったコリスに、まるで散歩させられるようにキャットハウスに帰るのであった。
「ただいまにゃ~」
「「コリスちゃん!」」
わしとコリスがキャットハウスに入ると、リータ達がコリスに走り寄り、モフッと抱きついた。どうやらわし達の帰りが遅かったので、かなり心配させたようだ。
リータ達の心配が伝わったコリスは泣きながら謝っていたから、リータ達も強くは言えないようで、優しく撫でていた。
ただ、わしが人型に変身する事は、強く止められた。理由は、わしがコリスに散歩させられて帰って来たから。リータ達もわしの散歩がしたかったらしく、キャットハウスの中を、皆に代わる代わる無駄に歩かされた。
無駄な散歩が終われば、コリス帰還祝いの、ただのランチ。外はブリザードだから身動き取れないので、せめて中は明るい雰囲気を作ったのだ。
そこで白セイウチとの出会いの話をすると、全員、見てみたいとのこと。絶対手を出さない事を条件に連れて行く事にしたが、あの顔は怪しい……やはり連れて行くのは、やめて……
「「「「お願いにゃ~」」」」
「ゴロゴロゴロゴロ~」
拒否しようとしたら、コリス以外にめちゃくちゃ撫でられた。気絶しそうなくらいの撫で回しだったので、仕方なく連れて行く事となってしまった。
だって、「うん」と言うまで、何時間でも撫で回すんじゃもん!
皆は明日が楽しみ過ぎてなかなか寝付けないらしく、どちらにしても、わしはずっと撫で回されたのであった。
翌朝は、ちゃっちゃと準備して白セイウチに会いに行く……
「吹雪です……」
「何も見えないニャ……」
残念ながら、本日の天候もブリザード。翌日も大荒れで、三日間も缶詰を余儀なくされた。でも、日の本へ転移して、琉球観光や九州で秘湯巡りなんかもしたのであった。
北極滞在五日目。ようやく天気は回復し、日の光が差した。なので、キャットハウスをしまい、トイレの汚物も持ち帰る……
「いつも埋めてましたよね……」
「恥ずかしいからやめてニャー!!」
さすがに自分達の出した物をわしが持ち帰る事は、乙女として恥ずかしいらしく、リータとメイバイから止められた。
「そうは言ってもここに置いておいたら、そのまま未来に永久保存されてしまうにゃ~。誰かに見られてもいいにゃ? 未来人に研究されるかもしれないんにゃよ?」
「それは嫌です!」
「未来人は変態ニャー!」
自分達のうんこをこねくり回されるのは、やはり乙女として恥ずかしいようだ。もちろんわしもそんな変態に研究されたくない。
それに、研究者が頭を抱える姿が容易に想像できる。猫にリスに人間のうんこが、なんでこんな場所にあるのかと……
とりあえず汚物は、土魔法で作った箱に包んで次元倉庫に入れて、帰ったら地面の深くに埋める予定。北極のルールを守るわしは、出来る猫だ。
それから土魔法で作ったソリに皆は乗り込み、猫ソリで白セイウチに会いに行く。
車か飛行機ではダメですか? 寒いでしょ? チェクチ族が乗ってた犬ソリに乗ってみたかったのですか。そうですか。
【熱羽織】のおかげで、どんだけ飛ばしても皆は寒さは感じないらしく、わしはブツブツ言いながらソリを引く。
ただ、最初はキャーキャー楽しそうにしていた皆であったが、途中で酔ったらしく、次々にソリから飛び降りた。
どうも、全員サスペンション付きの乗り物に慣れたセレブなので、こんな山や深い裂け目だらけの悪路では、振動に耐えられない体になっていたようだ。
まぁそれで猫ソリを続ける必要がなくなったのはありがたい。全員戦闘機に乗せようと考えたが、白セイウチは見えていたので走って向かう事にした。
「ちょっとストップにゃ~」
皆はまだ乗り物酔いから完全回復していなかったので、わしが止まると、足を止めて集まって来た。
「どうかしました?」
「これ、見てくれにゃ~」
リータからの質問に、わしは手に持っていた方位磁石を皆に見えるように肉球に乗せる。
「グルグル回っていますね」
「壊れたニャー?」
「いや……たぶん、北極点に近付いたからにゃ。北極点は磁気が強いから、方位磁石が役に立たなくなるんにゃ」
「また難しい話ニャー!」
「要するに、北極点に着いたって事じゃないですか?」
メイバイはこれから始まるわしの講義を嫌がるが、リータの発言からメイバイだけでなく、全員の目がキラーンと光った。
なのでわしは、命の危険を感じて必死の言い訳。
「正確には着いてないにゃ~! かなりズレてるにゃ~! それに、山みたいにゃセイウチが居るにゃ~~~!!」
おそらく、北極点に何も無かったら何かしらの罰があるから、全員、妖しい瞳で手をわきゅわきゅしていると思う。
しかし、何も無いとは言えない巨大なセイウチが居るので、残念そうな顔をして手を下ろしていた。
どうも罰は、ただ撫でられるだけだったらしいとわかったが、ここで止まっている意味もないのでさっさと走り出す。
しばらく走り、ほどほどの距離になると写真撮影。白セイウチの全体像をカメラに収めたが、雪の白と相俟って、写っているか微妙だ。
なので、西に回り込み、頭側から逆光で写真を撮る。これで影が出来ていたから、多少は輪郭がわかるはずだ。
それから白セイウチに接近するのだが、まったく起きる気配がない。顔をペチペチ叩いても起きない。リータ達が最強攻撃を繰り出しても起き……
「だから攻撃するにゃ~!」
起きなかったからいいものを、なんちゅう事をするんじゃ。瞬殺されてもおかしくないんじゃからな……刃毀れしたんですか。自業自得ですよ。
「「直してにゃ~~~」」
直せと言われても、わしは鍛冶職人ではない。お金も自分達のおこずかいから出してください。わしは止めたんじゃからな。
涙目のメイバイとイサベレは、わしの正論を聞いて意気消沈。あまりにもガッカリしているので、わしの【白猫刀】を直すついでに、一緒に出せばいいと言っておいた。
とりあえず、二人の気持ちは少しは持ち直したので、わしは白セイウチをなんとか起こそうとする。
「これでどうにゃ!」
皆を止めたからには殴って起こすわけにもいかないので、30メートル近くある黒い巨大魚を出してみたが、まだ起きない。なので巨大魚を【鎌鼬】で切って、血を鼻にぶつけてみた。
「メシ!?」
ようやく白セイウチ起きたと思ったら、巨大魚は丸呑み。消えて無くなった。
「撮ったにゃ?」
「いちおうシャッターは切ったけど……自信ないニャー」
メイバイには少し離れて写真を撮らせていたけど、現像してみない事にはわからない模様。そうして話をしていたら、白セイウチもわし達の存在に気付いたようだ。
「あれ? こないだの……」
「おお~。覚えてくれていたんにゃ」
「君みたいな生き物は珍しいからね」
セイウチに珍しいと言われた……人間に言われるならまだしも、山みたいなセイウチに言われた……
「ま、まぁ覚えていてくれたならいいにゃ。それよりうまかったにゃ?」
「そう言えば、何か食べたような……」
「わしが食べさせてやったんにゃ」
「……食べたりない」
「もう一匹だけだからにゃ~?」
ちょっともったいないけど、さっきより大きな黒い巨大魚を出して、待て! リータを巨大魚の横に立たせて写真を撮り、白セイウチが食べてるシーンもカメラに収める。
さらに、リータ達を白セイウチ山に登らせ、頭に乗ったらわしがパシャリ。集合写真に一人寂しくカメラマンをしたが、どうせ遠すぎて顔は写らないし、わしの姿は真っ白なので写らなかっただろう。
写真撮影が終われば、白セイウチに別れの挨拶。
「美味しいのありがとう」
「いいにゃいいにゃ。わし達も楽しませてもらったからにゃ」
「またいつでも遊びに来てよ」
「おうにゃ。そんじゃ、さいにゃら~」
「さいにゃら~」
白セイウチはいつまでも大きな手を振っていたので、もう一枚カメラをパシャリ。きっと笑顔の写真となっているだろう……
白セイウチから距離を取ったら、当初予定していたポーリング調査。氷魔法で、超超、ちょ~う長い氷の棒を引き抜いたら、ようやく北極は氷の大陸だと信じてもらえた。
この棒は、わしの個人的なコレクション入り。きっとこれで酒を飲んだら、数億年前の空気を感じて美味しくなるはずだ。リータ達には、男のロマンをわかってもらえなかったけど……
それからわしは、北極点到着の記念に、土で出来た名前入りの旗を立てる。これだけでは生き物がうっかり壊しそうなので、地面にもプレートを埋めて日付と名前を書いておいた。
でも、リータさんは何をしているのですか? これだけあればいいんじゃないですかね~?
リータはわしが遊んでいると受け取ったのか、旗を持っている猫石像を作っていた。
未来にやって来た人が頭を抱えるからやめて欲しい。猫の国とか書かないで欲しい。猫の国の領土とか書かないで欲しい。ここは領有権を主張していい場所じゃないんですから~。
わしの訴えは全て却下。しかし、イサベレが東の国と女王の名前も残して欲しいとか言い出したので、わしの石像の隣に、兄弟達の石像が建てられた。
そしてプレートにはイサベレに言われた通りの文字と、「東の国は友好国で、北極は猫の国の領地」と念を押して書かれていた……
風化は難しいかもしれないので、猫石像が未来人の目に留まる前に、白セイウチがここまで転がって来て壊される事を切に願うわしであった。
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