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第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~
545 自爆にゃ~
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「「「キャーーー!!」」」
シラタマが阿修羅と戦っている最中、戦闘機に乗り込んで東に逃げるリータ達にも余波が振り掛かる。
直径一キロもの大爆発で発生した衝撃波は、戦闘機をまるで枯れ葉のように吹き飛ばした。
幸い、離陸して高度を上げていた最中だったので、戦闘機は進行方向の上空に吹き飛んだ事と、コリスがアクロバット飛行に慣れていた事が重なり、なんとか墜落の危機を脱したようだ。
「コリスちゃん……大丈夫ニャ?」
「うん……」
いつになく険しい表情のコリスを心配するメイバイ。コリスはシラタマに本気で怒鳴られた事もそうだが、三倍以上も強い敵に立ち向かっているシラタマを心配しているようだ。
メイバイはコリスの頭を撫で撫ですると、真っ青な顔でガタガタ震えているイサベレに視線を向ける。
「イサベレさんも大丈夫ニャ?」
「む、無理……なに、あの化け物……」
どうやらイサベレは、阿修羅の底知れない威圧感を間近に見て震えていたようだ。
「そっか……イサベレさんはヤマタノオロチを見てなかったニャ。ヤマタノオロチも同じくらい威圧感があったニャー」
「ほ、本当?」
「本当ニャー。それでもシラタマ殿は帰って来たから、ぜったい大丈夫ニャー!」
メイバイに励まされたイサベレは、深呼吸を繰り返す。イサベレが落ち着いて来るとメイバイは、暴れるオニヒメを抱き締めて離さないリータに声を掛ける。
「オニヒメちゃんはどうニャー?」
「ダメです。ぜんぜん落ち着いてくれません。それに、知らない言葉を使うのですけど、どうしたのでしょう?」
「もしかして……記憶が戻ったのかもしれないニャ。オニヒメちゃん? 昔を思い出したニャー??」
これよりリータとメイバイは、念話を使ってオニヒメと会話する。
「オニヒメちゃん。いえ……名前は覚えてる?」
「お母さんが……お母さんが……」
「お母さんニャー? お母さんがどうしたニャー??」
「あいつに襲われた!」
「あいつ……大きなオーガのこと?」
「うん……お母さ~~~ん」
なんとか話は通じたのだが、オニヒメは泣き出してしまった。
その姿を見たリータとメイバイは、顔を見合わせて話し合う。
「どうやら嫌な記憶を取り戻してしまったみたいですね」
「私のせいニャ……私が思い出したほうがいいって言ったから、辛い思いをさせてしまっているニャー。シラタマ殿の言った通り、待ってればよかったニャ……」
「それを言ったら、オニヒメちゃんから目を離した私のせいでもあります」
二人が自責の念に苛まれる間も、オニヒメの涙は止まらない。なので、二人はオニヒメを心配させないように、優しく語り掛ける。
「オニヒメちゃんのお母さんは、もう居ないかもしれない……でも、シラタマさんが、必ず仇を取ってくれる」
「オニヒメちゃん……いまは辛いと思うけど、オニヒメちゃんのそばには私達が居るニャー」
「そうです。ずっとそばに居るよ」
「私達が、オニヒメちゃんのお母さんになるニャー」
「うっ……ううぅぅ……」
リータとメイバイに優しく抱き締められたオニヒメは、次第に声が小さくなり、眠りに就くのであった。
「あとはシラタマさんが無事に戻って来るかどうかですね……」
「いざとなったら、転移して逃げるニャー」
「ですね。とりあえず、チェクチ族の集落に向かいましょう」
「コリスちゃん。もう少し北東に向かってニャー」
コリスは機体を傾けて質問する。
「こっち~?」
「逆ですね。10時の方向ね」
「こう?」
「もう少し左ニャ……よくできたニャー!」
「うん……」
なんとかコリスが機首を北東に向けられたので二人はべた褒めするが、コリスは元気がない。なので、機嫌を取ろうと戦闘機に備え付けてある冷蔵庫からジュースを取り出し、コリスの口に突っ込んで飲ませるメイバイであった。
* * * * * * * * *
くう~~~……急いで治さねば!!
大爆発に巻き込まれて吹っ飛んだわしは、回復魔法で体を治す。
なんじゃさっきの魔法は……わしの【百倍御雷】より強かったぞ。もしかしたら阿修羅の奴も、魔力を補填する術があるのかもしれん……
なんとか広範囲に出した【吸収魔法・球】で凌いだが、体がボロボロじゃわい。下手したら死んでたな。
阿修羅が離れている内に、さっさと逃げよっと。……あれ??
わしは転移魔法を発動しようとしたが、キャンセルされてしまった。その瞬間、背中に悪寒が走り、バッと振り向く。
「お前は何者だ? さっきの奴はどこへ行った??」
阿修羅だ。すでに真後ろに立っていた為、阿修羅の吸収魔法の範囲内に居たせいで、転移魔法の魔力を吸われてしまっていた。
ただし、右顔にはわしの猫型の姿がわからないからか、急には攻撃をしてこなかったみたいだ。
なので、大きく距離を取って防御を堅めてから念話を返す。
「同一個体にゃ。こっちが元の姿にゃ」
「ほう……面白い生き物も居たものだ。しかし、小さくなっては楽しさも半減だな」
「じゃあ、逃がしてくれにゃ~。もうわしは関わらないにゃ~」
「獣は我が帝国の敵! 一匹たりとも取り逃がさん!!」
また左顔がしゃしゃり出て来たよ……ずっと右顔なら話が通じるのに、勘弁しとくれ。
「死ね~~~!!」
左顔が叫びながら拳を振り下ろすので、出だしで一気に逃げたわしは、影魔法を使って木の影にトプンと潜り込む。
「逃がさんぞ~~~!!」
わしを見失った阿修羅は【咆哮】一発で、わしが消えた場所を吹き飛ばした。
セーフ! もうそこに居るわけがなかろう。転……
もちろん影を伝って移動していたわしは、影の中で転移魔法を使おうとしたが、阿修羅のみっつの口から【咆哮】が乱射されるので、影から影へと逃げ惑う。
ヤ、ヤバイ! さっきのヤツが来る!!
影の中でも阿修羅の攻撃をビビビッと感じたわしは、大ジャンプ。脱兎の如く、【突風】に乗って2キロ以上、上空に舞い上がった。
あ……あれ?? フェイント!? 【吸収魔法・球】!!
大爆発が来ると感じたのだが、阿修羅にしてやられた。いつの間にかわしの真上におり、六本の腕を上げて構えていた。
なのでわしは【吸収魔法・球】を大きく展開してダメージを減らすが、そまま殴られて下へぶっ飛ばされた。
このままでは、大爆発で剥き出しになった堅い岩盤に打ち付けられるので、新魔法【水海豚】を召喚する。
水で出来た10メートルのイルカの口から入り、尻尾から出る頃には減速され、わしは四つ足でなんとか着地。急いで折れた骨を回復魔法でくっつける。
もう来た!?
しかし、阿修羅は空気を蹴って、凄まじい速度で降って来た。わしはギリギリ阿修羅の三本パンチをかわすが、地が爆ぜてまた吹き飛ばされてしまい、体勢を立て直しながら着地しても、後ろに回り込まれてサッカーボールキック。
これも侍の勘で辛くも避けるが、行く先行く先に回り込まれて、追い込まれて行く。
くそっ! 接近戦に持ち込まれては、魔力を吸われるから転移魔法が使えない。かといって魔法で攻撃しても吸われるだけじゃから、使ったら隙ができる。唯一の救いは体のサイズだけ。おかげで攻撃が単調になるからなんとか反応できる。
でも、つかまるのは時間の問題……考えろ! 何か打開策を見出ださなくてはわしは死ぬぞ!!
侍の勘で阿修羅の三本パンチをなんとか大きく避けているが、阿修羅の攻撃はミリ単位でわしに迫る。纏まった三本パンチから変化するパンチに至っては、触れそうな距離まで迫っている。
このままではジリ貧。覚悟を決めて阿修羅の三本パンチを前に出て紙一重で避けたわしは、一気に阿修羅の体を駆け上がり、背中に爪を立てて張り付いてやった。
やっと休憩じゃ。ここならば、痒い所に手が届かんじゃろう。【百倍御雷】をゼロ距離から放ってやる!!
阿修羅は背中に居るわしを掴もうとするが、手が届かないようだ。普通の人間でも体の硬い者は届かないのだ。無理矢理くっ付けたような六本の腕が仇となって、わしの位置まで全然届かない。
しかしながら、体の硬い人間でも背中を掻く方法がないわけではない。黒い木に背中をぶつけ、地面にもぶつけてわしを引き剥がそうとする。
阿修羅の吸収魔法の中に居るので多少はダメージを軽減されているが、何度も空から岩盤にぶつけられると強烈な痛みが走り、【御雷】の準備に時間が掛かってしまう。
わしは歯を食い縛り、爪が剥がれないように痛みに耐え、必死に振り落とされないようにしながら口の中で魔力を雷に変換する。
そうして二分ほど暴れた阿修羅だったが、急に止まって仁王立ちとなった。
むっ……何か感じが変わった……吸収魔法が解かれておる? 大チャンス到来じゃ! まだ百倍まで届いておらんが、喰らわしてやる!!
「にゃ~~~ご~~~!!」
【六十倍御雷】の発射だ。
「「「がああぁぁ~~~!!」」」
しかし、わしの咆哮とまったく同時に、阿修羅の咆哮が轟く。
阿修羅は何をしたかというと、先ほどの大爆発を真下に放って、わしを自爆に巻き込もうとしたのだ。
ゼロ距離で放った【御雷】は、阿修羅の背中を貫いた。だが、反動の強い技を使うには体勢が悪く、わしは大きく吹き飛ばされる。
幸か不幸か、わしの首が下方向を向いた事で、心臓目掛けて放った【御雷】は、阿修羅の背中から股関節を越えて切り裂く事となった。
ついでにわしは空を飛んで離れるが、阿修羅の放った大爆発がわしに迫る。
間に合え~~~!!
わしも自爆技を使っているので、体にダメージがある。このまま大爆発を受けると死んでしまう。なので必死に【吸収魔法・球】を大きく展開するが、少し出したところで大爆発に呑み込まれるのであった。
「ぐはっ……ゼーゼーゼーゼー……生きてる……」
大爆発を喰らって空に打ち上げられたわしは、地上に激突した衝撃で目を覚ます。
まだ何かあるかもしれん! すぐに治療じゃ!!
各上相手の死闘に、わしは一切の気を抜かない。体を完全に治して、探知魔法で阿修羅を探す。
奴は……爆心地辺りで突っ立っておる。吸収魔法も使っておらんけど……死んだか? 体が半分裂けているところに、自分の最強魔法を喰らったんじゃから、死んでおれよ? な??
わしは出来るだけフラグにならないように状況を考え、防御を固めてから駆け出す。そうして阿修羅が望遠鏡で確認できる距離まで進むと身を潜め、ビクビクしながら確認する。
う~む……丸焦げじゃ。姿形は留めておるが、真っ黒じゃ。アレではどっちが前かもわかりにくい。それに焼けた勢いで、身が縮んだのか? 裂け目が無くなっておる。
いくら治りが早くても、アレは治せないじゃろ? たのむぞ? しかし、ここは悩みどころじゃ。生死を確認せずに逃げるかどうか……
正直このまま逃げて、おやっさんと一緒に確認したい。でも、もしも死んでいたら無駄足となって、わしが殴られそうじゃ。
ちょっと怖いけど、攻撃魔法を撃って、生きていたらすぐに逃げようか。
わしは転移魔法がいつでも発動できるように準備をしつつ、【御雷】を放とうとする。
あ、あれ? ……やっぱり生きてた~~~!!
わしが一瞬目を切った瞬間に阿修羅は消えており、予定通り転移魔法で逃げようとしたが、いま一歩遅かった。
「グギャ~~~!!」
真横に立った阿修羅に転移魔法はキャンセルされ、上から一斉射撃するマシンガンのようなパンチに晒されたわしは、ひたすら殴られ続けるのであった……
*************************************
本年は「アイムキャット」にお付き合いくださり、誠に有り難う御座います。
来年も、もう少しだけお付き合いしてくれたら最終回を迎えるかも??
ではでは、よいお年を……
シラタマが阿修羅と戦っている最中、戦闘機に乗り込んで東に逃げるリータ達にも余波が振り掛かる。
直径一キロもの大爆発で発生した衝撃波は、戦闘機をまるで枯れ葉のように吹き飛ばした。
幸い、離陸して高度を上げていた最中だったので、戦闘機は進行方向の上空に吹き飛んだ事と、コリスがアクロバット飛行に慣れていた事が重なり、なんとか墜落の危機を脱したようだ。
「コリスちゃん……大丈夫ニャ?」
「うん……」
いつになく険しい表情のコリスを心配するメイバイ。コリスはシラタマに本気で怒鳴られた事もそうだが、三倍以上も強い敵に立ち向かっているシラタマを心配しているようだ。
メイバイはコリスの頭を撫で撫ですると、真っ青な顔でガタガタ震えているイサベレに視線を向ける。
「イサベレさんも大丈夫ニャ?」
「む、無理……なに、あの化け物……」
どうやらイサベレは、阿修羅の底知れない威圧感を間近に見て震えていたようだ。
「そっか……イサベレさんはヤマタノオロチを見てなかったニャ。ヤマタノオロチも同じくらい威圧感があったニャー」
「ほ、本当?」
「本当ニャー。それでもシラタマ殿は帰って来たから、ぜったい大丈夫ニャー!」
メイバイに励まされたイサベレは、深呼吸を繰り返す。イサベレが落ち着いて来るとメイバイは、暴れるオニヒメを抱き締めて離さないリータに声を掛ける。
「オニヒメちゃんはどうニャー?」
「ダメです。ぜんぜん落ち着いてくれません。それに、知らない言葉を使うのですけど、どうしたのでしょう?」
「もしかして……記憶が戻ったのかもしれないニャ。オニヒメちゃん? 昔を思い出したニャー??」
これよりリータとメイバイは、念話を使ってオニヒメと会話する。
「オニヒメちゃん。いえ……名前は覚えてる?」
「お母さんが……お母さんが……」
「お母さんニャー? お母さんがどうしたニャー??」
「あいつに襲われた!」
「あいつ……大きなオーガのこと?」
「うん……お母さ~~~ん」
なんとか話は通じたのだが、オニヒメは泣き出してしまった。
その姿を見たリータとメイバイは、顔を見合わせて話し合う。
「どうやら嫌な記憶を取り戻してしまったみたいですね」
「私のせいニャ……私が思い出したほうがいいって言ったから、辛い思いをさせてしまっているニャー。シラタマ殿の言った通り、待ってればよかったニャ……」
「それを言ったら、オニヒメちゃんから目を離した私のせいでもあります」
二人が自責の念に苛まれる間も、オニヒメの涙は止まらない。なので、二人はオニヒメを心配させないように、優しく語り掛ける。
「オニヒメちゃんのお母さんは、もう居ないかもしれない……でも、シラタマさんが、必ず仇を取ってくれる」
「オニヒメちゃん……いまは辛いと思うけど、オニヒメちゃんのそばには私達が居るニャー」
「そうです。ずっとそばに居るよ」
「私達が、オニヒメちゃんのお母さんになるニャー」
「うっ……ううぅぅ……」
リータとメイバイに優しく抱き締められたオニヒメは、次第に声が小さくなり、眠りに就くのであった。
「あとはシラタマさんが無事に戻って来るかどうかですね……」
「いざとなったら、転移して逃げるニャー」
「ですね。とりあえず、チェクチ族の集落に向かいましょう」
「コリスちゃん。もう少し北東に向かってニャー」
コリスは機体を傾けて質問する。
「こっち~?」
「逆ですね。10時の方向ね」
「こう?」
「もう少し左ニャ……よくできたニャー!」
「うん……」
なんとかコリスが機首を北東に向けられたので二人はべた褒めするが、コリスは元気がない。なので、機嫌を取ろうと戦闘機に備え付けてある冷蔵庫からジュースを取り出し、コリスの口に突っ込んで飲ませるメイバイであった。
* * * * * * * * *
くう~~~……急いで治さねば!!
大爆発に巻き込まれて吹っ飛んだわしは、回復魔法で体を治す。
なんじゃさっきの魔法は……わしの【百倍御雷】より強かったぞ。もしかしたら阿修羅の奴も、魔力を補填する術があるのかもしれん……
なんとか広範囲に出した【吸収魔法・球】で凌いだが、体がボロボロじゃわい。下手したら死んでたな。
阿修羅が離れている内に、さっさと逃げよっと。……あれ??
わしは転移魔法を発動しようとしたが、キャンセルされてしまった。その瞬間、背中に悪寒が走り、バッと振り向く。
「お前は何者だ? さっきの奴はどこへ行った??」
阿修羅だ。すでに真後ろに立っていた為、阿修羅の吸収魔法の範囲内に居たせいで、転移魔法の魔力を吸われてしまっていた。
ただし、右顔にはわしの猫型の姿がわからないからか、急には攻撃をしてこなかったみたいだ。
なので、大きく距離を取って防御を堅めてから念話を返す。
「同一個体にゃ。こっちが元の姿にゃ」
「ほう……面白い生き物も居たものだ。しかし、小さくなっては楽しさも半減だな」
「じゃあ、逃がしてくれにゃ~。もうわしは関わらないにゃ~」
「獣は我が帝国の敵! 一匹たりとも取り逃がさん!!」
また左顔がしゃしゃり出て来たよ……ずっと右顔なら話が通じるのに、勘弁しとくれ。
「死ね~~~!!」
左顔が叫びながら拳を振り下ろすので、出だしで一気に逃げたわしは、影魔法を使って木の影にトプンと潜り込む。
「逃がさんぞ~~~!!」
わしを見失った阿修羅は【咆哮】一発で、わしが消えた場所を吹き飛ばした。
セーフ! もうそこに居るわけがなかろう。転……
もちろん影を伝って移動していたわしは、影の中で転移魔法を使おうとしたが、阿修羅のみっつの口から【咆哮】が乱射されるので、影から影へと逃げ惑う。
ヤ、ヤバイ! さっきのヤツが来る!!
影の中でも阿修羅の攻撃をビビビッと感じたわしは、大ジャンプ。脱兎の如く、【突風】に乗って2キロ以上、上空に舞い上がった。
あ……あれ?? フェイント!? 【吸収魔法・球】!!
大爆発が来ると感じたのだが、阿修羅にしてやられた。いつの間にかわしの真上におり、六本の腕を上げて構えていた。
なのでわしは【吸収魔法・球】を大きく展開してダメージを減らすが、そまま殴られて下へぶっ飛ばされた。
このままでは、大爆発で剥き出しになった堅い岩盤に打ち付けられるので、新魔法【水海豚】を召喚する。
水で出来た10メートルのイルカの口から入り、尻尾から出る頃には減速され、わしは四つ足でなんとか着地。急いで折れた骨を回復魔法でくっつける。
もう来た!?
しかし、阿修羅は空気を蹴って、凄まじい速度で降って来た。わしはギリギリ阿修羅の三本パンチをかわすが、地が爆ぜてまた吹き飛ばされてしまい、体勢を立て直しながら着地しても、後ろに回り込まれてサッカーボールキック。
これも侍の勘で辛くも避けるが、行く先行く先に回り込まれて、追い込まれて行く。
くそっ! 接近戦に持ち込まれては、魔力を吸われるから転移魔法が使えない。かといって魔法で攻撃しても吸われるだけじゃから、使ったら隙ができる。唯一の救いは体のサイズだけ。おかげで攻撃が単調になるからなんとか反応できる。
でも、つかまるのは時間の問題……考えろ! 何か打開策を見出ださなくてはわしは死ぬぞ!!
侍の勘で阿修羅の三本パンチをなんとか大きく避けているが、阿修羅の攻撃はミリ単位でわしに迫る。纏まった三本パンチから変化するパンチに至っては、触れそうな距離まで迫っている。
このままではジリ貧。覚悟を決めて阿修羅の三本パンチを前に出て紙一重で避けたわしは、一気に阿修羅の体を駆け上がり、背中に爪を立てて張り付いてやった。
やっと休憩じゃ。ここならば、痒い所に手が届かんじゃろう。【百倍御雷】をゼロ距離から放ってやる!!
阿修羅は背中に居るわしを掴もうとするが、手が届かないようだ。普通の人間でも体の硬い者は届かないのだ。無理矢理くっ付けたような六本の腕が仇となって、わしの位置まで全然届かない。
しかしながら、体の硬い人間でも背中を掻く方法がないわけではない。黒い木に背中をぶつけ、地面にもぶつけてわしを引き剥がそうとする。
阿修羅の吸収魔法の中に居るので多少はダメージを軽減されているが、何度も空から岩盤にぶつけられると強烈な痛みが走り、【御雷】の準備に時間が掛かってしまう。
わしは歯を食い縛り、爪が剥がれないように痛みに耐え、必死に振り落とされないようにしながら口の中で魔力を雷に変換する。
そうして二分ほど暴れた阿修羅だったが、急に止まって仁王立ちとなった。
むっ……何か感じが変わった……吸収魔法が解かれておる? 大チャンス到来じゃ! まだ百倍まで届いておらんが、喰らわしてやる!!
「にゃ~~~ご~~~!!」
【六十倍御雷】の発射だ。
「「「がああぁぁ~~~!!」」」
しかし、わしの咆哮とまったく同時に、阿修羅の咆哮が轟く。
阿修羅は何をしたかというと、先ほどの大爆発を真下に放って、わしを自爆に巻き込もうとしたのだ。
ゼロ距離で放った【御雷】は、阿修羅の背中を貫いた。だが、反動の強い技を使うには体勢が悪く、わしは大きく吹き飛ばされる。
幸か不幸か、わしの首が下方向を向いた事で、心臓目掛けて放った【御雷】は、阿修羅の背中から股関節を越えて切り裂く事となった。
ついでにわしは空を飛んで離れるが、阿修羅の放った大爆発がわしに迫る。
間に合え~~~!!
わしも自爆技を使っているので、体にダメージがある。このまま大爆発を受けると死んでしまう。なので必死に【吸収魔法・球】を大きく展開するが、少し出したところで大爆発に呑み込まれるのであった。
「ぐはっ……ゼーゼーゼーゼー……生きてる……」
大爆発を喰らって空に打ち上げられたわしは、地上に激突した衝撃で目を覚ます。
まだ何かあるかもしれん! すぐに治療じゃ!!
各上相手の死闘に、わしは一切の気を抜かない。体を完全に治して、探知魔法で阿修羅を探す。
奴は……爆心地辺りで突っ立っておる。吸収魔法も使っておらんけど……死んだか? 体が半分裂けているところに、自分の最強魔法を喰らったんじゃから、死んでおれよ? な??
わしは出来るだけフラグにならないように状況を考え、防御を固めてから駆け出す。そうして阿修羅が望遠鏡で確認できる距離まで進むと身を潜め、ビクビクしながら確認する。
う~む……丸焦げじゃ。姿形は留めておるが、真っ黒じゃ。アレではどっちが前かもわかりにくい。それに焼けた勢いで、身が縮んだのか? 裂け目が無くなっておる。
いくら治りが早くても、アレは治せないじゃろ? たのむぞ? しかし、ここは悩みどころじゃ。生死を確認せずに逃げるかどうか……
正直このまま逃げて、おやっさんと一緒に確認したい。でも、もしも死んでいたら無駄足となって、わしが殴られそうじゃ。
ちょっと怖いけど、攻撃魔法を撃って、生きていたらすぐに逃げようか。
わしは転移魔法がいつでも発動できるように準備をしつつ、【御雷】を放とうとする。
あ、あれ? ……やっぱり生きてた~~~!!
わしが一瞬目を切った瞬間に阿修羅は消えており、予定通り転移魔法で逃げようとしたが、いま一歩遅かった。
「グギャ~~~!!」
真横に立った阿修羅に転移魔法はキャンセルされ、上から一斉射撃するマシンガンのようなパンチに晒されたわしは、ひたすら殴られ続けるのであった……
*************************************
本年は「アイムキャット」にお付き合いくださり、誠に有り難う御座います。
来年も、もう少しだけお付き合いしてくれたら最終回を迎えるかも??
ではでは、よいお年を……
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