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第十五章 日ノ本編其の一 異文化交流にゃ~

425 和やかな会談にゃ~

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 白い巨象肉の照り焼きを食べて倒れたタヌキ侍が玉藻の大声で目覚めると、もう一口食べようとしたが、白タヌキ将軍秀忠に止められて下がらされていた。玉藻があまりにも叫ぶものだから、食べたくて仕方がなかったようだ。
 もちろん一口食べたら阿鼻叫喚。がっついてすぐに無くなり、つぶらな瞳で見て来たので、おかわりをあげた。そのせいで、コリスと玉藻もくれくれうるさいので、全部出して皆で分けて食べるように言って黙らせた。

 とりあえず騒ぎが落ち着いたので、わしは秀忠と差しで話そうと、お盆を持って目の前に座る。タヌキ侍が止めに入ろうとしたが、秀忠のハンドサインだけで下がって行った。

「こっちは洋酒にゃ。わしが先に飲むから、信用して飲んでくれにゃ」
「そのままでかまわん」

 毒味は必要ないと言われたが、強い酒と忠告だけしてウィスキーのロックを出してみた。

「ゴホッ……確かに強いな。泡盛のようだ」
「にゃはは。水で割るとちょうどよくなると思うにゃ」
「いや、風味が面白い。このままいただこう」

 酒で距離が近くなると、わしは聞きたい事を質問してみる。

「お父さんにも同席して欲しい旨を伝えたはずにゃんけど、あとから来るのかにゃ?」
「いや、父上は体調が優れないと言っていたから、今日は欠席する。病で異国の者と会えない事に悔やんでいるそうだ」
「病気なんにゃ。それじゃあしょうがないにゃ~」
「家康の病気は、本当にいつ治るんじゃろうな~」

 わしと秀忠が話をしていると、玉藻が入って来た。

「ずっとわずらっているって事にゃ? そんにゃ重たい病気なんにゃ~」
「違うぞ。病名は、仮病じゃ。のう?」

 仮病?? あ! 家康がしょっちゅうやってた手口……豊臣の召集にまったく応じず、それで天下も取ったからな。ここでは、見た目も中身もタヌキなのか……

 玉藻が秀忠に仮病を指摘すると、秀忠は頭を掻きながら返答する。

「耳が痛い。まぁ本人は病気だと言ってる手前、こちらからはなんとも言えなくて」
「数百年も、日光にこもって薬ばかり呑んでいたら、そりゃ病気にもなるってものじゃ。いい加減、自分の体の頑丈さを理解してもらいたいものじゃ」
「おっしゃるとおり。私に仕事を押し付けて、自分は悠々自適の隠居生活を送っているのだから、こういう場ぐらい出て来て欲しいものだ」

 うん? 玉藻と愚痴を合わせておる。家康は目の上のたんこぶってことかな? もっと玉藻に敵対心を持って対応すると思っておったが、秀忠は朝廷には軟化姿勢を取っておるのかのう。

「まぁ関ヶ原には毎回見に来ているのじゃから、その時に顔合わせしてやってくれ」

 玉藻が関ヶ原の話を持ち出すと、秀忠の目が一瞬ギラついたが、すぐに元の顔に戻った。

「シラタマ王も見に来られるのか?」
「そうにゃ。こんにゃ大きにゃ祭りに立ち会えて幸いにゃ~」
「まさか……」
「そうじゃ! 東の国の女王も招待するのじゃ」

 秀忠が何か言おうとし、玉藻が慌てて遮ったように見えたが、それよりも女王が来る事にわしは驚く。

「そうにゃの? いつの間にそんにゃ話をしてたんにゃ~」
「ほれ。ぱーてぃーじゃったか? あの場で、年末の誕生際に出席しないか聞かれてのう。大きな祭りと聞いて、それならばとな」
「わしを飛び越えて話をされると困るにゃ~」
「相手は国の元首じゃろ。そちに許可とる必要はないはずじゃ」

 そうじゃけど、女王が来るって事はさっちゃんも来るって事じゃ。そうなれば、大人数になるから、絶対わしに負担が掛かるんじゃからな!

 わしと玉藻が「にゃ~にゃ~」話をしていると、それを酒を飲みながら聞いていた秀忠は、驚いた顔をして質問する。

「西には、ふたつの国があるのか?」
「ふたつどころじゃないにゃ。大国がみっつ。小国が……」

 わしは秀忠に、西の地にある国の数と、簡単な特徴を説明してあげた。

「そんなに多くの国が……それに特徴も違うのか……」
「ここでもそうにゃろ? 北は寒いし、南は暑いにゃ。わし達の住む地は、日ノ本の倍……いや、それ以上広いにゃ。さらに言うと、日ノ本にゃんて世界から見れば、こ~んにゃにちっさいにゃ~」
「「そんなにか!?」」

 わしが指をわっかにしてすぼめると、秀忠だけでなく、玉藻までも驚いた。なので、わしは次元倉庫から球体を取り出して説明する。

「まだ完成してないんにゃけど、日ノ本はここにゃ」

 わしが取り出した物は地球儀。土魔法を使ってうろ覚えで作ったので、かなり出来が悪いが、大きさぐらいは説明は出来る。わしが日ノ本を指差すと、秀忠も玉藻も驚いて質問して来る。

「こ、こんなに小さいのか?」
「おおよそにゃ。縮尺が上手くいっていにゃいから、正確ではないにゃ」
「しかし、言うなればこれは地図じゃろ? どうして丸いんじゃ?」
「信用できない事を言うと、世界は丸いにゃ。月や太陽が丸い事に不思議に思った事がないかにゃ? その形が、そのままこの世界なんにゃ」

 玉藻の質問に、わしは出来るだけわかりやすい言葉で説明するが、秀忠は信じていない。もしくは、世界の大きさに許容オーバー。玉藻はわしの転生の事を知っているので、あとで詳しく説明してくれと念話で言われた。


「難しい話ばかりじゃつまらないにゃろ? わし達の冒険談のほうが盛り上がると思うにゃ~。聞きやすいように、高い所に登ってもいいかにゃ?」
「お、おお……それは面白そうだな」
「じゃあ、侍達もそっちに並ばせてあげてにゃ~」

 秀忠の許可をもらったので、猫ファミリープラス玉藻は、高い所に座布団を持って上がる。ちなみにコリスはおねむのようなので丸くなって眠り、オニヒメももたれて寝ている。
 わしはそんなコリスにもたれて、新婚旅行を話をする。だが、玉藻からあまり強い獣の話はするなと念話で言われたので、白い生き物は省いて話してあげた。
 それでも、空の旅、真っ黒な森、真っ白な森、綺麗な景色、奇跡の里、大量の黒い生き物の話は面白いらしく、秀忠達は聞き入っていた。

 その話は長く続き、ちょっと話し疲れたので、リータとメイバイに代わってもらう。二人の念話では多くの人に届けられないので、タヌキ侍が立候補して通訳に入ってくれた。それだけ話が面白いのだろう。
 そうして話が長くなると、窓から射し込む光が赤くなって来た。リータ達も疲れたように見えるので、この辺でお開きを宣言する。

「もうこんにゃ時間にゃ。そろそろわし達はおいとまするにゃ~」
「そうか……まだまだ話を聞きたいところだが、客人ばかりを喋らせて悪かった。本当に楽しい時間だったぞ」
「にゃははは。気に入ってくれてよかったにゃ~」

 わしは笑いながら高い所から降りると、秀忠の目の前に座る。

「帰る前に、これを受け取ってくれにゃ」

 そして次元倉庫から、白い毛皮と肉の入った大きな箱を取り出す。

「こ、これは!?」
「お近付きの印にあげるにゃ~」
「国宝級の毛皮だと……」

 秀忠は毛皮を手に取ると、さすったりして毛並みを確認する。

「この箱には、その獣の肉が入ってるからにゃ。傷まない内に食べてくれにゃ」
「お、おお……かたじけない」
「美味しい料理のお礼だから気にするにゃ。それと、有料にゃけど、もうひとつあるにゃ。見てから、買うか決めてくれにゃ」
「か、買うぞ!!」
「気が早すぎるにゃ~」

 秀忠は、わしが国宝級の物を出したせいか、物も見ない内に即決するので、玄関で渡すと言って移動する。その道すがら、即決した理由を聞いていないのに教えてくれた。
 どうやら国宝級の物を渡されて、お返しが料理だけでは割りに合わないようだ。このまま帰すと見映えが悪いので、せめてお金を渡したいとのこと。
 だが、わしもプレゼントをした物にお金を渡されてもかっこが悪い。商品を見せてから、お金を受け取ろうとする。


 玄関を出ると門の前に、バスと売る予定だった車を取り出して説明する。何もない所に大きな物が飛び出て、タヌキ侍達は驚いているようだ。

「こっちの大きいのは売り物じゃないんにゃけど、こういうのも作れるって見本にゃ」
「ほう……これが電線も無しに動くのか……」
「使ったら、呪具に呪力を注がないといけにゃいけどにゃ。その点は大丈夫かにゃ?」
「ああ。江戸にも、神職は多く居るから大丈夫だ」
「じゃあ、簡単にゃ講習をするにゃ~」

 とりあえず、車の運転には講習が必要なので、運転するであろうタヌキ侍を運転席に座らせ、秀忠は後ろのソファーに座る。
 タヌキ侍は恐る恐るアクセルを踏み、ゆっくり前進。広い道を進み、ほどほど進むとUターン。バックも体験させて、講習を終える。
 それから危険な物だと念を押し、十分に訓練してから使うように言っておいた。

「凄い乗り物だな……」

 車から降りた秀忠は、ご満悦を通り越して驚愕って顔。そこにわしは請求書を手渡す。

「凄い額だな……」

 もちろん猫の国で販売している価格なのだが、日ノ本ではお高い模様。しかし払うと言った手前、秀忠は引けないようで、タヌキ家臣につづらを持って来させた。
 わしは葛から葛に移す姿を見ながら、小判の数を確認する。王様みずから金勘定をしているのはおかしいのか、秀忠と玉藻はこそこそと話をしていたが、聞こえておるぞ? だれが守銭奴じゃ??

 どうやらわしが悪い顔で「にゃしゃしゃしゃ」と言いながらお金を数えていた事が、勘違いさせてしまったようだ。

 だって、こんなに多くの小判を見たらテンション上がるじゃろ? ほとんどわしの懐に入るんじゃし……

 そうして支払いを受け取ると、わしは秀忠に右手を伸ばす。

「??」
「ああ。これは西の地では、一般的な挨拶にゃ。これからもよろしくにゃ~」
「そうか。では、私も……良き付き合いをしてくれ」

 わしと秀忠が、がっしり握手を交わすと、カメラマンのメイバイが写真に収める。

 後日、さっちゃんに写真を見せたら「どっちがシラタマちゃん?」とか言われて喧嘩になったけど……


 こうして徳川将軍との会談は、笑顔のまま終わるのであった。
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