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第十八章 日ノ本編其の四 釣り大会にゃ~

505 白いサンゴ礁に侵入にゃ~

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 ツクヨミとの通信が途絶えたらわしに心配事が増えたが、そんな場合ではない。リータ達の戦闘に目を戻すと、最終局面となっていた。

 氷の上に乗せられた白サメは、メイバイの二本のナイフとコリスの引っ掻きで血塗れとなっており、オニヒメがその傷に【千羽鶴】を突入させて傷を深くしていた。
 これほど簡単に白サメが傷を負わされているのは、リータの活躍が大きい。白魔鉱で作られた鎖の尖端を白サメの鼻先に貫通させて、ギリギリと引っ張っているからだ。
 これまでのリータなら一瞬は耐えられただろうが、ツクヨミから強制レベルアップさせられたリータは、白サメと互角の引っ張り合いを繰り広げている。
 なので、リータにだけ攻撃が集中するが、【水鉄砲】を撃とうが噛み付こうとしようが、盾に阻まれてリータにダメージは無し。なんだったら出だしを侍の勘で捉え、ぶん殴って攻撃自体を潰していた。

 そうこうしていたらリータの指示が出たのか、白サメの頭部からやや下、脊椎辺りに攻撃が集中する。
 メイバイが回転して二本のナイフで斬り裂き、コリスがその傷に【咆哮ほうこう】を撃ち込む。これで骨が露出し、一斉攻撃。
 オニヒメの【三日月】、コリスの斬撃気功引っ掻き、メイバイの斬撃気功ナイフ。トドメはリータのフルスイング気功パンチ。

 その攻撃で脊椎はポッキリ折れ、白サメは沈黙するのであった。


 リータ達が動かなくなった白サメを注視している中、オニヒメがわしに手を振っていたので、船から飛び降りて駆け寄る。

「もう終わったみたいにゃ。にゃ?」
「うん!」

 わしがオニヒメを撫でながら声を掛けると、リータ達は臨戦態勢を解く。

「こんな大物、私達で倒せるなんて……」
「やったニャー!」
「わたしつよい! ホロッホロッ」

 そうしてリータは成果に驚き、メイバイとコリスは喜びながらキャッキャッとしている。

 まさか本当に倒してしまうとは……デカイわりには、弱いのかな? もしくは海を凍らせたから、冷たさで弱っていたのかも? それでも火力が足りないだろうからご老公を投入しようと考えていたけど、必要なかったな。
 てか、ツクヨミからリータを改造したと聞いたけど、メイバイとコリスも動きがよかった気がする……

 わしが皆の喜ぶ姿を見ながら疑問に思っていると、リータ達も何か引っ掛かる事があるようだ。

「それにしても、リータの力、すっごく強くなってなかったニャー?」
「それを言ったらメイバイさんも、いつにも増して動きがよかったですよ? コリスちゃんもね」
「ホロッホロッ。みんなつよい!」
「なんだか肉体強化の魔道具を使ったら、いつもより強くなった気がするニャー。シラタマ殿が何かしたニャー?」
「わしにゃ? わしは特に……ちょ、ちょっとみんにゃの魔道具を見せてくれにゃ!」

 わしは焦りながら皆の魔道具を確認すると、指輪やブレスレットに付けた宝石の色が変わっていた。

「この宝石って、透明だったよにゃ?」
「うんニャ……なんで白銀に輝いてるニャー?」
「これって……タマモさんに見せてもらった勾玉まがたまみたいです」

 まさかツクヨミの奴、魔道具をイジって、わしたち全員をレベルアップさせたのか!?

「ちにゃみに、わしの首輪はどうなってるにゃ?」
「何も変わりがないですね」
「透明なままニャー」

 おい、ツクヨミ! わしにもレアアイテム置いていけよ!! レベルアップしたところで通信魔道具だから意味がないけど……でも、みんな貰ってるのに仲間外れは寂しいじゃろう。

「ま、まぁその話は、またあとでするにゃ~。ここらの処理をするから、船に戻ってくれにゃ~」


 若干納得の出来ない事はあったが、リータ達が離れると、白サメの肉を少し切り分け、残りの部分と共に次元倉庫に入れてしまう。
 足場として使っていた氷は、船に戻ってから【火球】を落として解凍。全てを解かすには時間が掛かるので、ほどほどの大きさまで粉々にしておけば、海水温度でそのうち解けるだろう。

 わしが作業している後ろでは、リータ達は玉藻と家康に質問攻めにあっていたようだ。日ノ本の人間やキツネやタヌキでは、遠く及ばない実力だから致し方ない。
 でも、訓練方法は秘密なので、知りたければわしに聞けとか言うのはやめて欲しかった。わしに質問の矛先が来てしまったじゃろ!

 なので、答える義務のないわしは、違う話で逸らしてやる。

「で、この遭難状況、どうしてくれるにゃ?」
「「そうじゃった!!」」

 戦いで忘れていたようだが、ピンチは続いている。玉藻と家康が思い出してくれたようなので、リータ達の強さの秘密はうやむやに出来た。
 しかしながら、二人に任せても解決案が浮かばないようなので、頼りになる、頼りになるこのわしが、解決してあげる。こんなババアとジジイに任せてられんからな。

「「あ゛っ!?」」

 二人をディスった事は、ちょっと口から漏れていたようだけど気にせず、戦闘機を取り出してリータと共に乗り込む。
 例え海であろうとも、空から見てしまえば位置ぐらい確認する事は簡単だ。なんなら戦闘機で先導して進めば、難無く京の沖合いまでは辿り着けるだろう。

 戦闘機が空を舞えば、旋回しつつ辺りを確認する。

 う~んと……けっこう北海道から離れておるな。現在地は、ユーラシア大陸と北海道の真ん中ってところか。でも、それより海の色が気になるんじゃよな~。
 海が暗い青色に見えるのはおそらく、日本海は魔力の源である化石燃料が豊富だから、海藻やサンゴが黒い木みたいに黒く成長しているんじゃろう。
 ほんで海が白い場所は、化石燃料の採掘地ってところか。海藻かサンゴが白いのかな? アレだけ大規模に群生してるって事は、サンゴ礁っぽいんじゃが……温かい海域以外でも成長するなんて、魔力が関係しているのかも?
 チャンスがあれば、潜って調べてみるか。とと、考え事している場合じゃなかった。

 一通りの確認が終わると、船に居るメイバイと通信魔道具で連絡を取る。

「ニャーデーニャーデー。こちらシラタマにゃ。どうぞにゃ」
「そんなのわかってるニャー。それより、タマモさん達も聞いてるんだから、早く状況を報告するニャー」

 またしても、無線ごっこはこの世界では通じず、わしは寂しさを感じながら報告を告げる。

「リータにも海図は書かせているけど、そっちもいちおうメモっておいてにゃ」
「わかったニャー」
「東に日ノ本の大陸にゃ。西に大きにゃ大陸があってにゃ……」

 大まかな位置を伝えると、次の相談。

「南西に白いサンゴ礁が見えるにゃ。大物が居るとしたらそこだから、このまま真っ直ぐ南下しようにゃ」
「「なんでじゃ!!」」
「なんでよ!!」
「なんでニャー!!」
「「なんでなんで~?」」

 わしが安全な航路を進もうと言うと、全員、大反対。ヤマタノオロチみたいなのが出るかもしれないと言っても、目的はそれだと言う始末。結局は多数決に負けて、エリザベスキャット号のナビゲートするわしであった。


 その機内……。通信魔道具を切って、リータと内緒話をする。

「さっきツクヨミから連絡が来てにゃ~」
「ツクヨミ様ですか??」
「リータの体を少しイジったと言われたにゃ。たぶん魔道具の変化もあいつのせいだと思うにゃ」
「体をイジるとは、どういう事ですか?」
「身体能力が上がっていたにゃろ? 他にも何かあるかもしれないにゃ。もしかしたら、不具合なんかもにゃ。痛いところはないかにゃ?」

 わしがツクヨミとの会話を説明すると、リータは肩や足をさする。

「特に何もないですね。なんなら絶好調です!」
「それにゃらいいんにゃけど……」
「シラタマさん……心配してくれてありがとうございます。でも、強くなれる事は、私としては嬉しいので大丈夫ですよ。もっともっと訓練して、シラタマさんを守ってあげます!」
「訓練はほどほどにしてくれにゃ~」

 簡単にレベルアップしても訓練に励む事は、慢心していない事だからいい心掛けだとは思うけど、リータの力がどれだけ上がるかちょっと怖い。
 わしもうかうかしてると、絞め殺されてしまうかも……


 リータの体の心配は無くなったのだが、リータのパワーに心配しながら戦闘機を飛ばし、大きな白いサンゴ礁近くになると、エリザベスキャット号の甲板にフワリと着陸。
 それからエリザベスキャット号のコックピットに皆で入り、玉藻の操縦で前進する。

「真っ白じゃな……白い森とはまた違うおもむきで悪くないのう」

 白いサンゴ礁にエリザベスキャット号が入ると、そこは海の白と空の青の二色しか無い景色。その幻想的な景色に、玉藻だけでなく皆も感動しているように見える。
 わしもその景色に心を奪われ、写真に収めながら玉藻の操縦でエリザベスキャット号は進むが、海面が盛り上がって来た。

「ぐっ……操縦が……」
「今度はなんじゃ!?」

 エリザベスキャット号が大きく揺れる中、玉藻と家康が焦る声が聞こえて来る。リータ達も揺れに振り回されるが、皆で支え合って、なんとか倒れずにいるようだ。

「う~ん……タイかにゃ? こりゃめでたいにゃ~」
「デカくなければな」
「お主は、恐怖を知らんのか?」

 わしが冗談を言うと、玉藻と家康に冷ややかにツッコまれてしまった。それは致し方ない。海面から現れた白いタイは、ヤマタノオロチほど大きくはないが、およそ半分の大きさ。おそらく全長150メートルはあるだろう。

「さてと、冗談はさておき、今回はリータ達はお留守番にゃ」
「うぅぅ……攻撃が通じるか試してみたいです~」
「なんとかしてニャー?」
「う~ん……わしらで弱らせてからにゃら、ちょっとぐらいは……」
「それでお願いします!」
「やったニャー!」

 命知らずのリータとメイバイは、条件付きで戦う事を許可して写真を頼み、コリスとオニヒメには少しの間、エリザベスキャット号の操縦を任せてコックピットに残ってもらう。
 そうして指示が終わると、わしと玉藻と家康は、コックピット開口部から飛び降り、船首にて白タイを眺める。

「たぶんヤマタノオロチほどじゃないし、わしらならにゃんとでもなるにゃろ」
「うむ。この面子なら勝てる!」
如何いかな強敵だろうとも、儂らの敵ではない!」
「よし! いっくにゃ~!!」
「「にゃ~~~!!」」

 最強チーム再結成。わし達は変身を解き、小さな猫、巨大キツネ、巨大タヌキの姿に戻る。

「【青龍乱舞】にゃ~~~!!」

 そうして白タイが船に迫る中、わしは四匹の氷の龍を召喚し、一匹、二匹と海面に落とす。
 その瞬間、海は凍り付き、分厚い氷となって白タイも全身凍るが、お構いなし。白タイは氷を砕きながら進む。
 だが、三匹目、四匹目と海に青龍が突っ込むと氷はさらに分厚くなり、白タイはエリザベスキャット号の目の前で止まる事となった。

「突撃にゃ~!!」

 それを見て、玉藻と家康に指示を出すが、わしが言うまでもなくエリザベスキャット号から飛び降りていた。なので、わしも遅れまいと飛び降り、白タイに突撃する。

 玉藻と家康は隣り合って走り、白タイの横に回ると、まずは頭突き。二人の凄まじい速度の頭突きで、白タイの体が氷を割りながら90度回転。
 そこに、わしの【レールキャット】。口から【御雷みかずち】を放ち、最高速度で気功ネコパンチ。この一撃で、白タイの横っ腹を貫き、背骨までもを砕いた。

 つつつ……やっぱりこれは、自爆技じゃな。じゃが、ヤマタノオロチよりは柔らかいから、そこまでのダメージはないか。

 白タイを貫通し、勢い余って氷を滑り、海面で何度もバウンドして止まったわしは、犬かきをしながら海から顔を出す。

 手応えはあったし、もうわしはいらないかも? じゃが、手心を加えると、まだ何かして来るかもしれんのう。もうちょっと痛め付けるか。

 玉藻と家康が攻撃を加えている姿を確認して、わしは海に潜るのであった。
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