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第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~

532 猫又船団結成にゃ~

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 スパーン!

 わしが白イルカを脅しまくっていたら、玉藻にハリセンでツッコまれてしまった。

「にゃにするにゃ~!」
「だあっとれ! ここからはわらわが代わる!!」

 文句を言っても、玉藻は歯を剥いてめちゃくちゃ怒鳴るので、わしはすごすごと引っ込んでメイバイに抱きつく。

「あんにゃに怒らにゃくても……」
「う~ん……ここは玉藻さんに任せようニャー」

 そうしてメイバイとリータに撫でられて慰められていると、玉藻の白イルカへの説得が始まった。

「お前達も、強い敵に囲まれて困っておるじゃろう? 妾達と手を組めば、安心して暮らせるようになるのじゃ。どうじゃ? 悪い話じゃなかろう??」
「う~ん……悪くはないが、アイツ怖い」
「シャーーー!」

 白イルカがヒレでわしを指すので、歯を剥いてみた。だってイルカに指差されるなんて初体験なんじゃもん。ちょっとした冗談じゃ。
 しかし、わしの冗談は白イルカに通じず、プルプル震えてしまった。

「あやつは怖くないぞ。妾がそち達を殺そうと言ったのに、ただ一人止めていたのがあやつじゃ」
「本当か??」
「本当じゃ。それに、輪をくぐったりして、楽しそうに遊んでおったじゃろ? アレもあやつがやったんじゃ」
「あ! アレ楽しかった! もっかいやってくれ!!」
「ならば、妾が相手をしてやろう」

 玉藻は【土の輪】をたくさん作って二匹の白イルカと遊び、まるでドルフィントレーナーのように見える。その横では、有り物の食事で腹を満たすわし達。イルカショーを見ながら食べるお弁当は格別だ。
 そうして玉藻は絡め手で白イルカを仲間に引き込み、エサをあげたらわし達の食事に加わる。

「ふぅ~。なんとか上手くいったぞ」
「お疲れ様にゃ~」
「それにしても、そちの本気の覇気は、妾でも若干恐怖したぞ。とんでもない化け物だったのじゃな」

 あ……手っ取り早く仲間に引き込もうとして、本気の強さを見せてしまった。玉藻達には隠しておったのに、失敗じゃ。だからご老公が静かだったんじゃな。玉藻以上の化け物が居ると、実感してしまったようじゃ。
 ま、二人相手取ったり、ヤマタノオロチと戦ったんじゃから、いまさらか。


 それから食事を続け、白イルカの名付け。様々なボケが出て来るので、全てのボケをわしが潰しまくる。

 猫っぽいのは却下! お菓子も却下! 悪魔っぽいのも却下じゃ!! キツネ助とタヌキ兵衛は、本当にそれでいいんじゃな? いいや、有り得ん!!

 結局は、玉藻と家康に適当な地名を出させてクジを引き、命名に漕ぎ着け、リータが高らかに発表する。

「発表します! ヒュウガとマヤです!!」

 オスの大きい白イルカは「日向ヒュウガ」。メスだと聞いた小さいほうの白イルカは「摩耶マヤ」。どちらも軍艦みたいな名前になってしまったが、エリザベスキャット号やルシウスキャット号と比べると、かなりマシな名前だろう。

 こうして新たな仲間を加え、我が猫又船団の航海は続くのであっ……

 船なんて一隻しかないのに、船団っておかしくない? ヒュウガとマヤがデカイから船みたいなんですか。そうですか。
 あと、猫又船団はなんとかなりませんか? わしが海賊のおかしらみたいなんですが……。お頭でいいのですか。変える気もないのですか。そうですか。

 反論しても決定事項は覆らないので、変な集団の航海は続くのであった。




 翌日……

 エリザベスキャット号の横で飛び跳ねるヒュウガとマヤと共に北上する。二匹になんとなくレコードを聞かせてみたら、超ご機嫌。わしに対しても恐怖心はなくなったようだ。
 ただ、二匹が居るせいでトローリングが上手くいかない。せっかく寄って来た黒い巨大魚は二匹が甚振いたぶってリータ達の出番が無くなってしまうし、氷の足場が作れない。
 そのせいで海上の乱戦となってしまい、空中や海上で戦える者、遠距離攻撃が得意な者しか戦闘に参加できなくなってしまう。白イルカも弱い奴には強いが、自身の倍近くある白い巨大魚にボコられて戦意喪失。

 わしと玉藻と家康で、なんとか優勢を保ち、全ての巨大魚を打ち負かすのであった。


「イルカを仲間に入れたら楽が出来るかと思っていたけど、失敗にゃ~」

 昼には少し早いが、昼休憩と反省会。わしの愚痴に、リータとメイバイがなんとかしろと答える。

「イサベレさん達はいいとして、私とメイバイさんが全然役に立てないのが問題ですね」
「本当ニャー。二人で十匹しか倒せなかったニャー」

 二人で黒い巨大魚を十匹も倒せたら十分な気もするが、二人には物足りなかったようだ。いちおうどうやって倒したかと聞くと、リータが鎖で無理矢理一本釣りして、船の上でタコ殴りにしたんだって。

「戦力外通告しかないのう……」
「うむ。苦しませず逝かせてやろう」
「すぐ殺すにゃ! かわいそうにゃろ!!」

 玉藻と家康が物騒な事を言うので、頼りになる、誰よりも頼りになるわしがなんとかするしかない。
 要は、白イルカが凍り付かなければいいだけなので、エリザベスキャット号に乗せてやればいい。幸い、全長200メートルもある空母使用だ。30メートルのヒュウガでも余裕で乗せられる。
 ただし、魚類ではないが水棲哺乳類なので、お肌の渇きは禁物。甲板に巨大なプールをを作ってあげる。あまり深く作れなかったが、ヒュウガでもギリギリ浸かる事が出来るので、二匹とも温泉に浸かっているようにリラックスしていた。

 二匹とも水魔法が得意みたいなので、自分でプールの海水を足す事も出来るから、一時しのぎどころか夜に寝ていても問題なさそうだ。楽しそうに、何度も海からプールに行ったり来たりしている。

「にゃ~! コリス~~~!!」
「アハハハ。モフモフ~」

 何度も繰り返されたら、こっちがたまったもんじゃない。いくら船が大きくても、揺れるし大量の海水が飛び散る。そのせいで、コリスがどんぶらこと流されてしまった。

「いい加減にしにゃいと怒るにゃ~!」
「「は~い」」

 なので怒鳴り付けると、二匹は聞き分けよく返事。わしに怯えるかと思えたが、わしと出会って楽しい遊びが増えたので、逆らって機嫌を損ねたくないようだ。


 白イルカの処置も終われば、再び出発。白イルカがエリザベスキャット号に合わせて泳ぎ、しばらく進んだらトローリング開始。
 今度は10メートルほどの白い巨大魚だったようだが、二匹の白イルカに甚振られ、グロッキー状態になったところで強烈な尾ヒレビンタ。その攻撃で、白い巨大魚は甲板に上手く乗せられた。
 あとはトドメだけ。皆、戦闘にならないからとか言ってやってくれないので、わしがエラを凍らせて終わりとする。

 本当はこいつを解体して血を撒くつもりだったが、白い巨大魚はちょっともったいないので、手持ちの黒い巨大魚で代用。ブロック状に捌いている間に、白イルカは船に乗り込ませる。
 大量の血と肉を海にばら蒔き、白イルカに餌付けしていたら、予定通り巨大魚が寄って来たのでサクッと活け締め。氷の足場があれば皆も戦闘が出来て満足だし、わしも楽が出来て満足だ。
 ただし、大量の巨大魚をこんなに簡単に倒せるわし達を見たヒュウガとマヤは、何故かわしと玉藻を変な呼び方をして来た。

「アニキィィ!」
「アネゴォォ!」
「「一生ついて行きます!!」」

 どうやら野生の勘で、この中で一位と二位の化け物に気付いた二匹は舎弟にして欲しいようだ。でも、もう仲間なんだから、いちいち呼び名を変えないで欲しい。

 それとご老公! 敬称で呼んでもらいたいからって、ヒュウガと喧嘩しないで! そんなに「オジキ」と呼んで欲しかったの!?

 どうやら家康は、ヤマタノオロチと一緒に戦ったのに、仲間外れされていた事が気に食わなかったようだ、だけど、オジキだと一番上になるんじゃけど……

 そんな呼び名争いに興味の無いわしは、戦闘機に乗って辺りの確認。白い珊瑚礁を見付けたので、エリザベスキャット号に戻って方角を指示して進んでいたら、ヒュウガとマヤは血相変えて甲板プールに飛び込んで来た。
 何を慌てているのかと聞いたら、ここの主に痛い目にあったとのこと。なので、絶対に近付くなとわし達は止められたが、主を倒す事が目的だと教えてあげたら……

「「さすがアニキです!」」

 まだ倒してもいないのに、めっちゃ褒められた。なんかオラオラ感も出してるし……海のギャングって、イルカじゃなくてシャチじゃろ?
 いや……ちょっと待て。イルカの大きい版がシャチじゃから合ってるのか? いやいや、大きさで名称が変わるなら、こいつらはクジラか? ヒュウガでマッコウクジラぐらいあるぞ??


 イルカに質問したところで自分達の種族なんてわかるわけもないので、戦闘突入。白い珊瑚礁を氷付けにし、わしと玉藻と家康でタコ殴り。いや、主は100メートル以上あるイカだったので、イカ殴りだ。
 これで、今日の航海は終了。ヒュウガ達が褒めまくる中、氷を砕き、土魔法を使って海底と船を固定する。すると、ヒュウガとマヤは海に飛び込み、ここを縄張りにしたいと言って来た。
 わしはそれもアリかと思い、地図を広げて家康と相談する。

「ここは……ちょうど江戸の沖に当たるにゃ~」
「ふむ。ここから江戸湾を守ってもらえたら助かるのう」
「まてまて。京の海にも欲しいぞ!」

 話がまとまり掛けたが玉藻から苦情が入り、二人がまた険悪になって来た。なので、イルカは二匹いるから分けようとしたが、ヒュウガとマヤはつがいなので離れたくないようだ。なのでなので、大岡裁き。

「よし! お前達の縄張りは、日ノ本近海全てにゃ!!」

 と言ってみたものの、これも通じないので、二匹に地図を見せながらわし達の計画も説明してみる。
 主退治をしつつ、白い珊瑚礁の縄張り争いを人為的に引き起こし、巨大魚の弱体化に持っていく大プロジェクト。しかしこれも通じないので、違う言い方をする。

「今日、ここの主がいなくなったにゃろ? すると縄張りを奪おうと敵がいっぱい集まって来るにゃ。それに勝ち残った奴をお前達が倒したらどうにゃ? 勝てないにゃら、玉藻とご老公が倒してくれるにゃ」
「つ、つまり……」
「お前達は苦労せずに日ノ本の主になって、どこの縄張りに行こうとも自由にゃ~」
「「アニキィィ~!!」」

 必殺、漁夫の利作戦。ヒュウガとマヤは苦労せずにこの海の覇者となれると聞いて嬉しいようだ。
 その姿を見ていた家康は、ウンウン頷きながら一句読んでいた。

「先にる あとに殺るのも 同じこと」
「にゃにそれ?」
「ふと浮かんだ句じゃ。この作戦に見合った俳句じゃろ?」
「辞世の句じゃにゃいの!?」

 どうやらこの世界の家康は長生き過ぎて、「先に行く あとに残るも 同じこと……」という辞世の句はまだ生まれていなかったようだ。
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