上 下
509 / 755
第十八章 日ノ本編其の四 釣り大会にゃ~

502 大御所の帰還にゃ~

しおりを挟む

 江戸の食べ歩きをしていたわし達はラーメンと出会い美味しくいただくが、わしは泣きながらすすっていたので、転生の秘密を知らない料理長とラーメン屋のあんちゃんには、泣くほど美味しいと思われたようだ。

 うぅぅ……うまい。昔ながらの中華そば。スープは鶏ガラと醤油かな? エミリのお母さんのレシピに試作すら無かったから、もう食べられないもんじゃと思っていたわい。
 中国人のエルフなら作っていてもおかしくないはずなんじゃが、麺類は春雨止まりじゃったからな。中華麺は小麦粉で出来ておったんじゃから、恵美里さんなら作れてもおかしくないと思うんじゃけど……

 とりあえず麺が無くなると、替え玉を注文し、コリスも食べたいと言って来たので二人でまたすする。
 ちなみにエミリと料理長は、今日食べたメニューは全て一口ずつだったが、初めて食べるラーメンは箸が止まらなくなって完食してしまい、キブアップとなっていた。

「そんなに美味しく食べてくれて、有り難う御座います」

 わしとコリスがラーメンを凄い勢いですすっていると、あんちゃんのほうから話し掛けて来た。

「いやいや。こんにゃに美味しい物を食べさせてくれて、こちらこそ感謝にゃ~」
「そう言ってくれて、本当に有り難いです。なかなか客が入らず、やめようかと考えていたところなんで、もう少し頑張れそうです」
「そうにゃの? この味にゃら、行列が出来ていてもおかしくにゃいのに……」
「それがどうも……」

 あんちゃんが言うには、開発して美味しいラーメンが出来たのだが、江戸では目新しい物は敬遠されているらしい。
 匂いもきついので人通りの多い屋台通りでは、他の屋台からここで出すなと苦情が入り、こんな寂れた場所でしか商いが出来ないのでますます客が入らず、今まで貯めた資金も自信を無くしていたようだ。

「ふ~ん……じゃあ、作り方を売ってくんにゃい?」
「へ??」
「こんにゃにうまいにゃら、わしの国でも売りたいからにゃ~」
「国……ですか??」
「ああ。あんちゃんも噂ぐらい知らないかにゃ? 猫の国って」
「関ヶ原で暴れたとかなんとかの、猫の国の事ですか……噂はかねがね」

 たしかに暴れたけど、関ヶ原に来ていなかった人に、どんな噂が流れているか気になるな。でも、いまはそんな事はどうでもいい!

「その猫の国の王様がこのわし。シラタマ王にゃ」
「噂の猫王!?」
「それで、作り方は売ってくれるのかにゃ?」
「えっと……苦労して作ったので、それは……」

 まぁ、そりゃそうじゃろな。じゃが、わしも引けない!!

「だから、タダとは言ってないにゃ。そうだにゃ~……あんちゃんが生きていくのに必要にゃお金、三年分でどうにゃろ? もちろん、屋台の赤字も入れてくれていいにゃ」
「赤字を入れたら、かなりの額になりますが……」
「それだけの価値があると言ってるんにゃ。三年もあれば、江戸でも流行る……いっそ、場所を変えて、京か堺に移住してはどうにゃろ? そしたらぜったい売れるにゃ~」
「ゴクッ……」

 あんちゃんは、わしのぶら下げたニンジンに食い付こうか悩んでいるように見えるので、小判を積みながら見守る。当然、現ナマの力は凄まじく、すぐにあんちゃんの悩みは吹き飛んだようだ。

「わかりました! お言葉に甘えさせていただきます!!」

 このままラーメンを作り続けても、破産するのが目に見えているので、わしの案を全て呑んでくれるあんちゃん。なので、金に目が眩んでいる内に、エミリと料理長に丁寧に教えてくれるように頼む。
 金の力かどうかはわからないが、あんちゃんは懇切丁寧に教えてくれているけど、念話の魔道具で話を聞いていた二人が英語で質問する姿を見て、いまさら外国人だと驚いていた。

 あんちゃんの説明の中で、この商品の名称が「小麦麺」だった為、そんな名前だから売れないんだと言って、正式に「ラーメン」に変えさせた。
 いちおう中華麺や志那蕎麦も候補だったが、どっちにしてもこの世界に無い中国の事だから意味が伝わらない。どうせ伝わらないのなら、ラーメンでいいだろう。味変で、味噌ラーメンや豚骨ラーメンと使いやすいからな。


 なるほどな。恵美里さんは、かん水が見付からなかったから、中華麺が作れなかったのか。あんちゃんも平賀家が公開した技術で作ったと言っていたから、恵美里さんでももどきは難しかったんじゃな。

 二人がラーメン作りに取り掛かったところで、あんちゃんに違う味も作れないかと相談したが、何も思い付かないとのこと。なので、塩、味噌、豚骨、魚介等、様々な案を出して、メモを取らせておいた。
 ラーメン屋の軌道に乗ってからの研究になると言っていたので、うちでもエミリに研究してもらう予定だから、今度、どっちが美味しいか勝負しようと喋っていたら、わしの目の前に二杯のラーメンがドンッと並んだ。

「「どちらが美味しいですか!!」」
「あんちゃんに決まってるにゃ~」

 またしても、勝手に料理対決をしていた二人の勝敗はドロー。だって、どちらが勝ったとしても、納得しないんじゃもん。二人が食べないなら、コリスと一緒に食べるけど……あ、食べるんじゃ。

「あんちゃんさんのラーメンも、たいして変わりませんよ?」
「そうですね……私達のほうが美味しいような?」
「あんちゃんが作ったスープを使ってるんにゃから、一緒の味になるに決まっているにゃ~」

 屋台では、完成間近の食材しか置いていないので、結局は勝敗が付くわけがなかったのであった。




 江戸の食べ歩きから帰って数日……

 今日も暇潰しで猫の街をウロウロしていたら、玉藻と家康にからまれた。なんでもこの二週間、英語の勉強ばかりだったので、息抜きがしたいんだとか。なので、ゴルフに誘って一緒にコースを回る。
 前回ソウで玉藻と回った時は、最初にルールの確認を忘れていて風魔法の応酬となってしまったので、今回は魔法なしのルールを前もって伝えたから、三人でのどかに回っている。

「あ! またOBじゃ……」
「にゃはは。ご老公はもっと力を抑えなきゃだにゃ~」

 家康は初体験ともあり、力加減で苦戦しているようだ。しかし、その都度調整して、だんだんOBが減って来ている。

「くう~……パターが決まらん」
「グリーンは芝目、傾斜があるから真っ直ぐ進まないって、前にも言ったにゃろ~?」

 玉藻はなんとかOBを免れているが、ロングパットばかりで、何度も叩いてしまっている。前回は、ほとんど風魔法で入れていたから、パット感覚がわからないようだ。

「よっと……よし。パーにゃ~」

 わしはあまり攻めず、全てをパーで回る。これは、わしも久し振りなので、細かなミスが多くなっているから攻められないのだ。

「なかなか面白いんじゃが、難しいのう」
「わし達の場合、かなり手加減が必要だからにゃ~。でも、ご老公も最初よりはよくなっているにゃ」
「やはり呪術有りにせんか?」
「玉藻は辛抱足りないにゃ~。呪術にゃんか使ったら、上手くならないにゃ~」

 ハーフはわしがレクチャーしながら回り、昼食を終えてもうハーフは、二人も慣れて来たので世間話をしながら回る。

「ふ~ん……そろそろ帰るんにゃ」
「ああ。一度な。名代の仕事を完璧に引き継いだあとは、もう一度言葉をしっかり学んで、西の地をゆっくり見て回ってみようと思う」
「せわしなく回ったもんにゃ~……お、ニャイスパーにゃ~」

 わしと玉藻がコソコソと喋っていると、家康はパーパットを決めたので、次のホールに喋りながら移動する。

「ご老公も帰るんだってにゃ」
「うむ。浜松もどうなったか気になってのう。一度戻るが、またすぐに来るぞ」
「そうにゃの?」
「何せ、自由気ままな隠居の身じゃ」
「そう言えば、将軍は息子さんだったにゃ。でも、実質ご老公が、東を牛耳ってたにゃ~」
「うむ。シラタマの言う通りじゃ」
「ポンポコポン。それを言われたら耳が痛い」

 わしのツッコミに玉藻もウンウン頷き、家康は恥ずかしそうに頭を掻いている。しかし、わし達にツッコまれても嫌な顔ひとつしないで笑っているとは、家康も丸くなったもんだ。

 そうして楽しくゴルフコースを回っていると、最終ホールでの勝負になるが、家康はすでに脱落していたので、わしと玉藻のグリーン対決となった。

「それを入れたら、わしに勝てるんにゃよ~? 完勝にゃ~。ポンッとやったら誰でも入るにゃ~」
「うるさい! わざとわらわを緊張させようとしてるじゃろ!」
「にゃんのことかにゃ~? わしは応援してるだけにゃ~」
「黙っとれと言っておるんじゃ! もうアドレスに入ったぞ! マナー違反じゃ!!」
「はいはいにゃ~」

 皆にはスイングする際に静かにするのがマナーと言っておいたので、玉藻がアドレスに入るまで十分にあおったわしは、お口チャック。これで外すだろうと見ていたが、残念ながら玉藻は入れてしまった。

「コ~ンコンコン。妾の集中力を見たか!」
「はいにゃ~。見たにゃ~。よっと……これでわしは二位だにゃ」
「もっと悔しがれ!!」

 わしのボールは、ピンそば1メートル切っていた所にあったので、玉藻が騒いでいても関係ない。軽く打ってゲームを終了させたら、負けても悔しくしないわしに突っ掛かって来る玉藻であった。


 それから場所を移動し、サッカー場近くのベンチでお茶休憩。玉藻と家康は、ボールを蹴る子供達の姿を面白そうに見ていたが、それよりもゴルフの勝敗に言いたい事があるようだ。

「さっきは勝利に浮かれていたが、シラタマとは20打以上のハンデがあったんじゃったな」
「そうじゃった。これでは、二人で挑んで勝利を譲られた事を思い出すのう」
「まだ言ってるにゃ~? お祭りでの余興にゃんて、ノーカウントに決まってるにゃ。ま、わしはやる気がないから、二度と闘わないけどにゃ」
「しかし、手加減されるのは、心情的に……」
「だから~。ゴルフはこういうルールなんにゃ。上手い人も下手な人も、分け隔てなく遊べるルールなんにゃ。もしも、晩ごはんでも賭けていたら、わしももうちょっと必死にやっていたにゃ~」
「分け隔てなく……か。まるで茶道の教えを体現したような競技じゃな」
「考え方は近いけど、ゴルフは紳士のスポーツにゃ。誰も見ていない所でズルするようにゃ奴には、絶対に出来ないスポーツにゃ」

 家康の言い方が少し気になったので、ゴルフの概念で論点をズラす。これでわしが日ノ本出身だと思われないだろう。

「おっと。帰る前に、釣りの日取りを決めておかねばならんのう。そちも忙しい身……」
「にゃ~?」
「暇な身じゃけど、都合のいい日はあるか?」

 玉藻さんは別に言い直さなくても……暇じゃけど。

「わしも忙しい身にゃけど、玉藻達に合わせてあげるにゃ~」
「暇そうにしていたから、それは助かるのう」

 ご老公まで暇とか言わないでよくない?

「そうじゃな~……帰ってから三日後なんてどうじゃ?」
「うむ。それだけあれば、一通りの指示は出来るな」
「「では、決定じゃな」」

 もう、わしいらなくない? 二人して仲良く決めよって……

「「決定じゃな?」」

 あ、わしに言っていたのか。こっち向かないから、てっきり二人で行くのかと思っておったわ。

「わかったにゃ。仕事も入れないように気を付けるにゃ~」
「「………」」

 二人は「ちょっとは働け」的な冷たい目を向けていたが気にしない。もちろん二人が帰ってからやる事のないわしは……いや、帰った次の日は猫会議があったのを忘れていたので、しっかり働いてから日ノ本へ向かうのであった。
しおりを挟む
感想 962

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...