上 下
554 / 755
第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~

545 自爆にゃ~

しおりを挟む
「「「キャーーー!!」」」

 シラタマが阿修羅と戦っている最中、戦闘機に乗り込んで東に逃げるリータ達にも余波が振り掛かる。
 直径一キロもの大爆発で発生した衝撃波は、戦闘機をまるで枯れ葉のように吹き飛ばした。
 幸い、離陸して高度を上げていた最中だったので、戦闘機は進行方向の上空に吹き飛んだ事と、コリスがアクロバット飛行に慣れていた事が重なり、なんとか墜落の危機を脱したようだ。

「コリスちゃん……大丈夫ニャ?」
「うん……」

 いつになく険しい表情のコリスを心配するメイバイ。コリスはシラタマに本気で怒鳴られた事もそうだが、三倍以上も強い敵に立ち向かっているシラタマを心配しているようだ。
 メイバイはコリスの頭を撫で撫ですると、真っ青な顔でガタガタ震えているイサベレに視線を向ける。

「イサベレさんも大丈夫ニャ?」
「む、無理……なに、あの化け物……」

 どうやらイサベレは、阿修羅の底知れない威圧感を間近に見て震えていたようだ。

「そっか……イサベレさんはヤマタノオロチを見てなかったニャ。ヤマタノオロチも同じくらい威圧感があったニャー」
「ほ、本当?」
「本当ニャー。それでもシラタマ殿は帰って来たから、ぜったい大丈夫ニャー!」

 メイバイに励まされたイサベレは、深呼吸を繰り返す。イサベレが落ち着いて来るとメイバイは、暴れるオニヒメを抱き締めて離さないリータに声を掛ける。

「オニヒメちゃんはどうニャー?」
「ダメです。ぜんぜん落ち着いてくれません。それに、知らない言葉を使うのですけど、どうしたのでしょう?」
「もしかして……記憶が戻ったのかもしれないニャ。オニヒメちゃん? 昔を思い出したニャー??」

 これよりリータとメイバイは、念話を使ってオニヒメと会話する。

「オニヒメちゃん。いえ……名前は覚えてる?」
「お母さんが……お母さんが……」
「お母さんニャー? お母さんがどうしたニャー??」
「あいつに襲われた!」
「あいつ……大きなオーガのこと?」
「うん……お母さ~~~ん」

 なんとか話は通じたのだが、オニヒメは泣き出してしまった。

 その姿を見たリータとメイバイは、顔を見合わせて話し合う。

「どうやら嫌な記憶を取り戻してしまったみたいですね」
「私のせいニャ……私が思い出したほうがいいって言ったから、辛い思いをさせてしまっているニャー。シラタマ殿の言った通り、待ってればよかったニャ……」
「それを言ったら、オニヒメちゃんから目を離した私のせいでもあります」

 二人が自責の念にさいなまれる間も、オニヒメの涙は止まらない。なので、二人はオニヒメを心配させないように、優しく語り掛ける。

「オニヒメちゃんのお母さんは、もう居ないかもしれない……でも、シラタマさんが、必ず仇を取ってくれる」
「オニヒメちゃん……いまは辛いと思うけど、オニヒメちゃんのそばには私達が居るニャー」
「そうです。ずっとそばに居るよ」
「私達が、オニヒメちゃんのお母さんになるニャー」
「うっ……ううぅぅ……」

 リータとメイバイに優しく抱き締められたオニヒメは、次第に声が小さくなり、眠りに就くのであった。


「あとはシラタマさんが無事に戻って来るかどうかですね……」
「いざとなったら、転移して逃げるニャー」
「ですね。とりあえず、チェクチ族の集落に向かいましょう」
「コリスちゃん。もう少し北東に向かってニャー」

 コリスは機体を傾けて質問する。

「こっち~?」
「逆ですね。10時の方向ね」
「こう?」
「もう少し左ニャ……よくできたニャー!」
「うん……」

 なんとかコリスが機首を北東に向けられたので二人はべた褒めするが、コリスは元気がない。なので、機嫌を取ろうと戦闘機に備え付けてある冷蔵庫からジュースを取り出し、コリスの口に突っ込んで飲ませるメイバイであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 くう~~~……急いで治さねば!!

 大爆発に巻き込まれて吹っ飛んだわしは、回復魔法で体を治す。

 なんじゃさっきの魔法は……わしの【百倍御雷みかずち】より強かったぞ。もしかしたら阿修羅の奴も、魔力を補填するすべがあるのかもしれん……
 なんとか広範囲に出した【吸収魔法・球】でしのいだが、体がボロボロじゃわい。下手したら死んでたな。
 阿修羅が離れている内に、さっさと逃げよっと。……あれ??

 わしは転移魔法を発動しようとしたが、キャンセルされてしまった。その瞬間、背中に悪寒が走り、バッと振り向く。

「お前は何者だ? さっきの奴はどこへ行った??」

 阿修羅だ。すでに真後ろに立っていた為、阿修羅の吸収魔法の範囲内に居たせいで、転移魔法の魔力を吸われてしまっていた。
 ただし、右顔にはわしの猫型の姿がわからないからか、急には攻撃をしてこなかったみたいだ。
 なので、大きく距離を取って防御を堅めてから念話を返す。

「同一個体にゃ。こっちが元の姿にゃ」
「ほう……面白い生き物も居たものだ。しかし、小さくなっては楽しさも半減だな」
「じゃあ、逃がしてくれにゃ~。もうわしは関わらないにゃ~」
「獣は我が帝国の敵! 一匹たりとも取り逃がさん!!」

 また左顔がしゃしゃり出て来たよ……ずっと右顔なら話が通じるのに、勘弁しとくれ。

「死ね~~~!!」

 左顔が叫びながら拳を振り下ろすので、出だしで一気に逃げたわしは、影魔法を使って木の影にトプンと潜り込む。

「逃がさんぞ~~~!!」

 わしを見失った阿修羅は【咆哮ほうこう】一発で、わしが消えた場所を吹き飛ばした。

 セーフ! もうそこに居るわけがなかろう。転……

 もちろん影を伝って移動していたわしは、影の中で転移魔法を使おうとしたが、阿修羅のみっつの口から【咆哮】が乱射されるので、影から影へと逃げ惑う。

 ヤ、ヤバイ! さっきのヤツが来る!!

 影の中でも阿修羅の攻撃をビビビッと感じたわしは、大ジャンプ。脱兎の如く、【突風】に乗って2キロ以上、上空に舞い上がった。

 あ……あれ?? フェイント!? 【吸収魔法・球】!!

 大爆発が来ると感じたのだが、阿修羅にしてやられた。いつの間にかわしの真上におり、六本の腕を上げて構えていた。
 なのでわしは【吸収魔法・球】を大きく展開してダメージを減らすが、そまま殴られて下へぶっ飛ばされた。

 このままでは、大爆発で剥き出しになった堅い岩盤に打ち付けられるので、新魔法【水海豚みずイルカ】を召喚する。
 水で出来た10メートルのイルカの口から入り、尻尾から出る頃には減速され、わしは四つ足でなんとか着地。急いで折れた骨を回復魔法でくっつける。

 もう来た!?

 しかし、阿修羅は空気を蹴って、凄まじい速度で降って来た。わしはギリギリ阿修羅の三本パンチをかわすが、地が爆ぜてまた吹き飛ばされてしまい、体勢を立て直しながら着地しても、後ろに回り込まれてサッカーボールキック。
 これも侍の勘で辛くも避けるが、行く先行く先に回り込まれて、追い込まれて行く。

 くそっ! 接近戦に持ち込まれては、魔力を吸われるから転移魔法が使えない。かといって魔法で攻撃しても吸われるだけじゃから、使ったら隙ができる。唯一の救いは体のサイズだけ。おかげで攻撃が単調になるからなんとか反応できる。
 でも、つかまるのは時間の問題……考えろ! 何か打開策を見出みいださなくてはわしは死ぬぞ!!

 侍の勘で阿修羅の三本パンチをなんとか大きく避けているが、阿修羅の攻撃はミリ単位でわしに迫る。まとまった三本パンチから変化するパンチに至っては、触れそうな距離まで迫っている。
 このままではジリ貧。覚悟を決めて阿修羅の三本パンチを前に出て紙一重で避けたわしは、一気に阿修羅の体を駆け上がり、背中に爪を立てて張り付いてやった。

 やっと休憩じゃ。ここならば、痒い所に手が届かんじゃろう。【百倍御雷】をゼロ距離から放ってやる!!

 阿修羅は背中に居るわしを掴もうとするが、手が届かないようだ。普通の人間でも体の硬い者は届かないのだ。無理矢理くっ付けたような六本の腕が仇となって、わしの位置まで全然届かない。
 しかしながら、体の硬い人間でも背中を掻く方法がないわけではない。黒い木に背中をぶつけ、地面にもぶつけてわしを引きがそうとする。
 阿修羅の吸収魔法の中に居るので多少はダメージを軽減されているが、何度も空から岩盤にぶつけられると強烈な痛みが走り、【御雷】の準備に時間が掛かってしまう。

 わしは歯を食い縛り、爪が剥がれないように痛みに耐え、必死に振り落とされないようにしながら口の中で魔力を雷に変換する。
 そうして二分ほど暴れた阿修羅だったが、急に止まって仁王立ちとなった。

 むっ……何か感じが変わった……吸収魔法が解かれておる? 大チャンス到来じゃ! まだ百倍まで届いておらんが、喰らわしてやる!!

「にゃ~~~ご~~~!!」

 【六十倍御雷】の発射だ。

「「「がああぁぁ~~~!!」」」

 しかし、わしの咆哮とまったく同時に、阿修羅の咆哮が轟く。

 阿修羅は何をしたかというと、先ほどの大爆発を真下に放って、わしを自爆に巻き込もうとしたのだ。

 ゼロ距離で放った【御雷】は、阿修羅の背中を貫いた。だが、反動の強い技を使うには体勢が悪く、わしは大きく吹き飛ばされる。
 幸か不幸か、わしの首が下方向を向いた事で、心臓目掛けて放った【御雷】は、阿修羅の背中から股関節を越えて切り裂く事となった。
 ついでにわしは空を飛んで離れるが、阿修羅の放った大爆発がわしに迫る。

 間に合え~~~!!

 わしも自爆技を使っているので、体にダメージがある。このまま大爆発を受けると死んでしまう。なので必死に【吸収魔法・球】を大きく展開するが、少し出したところで大爆発に呑み込まれるのであった。





「ぐはっ……ゼーゼーゼーゼー……生きてる……」

 大爆発を喰らって空に打ち上げられたわしは、地上に激突した衝撃で目を覚ます。

 まだ何かあるかもしれん! すぐに治療じゃ!!

 各上相手の死闘に、わしは一切の気を抜かない。体を完全に治して、探知魔法で阿修羅を探す。

 奴は……爆心地辺りで突っ立っておる。吸収魔法も使っておらんけど……死んだか? 体が半分裂けているところに、自分の最強魔法を喰らったんじゃから、死んでおれよ? な??

 わしは出来るだけフラグにならないように状況を考え、防御を固めてから駆け出す。そうして阿修羅が望遠鏡で確認できる距離まで進むと身を潜め、ビクビクしながら確認する。

 う~む……丸焦げじゃ。姿形は留めておるが、真っ黒じゃ。アレではどっちが前かもわかりにくい。それに焼けた勢いで、身が縮んだのか? 裂け目が無くなっておる。
 いくら治りが早くても、アレは治せないじゃろ? たのむぞ? しかし、ここは悩みどころじゃ。生死を確認せずに逃げるかどうか……
 正直このまま逃げて、おやっさんと一緒に確認したい。でも、もしも死んでいたら無駄足となって、わしが殴られそうじゃ。

 ちょっと怖いけど、攻撃魔法を撃って、生きていたらすぐに逃げようか。


 わしは転移魔法がいつでも発動できるように準備をしつつ、【御雷】を放とうとする。

 あ、あれ? ……やっぱり生きてた~~~!!

 わしが一瞬目を切った瞬間に阿修羅は消えており、予定通り転移魔法で逃げようとしたが、いま一歩遅かった。

「グギャ~~~!!」

 真横に立った阿修羅に転移魔法はキャンセルされ、上から一斉射撃するマシンガンのようなパンチにさらされたわしは、ひたすら殴られ続けるのであった……


*************************************
本年は「アイムキャット」にお付き合いくださり、誠に有り難う御座います。
来年も、もう少しだけお付き合いしてくれたら最終回を迎えるかも??

ではでは、よいお年を……
しおりを挟む
感想 962

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...