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第十六章 日ノ本編其の二 天下分け目の関ケ原にゃ~

456 人間将棋、開戦にゃ~

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 ブウゥ~ ブウ、ウウゥゥ……

 人間将棋の幕が上がるホラ貝の音が鳴り響き、係員のキツネ巫女がわしに一手目を進めるように促す。

 さてと、わしからか。どこから指したものか……。てか、ミニ玉藻はどこ行った? あ、なんか砂埃が上がってる。あんな体なのに、めちゃくちゃ速いな。でも、キツネじゃなくて、ネズミみたい……プププ。
 と、笑っている場合じゃなかった。持ち時間は二分しかないから、早目に指さないとな。

 リータ達は均等に配置したけど、問題は角将のタヌキ将軍秀忠じゃ。ご老公がどう動かすかによって、リータ達が落とされてしまいそうじゃ。ここは……

 わしの第一手は、王将。自分をひとマス前に動かしてみた。すると、観客からどよめきの声が聞こえ、次の家康の一手で、感嘆の声が聞こえる。

 そんなに変な一手じゃったか? まぁ普通は角道を開けるか、飛車先の歩を上げるか、守りを堅めるか、か。わしもこんな一手目、初めてじゃ。ご老公も、銀を上げて守りを堅めてるもん。
 次はどうしよっかな~? 将軍がまだ動いていないし、様子見継続じゃな。

 わしは一番左の歩ばかりを前に動かし、家康は守りを堅めるように駒を動かす。観客は、わしが駒を動かす時には必ずどよめき、そのまま続けていたら、最初の重なりとなった。


 初戦は、西軍の歩が東軍の歩に重なり、西軍キツネ侍と東軍タヌキ侍の闘いになる。二人は駆け足で舞台に向かい、行司の「はっけよい」。
 わしの指示を聞いていたキツネ侍は間合いを詰めず、逃げ回っている。なので、すかさず香車のキツネ神職を送り込み、二対一の戦闘に持ち込ませた。

 ふふん。思った通り、善戦しておる。人間侍でキツネ神職を守らせ、魔法で狙い撃ちじゃからな。時間を掛ければ倒せるかもしれんのう。
 これで、ご老公はどう動くかな~?

 家康は長考。しかし、持ち時間が短い事と、駒を落としたくないからか、香車のタヌキ神職を上げて二対二の戦闘に突入する。

 あら~。ちょっと遅かったな。タヌキ侍はもう動けんぞ。こっちも満身創痍じゃけどな。じゃが、二対一なら勝てるかも?

 わしは様子見継続。右端の歩を前に出してみたら、家康は桂馬を動かして、左の一角は二対二の戦いとなった。しかし、東軍はタヌキ神職二人なのでバランスが悪く、闘いは長引いている。
 その隙に、わしは右端の歩を前進。こちらでも歩の侍どうしが戦闘に突入し、香車を上げて同じ展開になる。しかし、家康はすぐさま香車を上げて、二対二を早く終わらせようとして来た。
 その場合も、こちらは長引かせるように指示を出していたので、負けたとしても疲れさせられるだろう。

 両端は、もうちょっと掛かりそうじゃな。ならば、中央で時間稼ぎしておくか。

 わしはど真ん中の歩を動かすと、観客からまたどよめきが起こり、家康は長考。普通の将棋の流れと違い過ぎて、わしの意図が読み取れないみたいだ。
 しばし動きが無く、家康の制限時間が近付いたら、読み取れないならばと攻撃に移る。

 お、角道を開けよった。ならば、わしもそうしてやるか。

 わしが角道を開けると秀忠が突っ込んで来ると思えたが、そうは上手くいかない。

 あら? 乗って来ないな。コリスを使って釘付けにしてやろうと思っておったのに……じゃが、飛車の前の歩を上げたな。それなら、わしも攻撃に移ろっと。

 わしも家康と同じく、飛車の前の歩を上げ、お互い前進を続ける。その頃には、両端の闘いは終わり、西軍はどちらも敗北となった。
 その勝利に東軍陣営が盛り上がる中、コリスの一角の闘いが始まった。

 まずは歩の西軍キツネ神職と東軍タヌキ侍との闘い。これは捨て駒なので、あっと言う間に決着がつく。東軍タヌキ侍の勝ちだ。
 すると家康は、歩をそのまま前進させるので、コリス対タヌキ侍との闘いになるが、これも「ベチコーンッ!」と一瞬。タヌキ侍は、コリスの尻尾に叩き潰された。それでも引かない家康は、ついに秀忠を投入。コリスとタイマンだ。

 やっとか~。これで将軍は動けん。どんな攻撃をしても、コリスの持っている白い巨象の皮で作った盾に阻まれる。デカい皮にそのまま黒魔鉱で囲いと持ち手を付けただけじゃけど、黒魔鉱の武器ぐらいなら耐えられるじゃろう。
 コリスには、将軍が疲れるまで攻撃するなと言っているから大丈夫……大丈夫じゃよな? 飛車が来たら、魔法で守るんじゃよ~? イサベレの指示を聞いてくれよ~?
 まぁどっちでもいいか。危なかったら、イサベレを投入しよっと。それよりも、リータ達の出陣じゃ!

 わしはまず、歩を上げて西軍キツネ侍があっと言う間に負けると、すかさず飛車のリータを突っ込ませる。
 リータには、侍の剣に付き合うなと言っておいたので、攻撃の意思を掴まれても関係なく、スピードに任せて東軍タヌキ侍を殴り飛ばした。その攻撃で、ドクターストップ。玉藻が必死に治して事なきを得たようだ。

 家康はこの結果に驚いていたが、何かの間違いかと思ったのか、リータに刺客を送る。リータはやり過ぎた事にあわあわしていたので、今回は防御に徹して時間を掛けているようだ。
 すると家康は、次々に刺客を送り込むので、わしもメイバイを投入。ついでにオニヒメも投入して、三つ巴に突入させてみた。

「じゃあ、私は一人もらうニャー?」
「どうぞどうぞ。オニヒメちゃん。二人に【風玉】ね。手加減してあげてね?」
「うん! 【風玉】にゃ~!」
「ニャ!? 私の取らないでニャー!」

 オニヒメは二人に向けて【風玉】を放ったのだが、メイバイが狙っていた黒いタヌキにぶつかり掛けた。なんとか黒タヌキは避けたようだが、素早いメイバイのナイフを、間合いの外から受けて吹っ飛んだ。
 どうやらメイバイは、リータの闘いを見て余裕と踏んで、刃の無いナイフで闘っているようだ。

 またあの二人はやり過ぎておるな。玉藻が必死に治しておる。これではオニヒメのほうが、まだ手加減が上手いぞ。
 おっと、コリスと秀忠の戦闘が、そろそろ五分になりそうじゃ。イサベレ投入っと。これでもう五分延びるじゃろう。

 さてと~……そろそろわしも動こうかのう。

 リータ達で東軍の駒を蹴落としながら、わしは前進。王将が逃げるわけでもなく、単独の前進だから、もちろん観客はどよめいている。
 だが、コリス達やリータ達の激しい闘いに目が行って、声は小さかった。


 わしが前進している中、コリスとイサベレVS秀忠の闘いに決着がつく。

「もういいんじゃない?」
「ん。他は私が倒すから、コリスは白タヌキの相手してて」
「うん!」

 こちらも東軍の駒が三つ投入されていたのだが、コリスの鉄壁を崩せずに、秀忠は肩で息をしている。

 簡単にこれまでの経緯を説明すると、秀忠は槍と魔法で攻撃していたのだが、コリスの盾と魔法によってまったく歯が立たず、早く倒そうと無理をした事が仇となってスタミナを減らした。
 援軍が来てもコリスの鉄壁は崩せず、イサベレの風魔法で、こちらもスタミナを失う。

 そんな状態で、二人が攻勢に出たからにはたまったもんじゃない。

 まずはイサベレの風魔法でタヌキ二人が吹き飛び、場外負け。次の秀忠は二人でタコ殴り。コリスが大盾をブンブン振り回してバランスを崩したところを、気配を消していたイサベレが足を斬り付ける。
 気功を乗せた土で作ったレイピアは、秀忠の足に接触した瞬間に壊れるが、それは秀忠も一緒。スタミナ切れに続いて足が使えなくなり、起死回生に放った槍は、コリスの尻尾で吹っ飛ばされた。

 それで負けを認めればいいのに掴み掛かって行ったので、尻尾アッパーを食らって空へ。そして待ち構えていたイサベレのレイピア平打ちで、地面に叩き落とされた。
 さらには、マウントポジションで二人にボコボコにされる。ここでようやくレフリーストップ。玉藻が二人をぶん投げて、秀忠に続行の有無を聞いているようだ。


 さすがは玉藻。コリスを軽々投げ飛ばした。止め方が悪いように見えるが、ああでもしないと将軍がわかってくれんじゃろう。死ぬギリギリの判断じゃったもん。
 さてさて……どちらも半数の駒が落ちたが、将軍が居なくなったのは大きい。掃討戦に移行しつつ、わしも突撃じゃ~!

 秀忠はまだやろうとしていたが、玉藻の独断でレフリーストップ。東軍のブーイングは凄まじいものであったがわしは気にせず、リータ達を使って駒を狩りまくる。
 別に残しておいて、家康との闘いに持って行ってもよかったのだが、リータとメイバイとイサベレは闘いに飢えているのか、ずっとわしを見て来るから仕方がない。

 だってなんか目が光ってるんじゃもん! なんか怖いんじゃもん!!

 とりあえず三人は散開させて、近くに居る駒を落とさせる。コリスはどっちでもいいみたいなので、自陣でお昼寝。オニヒメは大事を取って棄権させ、コリスとお昼寝。東軍は、もう西軍陣営に攻め入る事も難しいからの判断だ。

 もちろんわしも前進していたので、少しは足軽タヌキと闘ってあげた。といっても、一瞬。刀も軍配も使わず、ネコパンチで吹っ飛ばし、すぐに元の場所に戻る。
 リータ達の結果も似たような結果だったようで、王将どうしが目の前に立った時には、東軍の駒はひとつもなかった……


「あらら~……やり過ぎちゃったかにゃ?」

 わしの問いに、家康は大声で笑う。

「わははは。我が徳川を、ここまで追い込むとは天晴れじゃ。猫の国とは、なかなかいい手駒を持っておるのじゃな。わははは」
「にゃはは。ご老公に褒めてもらえて光栄にゃ~。それで、もう勝負が見えてるんにゃけど、まだやるのかにゃ?」

 わしの降伏勧告に、家康の笑いはピタリと止まり、鋭い目付きに変わる。

「当然じゃ。この家康、ただの知将と思うになかれ! 戦国の世を駆け抜けた武将である! 一騎当千、猫の国など蹴散らしてやろうぞ!!」

 家康の名文句に心を打たれたわしは、目をキラキラしながら拍手を送る。

「にゃ~。かっこいいにゃ~。お見逸れしましたにゃ~」
「フンッ! いいから、飛車でも角将でも、銀将でも桂馬でも、わしにぶつけろ」

 家康の立つ場所は、わしの目の前。しかしそこは、リータ、メイバイ、コリス、イサベレの駒が利いている死地。本来の将棋ならば、絶対に王将を置いてはならない場所だ。

「お~。さすがは知将にゃ~。それがわかっていて、この場所まで来てくれたんにゃ~」
「このタヌキが……」
「猫だって、にゃん回言わせるにゃ~!」

 家康のタヌキ発言は、わしが知っててとぼけてると言っていると思われるが、タヌキにタヌキと言われる筋合いはない。わしはキレて、家康の立つマスに、ぴょんっと飛び込む。


 とりあえず駒が重なったので、わしと家康は隣り合って歩き、雑談しながら舞台へと向かう。

「他の駒は使わんのか?」
「ご老公は、わしをあおって一騎討ちをしたかったんにゃろ?」
「いや……儂はそんな意味で言ったつもりはないんじゃが……」

 でしょうね。わしだってわかっているんじゃが、そこは挑発したと言って欲しかったな~。

「まぁ一騎討ちのほうが、後腐れないにゃろ」
「わしとしては助かるんじゃが、それで負けて、やり直しとか言うでないぞ」
「にゃはは。そんにゃわけないにゃ~」

 意外と和やかに喋るわしと家康は、両陣営から大歓声を受けながら、舞台に上がるのであった。
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