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第十六章 日ノ本編其の二 天下分け目の関ケ原にゃ~
453 徳川家康と勝負にゃ~
しおりを挟む実戦対決は大詰め。東軍大将の徳川家康と、西軍大将のわしとの対決となり、舞台の上にて睨み合う。
5メートルのタヌキと1メートルちょっとしかない猫との睨み合いなので、観客席からは様々な声が飛んで来ている。
東軍からは……
「必ず勝てます!」
「余裕です!」
「瞬殺です!」
「チビタヌキ、死ね~!」
家康の強さを知っているのか、応援よりも称える声が大きい。
西軍からは……
「勝って~!」
「さすがに無理じゃね?」
「将軍様に勝ったのよ。奇跡を起こせる!」
「子タヌキちゃん頑張れ~!」
わしの不利を心配する声や、応援の声が大きい。だが、わしにも思う事がある……
猫の国の王様で、猫の王と四股名で呼ばれているんじゃから、完全に猫じゃろ! 誰じゃタヌキって言ってる奴等は!!
怒りに任せて犯人探しをしたいところだが、怒りをぶつける相手が目の前に居るのだ。家康に当たり散らしてやろうと考えて、わしは話し掛ける。
「ようやくご老公を引き出せたにゃ~」
「秀忠に負けていたほうが幸せだったじゃろうに……儂は手加減が下手じゃからな。死にたくなければ辞退せい」
「にゃはは。優しいんだにゃ。でもにゃ、ご老公はわしを怒らせている事を忘れているにゃ」
「怒らせる?」
「コリスに怪我せたにゃろ! わし以外を狙うにゃんて、滅ぼして欲しいみたいだにゃ……」
わしは怒りの表情で家康を睨むが、とぼけた顔のせいか、鼻で笑われてしまう。
「フッ……出場者が怪我をするのは当然じゃ。お主の責任で連れて来たのであろう? 儂が一度でも、出場者が怪我した事でお主を咎めたか?」
いや、わしの意見が的外れ過ぎて、鼻で笑われたのだ。何故か玉藻もウンウン頷いているので同意見のようだが、わしにそんな正論は通じない。
「そうにゃけど~。真剣を使うにゃら使うって言ってにゃ~。こっちにもそれ相応の対策ってものがあってにゃ~」
いや、ちょっと通じた。やや怒りのバラメーターが下がって、しどろもどろな文句となってしまった。
「たしかに真剣を間違って持ち出した事は謝罪しよう。悪かったのう」
「もういいにゃ。そういう事にしといてやるにゃ。ところでご老公と、どうやって闘うにゃ? 真剣かにゃ?」
「明日の競技に、お主が怪我をして出場できぬのもかわいそうじゃし、これで相手をしてやろう」
軍配? 見た感じ、黒魔鉱のドデカイ鈍器ってところか。じゃあ、わしもそうするか。
わしは袖の中に次元倉庫を開いて黒い刀を取り出し、するりと落として握る。
「わしはこの刃引きの刀にゃ。真剣じゃないと確認してくれにゃ」
説明しながら家康に刃引きの刀を投げると、驚いた顔をしながら小さく呟く。
「黒刀……しかもこれは……」
「にゃんか言ったにゃ?」
「いや、なんでもない。これでかまわん」
家康が投げ返すと問答を終えようかと思ったが、聞きたい事がまだあったので、後ろを指差して尋ねる。
「あの鉄砲って、誰の物にゃの?」
「白々しい……欲しいならくれてやる。まぁ弾の補充が出来るとも思えんがな」
たしかに弾丸を作る知識は無いんじゃよな~。そんなもん知ってたら、元の世界ではお縄になっていたし、研究するのも悩みどころじゃ。いちおう雑賀孫次郎とかいうヤツを捕らえたから、あとで知ってるか聞いておこう。
「ま、有り難く頂戴するにゃ。それと、残りの十本刀ってどこに行ったにゃ? わしも闘いたかったにゃ~」
「………」
「にゃ~??」
わしが質問するが、家康は何も答えずに開始線に向かってしまった。なので、玉藻が近付いて教えてくれた。
「徳川自慢の十本刀は、コリスに叩き潰されてしまったぞ」
「そうにゃの!?」
「最後の奴なんて、かなりの使い手だったはずなんじゃがな~。だからこそ、コリスに傷を負わせられたのじゃろう」
「それにゃらそうと言ってにゃ~」
楽しみにしていた十本刀との戦闘は、コリスに取られてしまっていたと、この時気付いたわしは肩を落とすのであった。戦ったあとにスカウトしようと思っていたのに……
ひとまず玉藻が開始線につけと言うのでわしは移動し、行司の仰々しい自己紹介のあとに玉藻が「はっけよい!」と開始を宣言する。
「お手合わせお願いするにゃ~」
「先手は譲ってやる。来い!」
「では、お言葉に甘えるにゃ~」
わしは一言掛けると、秀忠と闘ったスピードで様子見。間合いに入って刀を振るのだが、身長差があり過ぎて足を斬るしかない。
だが、わしの出だしは家康に止められる。家康は大きな軍配で足をガード。刀を振る間際だったので、軍配に頭から突っ込んで「ゴーン」と鳴り響いてしまった。
「くははは。いい音が鳴ったの~」
家康が笑う中、わしは頭を擦りながら後ろに跳ぶ。
ぐっ……恥ずかしい! 周りからも笑い声が聞こえるって事は、わしがみずから軍配に突っ込んだと思われておるんじゃろうな~。あぁ、顔が熱い!
将軍は侍の剣を使って来なかったから油断しておったわい。さすがは群雄割拠の戦国時代を征した武将。侍の剣ぐらいマスターしていて当然か。
「なんだか暑そうにしておるのう。儂が扇いでやろう。ほれ~」
わしが火照った顔を手で扇いでいると、家康はそう言いながら軍配を振って風を起こす。
「にゃ~~~」
わしは構えていたのだが、呆気なく吹き飛ばされて、舞台ギリギリで止まった。
マジか……予備動作がまったくなかった。あの化けタヌキ、遠距離からでも、侍の剣と同じ事が出来るのか……
わしが考え事をしていると、家康は声を掛ける。
「ほっほっほっ。軽いのう。しかし残念じゃ。油断している内に場外負けにしてやろうと思っておったのに」
「にゃ? 場外に落ちらたダメにゃの??」
「聞いておらんかったのか。それなら教えぬほうがよかったのう」
玉藻さん! それならそうと言えよ。危なかったじゃろ! ……こっち見ろ!!
「まぁどちらにしても同じ事じゃがな。ほれほれ~」
「にゃ~~~!」
目を合わせてくれない玉藻をわしが睨んでいると、家康はノーモーションで何度も軍配を振って、暴風を起こす。舞台ギリギリに立っていたわしは、咄嗟に刀を床に刺して耐えるが、体が浮いて鯉のぼりのようになってしまった。
くっそ~。油断しすぎて変な体勢になってしもうた。あの風が魔法なら【吸収魔法・球】で美味しくいただくんじゃけど、力業じゃからそうもいかん。ならば、スピードは落ちるが、重力魔法で行くか。
わしが重力魔法を使うと、床に刺していた刀が不自然に地面に埋まる。それと同時にドスンと床に倒れたが、すぐに起き上がって刀を構える。
「ふむ……どうやっているかわからんが、重くなったのか……」
わしの不自然な動きに予想を付けた家康は、それでも軍配を振り続ける。
わ! あっぶな……
わしが驚いた理由は、家康がいつ放ったかわからない【風の玉】を飛ばして来たからだ。辛くも刀で斬り裂き事なきを得たが、風にまじって何度も【風の玉】が飛んで来るので、必死に刀を振るう。
このタヌキが~! 後ろに西軍ベンチがあるから避けられんじゃろう!! てか、絶対狙ってやっておるな。コリスなら大丈夫じゃけど、ご老公の風魔法を普通の人が受けたら潰れてしまうぞ。
それに、ノーモーションの攻撃が厄介極まりない。これまでの侍との闘いが無かったらと思うと、ゾッとするわい。
致し方ない。手加減をもう一段階解除するか。
「【突風】にゃ~!」
わしの風魔法に掛かれば、家康の風なんてそよ風と変わらない。【突風】によって風は押し負け、【風の玉】は推進力を無くして床に落ちる。
その瞬間に、わしは重力魔法を解除して突撃。【突風】に乗ってあっと言う間に家康の目の前。突きを放ってみるが、これまた軍配に阻まれてしまった。
なので、わしは横移動。観客も選手も誰も居ない位置で刀をだらりと構える。
「ふむ。そう来たか……ならば」
家康はわしの行動を見たあと、観客が目で終えない速度で移動。ノーモーションで、わし目掛けて軍配を地面と平行に振るう。かなりの速度であったが、わしの目なら、移動の段階で見えていたので反撃。
ビビビッと家康の出だしを捉えて、足元に滑り込みながら斬り付け。しかし家康も出だしを捉えてジャンプ。わしの体勢が悪かったので、家康が振るった軍配で吹き飛ばされて、また元の位置に戻されてしまった。
さらに風魔法。【風の玉】が複数放たれ、わしは刀や【風玉】で相殺する。
やりおるわ……また仲間を背負わされてしまった。さすがは知将。わしの嫌がる事をしてきよる。
「ふふん。ならば、これでどうじゃ?」
今までの戦法ではわしに通じないと悟った家康は、腹を「ポンッ」と叩く。わしは何をしているのかわからなかったが、次の瞬間には悲鳴をあげる。
「に゛ゃっ!?」
耳に激痛が走り、衝撃波で吹き飛ばされたからだ。
つぅぅ~。マズイ! やらせるか!!
わしはビビビッと家康の動きを感じ取って、【風玉】を連続で発射。家康は立ち位置を変えたくないからか、その場で軍配や空いている手を使って叩き落とす。それでも衝撃波を撃たれたくないわしは【風玉】を発射し続ける。
あぁ……耳に来た。耳はわしの防御力と関係ないからマズイな。たぶんあの謎の攻撃は、音波じゃろう。タヌキの腹鼓か……変な魔法を使いやがって~。
おそらくわしの探知魔法と同じく魔力を上乗せしているから、【吸収魔法・球】を使えばなんとかなると思うが、反則っぽいからな~……解決方法が思い付かん。ここは早めに決めるしかないか。
しかし、どうやって倒そう? ご老公は隠蔽魔法みたいなものを使っているからはっきりわからんが、強さは玉藻よりは下。キョリスよりも上。ハハリスぐらいかな?
最終戦にやる気を無くしてもらっても困るし、あんまり力を見せ付けたくないんじゃよな~……騙し合いでもしてみるか?
わしは【風玉】を止めると、風魔法を使って家康との間に大きな旋風を起こし、土魔法で砂も混ぜる。するとお互い姿を見失う事になるが、わしはおかまいなし。
塵旋風に入って姿を隠したら、次なる魔法をガンガン使うのであった。
* * * * * * * * *
家康サイド。
なるほど……秀忠より力はあるが、そう見せて呪術特化か。
家康は塵旋風を眺めながら、シラタマの強さを分析していた。
となると、接近戦が無難じゃな。幸い宮本ほどの使い手ではない。あやつなら、わしと互角の斬り合いが出来るが、この猫はまだその領域に届いていない。だが、時間を掛けすぎると、学習速度が速いから修得してしまいそうじゃ。
ヤルなら一瞬じゃ。
家康は方針を決めると軍配を構え、塵旋風が消えるのを待つ。しかし、その塵旋風を突っ切って、家康を斬り付ける黒い物体が現れた。
なんだ?
家康はいきなり現れた事と、意思なく斬り付けられた事で驚いたが、持ち前の反射神経を使って刀を軍配で受け、力任せに弾き飛ばした。
奴じゃない……
そこには、シラタマそっくりの黒い人形が立っていた。この黒い人形が、黒魔鉱の模擬刀を握って家康を斬り付けたのだ。
そうして家康が不思議に思っていたのも束の間、塵旋風の向こう側からシラタマの声が響く。
「全軍、突撃にゃ~~~!!」
その瞬間、黒い人形が三体、塵旋風から飛び出し、家康を殴り付ける。三体の人形は家康の軍配で切り裂かれるのだが、すぐに形は戻る。
その頃には塵旋風は消えており、十一体の【土猫】と、十体の【風猫】が家康に押し寄せるのであった。
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