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第十七章 日ノ本編其の三 関ケ原その後にゃ~
464 浜松に出発にゃ~
しおりを挟む宿場町での救助活動を終え、オクタゴンでも王族の処置を終えたわしは、徳川の滞在する寺院へ走る。今回はちびっこ天皇を背負っていないので、ぶっ飛ばして、物の数秒で到着した。
しかしアポイントを取っていないのでタヌキ門番に止められてしまうが、面倒なので振り切って五重塔に入ってやった。
「将軍~! ご老公~! シラタマにゃ~!!」
無理矢理入ったものの、いきなり面会するのは失礼かと思い、入口で叫んでみたらタヌキ侍が二人の元へ案内してくれた。
「いきなり来て悪かったにゃ。その代わり、怪我人が居るにゃら言ってくれにゃ。治療できる呪術師を派遣してやるにゃ」
「それは助かるのう。しかし、お主の訪問ならばいつでも会ってやるから、そう畏まるでない」
家康は意外と穏和に対応してくれるので、わしは調子に乗ってみる。
「この地震も、ヤマタノオロチが引き起こしたにゃ?」
「……玉藻にでも聞いて来いと言われたか?」
調子に乗りすぎて、ちょっと睨まれてしまった。
「まぁそうにゃけど、原因があるにゃら知っている人に聞いたほうが早いにゃろ。それに、浜松と連絡が取れないらしいにゃ。多くの人命が掛かっている瀬戸際にゃ。この通り、わしの顔を立てて教えてくれにゃ~」
わしは早口で捲し立てると畳に頭をつける。すると家康は、秀忠に目配せしてから口を開く。
「もうよい。面を上げよ。まったくお主は、誇りというものが無いのか……男がひょいひょい土下座するものではないぞ」
家康の言葉を聞いて、わしは頭を上げる。
「にゃはは。わしの頭ひとつで、一人でも多く助けられるにゃら儲けもんにゃ~」
「お主には関係ない事じゃろうが……秀忠。説明してやれ」
「はっ!」
わしが笑うと家康は呆れていたが、秀忠に命じてヤマタノオロチの事を教えてくれた。
数年前、陸前(福島)で強い横揺れが起こり、それと同時に大きな津波が発生したそうだ。その地震と津波で多くの人と漁村が流されてしまったらしく、近くの城下町も大打撃を受け、かなりの死者が出たそうだ。
こんな不手際を天皇陛下に知らせるわけにもいかず、秘匿としていたのだが、その情報の中にある地震の原因も秘匿とした。
それが、ヤマタノオロチ。
徳川の調べでは、ヤマタノオロチが物凄い速度で陸に衝突して、地震と津波を引き起こしたと結論付けた。その証拠に、陸前の海岸線には巨大なへこみが出来ており、生き残りからも白くて頭が八つある生き物が居たと証言を取ったとのこと。
その場所は、多くの神職を派遣して証拠を隠滅し、証言も隠したらしい……
この地震を遠く離れた地に居た秀忠と家康も感じており、揺れの感じ方がその時と似ていたから、ヤマタノオロチが原因ではないかと呟いてしまったようだ。
マジで居たのか、ヤマタノオロチ……てっきり、地震を比喩的に神話と結び付けたと思っておった。じゃが、日ノ本を揺らすほどの生物とは、どれほど巨大な生物なんじゃろう? 巨象クラス……もっとか。
となると、戦闘を視野に入れて救助に向かわなくてはならんのか。おそらくいまのわしは、死に掛けの巨象とトントンか、その上。じゃけど、体当たりで日ノ本を揺らすほどの力は無い。陸から離れてくれている事を期待するしかないか。
秀忠が説明を終え、わしも考えがまとまると口を開く。
「貴重にゃ情報、ありがとにゃ。ところでにゃんだけど、浜松って徳川の息が掛かっているにゃ?」
「何を疑っているか知らないが、城主は徳川の縁者だ。だが、こちらも電報が入って来ていない。その近隣に居る者に、見に行かせるように指示を出したから返事待ちだ」
「にゃ! これは失礼しましたにゃ。と言うことは、行ったほうが早いって事だにゃ」
「いや、ここから浜松まで、どれだけ距離があると思っているんだ」
「空を飛べばすぐにゃ~。それじゃあ、わしは急ぎの用があるんで、失礼するにゃ~」
「待て……」
秀忠と喋っていたわしが立ち上がろうとすると、家康から待ったが掛かった。
「お主……浜松まで、空を飛んで行くのか?」
「そうにゃけど……それがどうしたにゃ?」
「にわかには信じられんが、どれぐらいで着けそうなのじゃ?」
「う~ん……三十分から一時間ってとこかにゃ? 行ってみにゃい事にはにゃんとも……」
「なるほどな」
家康はわしの返事に少し考えてから、秀忠に指示を出す。
「秀忠。しばらくここは任せる。民の命を優先して行動しろ」
「はい。ですが、父上は……」
「ヤマタノオロチを見て来る。また来られても困るからのう」
「さすがは天下を制した徳川家康公! 父上ならば、必ずや討ち滅ぼしてくれましょうぞ!!」
はい? 将軍は何を盛り上がっておるんじゃ?? わしは連れて行くとも言っておらんのじゃけど……。ご老公も戦う気満々じゃけど……鳴くまで待つんじゃないのか?
そもそも飛行機に入らん。さらにそもそも、ご老公なら、走ったら飛行機と変わらんじゃろ? とりあえず、断ってみるか。
「あの~? ご老公の大きさじゃ、乗り物に入らないにゃ~」
「おお。そうであったな」
わしがやんわりと断ると、家康は解決策を提示する。その方法は、超簡単。変化の術だ。
家康は印を切ってボフンッと煙を出すと、ドスンッと音がして、タヌキ耳の恰幅のいい男が姿を現した……
い……家康公~~~!! 肖像画のままじゃ……本当にそんな姿をしておったんじゃな。でも、じゃあ、あの細い家康は誰じゃ?
いや、そんな事はどうでもいい! 感動じゃ~!! タヌキ耳と尻尾は邪魔じゃけど……
「儂の姿がどうかしたか?」
わしが家康をキラキラした目で見ていると、不快そうな声を出すので、頭を振って気を取り直す。
「にゃんでもないにゃ。でも、わしももう少しやる事が残っているから、三十分後にオクタゴンで集合って事でいいかにゃ?」
「ああ。かまわぬ。わしもそれまでに準備しておく」
徳川での用事の終わったわしは、五重塔の窓から飛び降りる。時間短縮なのだから、驚かないでくれる? 二人なら余裕じゃろ?
後ろで何か変な声が聞こえたが、心の声で答えてからわしは走り出す。目的地に向かう途中でリータ達の元へ寄ると、状況を聞いたらなんとかなりそうだったので、オクタゴンに向かうように指示を出した。
それから玉藻の元へと走り、門番に軽く挨拶して駆け抜ける。
「ヤマタノオロチは実在したのか……」
わしの説明を聞いた玉藻は、驚きの表情で呟く。
「これからご老公と見に行って来るから、報告はまたあとでするにゃ~。それじゃあ、行って来にゃ~す……にゃ!?」
家康との待ち合わせもあるので、急いでオクタゴンに向かおうとしたら、玉藻に尻尾を掴まれてしまった。
「まだにゃんかあったにゃ?」
「家康が出張るのならば、妾が行かないわけにもいくまい。それに、戦力は多いに越した事はないじゃろう?」
「まぁ治療する人は増えるのはいいんにゃけど……ヤマタノオロチと戦うかどうかは、わからないにゃよ?」
「腕が鳴るのう」
「聞いてるにゃ?」
まったく話を聞いてくれない玉藻はさておき、いまから二十分後にはオクタゴンに来るように言ってその場を離れる。なんか戦いたくてウズウズしてるっぽいから、相手をするのは面倒なんじゃもん。
そうしてあっと言う間にオクタゴンに戻ると、女王達と話し合い。もうすでに帰る人員と残す人員も決めてくれていたようだ。
そこでちびっこ天皇からカツアゲは上手くいったか聞いてみたら、上々とのこと。ひとつの国にすればあまり多くは無いが、集めれば、宿場町の食糧三ヵ月分ぐらいにはなるそうだ。
しかし、運搬には女王の案で、わしが運ぶ事となっていたので「にゃ~にゃ~」愚痴っておいた。人助けはかまわないのだが、毎回使われる事を避けたいからだ。
ちびっこ天皇との別れの挨拶も済んでいたようなので、わしは王族を連れてゾロゾロと三ツ鳥居がある部屋に移動する。
「名残惜しいと思いにゃすが、日ノ本への道は閉ざされたわけじゃないにゃ。また、好きにゃ時に遊びに来て、楽しんでくれにゃ~」
わしが全員に別れの挨拶をすると、ちびっこ天皇が続く。
「復興が終わった際には招待状を出すので、今度は京を見に来てくれ。その際には関ヶ原より楽しめるように、精一杯おもてなしさせていただくからな」
はい? いやいや、また王族の大移動なんて、わしの負担がデカイ。勝手な事を言うな! まぁ念話入り魔道具はほとんど回収しておるから、わしが通訳しなければいいだけか。
「……と、仰っていました」
わしの狙いは大失敗。女王の従者が勝手に念話の入った魔道具を使っていて、これまた勝手に通訳したものだから、王族から拍手が起こってしまった。
「そ、それじゃあ、三ツ鳥居の開閉時間に気を付けて帰ってくれにゃ。双子王女は、わしの指示通り頼んだにゃ~」
「「はい! お任せくださいませ!」」
いちおうこの会のホスト、猫の国の家臣である双子王女には、タイムキーパーや事後処理は任せてある。腕時計も貸し出しているし、二人の能力ならわしの代わりなど、余裕で務めてくれるだろう。
少し見ていたら、双子王女のジョスリーヌから駆け足で三ツ鳥居を潜り、王族が走り抜ける中、ジョジアーヌが日ノ本側の渋滞緩和を行っていた。たぶん、名前は合っているはず……いや、逆かな?
王族の処理は終わったので、残っている全ての西の地の者とスカウトした者を食堂に集めると、わしはちびっこ天皇の隣に立つ。
「これより、オクタゴンと全ての指揮権を天皇陛下に預けるにゃ。みんにゃは陛下の指示に従い、被災者の為に尽くしてくれにゃ」
「「「「「はっ!」」」」」
「「「「「にゃっ!」」」」」
約半数は、変な返事だったが気にしない。猫の国の者をマネしているのかもしれないけど気にしない。
とりあえず、王族から回収した念話入り魔道具が多くあるから言葉には困らないはずなので、ここはちびっこ天皇とお玉に任せて、わしは別行動。
集合時間にはまだ少しあったから三ツ鳥居の部屋に戻り、王族や従者がバタバタ走っている横で、二個ほど魔力を補充しておいた。
それからオクタゴンから出ると、わしが集めていた者達が揃っていた。
「えっと……とりあえず、ワンヂェンは居残りにゃ。リンリー達と共に、民の治療に努めてくれにゃ」
「わかったにゃ~」
「それで……」
家康を見ると十人の白タヌキを連れており、玉藻を見ると十人の白キツネを連れていたので、わしはどうしたものかと考えて、ワンヂェンから処理したのだ。
「ちょっと人数が多すぎるにゃ~」
ここに猫ファミリープラスエミリが加わるので、わしの飛行機では定員オーバー。無理したら入るだろうが、機内が毛むくじゃらになりそうだ。
「ああ。妾も操縦するから、なんとかなるぞ」
どうやら、玉藻もわしと同じ大きさの飛行機を作っていたようで、定員オーバー問題は解決した。しかし、タヌキは乗せたくないとのことで、猫ファミリーがふたつの飛行機に分かれて乗り込む事となった。
皆が乗り込むと、わしと玉藻と家康は、ちびっこ天皇の前で背筋を正す。
「シラタマ王……しばらくこの二人の指揮権は、シラタマ王に預ける。上手く使って日ノ本の民を、一人でも多く救ってくれ。頼む!」
ちびっこ天皇は一歩前に出て、震える手でわしの手を両手で握るので、わしはその震えを押さえるようにギュッと握り返す。
「にゃははは。わしが指揮しにゃくとも、玉藻とご老公にゃら、陛下の民を必ず救ってくれるにゃ。にゃ?」
「「はっ! 我等にお任せください!!」」
二人の力強い言葉に、ちびっこ天皇は泣き出しそうな顔をしたが、ぐっと我慢する。
「頼んだぞ~~~!!」
無粋な事は無しだ。わしたち三人は同時に振り返り、飛行機に乗り込んで離陸するのであった。
* * * * * * * * *
残された悠方親王は、飛行機を見上げて涙を流していた。
「ぐずっ……お玉、聞いたか? いがみ合っていたあの二人が、声を揃えて『我等』と言ったぞ」
「はい……母上があのような事を言うとは、信じられません」
「でも、確実に言った……これで必ずや、多くの民が救われるぞ。玉藻~! 家康~! 頼んだぞ~~~!!」
悠方親王は大声で叫び、飛行機が見えなくなるまで手を振り続ける。そうして見えなくなると、涙を拭ってお玉に元気に声を掛ける。
「さあ! 我等も被災者の為、身を粉にして働こうぞ!!」
「はい!」
こうして二人は、異国の者の協力の元、被災地復興に力を注ぐのであった。
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