489 / 755
第十七章 日ノ本編其の三 関ケ原その後にゃ~
482 キツネ達との再会にゃ~
しおりを挟む浜松から京に着いたわし達は、玉藻と別れようとしたが、ちびっこ天皇と会って行けと猛プッシュを受けて渋々謁見する。
だってリータとメイバイが、それぐらいしないと王様っぽい仕事じゃないと言うんじゃもん。別に羽を伸ばす為に来ただけじゃから……は~い。しゃんとしま~す。
とりあえず二人に睨まれたから、背筋を正してちびっこ天皇と話す。
「よう参った。玉藻から救援物資を山ほど持って来たと聞いたぞ。誠に感謝する」
「わしじゃなくて、各国に感謝しろにゃ~」
「そうであったな。文を認めるから、少し時間をくれ」
「もう少し京に留まるから、帰りにでも受け取るにゃ~。それと、これが救援物資のリスト……品目にゃ。確認してくれにゃ」
わしは用紙を手渡すと、しばし雑談してから立ち上がる。玉藻からは泊まって行けと言われたが、急ぎの仕事があると聞いていたので、今日のところはお暇する。
御所をあとにして高級串焼きをモグモグしながら京を歩き、今日はどこに泊まろうかと考えていたら、リータとメイバイは池田屋に行きたいとのこと。手をわきゅわきゅしているところを見ると、キツネ少女を愛でたいのであろう。
なので、以前、厳昭が紹介してくれた宿に向かおうとしたが、首根っこを掴まれて池田屋に連行されてしまった。
「お侍様!」
「にゃはは。久し振りだにゃ~」
池田屋に入ると、キツネ少女がパタパタと足音を立ててやって来たので、わしは頭を撫でてあげる。
「五人にゃ。空いてるかにゃ?」
「はい! すぐに案内しますね」
キツネ少女は嬉しそうに尻尾をフリフリ先を歩き、食事やお風呂の事は前回と同じでいいかと質問されたので、それでいいと言っておいた。
そうしてキツネ少女は部屋に入るとお茶を入れようとするのだが、待ちきれないリータとメイバイにモフられていた。なので、わしはキツネ少女の代わりに、人数分のお茶を入れるのであった。
涙目でわしを見るキツネ少女の視線に負けて、助けてあげると、懐から出した袋に入っていた物を布に包んでを手渡す。
「これは??」
「見ての通り、ワカメと昆布にゃ。お味噌汁にしてくんにゃい? 余ったら賄いにしてくれていいからにゃ」
「はあ……わかりました。板長に頼んでみます!」
キツネ少女が出て行くと、わし達はおやつを摘まみながらお喋りし、夕食が揃うのを楽しみに待つ。
そうして夕食が揃えば、皆、味噌汁から口に入れた。
「んん! 美味しいです~」
「今まで飲んだスープの中で一番ニャー!」
わし達が飲んでいる味噌汁は、昆布で出汁を取ったワカメ味噌汁。ただの昆布とワカメではなく、ヤマタノオロチの血を吸った昆布とワカメだ。それを被災者が収穫し、乾燥させた物を、浜松からの帰り際に家康から受け取ったのだ。
ふふん。リータとメイバイだけじゃなく、コリスとオニヒメも驚いておるな。わしも一口……うまい! 昆布の出汁が利いておるのう。ワカメも肉厚で旨味が違う。
こっちのワカメの和え物は、リクエストしていないのにわざわざ作ってくれたのかな? こりゃまたうまい。
乾燥した物を戻したからこそ、旨味が凝縮されているな。さすがはヤマタノオロチ。巨象の血と同じ効果を植物にもたらしたな。
皆はあっと言う間に味噌汁を飲み干してしまったので、キツネ少女を走らせて鍋ごと持って来てもらい、おかわりを楽しむ。ただ、キツネ少女が物欲しそうに見ていたので、キツネ女将には内緒でこっそりあげた。
当然キツネ少女もこんな味噌汁飲んだ事がないと驚いていたのだが、その時、戸襖が開いてキツネ女将が入って来てしまった。
「まったくお客様の食事に手を付けるとは、何をしとるんどす」
「も、申し訳ありません……」
「女将~。わしが無理矢理飲ませたんにゃから、責めてやるにゃ」
「しかし……」
「ほれ。女将も飲むにゃ。それとも、わしの出した味噌汁は飲めないのかにゃ?」
「うっ……では、一口だけ……」
キツネ少女を守る為に、酒を勧めるようにお椀を差し出すと、キツネ女将はガブガブ飲んだ。
「一口だけじゃなかったにゃ~?」
「あ……やられました……」
「にゃはは。うまい物はうまいにゃ! みんにゃで食べれば、もっとうまくなるにゃ~」
キツネ女将も加えての味噌汁パーティは、鍋が空になると即終了。少なからず迷惑を掛けたので、調理済みのヤマタノオロチ肉も振る舞ってあげた。
もちろん、キツネ少女とキツネ女将は美味しさに驚き、お返しにとっておきのお酒を振る舞ってくれた。
「お~。これもいけるにゃ~」
「ささ。もう一杯」
「にゃっとと……」
「そうそう。関ヶ原、うちらも見に行ってたんどすよ」
「そうにゃの??」
「はい! お侍様の試合、凄かったです!!」
「この子、最初はハラハラして見てたんどすよ」
どうやらキツネ女将とキツネ少女は、関ヶ原の期間は京から人が居なくなるから、社員旅行で来ていたようだ。そこでわしが出まくったので、応援してくれていたらしい。
その時、初めてわしの事を王様だと知って驚いていたようだ。その事もあり、キツネ少女がいまさら「王様」と呼んだほうがいいかと聞いて来たので、お忍びで来ているから「お侍様」でいいと言っておいた。
嘘だけど、猫、猫と騒がれない日ノ本で、王様と騒がれるのは避けたい。いまのところ、ここが一番わしが歩きやすい土地なのだから、当分身バレしたくない。タヌキと思われているのは癪じゃけど……
「まさか、玉藻様の神々しいお姿(巨大キツネ)を見れるとは、一生の思い出になったどすえ」
「本当です! でも、最後は負けていましたけど、怪我とかしなかったですか?」
「手加減してくれていたから大丈夫にゃ」
「手加減? そんなふうには全然見えませんでした~」
「お祭りだからにゃ。演技はバッチリにゃ。それより二人のほうが、地震は大丈夫だったにゃ?」
キツネ少女のキラキラした目が恥ずかしいので、わしは話を変えてみる。
「へえ。うちらは大丈夫どす。ですが、二軒隣の宿屋が崩れていたのを見た時は、肝を冷やしました」
「そこにお侍様が果敢に飛び込んで救出する姿……かっこよかったです~」
「見てたにゃ??」
「近くに居ましたから……。声を掛けようと思ったのどすが、そんな余裕がありそうになかったので出来ませんでした」
ぜんぜん気付かなかったな。まぁわしも救出作業で忙しかったからな。キツネはみんな同じに見えるから、顔を見たところで気付くか自信はないけど……
「この子なんて、ボーっとしてお侍様を見てたのどすよ」
「凄い揺れだったもんにゃ~」
「違いますよ。きっとお侍様に……フフフ」
「お、女将さん!!」
「にゃ~?」
意味深に笑うキツネ女将にキツネ少女がツッコムので、わしは首を傾げる。
「ち、違いますからね? わたし、ぜんぜんそんなんじゃないですからね??」
「そんにゃんって……にゃに?」
「だから違うんです~」
わしが質問すると、キツネ少女は顔を真っ赤にして逃げて行ってしまった。
「あらあら。ちょっとからかいすぎたどすえ~」
「だから、そんにゃんって、にゃに?」
「うちもそろそろ失礼しますえ~」
意味深な事を言うキツネ女将も部屋から消えると、リータとメイバイがわしの隣にドスンと座る。
「まさかシラタマさん……あんな小さな子に手を出さないですよね?」
「にゃ、にゃんですか? 怖いですにゃ~」
「まさかあの子が居るから、この宿を選んだニャー?」
「にゃんかしんにゃいけど、わしは違う宿に行こうとしたにゃ~~~!」
「「あ……」」
どうやら二人は、キツネ少女とわしの仲を怪しんだようだけど、冤罪もいいところだ。わしは連行されてここに来たんじゃからな!
誤解は解けたが、リータとメイバイは、それならばキツネ少女を猫の国に勧誘できないかと画策して、夜が更けるのであった。
翌朝起きると、行く所があったので朝ごはんを食べてから、少しゆっくりして池田屋を出る。朝早すぎるとやっていない可能性があったからゆっくりしただけなので、リータ達のお咎めはなし。
久し振りに京を歩き、道行くキツネやタヌキをチラチラ見ながら喋っていると目的のお店に着いたので、ズカズカと中に入った。
「邪魔するにゃ~」
「邪魔するなら帰りなはれ~」
「それじゃあ失礼しますにゃ~……て、にゃんでやねん!」
「コ~ンコンコン。さすがシラタマさん。ノリがええですわ~」
「質屋もにゃ。にゃ~はっはっはっ」
ここはキツネ店主の新しいお店。それも西の地の商品が多く並ぶ「万国屋」だ。
キツネ店主と初めて会った時を思い出し、わし達は大いに笑い合うのであった。
1
お気に入りに追加
1,171
あなたにおすすめの小説
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる