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第十七章 日ノ本編其の三 関ケ原その後にゃ~
467 海の捜索にゃ~
しおりを挟むわしはノエミから逃げると、役場の屋根に戻って転移。オクタゴンの秘密部屋に着いたら外に出て、正門から中に入る。
そこでは、ウンチョウが待ち構えていたので、わしを見付けた瞬間に駆け寄って来た。
「お待ちしておりました!」
「さっそくにゃけど……」
挨拶をしている余裕がないわしは、ウンチョウを外に連れ出して、いまの状況を説明しながらキャットトレインの近くに移動する。
そこに、次元倉庫に残っていた車両を全て出して、ひょいひょい手作業で動かし、力業で連結する。これは、ウンチョウ達にやらせると何度も切り返して連結に時間が掛かるので、やむを得ない処置だ。
だから、そんなに引かないでくれる? わしは力が強いのよ? だからって、そんなに褒め称えないでくれる?
物の二、三分で連結したから驚いていたウンチョウは、わしを褒める褒める。なので話を聞くように命令して、道が整備されていない可能性もあるので低速で走るように指示を出しておいた。
これで、あとの事はウンチョウに丸投げ。我が軍の最高責任者なので、事故無く、皆を浜松まで送り届けてくれるはずだ。
ウンチョウへの指示を終えると、わしは走ってオクタゴンを離れる。そこで転移しようとしたが、魔力がすっからかん。なので、次元倉庫から補填する。
こんな緊急事態にケチるわしではない。こんな時の為に貯めていたのだ。普段はケチではないのだ! ないのだ~!!
なんとなく心の中で言い訳したわしは、浜松に転移。ダッシュで玉藻とリータ達を探す。居場所がわからないので地面に座っている親子に聞いてみたら、避難所の救護場所で、軽傷者の対応をしていると教えてくれた。
とりあえずお礼と痛いところはないかを聞いて、子供が足を捻っていたようなので、治してからその場をあとにした。
「お待たせにゃ~」
救護場所では、玉藻達は軽傷者の手当をしていたようなので、治療をしていた患者の処置を終えたら、皆、わしの前に集まって来た。
「思ったより早かったな。もうよいのか?」
玉藻に言われて腕時計を見ると、別れてから四十分ほどしか経っていなかったので、急いだ甲斐があったようだ。
「大丈夫にゃ。それでご老公は……」
「町中で指揮を取っておる」
「じゃあ、代理の人に言伝してから行こうにゃ」
「ああ。こっちじゃ」
家康の代理は、この浜松を統治していたタヌキ城主。建物の下敷きになっていたけどわしが完全に治したので、もう動いても問題ないようだ。
その者に、夜には増援が来る事と、大量の救援物資を預けたら喜んでいた。玉藻も喜んでくれていたが、「横領したらわかっておるな?」とか脅すのはやめてあげて! 城主もやらないじゃろ? ……すぐに返事せんか!
結局わしも脅して、キツネ神職もお目付け役に任命しておいた。タヌキ城主は、玉藻の殺気にビビッて返事が遅くなっただけだったけど……
わしが揃えば、漁村救助隊が再結成。猫ファミリープラスエミリに、玉藻とキツネ神職5人。このメンバーで空を行く。
機長は玉藻。操縦が楽しいお年頃らしいので譲ってあげた。九百歳のババアなのに、意外と子供だ。
「あ゛!?」
玉藻までわしの心を読めるらしいので、睨まれてしまった……
「猫さん……口に出てましたよ」
「にゃんですと!?」
最前列に座るエミリの膝に乗るわしは、お口チャック。エミリの労いの為に膝に乗ったのだが、撫で回されるから、チャックの隙間からゴロゴロ声が漏れてしまった。
そうしてゴロゴロ言っていると、海はすぐそこだったので、巨大な白い山がずっと目に入っていた。
近くで見ると、やはりデカイ。白い巨象の比じゃないな。見た目はアンコウじゃけど、しっかり八つの提灯もあるし、威圧感と相俟って、ヤマタノオロチと言っても過言ではないかも?
てか、あいつがびったんばったん暴れてたから、時々揺れておったんじゃな。苦しいなら陸に近付くなよ……アホなのか? アホでも水魔法は凄そう……全身を海水で纏っているっぽい。
強さは、わしの三倍ってところかな? 雪だるま猫みたいに、絶望的な差は無さそうじゃ。もしも戦う事になったら、おやっさんにお願いしちゃおうかな? 報酬に無理難題を吹っ掛けられたら困るからやめとこ。
「シラタマ……シラタマ!」
「にゃ?」
「さっさと指示を出せ」
機内の者がヤマタノオロチに釘付けになる中、玉藻のほうがわしより先に復活していたようだ。
「じゃあ、北から攻めようかにゃ? 酷いようにゃけど、ヤマタノオロチに下敷きになった漁村は諦めるしかないにゃ」
「それしかないじゃろうな……あいわかった」
玉藻はわしの指示通り飛行機の進路を北に向け、ふたつほど漁村があった場所の上を通り過ぎる。
そうしてなんとか形が保っていた漁村があったので、着陸して聞き取り調査。キツネ神職を走らせてみたが、村民は何故か驚いていた。なのでその事も質問してみたら、キツネ神職の事は知っていたけど初めて見たらしい。
でも、わしみたいな神職は見た事があるとか言わないでくれる? わしはタヌキじゃなくて、猫じゃ。「またまた~」じゃない! 猫だと言っておろう!!
全然信じてくれない村民の相手をしている暇もないので、さっそく救助活動に取り掛かるのであった。
この漁村では、波にさらわれた者が数人いるらしいので、捜索開始。わしとエミリは、以前作ったクルーザーに乗って沖担当。玉藻筆頭に、残りは浜辺担当だ。
捜索方法は、海水パンツに着替えたわしが海に浸かって、広範囲に探知魔法を使う。これで数キロ先の、人の反応を複数発見できた。
その旨をエミリに伝え、リータに通信魔道具を繋いで報告。返事が来たら、エミリがわしに告げる。
「オールOK。いつでもいけます!」
「ラジャーにゃ~。【水柱】にゃ~!!」
エミリの指示を聞いて、わしは人の反応があった場所に水魔法を使う。すると、至る所から大きな水の柱が立ち、それと同時に人が舞う。
もちろん、これ以上怪我をしないように配慮はしている。大量の海水と一緒に打ち上げたから、たぶんショックは吸収されているはずだ。空を飛ぶショックは、たぶん凄いと思うけど……
人が飛び出て浜辺に近付けば、バトンタッチ。玉藻の出番だ。
風を強く当てて速度を緩やかにし、ふわりと着地。速度が落ちない場合には、コリスとオニヒメが対応する事になっている。
さすがは九尾の化け物。今回は誰の手も煩わせずに、地上に下ろしたようだ。
わしはもう一度探知魔法を使い漏れがないかと捜していると、エミリに声を掛けられたので船に上がってプルプルする。
「もう~。やるならやると言ってくださいよ~。ビチャビチャです~」
「にゃ!? ごめんにゃ~。また濡らすかもしれにゃいから、これに着替えておいてにゃ」
「わかりました。それと、玉藻さんからです」
わしがプルプルした事で水滴が飛んだので、すぶ濡れになったエミリには水着を渡し、わしは通信魔道具を受け取る。
「首尾はどうにゃ?」
「聞いていた人数はおったが……」
玉藻が言うには、二人ほどすでに事切れていたとのこと。残りは津波の恐怖に震えているらしい。
「亡骸を家族に戻せただけマシじゃろう」
「まぁ……そうだにゃ」
「あとは、空を飛んだ恐怖だけじゃから、大丈夫なはずじゃ」
「そうにゃの!?」
「どうして驚くんじゃ! 普通わかるであろう! たしかに救出は早いが、一般人には耐え難いのは言わなくてもわかるじゃろ!!」
「ですよにゃ~」
わしだってわかっていたとも。スピード重視で、このような危険な救出をしておるんじゃ。
「そちの人と人とも思わぬ所業は置いておいて……」
「失礼にゃ~。わかってるって言ってるにゃ~」
「どうして海亀まで飛ばして来るんじゃ?」
海亀?? あ! どうりで聞いていた人数より多いと思っておったんじゃ。人間と間違ってしまった。……わしは猫なのに、サメみたいじゃな。
「反応が似てたから間違えてしまったにゃ。とりあえず、逃がしておいてくれにゃ~」
「しかし、剥製を売れば……」
「いまはそんにゃ暇はないにゃろ~。手当が済んだら、つぎ行くにゃ~」
金に目が眩んだ玉藻を諫めて移動を促す。元の世界では絶滅危惧種なので当然だ。
この漁村の生存者は水を飲んだぐらいだったので、治療はさほと必要無かったようだ。なので救援物資を支給して、浜松に移動するように命令し、亡骸は玉藻の【大風呂敷】に一時保管してもらう。
それらの処置が終われば、沖で待っていたわしはクルーザーを発進させ、玉藻達もバスに乗り込んで走り出した。コリスに運転を頼んでいたのだが、玉藻が運転しているようだ。
まぁコリスより魔力のある玉藻に任せたほうが、被災者の為になるかもしれないけど、飛ばしすぎ! キツネ神職が動けなくなってしまうぞ! リータ~! 止めてくれ~!!
調子に乗った玉藻は、リータに羽交い締めにされて止められたようだ。これだから、見た目は子供、頭はババアは質が悪い。
「あ゛っ!?」
「猫さん。通信魔道具、繋いだままですよ」
エミリに指摘されて、わしは慌てて通信魔道具を切る。玉藻が怒っている声が聞こえた気がしたけど、気のせいだろう。
「危なかったにゃ~」
「もう遅いです……」
「それより、水着似合ってるにゃ~」
「本当ですか!?」
エミリの生温い目が痛かったので、水着を褒めたらクネクネしだした。「悩殺です!」とか言っているけど、エミリはまだ十歳。まだまだ子供なので、わしは適当に乗ってあげたら頬を膨らませていた。
そうしてクルーザーを走らせていると、次の漁村らしき場所に着いたとリータから連絡が入った。なのでわしは海に飛び込んで、また探知魔法と【水柱】。今回は数が多いので数回に分け、次々に人が宙に舞う。
砂浜では玉藻が受け、リータ達やキツネ神職が手当や蘇生を試みる。皆には少しだけ心臓マッサージを教えておいたが、地震から丸一日経過しているので、出番は少ないようだ。
しかし、半数以上は助かったと、玉藻が教えてくれた。たった「半数」と一瞬思ったが、「半数も」と変換して気を取り直す。
怪我人は多く居るみたいなので、わしも砂浜にクルーザーを乗り上げて治療にあたり、エミリは炊き出し。動ける者にも協力してもらい、温かい雑炊で体温を戻させる。
村民はわし達に感謝の言葉を述べるが、まだ要救助者はたくさん居るので、受け取っている時間はない。救援物資を与え、死者は次元倉庫に保管して、浜松に避難するように指示を出し、早々に立ち去る。
次の漁村でも同じ事をし、たくさんの村民を助けて、ここでわし達もランチ。豪華な食事をするので、村民から距離を取ってわしはガツガツ食べる。
「シラタマ殿は、こんな状況なのに、よく食べれるニャ……」
メイバイ達は多くの死者を見たからか、数人を除いて食が進んでいない。
そりゃ、あんなに多くの圧死体、水死体を見たら堪えるじゃろうな。何度か経験しているわしでも辛い。じゃが、自分で殺したわけではないから、なんとか耐えられる。どうにか二人の心が軽くなるような言葉を掛けたいんじゃが……
「……言いたい事はわかるにゃ。でも、わし達が立ち止まるわけにはいかないにゃ。玉藻……海で、にゃん人助けたにゃ?」
わし同様、ガツガツ食べていた玉藻は、手を止めて質問に答えてくれる。
「およそ、百人ってところか……妾達が何もしなければ、この半分……いや、それ以上、死んでいただろうな。リータ、メイバイ……」
玉藻は二人の手を取る。
「妾はそなた達に、本当に感謝しておる。民を救ってくれて有り難う。そなた達の頑張りで、これほど多くの民が救われたんじゃ」
「「タマモさん……」」
二人の心が少し軽くなったように見えたので、わしもそれに乗る。
「にゃ~? いまは、死者の数を数えるのはやめようにゃ。助けた人の数を数えようにゃ。いまは、死者の顔を見るのをやめようにゃ。助けた人の顔を見ようにゃ。いつかその人達は、笑ってごはんを食べているはずにゃ」
「「はい……」」
わしも立ち上がって、リータ達の手を握っている玉藻の手に肉球を合わせる。
「もう少しの辛抱にゃ……明日には、笑っている人がいっぱい居るはずにゃ。だから、いっぱい食べて、いっぱい助けようにゃ~」
「「……はい!」」
二人から力強い返事をもらうと、わしと玉藻は顔を見合わせて笑みを浮かべる。そして、リータとメイバイは食事に手を伸ばすのだが……
「もうありません……」
「全部ないニャー……」
「妾のとっておいた肉が……」
ついでに玉藻も手を伸ばしたのだが、皿には、ひとつも料理が残されていなかった。
「コリス! オニヒメ! 全部食べたにゃ~!!」
「「えへへ~」」
犯人はすぐに特定。頬袋がパンパンなコリスと、お腹がパンパンなオニヒメが居たのだから、わからないわけがない。なので、いつも通り二人を「メッ!」と叱って、リータ達の料理を新たに取り出す。
「二人はしょうがないにゃ~。よしよし~」
「「えへへ~」」
「もう許すのか!? そんな叱り方じゃから、コリスが言うこときかんのじゃろう! この親バカが!!」
わしが二人の頭を撫でていると、玉藻に罵られる。よそ様の家庭の教育に口を出すとは、これだからババアは困ったものだ。
「そなた……わざと口に出して言ってるじゃろう……わかった。その喧嘩、買ってやろうじゃないか!!」
「髭を引っ張るにゃ~!!」
「「「「「あはははは」」」」」
こうして、わしと玉藻が子供みたいな喧嘩をしていると、皆に明るい表情が戻るのであった。
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