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第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~
516 ハンター協会の視察にゃ~
しおりを挟む我輩は猫又である。名前はシラタマだ。冒険家は付け足されたが、悪役ぬいぐるみではない。
遣猫使が来訪してから約一ヶ月半。勉強は意外と早く終わり、各班に分かれて各地に散って行った。遣猫使は猫の国だけでなく、他所の国を見てから帰るようだ。
わしはというと相変わらず暇を持て余し、リータ達と訓練したり、各街をブラブラしたり、兄弟達と白銀猫に会いに行ったり、こっそり日ノ本をブラブラしたり、富士山に登ったりもしていた。写真に撮ったからバレてしまったけど……
そんな日々を過ごし、今日は何をしようかと縁側でボーっとしていたら、仕事で忙しいはずの双子王女が朝からやって来た。
「やはりここに居ましたのね」
「にゃに~?」
「少し相談がありまして……」
「相談にゃ?」
「近々、お母様の誕生祭があるじゃないですか」
「あ~。もうそんにゃ時期なんにゃ」
「また忘れていましたの?」
「まだひと月もあるからにゃ~」
どうやら女王誕生祭に、猫の国から出すプレゼントの件で二人は相談に来たらしいけど、もうすでに時計台を贈る事に決まっていた。
それでもわしは「今年は出さなくていい」と言ったら、場所は確保済みとのこと。さらには、職人も手配済みとのこと。なんだったら、建設はとっくに始まっているとのこと。
あとはお金だけ。足りなくなったから、わしのポケットマネーをたかりに来たようだ。
「えっと……それってつまり、東の国への横流し、もしくは横領にゃのでは……」
「「まぁ……そう受け取られても仕方ないですわね……」」
「やっぱり悪役令嬢にゃ~~~!!」
「「お母様に最高の品を贈りたいだけですわ~~~」」
さすがに猫の街のお金を勝手に使い込んだ事は、二人もやり過ぎた感はあるらしいので泣き付いて来た。
なので、事後報告は今回限りにさせ、次にやる時は猫会議の議題に出して、議決する事を約束させた。もちろん、わしには最初に報告をさせる。こんな高いプレゼントは、マジで懐が痛いからな。
「あと、シラタマちゃんは絶対参加ですからね」
「それと、値段は気にせず、心のこもった物を贈りなさい」
「わかってるにゃ~」
前回は、代表の勉強の為に行けなかったからな。さっちゃんや女王に、欠席する事を説得するのも面倒じゃ。
しかし、プレゼントが思い付かん。魚でいいかな? いや、スティナが絶対たかって来るから獲物は出せないし、もっといい物を贈ったら挟まれる。ならばレコード……これも、エンマに渡さないと踏まれてしまう。
う~ん……それでいいか??
「二人も協力してくんにゃい?」
それからわしが贈る誕生日プレゼントを話し合っていたら、キツネ少女お春がパタパタと小走りでやって来た。
「どうかしたにゃ?」
「ウンチョウ様から連絡が入っているとの事で、シラタマ様か代表様、どちらかと話をしたいと、呼んで来るように言われております」
「ふ~ん……ウンチョウからにゃ~」
わしは何事かと考えていたが、双子王女にはウンチョウからの用件は、聞かなくてもわかるようだ。
「そう言えば、今日でしたわね」
「今日にゃ?」
「ハンター協会の視察ですわ。これも忘れていましたの?」
「にゃ! そうだったにゃ~」
「忘れていたみたいですわね……」
「「はぁ~~~」」
わしが双子王女のシンクロため息攻撃を受けると、お春はどうしていいかわからずにキョロキョロしていたので、頭を撫でてから全員で下の階に移動する。
とりあえずお春にはお茶を頼んで、わしと双子王女は執務室でウンチョウに連絡。話を聞くと、双子王女から暇なら行って来いとお達しが下り、お春の入れたお茶を慌ててすすったら、舌を火傷した。
ウンチョウの居る場所は、猫軍本拠地があるラサではなく猫穴温泉。少し距離があるが、運動不足解消の為に走って向かう。猫型で、わしが本気を出せば一瞬だ。
ただ、そのまま街に入ろうとしたら、猫耳族の女性に撫でられまくった。なので、念話で王様だと説明し、変身魔法で人型になったらめちゃくちゃ驚かれた。まさか野良猫が王様だったとは、これっぽっちも思っていなかったようだ。
似てるから崇め奉っていたらしいが、撫でたかっただけじゃろ? あと、危険な猫も居るかもしれないから、すぐに触ろうとしちゃダメじゃぞ?
皆はわしの忠告を聞いてくれたかどうかは、わしを拝み倒しているからさっぱりわからない。このままでは恥ずかしいのでさっさと門を潜り、ウンチョウが居るハンターギルドにお邪魔する。
「「お手を煩わせてしまって申し訳ありません!」」
わしが入るなり、ウンチョウと、この猫穴温泉の代表リェンジェが駆け寄って来て謝罪した。
「いいにゃいいにゃ。ハンター協会も乗り気だったから、ゴネるにゃんて誰も思ってなかったからにゃ。交渉の得意にゃ者も入れておけばよかったにゃ~」
「うっ……俺が、もう少し口が上手ければ……」
「それを言ったら、代表の俺が……」
二人は軍出身だから交渉はまだ苦手のようで、仲良く項垂れてしまった。
「ま、今回はわしのやり方を見て、次回に活かしてくれにゃ。それで、視察の人はどこに居るにゃ?」
「こちらです」
二人の案内でハンター協会から派遣された視察の者が居る場所に向かうのだが、ギルド内に居るのかと思ったら、温泉旅館に連れて行かれた。
温泉旅館の者にも居場所を聞いてみたら、庭に居るとのこと。わし達は外から回り、日本庭園風の庭で話し合っている集団に近付く。
「「「「「猫!?」」」」」
まさかのまさか。猫の国に来て、猫の王様が居ると知っているはずなのに、ハンターらしき五人が武器を構えやがった。
「王に剣を向けるとは何事か!」
「猫陛下。俺の後ろに……」
さすがは家臣。ウンチョウは剣を抜いて怒鳴り、リェンジェはわしを守ろうとする。だが、わしより遥かに弱い者に守られる筋合いはない。すっと前に出て、皆に落ち着いてもらう。
「まぁまぁ。ウンチョウ、剣を収めるにゃ~」
「「「「「猫が喋った!?」」」」」
「お前達も、いい加減わしに慣れるにゃ~~~!!」
懐かしいやり取りにイラッとしたわしは、結局は怒鳴り散らし、ウンチョウとリェンジェに止められるのであったとさ。
やや空気は悪いがお互い矛を収めたので、わしは髭がカールしている男に目を移す。
「で……お前がここのギルマスとして派遣された人かにゃ?」
「ええ。フーゴ・シュテファン・モルトケといいます」
ミドルネーム?? この鼻髭カール男は貴族か。たしか、ミドルネームを使っていたのは、西の国の貴族ぐらいだったはず。
「それで、にゃんでハンターギルドは、あの建物じゃダメなんにゃ?」
ウンチョウからは、建物について苦情が入っていると聞いている。他所の国のギルドを見て回った時に、東の国が一番優れていたように見えたのでマネて作らせたのだが、少し小さくした事に不満が出たのかとわしは思っていた。
「あんな質素な作りでは、仕事の張り合いが出ません。作り直してください」
は? たしかに装飾はないけど、機能はどこにも負けておらんぞ??
「いや、東の国のハンターギルド、そのまんまにゃよ? ハンター協会に設計図も送ってオッケーが出たにゃ。それにゃのに……」
「視察に来たのですから、変更する事は当然ありますよ。よくある事です」
「ここまで作って変更にゃんて、納得できないにゃ~」
「いいえ。やってもらわない事には、こちらも困ります。場所も決まっておりますので、そこに作ってください」
場所が気に食わなかったのか? 他所の国はほとんど街の真ん中にあったから、森側の西門近くにしたのがマズかったのか。こっちのほうが、絶対使い勝手がいいじゃろうに……
「ちにゃみに、どこに作れと言いたいにゃ?」
「ここです」
「ここ……にゃ?」
「そこの旅館でしたか。潰してもらってギルドを建て、ギルマス専用の温泉と家を作ってくれたら許可を出します。あとは……」
フーゴはペラペラと饒舌に条件を喋り続けるが、同じ言葉で喋っているはずなのに、わしの頭に入って来ない。なので、息継ぎのタイミングで割り込む。
「ちょ、ちょっと相談させてくれにゃ~」
わしはウンチョウとリェンジェを連れてフーゴから離れると、コソコソと話し合う。
「あのバカは、にゃにを言ってるにゃ? わしの考えでは、国民の為の施設にゃんだけど……」
「今までを聞く限り、自分の為の施設に聞こえますね……」
「それに、自国のハンターを優遇しろだと……これでは、また猫耳族が奴隷のような扱いになってしまいます。承服しかねます!」
「シッ……大声出すにゃ」
「す、すみません」
フーゴのあまりにも酷い提案に、ウンチョウが熱くなってしまったので、わしは落ち着かせる。
「つまりは、わしたち猫の国をニャメてるって事だにゃ?」
「「はっ!」」
「つまりは、ハンター協会はわしたち猫の国に喧嘩を売ってるんだにゃ?」
「「はっ!」」
わしは二人の力強い返事を聞いて、悪い顔で笑う。
「そう言えば、近々、例のアレをやるんじゃなかったにゃ~?」
ウンチョウはわしの意味深な言い方に、悪い顔で答える。
「はっ! 視察の方にも見てもらおうと、準備も済ませております」
「たしかあの男が連れて来たハンターは、Aランクと紹介されました」
リェンジェも悪い顔で補足してくれるので、わしの顔はますますあくどい顔になっていく。
「ほ~……わしの知る限り、Aランクにゃんてバーカリアンしか居ないのに、そんにゃ奴が居るんにゃ~。じゃあ、死ぬ事はないにゃ~」
「「はっ!」」
「ついでにフーゴにも見学してもらおうにゃ~」
「「それはいいですね~」」
「では、大蟻駆除大会の開催にゃ~!」
「「御意!!」」
「「「にゃ~はっはっはっはっ」」」
わし達は隠す事なく大声で笑い、フーゴ達が不穏な空気を感じていても気にしない。下手に出まくって、酒を飲ませまくって、接待しまくって、その日を迎えるのであった。
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