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第十八章 日ノ本編其の四 釣り大会にゃ~

506 白いサンゴ礁で一泊にゃ~

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 巨大な白タイとの戦闘が始まって数分……白タイは【水鉄砲】を連射し続ける。

 白タイは体の半分は氷の中に埋まり、背骨を砕かれていては満足な攻撃が出来ないようだ。
 しかし、巨大キツネ玉藻と巨大タヌキ家康より各上の相手なのは変わりなく、【水鉄砲】を一発でも喰らえば瀕死の重体におちいるだろう。
 その事をわかっている二人は慎重に避け、自身も【咆哮ほうこう】で反撃。時には前に出て、爪や牙を使って小さいながらもダメージを重ねる。

 この戦闘で役に立っている物は、ヤマタノオロチ戦でシラタマから渡された首輪。数々の魔道具が付いており、二人の身体能力が跳ね上がっているので、格上相手でも戦えているのだ。
 この首輪は、シラタマには返せと言われていたが、二人は親友の証として貰ったと言い張り、断固として返さなかった品なのだ。


「かったい奴じゃのう」
わしも爪が折れそうじゃ」

 玉藻と家康は集まって、【水鉄砲】を避けながら語り合う。

「あんな小さな猫が一発で風穴を開けたのに、わらわ達は何をやっているんだか……」
「誠に情けなし……やはり、中から攻めるしか勝ち目がないと言う事か」
「じゃな。妾が気を引いておく。そちは存分に暴れて来い」
「いや、儂が危険を買って出よう。お主がトドメを刺して来い」
「「いやいや……」」

 玉藻と家康はトドメを譲り合い、なかなか戦闘が再開できないでいる。これは、ヤマタノオロチ戦でシラタマの位置が一番大変だった事と、体内で戦うよりも活躍できると踏んでの譲り合い。
 その譲り合いはしばらく続くが、二人は異変に気付いて顔を見合わせる。

「なんだか細かく揺れておらんか?」
「うむ。波とは違う揺れじゃな」
「……嫌な予感がする」
「奇遇じゃな。儂もじゃ」
「「………」」

 二人は数秒見つめ合って、頷いて声を揃える。

「「逃げるぞ!!」」

 声を揃えたあとは白タイに背を向けて、スタコラサッサとエリザベスキャット号に向かって駆ける。その直後、白タイの体が氷と共に浮き上がり、猫の鳴き声が聞こえて来た。

「ホ~……ニャニャニャニャニャニャニャ~!!」

 シラタマだ。シラタマのキャット百裂拳が細かな振動を引き起こし、その衝撃と手数で150メートル近くある白タイを、宙に浮き上がらせたのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 その少し前、わしは海の深くに潜り、少し寄り道してから、白タイを下から探していた。

 う~む……どこじゃろ? 海が白い理由は、サンゴ礁が魔力のせいで白く成長しているからと確認は取れたけど、タイのヤツが見つからん。アレだけデカイから尾ヒレぐらいはみ出しておると思っておったが、氷に埋まっておるな。
 空気は魔法を使って、頭を空気の膜で包んでいるからなんとかなるけど、超寒い。生身で流氷の海に飛び込んでいるのと変わらんもんな。早く見付けないと、凍死してしまいそうじゃ……居た!
 四方は凍ったままじゃけど、かなり亀裂が大きくなっているから、いまにも潜って逃げられそうじゃわい。そうなる前に、手を打っておくとしようかのう。

 肉体強化マックス! 喰らえ、キャット百裂拳じゃ~~~!!

「ホ~……ニャニャニャニャニャニャニャ~!!」

 わしは水を蹴って白タイに近付くと、気功をまとったネコパンチを喰らわせる。そのネコパンチは一発で終わらず、一秒間に十発を超える手数で、白タイは少しずつ上へ上へ……
 氷を越え、海面を越え、空中に浮かんでもキャット百裂拳は止まらず、わしと白タイは鯉の滝登りのように、空高く打ち上がった。

 おっと行き過ぎた。落下する前に海を凍らしておかないとじゃな。

 【青龍】行け!

 わしが再び10メートルある氷の龍を、氷の穴に向けて放つと、穴は綺麗に埋まる。そこに白タイを下ろしたいが、わしは真下に居るので横移動。空気を蹴って安全な位置まで逃げると、白タイに【突風】を当ててゆっくりと下ろしてやった。

 ふふん。まさしく、まな板の鯉……いや、タイじゃった。しかし、尾ヒレがよっつって、泳ぎづらくないんじゃろうか。胸ヒレもよっつあるから関係ないのかな?

 白タイは、わしに殴られまくってグロッキー状態。ピクピクと動いているところを見ると、まだ息はあるようだ。

「「シラタマ~~~!」」

 わしが白タイを眺めていると、玉藻と家康が大きな声の念話を繋ぎながらやって来た。

「どうしたにゃ?」
「「一人で戦うな!!」」

 どうやらわしが、白タイを一人で滅多打ちにした事が気に食わないようだ。

「えっと……あとは任せたにゃ」
「「もう戦いにならんじゃろ!!」」

 トドメを譲ろうとしても、二人は仲良く同時ツッコミ。ギャーギャーうるさく、やる気もないようなので、リータ達を呼び寄せてトドメの話をしてみる。

「まだ生きてるけど……やるにゃ?」
「はい……攻撃が通じるかどうかだけ、確かめてみます」

 リータ達もまともに戦いたかったようだが、せっかくの機会だからと様々な攻撃を繰り出すが、やはり鱗が硬すぎてダメージになっていないようだ。ただ、リータのパンチで白タイは少しズレたので、わし達は驚かされた。

「「「馬鹿力……」」」
「そ、そんな事ないですよ! ね?」
「う……うんにゃ」
「シラタマさんまで~」

 本当の事なのに、リータは否定してわしに同意を求めるので、返事が遅くなってしまった。でも、わしだけ背中をバシッと叩かないで欲しい。
 氷の上なんだから踏ん張りが利かず、つるつる滑ってすんごい速度で白タイにぶつかってしまったじゃろ!

 文句を言いたいところであったが、白タイがいつ復活するかわからないので、早目にトドメに移行する。魔法で、斬る、焼く、煮る……どれにしようかと悩んだ結果、活け締め。
 二匹の氷の龍を両方のエラにくっ付け、暴れないように体も氷を操作して固めてやった。白タイは息が出来なくて少し暴れたが、ほどなくして、力を無くして完全に息を引き取るのであった。


「「「「………」」」」
「にゃに??」

 白タイが息絶えると、何故か皆が無言でわしを見ていたから質問したら、玉藻が答えてくれる。

「いや……そんなに簡単に殺せるものなのかと思ってな」
「別に簡単じゃないにゃ~」
「しかし、シラタマは凍らせただけじゃろ?」
「あ~……魚はエラ呼吸にゃろ? エラさえ凍ってしまえば息が出来にゃいから、簡単に死んだように見えただけにゃ」
「それならば、ヤマタノオロチの時にもエラを凍らせておけば、簡単に倒せたのでは?」
「あんにゃに大きいと無理にゃ~。今回は気絶していたから砕かれなかっただけにゃ~」
「……まことか?」
「信用してにゃ~」

 まったく信用してくれない皆には「にゃ~にゃ~」文句を言いつつ、わしも少し反省する。しかし、何度かエラを凍らそうとしたけど、すぐに氷を砕かれていたので、反対に移動している暇もなかったから、あの戦闘がベストだと受け取った。

 それから白タイは【超大鎌】で少し身を切り取ってから、全て次元倉庫に入れてしまう。
 そして移動について話し合うが、もうじき夕刻ともあり、ここで一夜を明かす事に決定。海の生き物の生態にはうといが、白タイの縄張りならば、一日ぐらい強い魚が寄って来ないのではとの判断だ。

 なので、夕食の準備。次元倉庫にある作り置きのお弁当と串焼きだけでも十分なのだが、せっかく大物を倒したのだ。コックピット下にある食堂のキッチンで、リータとメイバイに手伝ってもらい、わいわいと料理する。
 作る料理は、漁師メシ。メイバイに味噌と白タイと薬味を包丁で叩いてナメロウにしてもらい、リータには昆布で出汁を取った白タイの味噌汁を作ってもらう。二人もエミリから料理を習っていたから、なんとか作れるはずだ。
 わしはというと、白タイをぶつ切りにして、醤油を入れた皿の端にワサビを置いたら刺身の完成。白サメはどうしたものかと考えて、臭みを取るだけの湯引きにしてみた。


「「「「「いただきにゃす」」」」」

 手を合わせて食べれば、素人料理でもうまいの一言しか聞こえない。どれも白い魚なんだからマズイわけがない。

「こりゃまたうまいな」
「一流の料理人にも負けておらんぞ」
「素材がいいだけにゃ。あとはシチュエーションにゃ~」

 玉藻と家康が、わし達を褒めてくれても恥ずかしいだけ。きっとエミリや寿司屋に料理してもらったら、もっとうまいはずだ。
 釣りたてピチピチ、船の上で食べているから、どんなものでもうまく感じるだけ。それに加え、わし達は自分で調理したからなおさらうまい。

「このナメロウ、生なのに美味しいですね~」
「リータの作った味噌スープも美味しいニャー」
「わしの作った刺し身も美味しいにゃ~」
「「切っただけ……」」

 リータとメイバイが褒め合っているので、わしも仲間に入れてもらおうとしたら、工程が少なかったようだ。

「ひどいにゃ~。湯引きも頑張ったにゃ~」
「冗談ですよ。こんな刺し身なら、いくらでも食べられます」
「美味しいけど、サメは生じゃダメだったニャー?」
「さぁにゃ~? にわか知識で作っただけだから、また寿司屋にでも持ち込んでみようにゃ」

 お腹いっぱいになると、甲板にある露天風呂にキャッキャと入る。ちなみに家康は、ひとり寂しく建物に備え付けてあるお風呂だ。わしは男だけど、ぬいぐるみだからいいのだ。
 きれいさっぱり、体がポカポカとなったら寝床の準備。季節は冬という事もあり、氷が浮かぶ海の上では人間は寒いかと思い、玉藻と家康にお願い。
 毛皮を敷き詰めた部屋の中で、巨大キツネと巨大タヌキになってもらい、わし達はモフモフの海に飛び込む。

「「「「「モフモフにゃ~」」」」」

 暖かい二人の毛皮は、わし達に大好評。モフモフ言いながら眠りにつくのであっ……

「シラタマはこちら側であろうが……」
「コリスもじゃぞ……」
「「スピー」」

 モフモフのわしとコリスまでモフモフ言って飛び込んだからか、玉藻と家康に文句を言われていたようだが、わし達は寝息を立てて眠り続けたのであった。


 翌朝目覚めると、昨日の味噌汁と適当なお弁当で腹を満たす。それから海を見たら、いまだに氷は残っていたので船も動かせない。なので、【火球】を何個か落として氷を砕き、南に向けて出発する。

 操舵手、兼、船長は、玉藻と家康。仲良く交代で操縦するようだ。わしたち猫ファミリーは、空からの偵察の仕事があるけど、まずはリータ達の暇潰しアイテムを作る。
 戦闘機の修理用の黒魔鉱を全て使って50メートルほどの鎖を鉄魔法で作り、その先にはリータの盾に付いている白魔鉱の鎖をくっ付ける。
 それと、土魔法を使って硬くて長い鎖を作り、その先に白サメの肉をぶら下げて海に落とす。流し釣りトローリングで、大物を釣り上げてみようという腹だ。

「こんなので釣れるニャー?」
「それに土の鎖じゃ、すぐに噛み切られるのではないですか?」
「ただのお試しにゃ。もしもエサに食い付いたら、たぶんこっちにも襲い掛かって来るにゃろ」
「なるほどニャー!」
「エサはむしろ、私達って事ですね!」
「にゃ、にゃんですかその顔は……」

 メイバイが舌なめずりする中、リータが先ほど作った鎖を準備するので、わしの顔は青くなる。

「とりあえずエサになってニャー!」
「シラタマさんなら大物が釣れそうです!」
「夫を海に投げ込むにゃ~~~!!」

 巨大魚の生き餌にしようとするリータとメイバイからわしは「にゃ~にゃ~」逃げ惑い、エリザベスキャット号の航海は続くのであったとさ。
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